4 金と権力でルートを書き換えます!
クラウスが信じてくれたのは奇跡だと思う。
貴族にしては柔軟な思考を持っているのか、それとも妹の涙に弱い兄バカなのか。
まあ、どっちでもいい。
重要なのは、私たちは同担であり、同じ目的を共有したということ。
レイリーディアを幸せにする。それが、今この世界にいる意味。
「つまり、平民の娘が貴族学園に特例で入学し、王太子に見初められるのだな?」
「そう、名前はアリアネル」
「あの王太子が平民に熱を上げるとは考えにくいのだが…」
「まあ…恋ってそんなもんじゃないの?」
クラウスの顔が信じられないほど険しくなった。
恋愛脳理解不能系男子、クラウス。
「で、私たちが最初にやるべきは…このアリアネルの入学を止めること」
「殺すのか?それならばすぐに暗部を…」
おいおい。さすが悪役令嬢の兄である悪役令息。
国を挙げて保護してる光魔法の保有者を殺すとか、物騒すぎる。
「物騒なこと言わないで!ちゃんと平和的解決を考えてるの!」
「では、入学を取り消させるのか?」
「まあ、それに近いね」
レイリーディアが顔色を変えた。
「けれど光魔法を保持しているアリアネル様を入学させないのは、王国の損失になってしまうわ。それに彼女自身はとても家族思いで勉学にも熱心な方なのよ。彼女のような人材から学ぶ機会を奪うだなんて…」
ああ、推し。優しい。そして視野が広い。
だけど私もオタク。推しの思考の流れは、読める。
「だから、入学先を変えればいいんだよ」
レイリーディアとクラウスは顔を見合わせた。
ここルミナリア王国は、華やかで美しく観光業や芸術などを中心に栄えてはいるが、小さな国だ。
一方、ルミナリアが実質的に臣従しているノルヴァンティア帝国は、皇族が強大な魔力をもつ魔法大国。
「ノルヴァンティア帝国の魔法学園に入学してもらおう」
光魔法は帝国全土を見ても希少だ。
だからノルヴァンティアの魔法学園も、アリアネルの入学を拒むことはないだろう。
「帝国の魔法学園に留学するとなると、かなりのお金がかかるけど、そこは…」
私はちらっとクラウスを見た。
「公爵家の金で解決できる」
「そう、そういうこと!クラウス、さすが悪役の発想が冴えてる!」
「褒め言葉ではない気がするのだが」
翌日、私たちは早朝の馬車でアリアネルの住む町…公爵領にある小さな町へ向かった。
道中、レイリーディアは不安げに口を開く。
「彼女の人生を勝手に変えてしまって、本当にいいのでしょうか」
それは私も考えた。だけど…
「魔法学園に進むことは、きっとアリアネルのためにもなると思う。それにループを壊すには、運命を書き換えるしかない」
物事には優先順位がある。
どちらかと選ばなきゃいけない瞬間も。
レイリーディアとアリアネルなら、私にとってはレイリーディアが優先なのだ。
クラウスが頷く。
「アリアネルという娘を不幸にするつもりはない。むしろ、より良い未来を用意してやるだけだ」
アリアネルが暮らすパン屋は、朝の光とパンの美味しそうな匂いに包まれていた。
「お腹空いてきちゃった」
「のんきだな」
「ごめんて」
まだあどけない弟が店の前で看板を磨いていて、店の前を掃いている彼女…アリアネルは、平民でありながら明らかにヒロインのオーラを放っていた。
街の若者たちが店の周りを何周もしながらチラチラとアリアネルを見ているが、可愛すぎて近寄れないらしい。
それもそのはず、アリアネルのモデルは三年連続「美しい顔ランキング」「なりたい顔ランキング」「お嫁さんにしたいランキング」の三冠を達成したミリなのだから。
「う、可愛っ…じゃなくて、アリアネルはあの子です」
「お前、顔が緩んでるぞ」
「大丈夫です。レイリーディア様への愛は揺らいでいません!」
アリアネルと両親と弟は、突然現れた領主様御一行に恐縮しながら、クラウスの話をじっと聞いていた。
「アリアネル嬢は希少な光魔法の保有者だ。王国の貴族学園よりも、より魔法を専門的に学べる、帝国の魔法学園への入学を勧めたい」
さすが公爵、言葉選びが上品で、慈愛に満ちた表情が板についている。
「もしも魔法学園への入学を望むなら、公爵家がすべてを支援しよう」
私に向けるような嫌味や敵意など、微塵も感じさせない。
「もちろんアリアネル嬢だけではない。弟エルデン君も、望む進路に進めるように支援させてもらうつもりだ。公爵家で働いてもらうのもいいし、騎士学校に入るのもいいだろう」
アリアネルと母親が手で口を多い、父親が目を丸くし、弟がパンを落とした。
「これは彼女の才能を正当に伸ばすための投資だと思ってもらいたい。この国だけではなく、もっと広い世界で光り輝くための」
ずっと黙って聞いていたレイリーディアが、そっとアリアネルに話しかけた。
「アリアネル様、あなたの希望はどうかしら?無理強いはしたくないの」
ああ、推し。あくまで優しい私の推し。好き。
アリアネルは涙ぐんだ。声が震えている。
「私、本当は魔法学校に行きたかったんです。でもお金のことを考えたら、親には言い出せなくて…貴族学園なら特待生で入れるから貴族学園を選びました。だから…嬉しいです…本当に、ありがとうございます」
「そう…だったのね」
アリアネルと家族は、いつまでも馬車に頭を下げていた。
レイリーディアがぽつりと呟く。
「不安だったのですが…これは彼女にとっても良かったのですね」
クラウスがふっと瞳を柔らかくした。
「きっと運命も変わるはずだ。アリアネルが貴族学園に入学しなければ、王太子がレイから心を移すこともないだろう」
しかしレイリーディアの表情は晴れない。
私はすっと目を細め、顔の前に手をもってきて、指の隙間からクラウスを睨む。
鈍感な兄には、私から言ってやるしかないのだ。
「王太子とは婚約破棄すべきであろう」




