婚約者が壁に向かって告白の練習をしているのを目撃しました〜もしかして私…捨てられます?〜
読んでくださってありがとうございます。
ご都合主義が強いですが、それでもいいよって方向けです。
陽射しの暖かな昼下がりのことです。
その日私は学園にあるお気に入りの庭園を歩いていました。もう今学年で卒業。そう考えた時、この季節の庭園を見るのは最後になってしまうのだと気づき、目に焼き付けようと思った次第です。
あまり知られていない場所ではありますが、季節ごとに花が咲き乱れるとてもきれいな場所です。今の時期はキンセンカやアリッサム、チューリップが色とりどりの花を見せています。
10分ほど経った頃でしょうか。
どこからか微かに声が聞こえてくる気がしました。つい好奇心に促されるまま声の聞こえる方に行ってみました。
(誰かしら…?)
声が聞こえるということは、少なくとも二人はいるんでしょう。
たどり着いた先は庭園の端の方。周りは木ばかりの校舎の裏側でした。
「ルドルフ様…」
思わず驚きで声が漏れてしまいました。
そこにいらしゃったのは私−ベルタ・マリーウェルの婚約者、ルドルフ・グラシア様でした。
瑠璃のような深い蒼色の髪に、光の加減で金が混じったかのように見える若草色の瞳を持つ美青年です。
学園での関わりは少ないですが、よく家に招いたり招かれたりしてお茶をするくらいには私達の仲は良好です。
一体こんなところで何をなさっているのでしょうか?
ルドルフ様、と声をかけようとした時…
「…お前のことが好きだ。どうか僕と結婚してくれないだろうか」
(え…)
あまりの驚きに声も出ません。
だって、ルドルフ様は壁に向かってそう言ったのですから。
なかなかに衝撃的な光景です。
ルドルフ様意外に誰もいないということは見れば分かります。
つまるところ…一体どういうことでしょうか?
考えても分かりませんね。それほど衝撃を受けているということでしょう。
ひとまずここは何も見なかったことにして帰ろうと思います。
きっとルドルフ様にとってもその方がよいでしょう。
私は気づかれないよう、そっと来た道を戻りました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(ルドルフ様は一体何をなさっていたのかしら)
あれから今日一日ルドルフ様と会うことはありませんでした。
私は昼間の光景を思い出しては何度も首を捻って悶々としています。今も就寝前ですのに気になってなかなか寝付けません。
「ベルタ様、考え事ですか?」
「ルイン…ええ、少し気になることがあって」
いつもなら眠っているはずの私がベランダに居たことが不思議だったのでしょう。私の専属メイドであるルインがいつの間にか後ろに立っていました。トレーに乗せられたホットミルクが湯気を立てています。
「そこに居たら身体が冷えてしまいますよ。さあさあ、ホットミルクをどうぞ」
「ありがとう」
私は部屋にあるソファに座りました。ルインも私にホットミルクを渡したあと向かいの席に座ります。
「それで…何があったんです?」
「……」
話してもよいことなのかは分かりませんが…他の人の意見もほしいところです。
少し変わった案件でもありますし…。
「実は…」
「なるほど…そんなことがあったんですね」
昼間に見た出来事をルインに伝えました。
しばらく考え込んでいるような仕草をした後、ルインがポンと手を打ちました。
「告白の練習をしていたんじゃないでしょうか」
「練習?」
「はい。まさか壁に向かって告白はないでしょう」
「それは…そうでしょう」
そのまさかがあるだなんてことはあり得ない…とは言い切れないにしても、ルドルフ様にいたってはないでしょう。
「…?では何故、告白の練習を?」
「それは…っ!?」
ルインがすました顔を崩して、何かに思い至ったかのように口を手で覆うようにして驚いた。
「……演劇の練習でも、なさってたのでは…」
しどろもどろに、まるで無理やり引き出したかのような返しです。
それに私は首を振りながら答えます。
「ルドルフ様は演劇はお好きでないと思うわ」
何度か演劇を見に誘ったことがありますが全て断られていますもの。
