雪のモノローグ
続いて行われた、ラージヒルの試合。ノーマルヒルから2日が過ぎての舞台だった。
「海斗くんが飛ぶ空は、きっと特別な空だ。どんな風が吹いても、その背中にはいつも、そうちゃんの願いがついている――。あたしも、その空を見上げてた」
個人種目で二冠を達成できるか。世界中の注目が集まっていた。
この日も海斗は好調。ノーマルヒルで争った強豪たち――ジョンソン、アンデルセンに加え、バートンやマクロンといった新たなライバルたちが加わり、会場の熱気は最高潮に達していた。
「そうちゃん、ラージヒルでも…海斗くん、大丈夫だべか? うまくいくっしょかねぇ……」
「ノーマルヒルの疲れがのこっとるべさ……でも、なんとか一回目がうまく飛んでくれたらなぁ……」
「海斗くん、がんばれ〜……」
「そうちゃんの声は、少し震えていた。だけど、その奥には、どんなときでも海斗くんを信じてる強さがあった。……その強さが、あたしには眩しかった」
海斗のラージヒル1回目。風速は追い風3メートル。K点は125メートル、ヒルサイズは140メートル。
「さあ、喜多見海斗の登場です! 先日のノーマルヒルで金メダルを獲得した勢いを、そのままラージヒルへ繋げられるか――」
「この風は厳しいですね。飛型維持も難しくなります。いかに姿勢を崩さずに飛べるか、そこが鍵になります」
「ブザーが鳴った! 喜多見、滑走スタート!」
「あの音を聞くたび、心臓が止まりそうになる。滑っていく姿を見てるだけで、あたしの足元がふわっと浮く……。飛んでるのは海斗くんなのに、どうしてこんなに怖いんだろうって思うくらいに」
海斗は飛んだ。K点を越え、135メートル。ヒルサイズには届かなかったが、姿勢は安定していた。
「着地成功! 135メートル! これは確実なジャンプです!」
「追い風の中でこれだけの飛距離を出すのは見事。飛型点でしっかり評価されるでしょう」
その後、ジョンソン選手が138メートル、アンデルセン選手が137メートル、海斗は3位につける。4位以下とは1ポイント差。2回目次第では、メダルを逃す可能性もある厳しい戦い。
「冷たい空気が、部屋の中まで入ってくるようだった。そうちゃんは黙ったままテレビを見つめてて、あたしも何も言えなくて……ただ、手だけをぎゅって握ってた」
「ん〜…あんまり飛ばんかったね……でも、ちゃんと着地したし、えがったっしょ……」
「んだな……ほんと、ようやったよ……次の一本に賭けるしかないな」
2回目を迎える。変わらず追い風。空もまだどんよりとしていた。
「海斗……無理だけはすんなよ。とにかく……無事に着地してくれや……」
「うん……海斗くん、がんばって……」
「そうちゃんの声は、どこか遠くから聞こえてくるようだった。海斗くんを応援してるのか、自分自身を励ましてるのか……。その背中を、あたしは黙って見つめていた」
「さあ、喜多見海斗の2回目。トップは依然として138メートルのジョンソン。逆転のチャンスはあるのか!? 会場の空気も張り詰めています!」
「喜多見選手の強みは安定感です。どんな風でも、フォームを崩さない。その芯の強さが、今日も出せるかどうかですね」
「ブザーが鳴った! 喜多見、スタートしました!」
海斗の体が空へ舞い上がる。滑らかな飛型を保ったまま、風と拮抗しながら進んでいく。138メートル。ヒルサイズにあと一歩届かず。
「着地ぃっ! 138メートル!! 圧巻のジャンプだー!」
解説
「これは素晴らしい。踏み切りのタイミングも完璧、風に押されながらも空中姿勢を維持しました。今大会屈指の美しいジャンプだったと思います」
最終的に、ジョンソンも同じく138メートル。しかし飛型点で僅かに上回り、金メダル。海斗は堂々の銀メダルに輝いた。
「海斗は……あの悪条件の中で、ようやったべさ……今度はミックス団体が控えとるけど、ちったぁ体、休められるとええんだけどな……」
「うん……残念だったけど……でも、銀メダルだよ……! ほんと、すごい……」
「あぁ……ほんとにな……よう飛んだ」
