第9話 嫉妬の炎
沙羅から獣人社会の基礎知識を学んでいると、突然扉が勢いよく開いた。
「神楽!話があります!」
現れたのは、見目麗しい女性だった。長い黒髪を高く結い上げ、深紅のドレスに身を包んでいる。美しいが、その表情は怒りに満ちていた。
「麗…ノックをしろと言っただろう」
神楽の声が、一気に冷たくなった。
「そんなことより、この女は何です?」
麗と呼ばれた女性は、私を睨みつけた。その瞳には、明らかな敵意と嫉妬の炎が燃えている。
「紹介しよう。こちらは凛、私の妃だ」
「妃?そんなばかな!あなたの婚約者は私のはずです!」
麗の声が、ヒステリックに響いた。
「葛城麗。黒豹族の族長の娘で、私の幼馴染だ」
神楽が私に説明する。
「そして、確かに以前は婚約関係にあった。しかし、月巫女が現れた以上、全ての契約は無効だ」
「無効って…私たちは子供の頃からの約束で…」
「政略結婚の約束だったな。だが、月巫女との契約は、それを上回る神聖な結びつきだ」
麗の顔が、みるみる青ざめていく。
「この女のどこが月巫女なのですか?どう見ても普通の人間じゃない」
「見せてやろう」
神楽は私の首筋を指差した。そこには、銀色の三日月の印がくっきりと浮かんでいる。
麗は、その印を見て愕然とした。
「月印…本当に月巫女なの…」
「三百年ぶりの覚醒だ。お前も黒豹族の姫なら、その意味が分かるだろう」
麗はしばらく呆然としていたが、やがて私に向き直ると、憎悪に満ちた表情を向けた。
「でも、私は諦めません。この女が本当に神楽様にふさわしいか、じっくりと見極めさせていただきます」
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出ました、強気な婚約者!恋愛物語の王道展開ですね(笑)。
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次回、麗は諦めません。彼女が仕掛ける、最初の「試練」とは…?
凛、大ピンチ!