第8話 獣人社会の掟
「獣人社会って…そんなものが本当に存在するの?」
私は混乱していた。昨日まで普通のOLだった私が、いきなり別世界の住人になったなんて、簡単には受け入れられない。
「人間たちは知らないだけだ。我々は太古の昔から、人間と共存してきた。ただし、決して表には出ない」
神楽は壁に掛けられた古い地図を指差した。
「この地域一帯は、我が銀狼族の縄張りだ。表向きは人間の街だが、重要な場所は全て獣人が管理している」
地図には、私の知っている街の名前がいくつも記されているが、それぞれに獣人の氏族名が併記されていた。
「獣人社会には厳格な階級制度がある。頂点に立つのは、各氏族の王。その下に側近たち、そして一般の氏族民が続く」
「あなたは王なのね」
「銀狼族の王だ。そして、この地域における獣人社会の盟主でもある」
神楽の口調には、誇りと威厳が込められていた。
「では、私は王妃ということになるの?」
「そうだ。月巫女であり、銀狼王の妃。獣人社会における最高位の女性の一人だ」
最高位。その響きは魅力的だったが、同時に重圧も感じられる。
「でも、私は何も知らない。獣人のことも、月巫女のことも」
「これから学べばいい。お前には優秀な教育係もつける」
神楽はベルを鳴らした。すると、エレガントなメイド服を着た女性が現れた。年の頃は三十代後半といったところだろうか、美しいが、どこか近寄りがたい雰囲気を持っている。
「こちらは沙羅。お前の世話係兼教育係を務めてもらう」
「初めまして、凛様。沙羅と申します」
女性は深々と頭を下げたが、その瞳の奥に冷たい光が宿っているのを見逃さなかった。
「沙羅は狐族の出身だ。お前と同じ狐の血を引いているので、月巫女の力について詳しい」
「狐族…」
「ええ。ただし、私は普通の狐族です。凛様のような高貴な白狐の血筋ではございません」
沙羅の言葉には、微かに棘があった。
「獣人社会の作法、月巫女としての務め、そして神楽様の妃としての心得。全てお教えいたします」
お読みいただき、ありがとうございます!
ついに凛の「王妃教育」が始まりそうですね。でも、教育係の沙羅さん、何だか少し棘があるような…?
この二人の関係、気になりませんか?
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次回、月巫女としての最初のレッスン。しかし、その内容は凛の想像を超えるものでした。