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終着駅  作者: リンダ
16/21

雪のモノローグ

続いて行われた、ラージヒルの試合。ノーマルヒルから2日が過ぎての舞台だった。



「海斗くんが飛ぶ空は、きっと特別な空だ。どんな風が吹いても、その背中にはいつも、そうちゃんの願いがついている――。あたしも、その空を見上げてた」


個人種目で二冠を達成できるか。世界中の注目が集まっていた。

この日も海斗は好調。ノーマルヒルで争った強豪たち――ジョンソン、アンデルセンに加え、バートンやマクロンといった新たなライバルたちが加わり、会場の熱気は最高潮に達していた。



「そうちゃん、ラージヒルでも…海斗くん、大丈夫だべか? うまくいくっしょかねぇ……」


「ノーマルヒルの疲れがのこっとるべさ……でも、なんとか一回目がうまく飛んでくれたらなぁ……」


「海斗くん、がんばれ〜……」



「そうちゃんの声は、少し震えていた。だけど、その奥には、どんなときでも海斗くんを信じてる強さがあった。……その強さが、あたしには眩しかった」


海斗のラージヒル1回目。風速は追い風3メートル。K点は125メートル、ヒルサイズは140メートル。



「さあ、喜多見海斗の登場です! 先日のノーマルヒルで金メダルを獲得した勢いを、そのままラージヒルへ繋げられるか――」



「この風は厳しいですね。飛型維持も難しくなります。いかに姿勢を崩さずに飛べるか、そこが鍵になります」



「ブザーが鳴った! 喜多見、滑走スタート!」



「あの音を聞くたび、心臓が止まりそうになる。滑っていく姿を見てるだけで、あたしの足元がふわっと浮く……。飛んでるのは海斗くんなのに、どうしてこんなに怖いんだろうって思うくらいに」


海斗は飛んだ。K点を越え、135メートル。ヒルサイズには届かなかったが、姿勢は安定していた。



「着地成功! 135メートル! これは確実なジャンプです!」


「追い風の中でこれだけの飛距離を出すのは見事。飛型点でしっかり評価されるでしょう」


その後、ジョンソン選手が138メートル、アンデルセン選手が137メートル、海斗は3位につける。4位以下とは1ポイント差。2回目次第では、メダルを逃す可能性もある厳しい戦い。



「冷たい空気が、部屋の中まで入ってくるようだった。そうちゃんは黙ったままテレビを見つめてて、あたしも何も言えなくて……ただ、手だけをぎゅって握ってた」


「ん〜…あんまり飛ばんかったね……でも、ちゃんと着地したし、えがったっしょ……」


「んだな……ほんと、ようやったよ……次の一本に賭けるしかないな」


2回目を迎える。変わらず追い風。空もまだどんよりとしていた。


「海斗……無理だけはすんなよ。とにかく……無事に着地してくれや……」


「うん……海斗くん、がんばって……」



「そうちゃんの声は、どこか遠くから聞こえてくるようだった。海斗くんを応援してるのか、自分自身を励ましてるのか……。その背中を、あたしは黙って見つめていた」



「さあ、喜多見海斗の2回目。トップは依然として138メートルのジョンソン。逆転のチャンスはあるのか!? 会場の空気も張り詰めています!」



「喜多見選手の強みは安定感です。どんな風でも、フォームを崩さない。その芯の強さが、今日も出せるかどうかですね」



「ブザーが鳴った! 喜多見、スタートしました!」


海斗の体が空へ舞い上がる。滑らかな飛型を保ったまま、風と拮抗しながら進んでいく。138メートル。ヒルサイズにあと一歩届かず。



「着地ぃっ! 138メートル!! 圧巻のジャンプだー!」


解説

「これは素晴らしい。踏み切りのタイミングも完璧、風に押されながらも空中姿勢を維持しました。今大会屈指の美しいジャンプだったと思います」


最終的に、ジョンソンも同じく138メートル。しかし飛型点で僅かに上回り、金メダル。海斗は堂々の銀メダルに輝いた。


「海斗は……あの悪条件の中で、ようやったべさ……今度はミックス団体が控えとるけど、ちったぁ体、休められるとええんだけどな……」


「うん……残念だったけど……でも、銀メダルだよ……! ほんと、すごい……」


「あぁ……ほんとにな……よう飛んだ」



「銀色のメダルが、金色よりもまぶしく見えることがある――そうちゃんがそう言ってたのを、ふと思い出した。悔しさもある。でも、それ以上に、今日の海斗くんは、美しかった」