「銀色のメダルが、金色よりもまぶしく見えることがある――そうちゃんがそう言ってたのを、ふと思い出した。悔しさもある。でも、それ以上に、今日の海斗くんは、美しかった」
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インタビューシーン
「喜多見選手、ラージヒルお疲れ様でした。銀メダルという結果でしたが、今のお気持ちはいかがですか?」
「追い風が強くて、なかなか思うように飛べなかったんですが……二冠を目指してたので、悔しい気持ちもあります。でも、銀メダルを取れたのは嬉しいですし、支えてくれたみんなに感謝したいです」
「ヒルサイズまであと少しでした。138メートル、見事でした」
「はい、次につながるジャンプができたと思います」
「次はいよいよミックス団体です。意気込みをどうぞ」
「はい。今日も、テレビで層一と雪さんが見てくれていると思います。2人に恥じないような、いいジャンプを飛びたいです。日本チームとしても、しっかりと結果を残せるよう頑張ります」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
「テレビの中の海斗くんが、まっすぐこっちを見てるような気がした。『ちゃんと見ててくれた?』って言ってるようで――あたしも、そうちゃんも、同時にうなずいた」
層一は、画面越しに映る海斗の姿をじっと見つめていた。
その瞳に宿るのは、仲間としての誇りと、未来への希望。
彼の中に、病に負けたくないという思いが、またひとつ、静かに燃え上がっていた。
ミックス団体戦 ― 空の向こうに届けたかったもの
本番の日、朝の光は冷たく澄んでいて、空には一筋の飛行機雲が伸びていた。
「あたしは、ふと思ってた。
みんな、あの空に向かって、何を届けようとしてるんだろう。
金メダル? 名誉? 夢?
でもきっと、それだけじゃない。
今日、4人は……層一さんとあたしに、笑顔を届けたくて、飛ぶんだと思った」
ノーマルヒル、ラージヒルと戦い抜いた海斗。
静かな炎を胸に秘める仁木恵一。
誰よりも努力を重ねてきた白石瑞穂。
まっすぐに夢を信じてきた朝日愛子。
日本代表ミックスチームは、いつもより少しだけ、空を見上げる目が柔らかかった。
一回目を終えて、日本は2位。2回目のジャンプがスタートした。
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第一飛者:白石瑞穂
「女子一人目、日本は白石瑞穂! 力強さと安定感を兼ね備えた、団体戦では欠かせない選手です」
「白石選手、今日は表情が柔らかいですね。リラックスしているようにも見えます」
「瑞穂ちゃんは、言ってた。
『このジャンプで、病院で戦ってる人たちを元気づけたい』って……
それが、あたしとそうちゃんのことだって、すぐにわかったよ」
滑走。飛んだ。
空を切って、見事に舞った――106メートル。
「ナイスジャンプ! 落ち着いた滑り出し、日本チームにとって大きな一本です!」
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第二飛者:朝日愛子
「女子二人目、朝日愛子! 若きエースがどこまで飛距離を伸ばせるか!」
「愛子ちゃんはね、手紙を書いてくれたんだ。
『層一さんが教えてくれた“楽しむ勇気”、ちゃんと持って飛びます』って。
あの子、泣きながら、笑ってたよ」
踏み切りの瞬間、全身が弾けた。
――108メートル。
「いやぁ、素晴らしい! 若さだけじゃなく、経験も感じさせる飛び方です」
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第三飛者:仁木恵一
「……次、恵一くんだ……そうちゃん……きっと、あの子……」
層一はテレビの前で、小さく頷いた。
「……あいつは、黙ってるけどな……ぜってぇ、届けようとしてんだ……おらど、雪に……その笑顔、な……」
「男子一人目、仁木恵一! 精密機械のような安定感を誇る、若き静かなるジャンパー」
飛んだ――
空気の音すら、跳ね返すように。
滞空時間が美しく伸びて――112メートル!