ルインは目を気まずそうに泳がせながらこちらを伺っています。
…告白の練習ということはルドルフ様に想い人が出来たのでしょう。
『…お前のことが好きだ。どうか俺と結婚してくれないだろうか』
私とルドルフ様は親が決めた婚約者同士。
家と家との約束…言いかえれば、このまま何事もなく進めば結婚することは決まっているのです。
つまり、私にわざわざそんなことを言うだなんてことは無い。
私たちが恋愛結婚さながらの仲の良さならあり得たでしょうが…私たちはあくまでパートナーだという意識と貴族としての義務によって結びついているだけに過ぎません。
(…今、考えていてもあまり意味はありませんね)
「ルイン、ありがとう。もう夜も遅いわ。戻りなさい」
「…はい、ベルタ様」
ルインは素直に席を立ち、空のマグカップを回収してからルインは部屋を後にする。
とりあえず寝ましょう…そう思ってもぐるぐると思考が繰り返されてなかなか寝付けませんでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それって最近巷で流行っているらしい本の影響ではありませんこと?」
「それも考えられますね」
翌日の昼。私は学園にある四阿で友人であるリウェンデル公爵令嬢ソフィアさんとお茶をしていました。
侯爵令嬢である私よりも身分の高いソフィアさんですがご好意からさん付けで呼ばせてもらっています。
ソフィアさんの言う巷で流行っている本とは、いわゆるシンデレラストーリーものの恋愛小説です。
『氷の貴公子と真実の愛』というタイトルでしたね…確か。
貴族子女の中でも流行っており、私も友人たちから又聞きのような感じでちょっとした内容なら知っています。
主人公は身分の低い男爵令嬢。黒い髪に青い瞳の愛らしい令嬢で家族も周りの人も温かな人ばかり。
そんな彼女が恋をしているのは幼馴染みである辺境伯家の令息。蒼い髪に金の瞳の彼は滅多に笑わわず、冷淡な態度から氷の貴公子と呼ばれている。
その端正な顔と完璧な振る舞いから人気の高い彼の幼馴染みというだけで主人公は学園でイジメの対象となる。それでも腐らず明るく振る舞っていた主人公にも限界が訪れた時、自分が原因で幼馴染みが苦しんでいたと知った氷の貴公子が主人公への恋心を自覚するとともに主人公を救うことに尽力するといった内容だ。
もちろん二人が結ばれるハッピーエンドで物語は終わる。
最近、これに触発されてか婚約を解消したり破棄する令嬢・令息が多いらしいのです。
と言っても子爵や男爵などの身分があまり高くない方々ですが…。
「それにしてもそっくりな状況ですわね」
「ええ」
やはり恋に障害はつきもの…そういうことで物語には氷の貴公子の婚約者が悪役として登場する。
桃色の髪に深紅の瞳を持つ侯爵令嬢だ。
私の髪色もそっくりそのまま同じなのです。氷の貴公子とルドルフ様の容姿も性格も身分までも似通っています。
まあ、物語と違って私達はなにも険悪な関係というわけではありません。
自分で言うのもなんですが私は傲慢不遜でもないですし…たまに、愛想がないと言われるだけですね。
その前に主人公が居ないじゃないと思われるかも知れませんが…なんとその主人公に該当する令嬢を私は知っています。
「そういえば最近アンジェ嬢がおかしなことを触れ回っているみたいですね」
「ソフィアさんもお聞きになりましたか…」
そう、アンジェ・デルフィー男爵令嬢だ。もちろん容姿は黒い髪に青い瞳の愛嬌のある少女だ。
辺境伯領に近いということもありルドルフ様とは旧知の間柄だそう。
そのアンジェ嬢ですが、最近さる高貴な方からプロポーズを受けるのだと言っているらしく…その相手がルドルフ様だと匂わせるような言動を繰り返しているのです。
まだ決定的な発言をしていないことから放置していましたが…
「ベルタ、貴方はどうしますの?」
「一度アンジェ嬢に話を聞きに行こうかと…」
「そう」
ソフィアさんは少し気遣わしげなご様子でした。
その後私たちは他のことで談笑し、緩やかな午後を過ごしました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アンジェ嬢に話を聞こうともどうすればいいのか考えていました。
