表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢が幸せになるまで終われません!異世界転生したらどう見ても不審者でしたが、とりあえず推しをループから救います  作者: こじまき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/12

9 推しの幸せとは

「私の夢は、誰かに幸せにしてもらうことじゃないわ。私は自分で幸せになれるのよ」

「どういうこと?」


レイリーディアは少し黙ってから、まっすぐ私を見た。瞳には迷いがなかった。


「私、本当は歌が好きなの。幼い頃お父様に連れられてオペラを見に行ったとき、雷が落ちたようだった。私もあんな風に舞台で歌いたいと、ずっと思っていたわ」

「そうだったんだ」


ユナも言っていた。初めてアイドルのステージを見たとき、雷が落ちたみたいに「アイドルになりたい」と思ったって。


「だけどずっと言えなかった。反対されると思っていたから」


そう。ユナも同じだった。厳しい両親に反対されて、何度も泣いていたと聞いた。


「だけどね」


レイリーディアは少し笑って、続けた。


「あなたが絵を描いている姿を見て、気づいたの。描いて、描いて、疲れ切ってキャンバスの前で寝ているあなたを見て…ああ、好きなことに打ち込むって、こんなにきれいなんだって」


ちょい待ち、キャンバスの前で寝ている私!?


「ちょ、待って!キャンバスの前で寝てた私にブランケットかけてくれたの、レイリーディア!?」

「そうよ」

「うそっ!?」

「ブランケットをかけながら思っていたの。あなたがきれいだって。好きなことに真剣な人って、本当に幸せそうだって」


レイリーディアは私の手をとった。濡れて冷たいはずのその手から、不思議な熱が伝わってくる。


「私も、好きなことをやって生きたい。応援…してくれる?」

「もちろん…もちろんだよ!」


それが推しの幸せだというのならば。


レイリーディアが歌えば、きっとたくさんの人が幸せになる。


そしてレイリーディアはみんなからの愛でもっと輝く。


ここが乙女ゲームの世界でもそうじゃなくても、「恋愛しなきゃ幸せになれない」なんてことはないよね?


ーーー


レイリーディアは「まだお兄様には話せない」と言い、クラウスに内緒で音楽教室に通い始めた。


アリバイ担当はセドリックとレオン。


セドリックがモデルを頼んでいることにしたり、レオンとデートしていることにしたりしてくれている。


レイリーディアは「嘘に巻き込めない」と躊躇したけど、二人は快く手を貸してくれた。


セドリックは自由人で「芸術仲間ができる」とむしろ乗り気だし、レオンは彼女のためなら煮え湯でも飲むタイプだ。


そしてレイリーディアは、「リディア」と名乗り、地味なワンピースに眼鏡姿で教室へ通う。身分を隠して「厳しく指導してほしい」と頼むストイックさ、尊すぎる。


「ちゃんと声楽を習うのは初めて?じゃあまず素の発声を見せて」


最初の一音は、小さくて震えていた。


(頑張れ、レイリーディア…!)


先生がそっとレイリーディアのお腹を押すと、震えが消え、もう一度。


三音目で教室の空気が変わった。


どこまでも澄んでいながら、力強くて、歌う喜びに溢れた声。


(涙が出そう)


と思った瞬間、涙が溢れていた。身体が感情より早く反応してる。


(だめだ、今は泣くな。推しの尊い姿を記憶して、キャンバスに表現せねば)


そうやって、レイリーディアは声楽の才能を磨き、私は歌う彼女を描き続けた。


夢に向かう若者の充実した生活が、続いていくはずだった。


ーーー


「なんだ、これは!」


私の部屋にクラウスの怒声が響く。


「レイリーディアが、歌っているだと…!?」

「これは想像で描いた絵で…」

「嘘をつくな!調べればすぐにわかるんだぞ!!」


(詰む…)


あまりの剣幕に、私は正直に話すしかない。


「公爵令嬢が市井の音楽教室で声楽を習っているだと…!?俺に内緒で…セドリックとレオンまで巻き込んで…」

「でもレイリーディアは本当に真剣で幸せそうで…だからあの二人も応援してくれたの。クラウスも応援してあげるべきじゃないの?なんでそんなに、最初から拒否…」

「うるさい!」


クラウスは私を一喝して出て行った。


クラウスは悪役令息で恐怖の処刑係だけど、あんなに感情的に怒るのは珍しい。


(レイリーディアになにかするんじゃ…!?)


私は急いでクラウスを追ってレイリーディアの部屋に向かい、ドアにぴたっと耳をつける。


「レイリーディア、歌はやめなさい」


よかった。意外に冷静だ。さすがシスコン。


「お兄様、私は…」

「聞き分けなさい。歌だけはだめだ」

「お願いです、私の話を聞いてください」

「あの歌手が私たちに何をもたらしたのか、忘れたわけじゃないだろう!」


あの歌手?


よく聞こうと耳を強く押し付けた瞬間、ドアが開いた。


「ぎゃっ!」


私は派手に転がり込む。


推しの部屋。聖地。聖域。サンクチュアリ。いい匂い…


ではなくて、今は…


「盗み聞きか」

「どうにもこうにも心配で…”あの歌手”って、誰?」


クラウスとレイリーディアは顔を見合わせ、静かに話し始めた。


二人の父は、妻と子がありながらオペラ歌手に熱を上げた。


家に帰らず、公務を放棄し、やがてその歌手との痴話げんかの末に命を落とした。


(お父さん…!それはひどすぎる…!!)


クラウスが歌手に拒否反応を示すのも、わからないではない。だけど…


「その歌手とレイリーディアは違うでしょ。同じ職業だからって、同じ生き方をするわけじゃない」

「…」

「同じ公爵でも、お父さんは家族を捨てた。でもあなたは家族と公爵家を守って…ついでに言うと不審者の私まで守ってくれてるじゃない」

「しかし…」


クラウスの表情がわずかに揺れた。


レイリーディアが一歩、前に出る。顎を上げて。


「許していただけないなら、私はここを出て行きます。歌手として大成できなくても、貧しさの中で死んでも、構いません」


雷が落ちたように、クラウスは凍りついた。


いつも従順でしとやかだった妹が、初めて自分の意志で言葉を放っていた。


「お兄様に叱られても嫌われても…それでも歌いたいのです。歌えば歌うほど、自分にとって歌がどれほど幸せなものかわかるのです」

「レイリーディア…!」

「もちろん、お兄様が応援してくださったら、もっと幸せよ…?」


クラウスは静かに彼女を抱きしめた。


「応援するよ、レイリーディア」


レイリーディアの手がクラウスの背中に回されて、私の頬を涙が伝った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