「出ました、112メートル! 日本、メダル争いに堂々と残っています!」
「恵一くん、きっと言葉じゃなくて、背中で言ってた。
『元気になってください』って。
『もう一回、一緒に飛んでください』って」
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最終飛者:喜多見海斗
層一が、息を飲む。
「……海斗……頼む、無茶だけはすんな……けど、思いっきり……思いっきり、飛べや……!」
雪は、その横顔を見て、小さく微笑んだ。
「きっと、届くよ。……あの子の笑顔も、一緒に」
実況
「さあ、日本チーム4番手、喜多見海斗! ノーマルヒル金、ラージヒル銀――この団体戦で、仲間と共に何を見せるのか!」
「海斗くんが飛ぶとき、空が少し広く見える。
それはきっと、あたしとそうちゃんが、一緒に見てるからなんだと思う」
飛んだ――
風と共に、笑顔を乗せて。
空の向こうまで、一直線に。
着地――115メートル。
「きたっ! 喜多見、115メートル! これは大きいぞ! 日本チーム、銀メダル圏内に浮上です!」
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結果発表――日本、銀メダル
会場に、日本チーム4人が肩を並べて立った。
悔しさも、喜びも、その瞳に宿して。
でも、みんな笑っていた。
インタビューでマイクを向けられた海斗が、静かに語った。
「このメダルは、自分たちだけのものじゃないです。
層一と、雪さん……見ててくれてるって思って、飛びました。
僕たち4人の笑顔が、ふたりに届いてくれたら、それがいちばんの金メダルです」
「あたしたちは、たしかに受け取った。
空の向こうから届いた、みんなの笑顔。
どんな薬より、どんな励ましよりも、胸にしみた――
……ありがとね、海斗くん。みんな」
層一は、ゆっくりと画面に手を伸ばし、小さくつぶやいた。
「……みんな、あったけぇな……おら、もう少し……もう少し、頑張ってみっか……」
雪がそっとその手に自分の手を重ねた。
「うん。……笑顔で、迎えようね。また、あの子たちが帰ってきたら」
男子団体決勝 〜絆が繋いだ、奇跡の金メダル〜
「団体戦ってね、一人の力じゃ勝てないんだって……わかってたけど、
あの日の日本チームを見て、はじめて“信じる力”ってこういうことかもって、思ったの」
最終種目、男子団体戦――
日本は決して有利な状況ではなかった。
1回目の2人が飛んだ時点で5位。トップとの差は12ポイント以上。
「銅メダルも厳しい」と解説者が呟いたその時、
チームの空気が、ふっと変わった。
覚悟を決めて2回目のジャンプがスタート。
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2回目第一ジャンパー白石浩(2回目のオリンピック)
「白石浩、女子代表の白石瑞穂選手のお兄さんでもあります。2回目の五輪、最後まで諦めないジャンプが見られるか!」
「浩さんは、妹の瑞穂ちゃんが頑張ってるのを、ずっと見守ってたんだよね。
自分のジャンプで“背中を見せたい”って……そうちゃんに、そう言ってたの、あたし覚えてるよ」
スタートの構え――
静かに目を閉じ、何かをかみしめるように滑り出す。
強い踏切。空中でブレないフォーム。
――飛距離、129メートル!
解説
「これは大きい! チームに勇気を与える一本です!」
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第二ジャンパー 大沼圭佑(3回目の五輪)
「続いてはベテラン・大沼圭佑! 3回目のオリンピック、彼の存在がチームに安定をもたらしています」
「圭佑さんは、前回のオリンピックで転倒して、誰よりも悔しい思いをしてた。
でも……あの時の自分に、誇れるジャンプをしたいって、そうちゃんに話してくれたこと……忘れないよ」
風を読み切った完璧なジャンプ。
――131メートル!
