第5話 未払い突撃隊 ― 制御棟前の攻防
前回の4.5話では、ルナ視点で“ゾンビの異変”が描かれました。
今回は再びゾンビ側の視点へ戻り、
太郎・ドン・ガリ夫の3人が、ついに運営の根幹へと近づいていきます。
給与未払い。
腐敗の進行。
運営の理不尽。
静かな怒りが、太郎の中で燃え始める――。
【メンテナンス通路】
焦げた匂いが微かに残る遊園地エリアを抜け、
太郎たちはメンテナンス通路へ足を踏み入れた。
昨日の爆発は派手だったが、
炎は演出区域に抑えられていたらしく、通路に被害はなかった。
ガリ夫は壁に手をつき、息が荒い。
「……太郎さん……ぼく……体が……」
「喋るな。肉片落ちてる。」
「……すみません……」
「謝んな!!」
言葉は荒っぽいが、太郎は自然とガリ夫の背を支えていた。
ドンが苦笑する。
「太郎、お前……昨日の爆発の時、仲間の方見てただろ。」
「言うな。」
「いや言うわ。地味ゾンビのお前が他人気にするなんて珍しい。」
太郎は黙って前だけを見て歩いた。
⸻
【制御棟前】
白い重厚な扉が通路の先に立ちはだかる。
【制御棟エリア:関係者以外立入禁止】
赤い警告灯が、淡く明滅していた。
ガリ夫が弱々しく呟く。
「ここ……ほんとに行くんですか……?」
太郎はその肩を掴む。
「お前、“契約社員だから腐ったら終わり”って言ってたよな。」
ガリ夫はうなずく。
太郎の声が低く響いた。
「……仲間が腐っていくのを見捨てるほど、
俺は腐っちゃいねぇんだよ。」
ガリ夫の目に涙が滲む。
ドンが笑う。
「太郎、人間の頃絶対いい奴だったろ。」
「知らねぇよ……覚えてねぇし。」
しかし太郎の胸の奥で、小さな火が灯っていた。
⸻
【セキュリティ部隊出動】
突如、スピーカーが鳴る。
『警告:制御棟エリアにゾンビ従業員が接近。
セキュリティ部隊を配置します。』
キィィ……カシャン……
金属の足音が響く。
暗がりから現れたのは――
黒い防護スーツ、フルフェイスヘルメット、
巨大盾と電磁バトンを装備した“機動隊型セキュリティゾンビ”たち。
胸の「OP-SAFE」のロゴが、不気味に光る。
ドンが呆れる。
「いや……ゾンビ相手に本気の機動隊出すなよ。」
太郎も睨む。
「ブラック運営どころじゃねぇな。」
セキュリティゾンビが機械音声で告げる。
『ゾンビ従業員3名、ここは立入禁止区域です。
給与未払いの苦情は“仕様”です。』
ガリ夫の肩が震えた。
「……仕様……?ぼく……腐っちゃうのに……」
太郎の拳がぎりっと鳴る。
「……仕様……だぁ?」
『契約社員ゾンビの腐敗は想定された挙動です。
復旧の必要はありません。』
ガリ夫の表情が絶望に染まる。
太郎の拳に、ぼうっと炎が灯った。
怒りが燃料となり、昨日より深く赤く。
「仲間が腐って死ぬのを“想定”……ねぇ。」
ドンがハンマーを構え、
ガリ夫は太郎の背中に隠れた。
セキュリティゾンビが隊列を整える。
『反抗的ゾンビ従業員を排除します。』
太郎は炎の拳を握り、一歩踏み出す。
「排除されてたまるか。
働いてんのは……俺たちだろうが!!」
炎拳が盾にぶつかる直前――。
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【ルナ視点】
制御棟の天井カメラがふっと動いた。
その映像はリアルタイムでモニターへ転送され、
暗い部屋の少女の前に映し出される。
紫髪の配信者――ルナ。
彼女は息を呑んだ。
「……ピエロ……ほんとに運営に行ってるの……?」
昨日の爆炎で笑ったあの表情が、脳裏にこびりついて離れない。
小さく震える声で呟く。
「……戻ってきてよ……ピエロ……」
その瞬間、太郎の拳の炎が一段と強く揺らめいた。
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【衝突】
太郎が吠える。
「――未払いは燃やす!!」
炎拳と黒盾が激突。
激しい火花が制御棟の入口を照らした。
続く。
読んでいただきありがとうございます!
第5話では、太郎たちがついに“運営の領域”へ踏み込み、
機動隊型セキュリティとの初めての衝突となりました。
・太郎の感情の変化
・ガリ夫の弱さと絶望
・ドンの優しさ
・運営の冷酷な仕様
・そして、ルナの“祈り”が太郎へ届くような描写
物語の2つの世界が、ようやく重なり始めました。
次回、第6話では
制御棟内部での本格戦闘と、
太郎の“炎”の秘密に触れる重要回です。
ぜひ続きも楽しんでいただければ嬉しいです。
Good death!