この前ルドルフ様を見かけた庭園とは違う庭園を歩きながらです。まだ咲き始めたばかりのポピーが可愛らしく揺れています。
…単純に手紙を出して呼び出すというのが一般的ですが、アンジェ嬢の最近の振る舞いにより良くない注目や噂が集まっている中でそのような行動に出てしまえば、この状況を楽しんでいる外野に餌をあげるのと同義でしょう。
一体どうしたものでしょうか。
思わずため息をつきそうになりましたがすんでのところで止めました。
視界にアンジェ嬢を捉えたためです。無意識に息を殺しました。
アンジェ嬢は友人と談笑しているようです。
「ねえねえ、アンジェ。もうすぐ結婚って本当!?」
「ええ、もうすぐ彼がプロポーズをしてくるわ」
「まあ!いつですか!?」
「週末の春の舞踏会でですわ」
ご令嬢三人組は楽しげに、やや芝居がかったかのような笑いをあげます。
「…あのやっぱりお相手は…」
「ええ、ルドルフ様よ」
「「キャー」」
得意げに言うアンジェ嬢と興奮して頬を赤くする他二人。
なおもアンジェ嬢は続けます。
「この前だって、女の子に贈るプレゼントにアクセサリーは何がいいか?とか、お花は何が喜ばれるだろうか?とか…きっと私に贈るためのものだわ。だって何度も私の表情を伺っていたもの」
「なるほど…意見をきくとみせかけてアンジェの好みを探っているのね」
「それにルドルフ様は昔から私に優しいもの…それに比べて、ベルタ様には、ねえ」
「お気の毒ですけどね」
「仕方ないわよ。アンジェの方がかわいらしいもの」
私の名が出てきたことで思わず肩が跳ねます。
確かにルドルフ様はどこか事務的といいますか、淡々とした様子で笑顔を見せることも稀です。
三人が少し愉悦に浸っているように見えるのは気のせいでしょうか。
「本当に『氷の貴公子と真実の愛』のようですね」
「ですよね!」
「ルドルフ様に本を勧めて良かったですわ。私への愛に気づいてくださったんですもの」
私はいつの間にか後退りしていました。
そのまま逃げるように庭園を後にしました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
自室でぼんやりしているとルインが声をかけてきました。
「ベルタ様、大丈夫ですか?」
「ええ」
「……」
何かを言いたげな様子ですが、ぐっと飲み込んだ後ルインは私の部屋から出ていきました。
明日は春の舞踏会です。
あれから私は上の空でいることが多く、両親や使用人たち、友人に心配をかけてしまっています。
…ルドルフ様には会っていません。
しかし春の舞踏会でのエスコートを受け持つという手紙は届きました。
どうしましょうか。とても行きたくありません。
もし舞踏会でプロポーズが行われるのでしたら、私は顔に泥を塗られるのも同然です。
直接ルドルフ様に事の真偽を確かめるということも出来ました。しかしそうはしなかった。
なぜなら私ベルタ・マリーウェルはルドルフ様を愛しているからです。
始まりが政略的なものであったとしても、いつしか愛するようになっていました。
私は愛しい人と家庭を築くことが出来るのだと…そう思っていました。
だから舞踏会で現実を突きつけられるのが怖いのです。
前から心の底で感じていた、アンジェ嬢に対する劣等感や懐疑的な気持ちも、ルドルフ様はアンジェ嬢が好きなのではという考えに真実味を帯びさせていきます。
結局その日もよく眠れないままの夜を過ごしました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ベルタ」
「はい」
ルドルフ様に声をかけられスッと腕を引かれます。
そのままホールへと足を踏み入れました。
瞬間、様々な場所から寄こされる視線。多くの人がこちらに関心を持っているようです。
思わず震えそうになる身体を押さえて、いつも通りに見えるよう振る舞います。
踊りを踊る時間となりました。飲み物もあまり喉を通らないほど緊張していて時間が過ぎるのがあっという間です。
「行こう」
「ええ」
