第3話 月巫女という名の運命
「月巫女って…何ですか?人違いです!」
私は慌てて首を振った。しかし、男の金色の瞳は、私の否定など意に介さないとでも言うように、静かに輝いている。
「人違い?」
男は低く笑った。その笑い声は、まるで地の底から響いてくるような、深く官能的な響きを持っていた。
「お前の体が発している匂いを嗅いでみろ。普通の人間とは明らかに違う、甘く濃厚な白狐の香りがする。そして、その五感の鋭敏化…最近、音や匂いが異常に強く感じられるようになったはずだ」
私は息を呑んだ。なぜこの男が、私の体調の変化を知っているのだろうか。
「それに、お前の肌を見てみろ」
男はそう言うと、躊躇なく私の手首を掴んだ。
「いや…っ、離して…!」
私は必死に腕を引こうとしたが、男の指は鋼鉄のように固く、びくともしない。それどころか、彼の指が触れた瞬間、まるで電流が走ったかのような感覚が全身を駆け抜けた。
「見ろ」
男が私の手首を月光の差す場所にかざすと、そこに薄っすらと青白い光の筋が浮かび上がった。まるで血管の中を光が流れているかのように。
「これは月華の光。月の力を宿す者にだけ現れる印だ。お前は紛れもなく、三百年ぶりに覚醒した月巫女なのだ」
私は呆然と自分の手首を見つめた。そんなものが自分の体にあったなんて、今まで気づかなかった。
「でも、私は普通の人間です!会社員で、毎日電車に乗って…」
「普通の人間が、獣人だらけのこの店で、これほど平然としていられると思うか?」
獣人?
私は慌てて周囲を見回した。確かに、お客たちは皆どこか人間離れした雰囲気を持っていたが…
「彼らの本当の姿が見えるか?試してみろ。月の力に身を委ね、心の目で見るのだ」
男に促されるまま、私は深く息を吸い込み、意識を集中させた。すると…
周囲の人々の輪郭が、まるで蜃気楼のように揺らめき始めた。そして次の瞬間、私は悲鳴を上げそうになった。
お客たちの姿が、人間ではなくなっていたのだ。狼のような鋭い牙を持つ者、猫科の動物のような縦に細い瞳孔を持つ者、まるで鳥のように鋭い爪を持つ者…
「これが、お前が本来見るべき世界だ。お前は生まれながらにして、この世界の住人なのだ」
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自分の体に起きていた異変の理由、そして目の前の男の言葉が真実だと知ってしまった凛。もう、彼女は「普通の人間」ではいられません。
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次回、銀髪の男は凛をどうするのか…。彼の強引な愛が、凛の運命を大きく動かします。