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いつものこの時間だったら、母さんの昼ごはんを食べ終わってる頃だ。


今日は、レッドラビットを6匹も狩ったんだ。


きっと豪勢な食事だっただろうな。


夜ご飯も期待できる。


母さんのご飯は、とっても美味しい。


父さんは母さんに胃袋を掴まれて結婚したって言ってたぐらいだからね。


母さん側の一目惚れだったらしい。


村ですれ違っただけのお父さんを惚れさせる為に、元々下手だった料理を頑張って練習したらしい。


他にも紆余曲折あったらしいけど、そんな内緒話は僕と母さんの秘密だ。





「あ゛…ぁ゛」




失うのは一瞬だった。


当然と思っていた日常はもう戻らない。


虚無と孤独感が折れた心を襲う。


もうこんな悪夢終わって欲しい。


何もかも終わって欲しい。


そんな感情と裏腹に抱く、死への恐怖。


村に散らばった村人達の死体はあまりにも酷く、忌避感を持たざるを得なかった。




死にたくない。



立ち上がり、無心で森を歩む。


失われた物を、数えてしまえばまた立ち止まってしまいそうで。


森の深くまで走ったからか、今自分が森のどこに位置するのかすら分からない。


もともと、深くまで入るほどの狩りをしたことが無いからか豊富なキノコや木の実を見つける。


何かを考えねばまた深い思考に入りそうで、すれ違いざまにむしっていく。


警戒などしてなかった。


「ギギ?」


気づいた時には既に顔に大きな衝撃が走り、続けざまに張り倒され執拗に嬲られる。


腰につけていた短剣を引き抜こうとして、諦める。




(あぁ、次は僕の番か)




ただ少し延命されただけ。


折れた心は抵抗すらせず、死を受け入れる。


乱暴者は、反抗しない僕に満足したのか、短剣を奪い自分の腰巻きに携える。


満足気に頷いたと思えば、次は足を掴まれる。


ここでは殺さず、どこかに連れていくらしい。


また、延命された。


引き摺られ、木々の隙間から見える空が美しい。


顔の痛みも、背の痛みもまるで自分のモノでは無いかのようだ。


ただ流れる空の風景を楽しむ。




本当に偶然だった。




空を覗かしてくれない木々が増え、何の気なしに横を振り向いた時、



その子は居た。



小さな洞窟で縮こまり、怯えた瞳と手で強く塞いだ口。


あぁ、君は逃げれたんだね。


羨ましい、とは思わない。


彼もきっと、少し延命されただけ。


あんな幼い子が一人で生き抜けるほど、森は甘くない。


だけど奇跡を信じて頑張れと目でエールだけ送るつもりだった。


しかし醜くも生にしがみつこうとする本能。


助けを求めようと勝手に口が開く。





だめだ。





それだけはだめだ。



あの子に助けを求めて何になる。


この化け物に気付かれてしまえば向かう末路など僕と一緒だろう。


僕よりも幼く、やっと見つけたであろう仮初の平穏。


それを崩し、地獄へ誘うなどしてはいけない。


強く口を縛りつけ、目を外す。


遅かれ早かれではあると思う。


でも、これでいい。


死は怖い。


けど、立ち向かう勇気も気力も何もかもが失われた僕には最期にいい事をした気分になった。


最期、か。


父さん、母さん。


ごめん。


早い再開になりそうだよ。


怒られるかな。


最後に怒られたのは、いつの頃だったかな。


懐かしい情景が浮かんでは消えていく。


早く、会いたいな。










光を見た。








すぐにそれは形作られて、さっき見た幼子が完成する。


間髪入れず、『怪物種コボルト』に飛び込んでいく。


目を疑う光景をただ眺める。


コボルトは突然のことに顔に張り付いた幼子を掴めず、腕が空を切っている。


あまりにもなシーンに、薄れていた意識が覚醒していく。


そして信じられないことは続いた。


さっきの幼子と瓜二つの子が、僕を横切りいつの間にかコボルトから奪った短剣で心臓を一突きしていた。


コボルトにしがみついていた方は消え、トドメを刺した幼子だけが残る。


10にも満たなそうな少年が、下位ではあるが『怪物種』のコボルトを討伐する。


英雄譚の一幕としては出来すぎた舞台。


しかし当事者である少年は呆気からんとこちらを向いて一言。




「無事でよかったな、優男くん。」




可愛らしさの残る容姿には、とても似つかわしくないセリフ。



それが、僕を助けてくれたヒーローへの第一印象だった。

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