踊っている最中ルドルフ様の顔をこっそりと伺っていました。
あまり目が合うことはありません。
流れるようなリードに身を任せると、まるで空を飛んでいるかのような全能感に包まれ心地よく感じるのでルドルフ様と踊るのが大好きでした。
あまりに目が合わないものですから、ふとルドルフ様が視線を投げかけているところに目をやりました。
(…っ)
そこにはアンジェ嬢が居ました。胸が締め付けられるように痛みます。
心做しかルドルフ様の耳が赤く染まっています。
耐えられなくて下を向いてしまいました。
「ベルタ。後で話がしたいのだが」
「…!ええ」
(もう…だめなのかしら)
私は泣いてしまわないよう唇を噛みしめることしか出来ません。
ダンスが終わり二人揃って礼をします。
顔を上げ目線が合ったルドルフ様は何かを決意したかのようでした。
「ベルタ…」
「ルドルフ様!」
ルドルフ様が何かを言いかけた時、いきなりアンジェ嬢がルドルフ様の腕に抱きつきました。
「アンジェ!?」
ルドルフ様は驚いた様子でした。
「ルドルフ様、私もあなたのことが好きです!」
ホール中が水を打ったように静かになりました。
誰もが息を潜め、耳をすましています。
私は逃げ出したい気持ちでいっぱいでした。
「アンジェ…」
ルドルフ様が呟くように言いました。
アンジェ嬢は恋をする乙女のように瞳をうるませ、頬を薔薇色に染めています。
対照的にルドルフ様はパチパチと瞬きをしつつも、いつもと変わらない表情に思われました。
「僕も…君を妹のようだと思っているよ」
「え?私を愛しているのでしょう?結婚したいのでしょう?」
ルドルフ様はいよいよ理解できないといった様子で首を傾げます。
「なぜ?」
「え…だって、この前だってプレゼントは何がいいだろうとか、お花は喜ばれるだろうかとか…って訊いてきたじゃない!」
「それは単純に意見を聞きたかっただけだ…他に仲の良い女性は少ないから」
「じゃ、じゃあ…どうしてそんなことを訊いたのよ!!」
若干ヒステリックにアンジェ嬢が追求する。
私は理解が追いつかないまま事の次第を眺めていた。
「そ、それは…」
ホール中の視線がルドルフ様に集まる。
私もルドルフ様を見た。バチッと視線がぶつかる。
瞬間、ルドルフ様の顔が真っ赤になる。
「…!」
ふっと視線を避けルドルフ様が小さく呟いた。
「…から」
「……?」
「っ…!!」
勢いよくルドルフ様がこちらを真っ直ぐ見る。
「お前のことが好きだ、ベルタ!どうか僕と結婚してくれないだろうか…」
「え…」
最初の方ははっきりしていたのに段々と弱々しくなっていったがきちんと最後まで聞き取れた。
(結婚してくれないだろうか…?え…?)
私は今まで悩んでいたことが杞憂だったということに気づきました。
ルドルフ様は恥ずかしさからか、顔を下にむけています。しかし耳まで真っ赤に染まっているのが丸わかりです。
何も返事をしない私に焦れたのか、ルドルフ様がそーっと私の方を伺いました。
「…可愛い」
「え…?」
その仕草に心臓が撃ち抜かれたようでした。
(まさか…私の婚約者かわいすぎるのではないでしょうか)
私の急な可愛い発言にポカンとした表情もまた可愛い。
なんてことを思っていたら、アンジェ嬢がまた騒ぎ出しました。
「嘘よ。ウソウソウソ!!!ルドルフ様は私が好きでしょ!私にだけいつも笑っていたし、優しかったもの!!」
それはそうです。
今まで私のことを好きだという素振りは全くと言っていいほどありませんでした。
「…アンジェのことは本当に妹だと思って接していた…そのベルタには…」
ルドルフ様は何かを渋るようにいったん口をつぐみました。
「その…格好良くいたかっというか…目の前にすると緊張やら…気恥ずかしさとかで…うまく話せないし…余裕がなくて…」
自分で言っていてさらに恥ずかしくなったのか、ルドルフ様は顔を手で隠してしまいました。
私は平静を装うのが難しくなってきました。
なぜって?ルドルフ様が可愛すぎて口角が緩みそうだからです。
「…ああ。でもそんな態度ばかり取っているから…」
唐突にルドルフ様が声を発しました。手も顔から離れています。
「ベルタは僕のことが好きではないだろう」
