第1話:出勤日 ― Good death の朝
どうも、作者です。
この作品は「ゾンビたちも生活してるんじゃないか?」という
どうしようもない妄想から始まりました。
プレイヤーに倒されてナンボ。
それが彼らの“仕事”だなんて、あまりに理不尽で笑えますよね。
けど――そんな世界で、もしも彼らに家族や夢があったら?
そんな想像を、ちょっと真面目に、ちょっとふざけて書いてみました。
ではどうぞ、ゾンビたちの“過酷で愛しい労働生活”をお楽しみください。
Good death!
「倒されないと、給料が出ないんだよ」
控え室の蛍光灯がチカチカと点滅する。腐った天井、錆びたロッカー。
ここはオンラインゲーム〈デッドシティ・オンライン〉のゾンビ控え室。
ゾンビ田太郎は鏡の前で、剥がれかけた頬肉を押し戻しながら、ため息をついた。
「今日も顔のコンディション悪いな……派手に吹っ飛べるかな」
隣の席では新人ゾンビが、テンション高くナタを研いでいる。
「今日のステージ、3-Bっすよ!遊園地!俺、着ぐるみゾンビにしてみました!」
「お前、やるな……俺もネタ衣装でいくか」
太郎は衣装ラックを眺めた。
サラリーマン、工事現場のおっさん、軍人、警察官……。
「うーん……今日は“ピエロゾンビ”でいくか。目立てそうだ」
出勤チャイムが鳴る。
スピーカーから、無機質でやたら明るい声が流れる。
「ゾンビ労働者の皆さま、ご苦労様です!
本日も気合と根性で美しく散り、プレイヤーたちに楽しんでもらいましょう!
それでは今日も元気に――
Good death!」
「……Good deathってなんだよ……」
太郎はぼやきながら、ピエロマスクを被った。
錆びたシャッターが開く。
廃墟の観覧車、朽ちたメリーゴーランド。
バトルステージ3-B “デス・アミューズメントパーク”が広がっていた。
遠くでプレイヤーの笑い声。
「うわ、ゾンビかわい〜w」「ピエロ出たw」
「行くか……今日こそ派手に倒されるぞ」
太郎はピエロの靴でドタドタと走り出した。
頭上に「報酬倍率 ×1.0」の表示。
目の前のプレイヤーがこちらを指差す。
「あ、モブピエロだ。爆破しとこ」
バキュン!ドカァン!
太郎の体が空中を舞う。
「やった……倒された……!」
――が、直後に画面表示。
『ノーカウント:演出エリア外』
「……は?」
給料明細を開くと、金額欄は「0G」。
「倒されたのにノーカン……運営マジでブラックだな」
控え室に戻ると、課長ゾンビがコーヒーをすする。
「おう太郎、また無給か」
「課長、範囲狭くなってません?」
「最近“死亡率調整パッチ”が入ったらしい。上が楽しんでるんだとよ」
太郎は机の上の弁当を開く。腐った肉片の弁当。
その隣に、小さな写真立て――妻ゾン美と娘ゾン菜。
「パパ、今日もちゃんと倒された?」と笑う娘の声がよぎる。
「……倒されてないよ、ゾン菜」
太郎は弁当の蓋を静かに閉じた。
夜、控え室の隅で一人つぶやく。
「次は、園内中央の観覧車前……あそこなら演出判定入るはずだ」
モニターの片隅に、次の勤務通知が点滅している。
『勤務予定:明日 6:00〜 バトルステージ3-B(再)』
太郎の腐った心臓が、久しぶりにドクンと鳴った。
社畜ゾンビ、明日も勤務。
ここまで読んでくれてありがとう!
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次回は、ゾンビ田太郎が初めて給料をもらう日(=本当の“ゾンビの給料日”)。
笑えてちょっと泣ける第2話をお楽しみに。
Good death!