インタビューシーン



「喜多見選手、ラージヒルお疲れ様でした。銀メダルという結果でしたが、今のお気持ちはいかがですか?」



「追い風が強くて、なかなか思うように飛べなかったんですが……二冠を目指してたので、悔しい気持ちもあります。でも、銀メダルを取れたのは嬉しいですし、支えてくれたみんなに感謝したいです」



「ヒルサイズまであと少しでした。138メートル、見事でした」



「はい、次につながるジャンプができたと思います」



「次はいよいよミックス団体です。意気込みをどうぞ」



「はい。今日も、テレビで層一と雪さんが見てくれていると思います。2人に恥じないような、いいジャンプを飛びたいです。日本チームとしても、しっかりと結果を残せるよう頑張ります」



「ありがとうございました!」



「ありがとうございました」



「テレビの中の海斗くんが、まっすぐこっちを見てるような気がした。『ちゃんと見ててくれた?』って言ってるようで――あたしも、そうちゃんも、同時にうなずいた」


層一は、画面越しに映る海斗の姿をじっと見つめていた。

その瞳に宿るのは、仲間としての誇りと、未来への希望。

彼の中に、病に負けたくないという思いが、またひとつ、静かに燃え上がっていた。



ミックス団体戦 ― 空の向こうに届けたかったもの


本番の日、朝の光は冷たく澄んでいて、空には一筋の飛行機雲が伸びていた。



「あたしは、ふと思ってた。

みんな、あの空に向かって、何を届けようとしてるんだろう。

金メダル? 名誉? 夢?

でもきっと、それだけじゃない。

今日、4人は……層一さんとあたしに、笑顔を届けたくて、飛ぶんだと思った」


ノーマルヒル、ラージヒルと戦い抜いた海斗。

静かな炎を胸に秘める仁木恵一。

誰よりも努力を重ねてきた白石瑞穂。

まっすぐに夢を信じてきた朝日愛子。


日本代表ミックスチームは、いつもより少しだけ、空を見上げる目が柔らかかった。

一回目を終えて、日本は2位。2回目のジャンプがスタートした。


第一飛者:白石瑞穂



「女子一人目、日本は白石瑞穂! 力強さと安定感を兼ね備えた、団体戦では欠かせない選手です」



「白石選手、今日は表情が柔らかいですね。リラックスしているようにも見えます」



「瑞穂ちゃんは、言ってた。

『このジャンプで、病院で戦ってる人たちを元気づけたい』って……

それが、あたしとそうちゃんのことだって、すぐにわかったよ」


滑走。飛んだ。

空を切って、見事に舞った――106メートル。



「ナイスジャンプ! 落ち着いた滑り出し、日本チームにとって大きな一本です!」



第二飛者:朝日愛子



「女子二人目、朝日愛子! 若きエースがどこまで飛距離を伸ばせるか!」



「愛子ちゃんはね、手紙を書いてくれたんだ。

『層一さんが教えてくれた“楽しむ勇気”、ちゃんと持って飛びます』って。

あの子、泣きながら、笑ってたよ」


踏み切りの瞬間、全身が弾けた。

――108メートル。



「いやぁ、素晴らしい! 若さだけじゃなく、経験も感じさせる飛び方です」



第三飛者:仁木恵一


「……次、恵一くんだ……そうちゃん……きっと、あの子……」


層一はテレビの前で、小さく頷いた。


「……あいつは、黙ってるけどな……ぜってぇ、届けようとしてんだ……おらど、雪に……その笑顔、な……」



「男子一人目、仁木恵一! 精密機械のような安定感を誇る、若き静かなるジャンパー」


飛んだ――

空気の音すら、跳ね返すように。

滞空時間が美しく伸びて――112メートル!