「出ました、チーム最長不倒! 一気に2位浮上、日本、メダル圏内です!」
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第三ジャンパー仁木恵一
「日本、ここで仁木恵一。若き静かなる職人。無言のエースが、どこまでこの流れを繋げるか!」
「恵一くん、何も言わないけど……あたし、わかるんだ。
“そうちゃんに、もう一度飛んでほしい”って、きっと、心の奥で思ってるんだって」
滑らかな飛び出し、美しい滞空。
――132メートル!
「日本、トップに0.4ポイント差まで迫りました! 金メダルの可能性が見えてきました!」
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最終飛者:喜多見海斗
「そして、日本の最後の一本。喜多見海斗! ノーマルヒル金、ラージヒル銀、団体戦の集大成、すべてをこの一跳びに!」
「そうちゃん……海斗くんはね、きっとずっと思ってたよ。
“あのとき一緒に飛んだ空を、もう一度、今度は一人で越える”って。
そうちゃんの笑顔が見たくて、ここまで来たんだよ」
静寂のスタート。
強く、優しく、空へ。
――踏み切り、完璧。空中姿勢、安定。着地、美しいテレマーク。
飛距離133メートル!
会場がどよめいた。
得点が表示された瞬間、場内が総立ちになった。
実況
「決まったーッ!! 喜多見の大ジャンプ! 日本、奇跡の大逆転金メダルです!!」
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インタビューシーン
4人が並ぶ表彰台。
金メダルの重みを感じながら、それぞれの言葉が心にしみた。
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白石浩
「妹に……“お兄ちゃんも頑張ったよ”って言えるメダルになりました。
このチームで、みんなと一緒に飛べて、本当に良かったです。……ありがとう、瑞穂」
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大沼圭佑
「3回目のオリンピックで、ようやく自分自身に勝てた気がします。
このメダルは、過去の自分への答えであり、後輩たちへのエールです」
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仁木恵一(少し照れながら)
「……言葉は苦手なんですけど……そうちゃん、見ててくれたなら……
“おれ、やっと届けられたよ”って、言いたいです」
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喜多見海斗
「金メダルが取れたことより、こうして仲間と心をひとつにして戦えたことが、一番の誇りです。
層一、雪さん……もう一度、4人で空を飛べた気がしました。
見ててくれて、ありがとうございました」
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「あたしたちは、泣いてた。
嬉しくて、誇らしくて、胸がいっぱいで……
そうちゃんは、黙ってテレビを見つめたまま、小さく笑った。
そして、ぽつりとつぶやいたの――」
「おら、こんな最高の仲間持って、ほんとに幸せもんだな……」
帰国 〜笑顔の空へ〜
「空港で待ってる間、心臓の音がずっと速かった。
“おかえり”って、たったひと言なのに、あたし、何度も口の中で練習してたんだ」
札幌の空港には、まだ雪が舞っていた。
国際線ゲートの前に、車椅子の層一と雪が並ぶ。
層一は、いつもの毛糸の帽子をかぶり、少し緊張した顔で空を見上げていた。
「まだかの……」
「うん、もうすぐ……もうすぐだよ」
テレビの向こうで見ていた選手たちが、今、ほんとうに帰ってくる。
金メダルを胸に。みんなの笑顔を引き連れて――
「来た! そうちゃん、あれ……!」
ゲートから姿を現したのは、金メダルを胸に提げた4人の選手たちだった。
海斗、恵一、圭佑、浩。