先ほどとは打って変わって悲しげな表情でそう言いました。
(え…確かに、私も今まで気づけませんでしたけど…)
そこではたと気づきました。
私もルドルフ様と似たようなものだと。
ルドルフ様に見合うよういつも淑女らしく振る舞い、過度なスキンシップも、愛を伝えることもしてきませんでした。
それになにより…
(私…告白の返事をまだしていませんね)
そうです。すっかり忘れてしまっていました。
私はひとつ深呼吸をしました。
「ルドルフ様、お返事がまだでしたね」
私の言葉にルドルフ様は不安そうな、何かを恐れているようなそんな表情でこちらを見ました。
きっと私もこんな顔をしていたんでしょうと漠然と思いました。
(やっぱり似た者同士ですね、私たちは)
私はふっと微笑みました。
「もちろんです。愛していますルドルフ様」
「…ベルタ」
あれ?おかしいですね。視界が急にぼやけてきました。
ツーと頬を暖かなものが流れていくのを感じました。それと同時にルドルフ様が私を抱きしめました。
「ありがとう、ベルタ」
そう言って涙を拭ってくれます。
その時視界にルドルフ様のカフスボタンが映りました。ルドルフ様がよくつけているルビーで作られたものです。
私の瞳とそっくりな深紅がキラリと光りました。
不安でいっぱいだった心が溶けていくようで、代わりに温かなもので満たされていきます。
「ベルタ、これを」
ルドルフ様が一つの箱を渡してきました。
開けてみるとそこには綺麗なネックレスが入っていました。
美しい瑠璃色のサファイアで作られた勿忘草がモチーフのものです。
「ベルタが好きだと言っていた、勿忘草だ」
「覚えていてくださったのですか」
「ああ。もちろんだ」
初めての顔合わせの際、何を話せばいいのか分からず勿忘草が好きだという話をした記憶があります。
勿忘草が好きだと言ったのは10年前のその一度きり。
私はあまりの嬉しさにルドルフ様に抱きつきました。
「っ…!!」
「ルドルフ様!大好きです」
パチパチといつの間にかあたりに拍手が響いていました。
和やかな祝福モードの中、私たちは初めてお互い飾らない笑顔で笑い合いました。
感極まって私は思わず言いました。
「一生を懸けて守ります」
「…それは僕のセリフだよ」
ふとまた目が合ってそろって笑い出しました。
ずっとずっと笑い合いました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ねえ、ルドルフ。一つだけ訊いてもいい?」
「ああ、いいよ」
「どうしてわざわざ結婚してくれないだろうかって私にきいたの?私たちは婚約しているのに」
卒業が近づいた冬の日。私たちは私の家のテラスで結婚式の準備をしながら、お茶をしていた。
「…『氷の貴公子と真実の愛』という本を知っているか?」
「ええ」
「実はそれを読んで思ったんだ…このまま順当に行けば僕達は結婚できるけど…本当の気持ちを言わないままっていうのは卑怯なんじゃないかって…」
「まあ。これはまた可愛い理由ですね」
「可愛いって言うの今日で22回目だ」
少しふてくされたようにルドルフが言った。
やっぱりかっこいいという方がいいのだろうか。
…いいえ、可愛いものは可愛いんです。
それに…ルドルフも満更ではなさそうなのには気づいています。
「実を言うと…私、見たの。ルドルフが壁に向かって告白の練習をするところ」
「なっ…!?え!?」
「それで、私捨てられるんじゃないかって勘違いしたの」
「…そんなわけないだろう」
「ええ。今はきちんと分かってるわ」
素をさらけ出すようになって、ぐんっと距離が縮まった。
卒業したらすぐ式をあげる予定だ。
「私、ルドルフに似た男の子がほしいわ」
私の言葉に顔を真っ赤にさせ、口に手を当てながらルドルフが返す。
「…ベルタ似の女の子もほしい」
やっぱり可愛らしい。そんなことを思いながらくすくすと笑いが込み上げてきた。
そんな私を愛おしげに見つめながらルドルフも微笑む。
ああ、幸せだ。
私の首元を飾る勿忘草のネックレスがキラリと輝いた。
勿忘草(特に青)の花言葉は「私を忘れないで」「真実の愛」「誠の愛」です。




