12 推しをループから救えたので、公爵夫人始めます
アリアネルは「恩義のあるレイリーディア様を助けるためなら」と、すぐ駆けつけてくれた。
「魔法学園で力の制御や増幅を学んだので、何とかしてみせます!」
チートヒロイン、頼もしすぎる。
部屋の中に満ちる眩しい光が、レイリーディアの身体を包み込んでいく。
死の気配が少しずつ薄れて、レイリーディアの顔に血の気が戻り、手は熱を取り戻す。
そして彼女は目を開けた。
「身体が軽いわ」
レイリーディアが微笑んで、クラウスは嗚咽をこらえながら彼女を抱きしめた。
「ミナも、アリアネルも」
四人で抱き合う。
「アリアネル、ありがとう」
「お役に立ててよかったです!」
(これでもう大丈夫だよね)
だけど…
「ミナ?」
「ミナ!」
自分の手が、透けている。
手のひらから、腕へ、足へ、体が光になって消えていく。
(ループが解けたんだ。悪役令嬢が幸せになれたから、「終わる」んだ)
「ミナ、待って…!」
「レイリーディア、幸せにね。親友だって言ってくれて、嬉しかった」
クラウスが腕を伸ばす。
「ミナ、行くな!!」
その手が、私の頬をすり抜ける。
クラウスの顔が絶望に染まる。
「クラウス、不審者を信じてくれてありがとね。レイリーディアをよろしく頼むよ、相棒」
「ミナ、待ってくれ…!私はっ…」
その声が涙で滲むのを最後に、私は光の中に溶けていった。
ーーー
気づくと、真っ白な空間に立っていた。
何もない。風も音もない。
ただ、柔らかい光が満ちている。
目の前に、女性がひとり立っていた。
金色の瞳に、流れるような髪。
人間離れした美しさを放っている。
「お疲れ様、山田美菜さん」
「あなたは…?」
「私はこの世界の創造主よ」
「あなたがエタコルをつくったの?」
女神は楽しそうに笑う。
「違うわ。エターナル・アンコールを作ったのはゲーム会社でしょう。私はエターナル・アンコールが気に入って、似た世界をつくったの。ユナ推しだったから、彼女が主役になるボーナスステージバージョンにしてね」
「同担…?」
「そうよ」
女神は推しが幸せになる世界線を見られると思って、この世界を作った。
けれど何度繰り返してもレイリーディアは死んでしまい、幸せにもなれずにループし続けてしまう。
「だから、推しへの愛が強いあなたをこの世界に飛ばしたの。推しの幸福を見せてくれてありがとう。とっても満足よ」
女神は光の翼を広げて、静かに言った。
「あなたへのご褒美を二つ用意したの。どちらかを選びなさい」
女神は手の上にある雲をふわっと吹く。
元の世界と、今の今までいた世界が、モニターにうつる。
「一つは、元の世界で生まれ変わる道。もう転生はさせないから、歩きスマホは厳禁よ」
「もうひとつは?」
「もう一つは、レイリーディアたちの世界に戻り、彼らと共に生きる道。二度と元の世界には戻れないわ」
私は目を閉じた。
「レイリーディアたちの世界…」
女神がくすっと笑ったのが、気配で分かる。
「クラウスがいる世界でもあるわ」
「え、なんでクラウス…いや、確かにクラウスもいるけど」
女神はくすくす笑う。
「気づいてないの?見て」
私がいなくなったレイリーディアの寝室。
私の名前を呼んで泣くクラウスの声。
「泣いてる…の?」
「そうよ」
「愛してる…って?」
「ええ」
顔が赤くなってくる。
クラウスが私を愛してる。
私は…?
ムカつくことも多いけど、可愛くて、妹思いで、私のことも守ってくれて…
「決まったみたいね」
女神がまだくすくす笑いながらそう言って、私は目を閉じた。
目を開けると、金色に輝く日差しと、宝石が咲いているかのような花壇。そしてその奥に広がる信じられないほど広い庭園。クラシカルな噴水が涼やかな水音を立てている。
(いや、レイリーディアの部屋に送ってよね。最初もそうだったけど、なぜわざわざここなのよ)
まあいいや。
私はレイリーディアの寝室に向かって叫ぶ。
「クラウス!レイリーディア!」
クラウスがバタンと窓を開けた。
「ミナ…?」
「ただいま」
大きく見開かれたクラウスの目から、また涙がこぼれてくる。
私はニヤッと笑った。
「クラウス!私のこと愛してるんだって?」
「お前、聞いて…っ!?うるさいぞ!」
「ねえ、もう一回言ってよ」
「言いに行くから、消えずにそこで待ってろ!」
クラウスは身を翻して、玄関を開け、私のもとに駆けてきた。
いつも貴族然とした彼が、息をきらして、顔を真っ赤にして、涙も拭かずに。
「ミナ、愛してる。ずっとここにいてくれ」
「私も愛してるから、ずっとここにいるね」
お互いがここにいることを確かめるように、唇と唇が重なる。
「明日から、公爵夫人になるための教育を開始する。レイの姉に恥ずかしくない気品と作法を身につけねば」
「いやあああああ!」