その顔に疲れはあったけれど、笑顔の輝きは金色に勝っていた。
「層一!!」
海斗が駆け出す。
人ごみの中をすり抜けて、真っ直ぐに――
「……層一。ただいま!」
「海斗……」
層一は何も言えなかった。
ただ、口をへの字にして、目を細めて、海斗の肩を抱いた。
「おめでとう……海斗……おら、本当に、嬉しいわ……」
雪もその輪に駆け寄った。
恵一と目が合い、恵一は照れたように目を伏せながら小さく頭を下げた。
「おかえり、恵一くん。……ありがとう」
「……見ててくれて、ありがとう、雪さん」
圭佑は層一に、まるで弟のように頭を下げ、
「やっと……恩返しできました」と、一言だけつぶやいた。
浩は、妹の瑞穂と再会し、静かに抱き合った後、そうちゃんの前に立つ。
「僕がこの舞台に立てたのは、層一と瑞穂のおかげです。……ありがとうございました」
空港の出迎え客が自然に拍手を送っていた。
そして、金メダルの4人が、そうちゃんの車椅子の前に並ぶ。
「――層一、
このメダル、俺たちだけのもんじゃない。
層一と、雪さんと、みんなで飛んだメダルです」
海斗がそう言って、層一の手を、そっと握った。
層一は、雪の方を見て、涙をこらえながら小さく笑った。
「おら、ほんとに幸せもんだ……こんな素敵な仲間に、また会えて……」
「あの日、空港の雪は、やわらかくて、あったかかった。
そうちゃんが見上げた空に、あたしも、海斗くんたちも、きっと……飛んでた」
――夢って、不思議だよね。
あたしはスポーツとは縁のない人生を歩んできたけど、そうちゃんと出会ってからは、まるで自分のことみたいに、その夢を応援してた。
いや、違うな。
「応援」って言葉じゃ足りない。
そうちゃんの夢は、あたしの夢でもあったんだと思う。
一緒に泣いて、一緒に笑って、一緒に戦ってきた。
オリンピックに出場することが、あたしたちふたりの未来そのものだった。
病院のベッドで、テレビを見つめるそうちゃんの横顔を見てたら、胸が痛くて、苦しくて、涙が出そうになった。
それでも、あたしは泣かないって決めてた。
だって、今一番泣きたいのは、あたしじゃない。
夢を手放さざるを得なかった、そうちゃんなんだから。
……でも、正直に言うと、あたしも怖かった。
夢を失った人が、その先で何を支えにして生きていくのか、分からなくて。
そうちゃんが笑えなくなったら、もし希望を持てなくなったら――
そのとき、あたしはどうしたらいいんだろうって。
だから、あの時の「ごめんな」って言葉は、あたしの心にも深く刺さった。
「何もできなかった自分を許してくれ」って、そう言われた気がして、何も返せなかった。
だけどね、そうちゃん。
あたし、ずっと思ってたの。
人の夢って、叶うことだけがすべてじゃない。
叶わなかった夢にも、ちゃんと意味がある。
だって、その夢のために必死で生きた日々は、消えないから。
無駄じゃないよ。
むしろ、叶わなかった夢こそ、人を強くするのかもしれないって――最近、ようやく思えるようになったんだ。
お腹の中で動くこの命が、それを教えてくれた。
この子はまだ何も知らないけど、きっと分かってる。
父親が、どれだけまっすぐに生きてきたかってことを。
苦しくても、悔しくても、最後まで逃げなかった姿を。
そうちゃん。
あなたが飛ぼうとしてた空は、きっと今、海斗くんが飛んでる。
そしていつか、この子も、自分だけの空を見つけて、飛び立っていくんだと思う。
あたしたちがつないできた想いを、未来へ渡すために。
夢が終わったように見えても、それは、新しい始まりだったんだね。
オリンピックの舞台じゃなくても、あたしはあなたと一緒に、生きていきたい。
3人で、一歩ずつでいいから、前に進んでいきたい。
この子が産まれたら、いつか言ってあげたい。
「あなたのお父さんはね、夢を諦めたんじゃないの。
その夢を、誰かに託して、新しい未来を選んだんだよ」って。
だからね、そうちゃん。
ありがとう。
夢を見せてくれて、ありがとう。
そして、あたしのそばにいてくれて、ありがとう。
あなたが今も、あたしの誇りであるように――
あたしも、あなたの希望でいられるように、強くなるね。