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悪役令嬢が幸せになるまで終われません!異世界転生したらどう見ても不審者でしたが、とりあえず推しをループから救います  作者: こじまき


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7 自由奔放天才芸術家ルート

(決まった…!)


私はかっこよく決め台詞を吐いて衝撃に備えたけど、何も来ない。


(どういうこと?)


うっすら目を開けると、私の前に見慣れた騎士服。


「クラウス!?」


クラウスがブルーグレーの防護壁を張って、ゼノの魔力を受け止めている。


(かっこよすぎじゃん!私の見せ場、もってかないでよ!!)


でもいくら彼が優秀な公爵だからって、天才のゼノには叶わない。防護壁がバリバリと割れ始める。


「クラウス、無茶だよ!」

「無茶でもやるんだ!お前みたいにな!」


どうしたら…今二人を守るために、私に何ができる…


魔法なんて使えない私にできることと言ったら…


私は覚悟を決めて、防護壁の前に飛び出した。


「おいっ!」


私はゼノがクラウスの防護壁に気をとられている間に、思いっきり彼の横っ面をぶん殴った。


ゼノが倒れ、紫色の魔力がすうっと消えていく。


私はふうっと息を吐いた。空手やっててよかった。


「魔法で勝てないなら、物理攻撃っしょ」


ーーー


ゼノは学園内で暴れたことを理由に退学処分になったが、レイリーディアが寛大な処遇を望んだことで刑事罰は受けず、魔爵としての職務に専念することになった。


そして私は、クラウスからこってりと絞られている。


「あんな状態になるまで、なぜ相談も報告もしなかった」

「とにかくまずはごめん。理由を言うと、レイリーディアには自由が必要だと思ったの。誰にも束縛されず自分で決める経験が…今まで彼女にはそんな機会がなかったんじゃないと思って」


クラウスはますます表情を険しくする。


「しかも生身で魔爵の魔法攻撃を防ごうとするなど」

「でも結果としてうまくいったし…」

「死んでいたかもしれないんだぞ!」

「だって私は一回死んでるもん、知らんけど。それにレイリーディアのためなら命を懸けられるのは、あんたも一緒じゃないの?」

「そ、れはそうだが…しかしお前はっ…」


クラウスは言いよどむ。


「私は…何?女だからとか言うわけ?散々当たり散らしといて?」

「…っ!もういい、下がれ!」


ーーー


「精神的な疲労」を理由に学校を休んでいたレイリーディアが、ようやく通学を再開する日。


ひとりの男性生徒が、セクシージェントルな仕草で、レイリーディアと私が馬車から下りるのを助けてくれる。


攻略対象のひとり、黒髪くせ毛の侯爵令息、セドリック・フォン・ヴァレンティアン。


大富豪である侯爵家の四男で、学園の美術部部長。


「社会に出たくないんだよね」とひとりモラトリアムで三留しており、貴族社会の常識にとらわれない自由奔放な人物だ。


服装もモデルになっているセクシー系アイドル・リヨン同様に、必要以上にボタン外してはだけてるし。


「クラウスからレディたちの護衛を頼まれてね」


ああ、そっか。この人は三留しているからクラウスと同級生なんだ。


「護衛をするお礼として、レイリーディア嬢には絵のモデルになってもらいたいんだが」


私はその台詞にハッとする。


セドリックはアリアネルにも同じセリフを吐いていた。


セドリックの絵のモデルになったら、「こういうポーズをとってほしい」という注文にかこつけていつでもどこでもイチャラブしちゃう激甘ルートに突入する。


(推しとセドリックとの美麗な絡み…っ!正直もっすご見てみたいっ…!)


ファンアートでもセドリックと女性キャラの絡みは人気だったし、私も下手なりに何枚かイラストを描いてSNSにアップしては、ファン仲間とあれこれ言い合って楽しんでいたものだ。


私が内なる衝動を必死に抑えつけていると、レイリーディアは涼やかな声で「ミナも一緒なら」と返事をした。


「では早速今日の放課後から、いいかな」

「承知いたしました」


放課後、セドリックに伴われて、美術部の部室にレイリーディアが入ると、空気がとろけるようにやわらかくなる。


(さすがに美男美女が並んでると綺麗だな) 


「レイリーディア嬢、ここに座って」

「ミナは…」


「私は描くほう」と私は手をあげる。


ペンタブ以外で描くのは久々だけど、推しの実物を見ながら描くチャンスを逃す手はなし。


「ポーズはこう…そしてこう。ああ、とても美しい。まさにミューズだよ」


そう、レイリーディアはミューズ。セドリックの甘い声に、完全に同意。


美術室に線を引く音が響く。


中高と美術部だった私には、画材の独特の匂いも心地いい。


静かで、穏やかで、ただただ推しの美しさを表現するために自分のもてるものすべてを放出する時間。


気付いたら、後ろからセドリックが私の絵を覗き込んでいた。


「君、どこで絵を学んだ?」

「ほぼ独学で」


本当は美大に行きたかったけど、家にそんなお金はなかった。


だから大人になってから、まるでうっぷんを晴らすかのように、ファンアートを描いていたものだ。


「伝統的な写実の技法に、デフォルメされた遊びのあるタッチが混じっているな。興味深い」


ベースがイラストだからね。


「お疲れ様」と言われたレイリーディアも、私の絵を見に来る。


近づいてくる推し、尊い。


「これが私?」

「う、うん…」


(私なんかのヘボ画力じゃ、レイリーディアの美しさを表現できないけど…だってレイリーディアはこの世に存在しているのが奇跡なんだもん。奇跡の手じゃないと表現できないよね)


「嬉しいわ。あなたの目には、私がこんなに美しく見えているの?」


その言葉に、世界がふっと温度を上げた。私は一瞬、言葉を失う。


自分の絵を、推しが認知してくれて、褒めてくれた。胸の奥がじんとする。


「絵より実物のほうが…ずっとずっときれいだよ」


セドリックがふっと笑った。


「私は何を見せられているのかな?」


ーーー


私はセドリックの誘いで美術部に所属することになり、レイリーディアは美術部専属モデルになった。


ミューズたるレイリーディアは美術部員の創作意欲を刺激しまくり、彼らの絵画生産能力は急上昇したという。


私も。


部室だけではなく公爵邸でも、クラウスに頼んで画材を用意してもらい、絵を描くようになった。


筆がキャンバスに触れたら、私とレイリーディアだけの世界。


色が混ざり、影が落ち、レイリーディアの輪郭が一筆一筆浮き上がってくる。


私は自分でも驚くほど集中していて、キャンバスの前で寝てしまうこともたびたびだった。


起きたらなぜかブランケットがかけられていて、できるメイドに感謝する。


その日も、クラウスが部屋に入って来たのにも気づかなかった。


「うわっ!クラウス、いたの?びっくりするじゃん…」

「すまない。声をかけるのも躊躇われるほど…で…」


クラウスの顔がどことなく赤くて、喋り方もいつになくぎこちない。どうでもいいけど。


「何か用?」

「セドリックとレイリーディアの仲は、どうだ?」

「それが…ですね…」

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