「出ました、112メートル! 日本、メダル争いに堂々と残っています!」



「恵一くん、きっと言葉じゃなくて、背中で言ってた。

『元気になってください』って。

『もう一回、一緒に飛んでください』って」



最終飛者:喜多見海斗


層一が、息を飲む。


「……海斗……頼む、無茶だけはすんな……けど、思いっきり……思いっきり、飛べや……!」


雪は、その横顔を見て、小さく微笑んだ。


「きっと、届くよ。……あの子の笑顔も、一緒に」


実況

「さあ、日本チーム4番手、喜多見海斗! ノーマルヒル金、ラージヒル銀――この団体戦で、仲間と共に何を見せるのか!」



「海斗くんが飛ぶとき、空が少し広く見える。

それはきっと、あたしとそうちゃんが、一緒に見てるからなんだと思う」


飛んだ――

風と共に、笑顔を乗せて。

空の向こうまで、一直線に。


着地――115メートル。



「きたっ! 喜多見、115メートル! これは大きいぞ! 日本チーム、銀メダル圏内に浮上です!」



結果発表――日本、銀メダル


会場に、日本チーム4人が肩を並べて立った。

悔しさも、喜びも、その瞳に宿して。

でも、みんな笑っていた。


インタビューでマイクを向けられた海斗が、静かに語った。



「このメダルは、自分たちだけのものじゃないです。

層一と、雪さん……見ててくれてるって思って、飛びました。

僕たち4人の笑顔が、ふたりに届いてくれたら、それがいちばんの金メダルです」



「あたしたちは、たしかに受け取った。

空の向こうから届いた、みんなの笑顔。

どんな薬より、どんな励ましよりも、胸にしみた――

……ありがとね、海斗くん。みんな」


層一は、ゆっくりと画面に手を伸ばし、小さくつぶやいた。


「……みんな、あったけぇな……おら、もう少し……もう少し、頑張ってみっか……」


雪がそっとその手に自分の手を重ねた。


「うん。……笑顔で、迎えようね。また、あの子たちが帰ってきたら」


男子団体決勝 〜絆が繋いだ、奇跡の金メダル〜



「団体戦ってね、一人の力じゃ勝てないんだって……わかってたけど、

あの日の日本チームを見て、はじめて“信じる力”ってこういうことかもって、思ったの」


最終種目、男子団体戦――

日本は決して有利な状況ではなかった。

1回目の2人が飛んだ時点で5位。トップとの差は12ポイント以上。

「銅メダルも厳しい」と解説者が呟いたその時、

チームの空気が、ふっと変わった。

覚悟を決めて2回目のジャンプがスタート。


2回目第一ジャンパー白石浩(2回目のオリンピック)



「白石浩、女子代表の白石瑞穂選手のお兄さんでもあります。2回目の五輪、最後まで諦めないジャンプが見られるか!」



「浩さんは、妹の瑞穂ちゃんが頑張ってるのを、ずっと見守ってたんだよね。

自分のジャンプで“背中を見せたい”って……そうちゃんに、そう言ってたの、あたし覚えてるよ」


スタートの構え――

静かに目を閉じ、何かをかみしめるように滑り出す。

強い踏切。空中でブレないフォーム。

――飛距離、129メートル!


解説

「これは大きい! チームに勇気を与える一本です!」



第二ジャンパー 大沼圭佑(3回目の五輪)



「続いてはベテラン・大沼圭佑! 3回目のオリンピック、彼の存在がチームに安定をもたらしています」



「圭佑さんは、前回のオリンピックで転倒して、誰よりも悔しい思いをしてた。

でも……あの時の自分に、誇れるジャンプをしたいって、そうちゃんに話してくれたこと……忘れないよ」


風を読み切った完璧なジャンプ。

――131メートル!



