第4話 契約社員ゾンビ ― 給料未払いで腐る
昨日の炎上回から一夜明け、
太郎の物語は “労働者としての核心” に踏み込んでいきます。
今回は、ゾンビ世界の「給与システム」の闇が初めて描かれる回。
正社員と契約社員の格差、未払い、腐敗……
笑えるのに、どこか胸が痛むようなエピソードになっています。
太郎がどう動くのか、
ドンがどう支えるのか、
そしてガリ夫の行く末は――
ゾンビ労働の闇へ、少しだけ深く潜っていきましょう。
Good death、そして良い読書を
灰の中で、光が灯る。
黒焦げのピエロマスクの下で、砕けた骨が組み上がり、
焼けた肉片が逆再生のようにまとわりつく。
再雇用ゾンビ:太郎、復元完了。
AIの乾いた声とともに、太郎は立ち上がった。
「……んだよ、また残業かよ。」
観覧車はまだ煙を上げていた。
昨夜の爆発の跡は生々しく、地面には太郎の灰がうっすら残っている。
ドスン、ドスン――
巨大な影が近づく。
「おい太郎。復活おめでとう(いや死んでるけど)。」
身長2メートル超の筋肉質ゾンビ・ドン。
巨大ハンマーを肩に乗せ、火花を散らしながら歩いてくる。
「ドン、昨日の爆発……お前も巻き込まれてただろ?」
「俺は頑丈なんだよ。ハンマー曲がっただけだ。」
ドンは何か紙を取り出した。
ボロボロに焼けた給与明細だ。
太郎の顔から笑みが消える。
『今回の支払:処理中』
「……処理中?」
「らしい。運営が昨日の炎上で忙しいとかでな。」
「いや、俺の給料って“後回し”なの?」
「契約社員はもっと酷いぞ。」
そこへ、ヨロヨロと細長い影が近づいてきた。
骨が見えるほど痩せ細り、肌は紫に変色していた。
「……た、太郎……さん……
き、今日も……給料……でませんでした……」
契約社員ゾンビ、ガリ夫。
肌は乾燥し、口元からはボロボロと肉片が落ちている。
「ガリ夫、お前……なんでそんな……」
「……給料が……ないと……補給が……できなくて……腐るんです……」
太郎は肩をつかんだ。
指がズボッと沈む。
「おい……腐ってるじゃねぇか!!」
「だ、だいじょうぶ……あと3日は……動けます……」
それは大丈夫の声じゃなかった。
⸻
⸻運営センター(バックヤード)
AIのモニターが並ぶ薄暗い部屋。
巨大なスクリーンに赤文字。
【給与計算システム:エラー】
【同時撃破ボーナス:処理落ち】
【契約社員ゾンビ:支払い保留】
ルナが画面を見て眉をひそめた。
「何これ……未払い? バグ?」
AIが答える。
「仕様です。」
「いやいやいや、仕様なわけないでしょ。ゾンビとはいえ労働者だよ?」
「仕様です。」
「二回言わないで!」
ルナは別の画面に切り替える。
そこには、太郎の爆炎シーンがスローモーションで再生されている。
「……太郎、あんた本当に“心”あるでしょ……
こんな働き方させていいわけないじゃん。」
彼女は意を決して、運営チャットにメッセージを送った。
『ゾンビ給与のバグ、修正しませんか?』
しかし返ってきたのは――
『ただいま繁忙期につき対応できません』
「……ブラック運営じゃん。」
⸻
⸻控え室
太郎とドンは、ガリ夫を見守っていた。
彼は椅子に座り、ぐったりと身体を前に倒している。
「……ど、どうせ僕なんて……契約社員ですし……」
「おい、そんなこと言うな。」
太郎が言うと、ガリ夫は首を振った。
「正社員の太郎さんは……いいですよ……
死亡手当、高いし……再雇用枠もあるし……
僕は……死んだら……終わりです……」
その瞬間、太郎の胸の奥で何かが弾けた。
「……誰が“終わり”なんて言ったよ。」
太郎は立ち上がった。
「俺が、お前の給料……取りに行く。」
「え?」
「運営だろ?ここまで腐らせたの。」
ドンが頷く。
「太郎が行くなら、俺も行く(いや勝手についていく)。」
太郎は拳を握った。
黒焦げのピエロマスクが転がる音が響く。
「行くぞ、ガリ夫。運営に“労働者の死の重み”ってやつ、
見せてやる。」
ガリ夫は弱った声で呟いた。
「……ぼく……歩けるかな……」
「歩けなくてもいい。ドンが持つ。」
「俺は荷物持ちじゃねぇぞ!」
「いやいや、お前ハンマーより軽いだろ。」
「……たしかに。」
⸻
⸻運営センター前
自動扉が開く音。
太郎、ドン、ガリ夫がヨタヨタと歩き出す。
スピーカーが鳴る。
「ゾンビ労働者の皆さま――
本日は給与システム調整のため、
全ゾンビの支払いを一時停止いたします。
ご理解とご協力をお願いします。」
太郎の表情が凍る。
「……“一時停止”?」
ドンが肩を鳴らした。
ガリ夫は泣きそうだ。
「……太郎さん……僕……もう無理です……」
太郎は空を見上げた。
ステージ3-Bの燃え跡。
そして舞い散る自分の灰の欠片。
「――ふざけんじゃねぇ。」
太郎の拳が震える。
「ゾンビだって……働いてんだよ。」
ドンが笑った。
「やっと本音出たな。」
太郎の目に、炎の残光が灯る。
「行くぞ。“未払い”は――燃やす。」
読んでいただきありがとうございます!
この第4話では、
太郎の心に“変化”が生まれた回でした。
いままで、太郎はどこか「自分だけの稼ぎ」を優先していたけれど、
ガリ夫の腐敗と未払いを前に、
初めて誰かのために怒った。
これは、彼が“ただの社畜ゾンビ”から
“仲間のため動ける存在”へ変わる大きな転機です。
そして同時に、
ブラック運営の闇がしっかり描かれたことで、
今後の物語で“何と戦うのか”も見えてきました。
次回は、4.5話として
太郎たちの知らない“運営側の視点”も描かれる予定です。
世界が少しずつ広がっていきます。
引き続き、楽しんでいただければ嬉しいです。
Good death!