「出ました、チーム最長不倒! 一気に2位浮上、日本、メダル圏内です!」



第三ジャンパー仁木恵一



「日本、ここで仁木恵一。若き静かなる職人。無言のエースが、どこまでこの流れを繋げるか!」



「恵一くん、何も言わないけど……あたし、わかるんだ。

“そうちゃんに、もう一度飛んでほしい”って、きっと、心の奥で思ってるんだって」


滑らかな飛び出し、美しい滞空。

――132メートル!



「日本、トップに0.4ポイント差まで迫りました! 金メダルの可能性が見えてきました!」



最終飛者:喜多見海斗



「そして、日本の最後の一本。喜多見海斗! ノーマルヒル金、ラージヒル銀、団体戦の集大成、すべてをこの一跳びに!」



「そうちゃん……海斗くんはね、きっとずっと思ってたよ。

“あのとき一緒に飛んだ空を、もう一度、今度は一人で越える”って。

そうちゃんの笑顔が見たくて、ここまで来たんだよ」


静寂のスタート。

強く、優しく、空へ。

――踏み切り、完璧。空中姿勢、安定。着地、美しいテレマーク。

飛距離133メートル!


会場がどよめいた。

得点が表示された瞬間、場内が総立ちになった。


実況

「決まったーッ!! 喜多見の大ジャンプ! 日本、奇跡の大逆転金メダルです!!」



インタビューシーン


4人が並ぶ表彰台。

金メダルの重みを感じながら、それぞれの言葉が心にしみた。



白石浩

「妹に……“お兄ちゃんも頑張ったよ”って言えるメダルになりました。

このチームで、みんなと一緒に飛べて、本当に良かったです。……ありがとう、瑞穂」



大沼圭佑

「3回目のオリンピックで、ようやく自分自身に勝てた気がします。

このメダルは、過去の自分への答えであり、後輩たちへのエールです」



仁木恵一(少し照れながら)

「……言葉は苦手なんですけど……そうちゃん、見ててくれたなら……

“おれ、やっと届けられたよ”って、言いたいです」



喜多見海斗

「金メダルが取れたことより、こうして仲間と心をひとつにして戦えたことが、一番の誇りです。

層一、雪さん……もう一度、4人で空を飛べた気がしました。

見ててくれて、ありがとうございました」




「あたしたちは、泣いてた。

嬉しくて、誇らしくて、胸がいっぱいで……

そうちゃんは、黙ってテレビを見つめたまま、小さく笑った。

そして、ぽつりとつぶやいたの――」


「おら、こんな最高の仲間持って、ほんとに幸せもんだな……」



帰国 〜笑顔の空へ〜



「空港で待ってる間、心臓の音がずっと速かった。

“おかえり”って、たったひと言なのに、あたし、何度も口の中で練習してたんだ」


札幌の空港には、まだ雪が舞っていた。

国際線ゲートの前に、車椅子の層一と雪が並ぶ。

層一は、いつもの毛糸の帽子をかぶり、少し緊張した顔で空を見上げていた。


「まだかの……」


「うん、もうすぐ……もうすぐだよ」


テレビの向こうで見ていた選手たちが、今、ほんとうに帰ってくる。

金メダルを胸に。みんなの笑顔を引き連れて――


「来た! そうちゃん、あれ……!」


ゲートから姿を現したのは、金メダルを胸に提げた4人の選手たちだった。


海斗、恵一、圭佑、浩。

その顔に疲れはあったけれど、笑顔の輝きは金色に勝っていた。


「層一!!」


海斗が駆け出す。

人ごみの中をすり抜けて、真っ直ぐに――


「……層一。ただいま!」


「海斗……」


層一は何も言えなかった。

ただ、口をへの字にして、目を細めて、海斗の肩を抱いた。


「おめでとう……海斗……おら、本当に、嬉しいわ……」


雪もその輪に駆け寄った。

恵一と目が合い、恵一は照れたように目を伏せながら小さく頭を下げた。


「おかえり、恵一くん。……ありがとう」


「……見ててくれて、ありがとう、雪さん」


圭佑は層一に、まるで弟のように頭を下げ、

「やっと……恩返しできました」と、一言だけつぶやいた。


浩は、妹の瑞穂と再会し、静かに抱き合った後、そうちゃんの前に立つ。


「僕がこの舞台に立てたのは、層一と瑞穂のおかげです。……ありがとうございました」


空港の出迎え客が自然に拍手を送っていた。

そして、金メダルの4人が、そうちゃんの車椅子の前に並ぶ。


「――層一、

このメダル、俺たちだけのもんじゃない。

層一と、雪さんと、みんなで飛んだメダルです」


海斗がそう言って、層一の手を、そっと握った。

層一は、雪の方を見て、涙をこらえながら小さく笑った。


「おら、ほんとに幸せもんだ……こんな素敵な仲間に、また会えて……」



「あの日、空港の雪は、やわらかくて、あったかかった。

そうちゃんが見上げた空に、あたしも、海斗くんたちも、きっと……飛んでた」





――夢って、不思議だよね。

あたしはスポーツとは縁のない人生を歩んできたけど、そうちゃんと出会ってからは、まるで自分のことみたいに、その夢を応援してた。

いや、違うな。

「応援」って言葉じゃ足りない。

そうちゃんの夢は、あたしの夢でもあったんだと思う。

一緒に泣いて、一緒に笑って、一緒に戦ってきた。

オリンピックに出場することが、あたしたちふたりの未来そのものだった。


病院のベッドで、テレビを見つめるそうちゃんの横顔を見てたら、胸が痛くて、苦しくて、涙が出そうになった。

それでも、あたしは泣かないって決めてた。

だって、今一番泣きたいのは、あたしじゃない。

夢を手放さざるを得なかった、そうちゃんなんだから。


……でも、正直に言うと、あたしも怖かった。

夢を失った人が、その先で何を支えにして生きていくのか、分からなくて。

そうちゃんが笑えなくなったら、もし希望を持てなくなったら――

そのとき、あたしはどうしたらいいんだろうって。


だから、あの時の「ごめんな」って言葉は、あたしの心にも深く刺さった。

「何もできなかった自分を許してくれ」って、そう言われた気がして、何も返せなかった。


だけどね、そうちゃん。

あたし、ずっと思ってたの。

人の夢って、叶うことだけがすべてじゃない。

叶わなかった夢にも、ちゃんと意味がある。

だって、その夢のために必死で生きた日々は、消えないから。

無駄じゃないよ。

むしろ、叶わなかった夢こそ、人を強くするのかもしれないって――最近、ようやく思えるようになったんだ。


お腹の中で動くこの命が、それを教えてくれた。

この子はまだ何も知らないけど、きっと分かってる。

父親が、どれだけまっすぐに生きてきたかってことを。

苦しくても、悔しくても、最後まで逃げなかった姿を。


そうちゃん。

あなたが飛ぼうとしてた空は、きっと今、海斗くんが飛んでる。

そしていつか、この子も、自分だけの空を見つけて、飛び立っていくんだと思う。

あたしたちがつないできた想いを、未来へ渡すために。


夢が終わったように見えても、それは、新しい始まりだったんだね。

オリンピックの舞台じゃなくても、あたしはあなたと一緒に、生きていきたい。

3人で、一歩ずつでいいから、前に進んでいきたい。


この子が産まれたら、いつか言ってあげたい。

「あなたのお父さんはね、夢を諦めたんじゃないの。

 その夢を、誰かに託して、新しい未来を選んだんだよ」って。


だからね、そうちゃん。

ありがとう。

夢を見せてくれて、ありがとう。

そして、あたしのそばにいてくれて、ありがとう。


あなたが今も、あたしの誇りであるように――

あたしも、あなたの希望でいられるように、強くなるね。

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