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異世界から召喚され能力なしのまま門番になった

作者: 七竈

毎日が虚しかった。


異世界作品を見て気を紛らした。


チート、ハーレム。憧れるとまでは言わないけど今の生活よりは楽しそうだ。


将来が心配だと言っていたお母さん、お父さん。


今、僕は急に召喚されて補正なしで異世界にいるよ。


なんか帰れないんだって。だから過ごしやすいように今までいた世界の記憶、全部ここの言語になっちゃった。


つけてもらった名前すら元の言語じゃ読めなくなっちゃったよ。


もう会えないのに、それでもお母さんとお父さんのこと全部好きになれそうにないや。


こんなのでごめんね。



「はぁ……」

ため息をしてしまった。

「大丈夫か」

隣にいるケイジュが話しかけてきた。

「……ロングスリーパーなんだ」

「そうなのか、寝てしまっても私がなんとかしよう」

そう言うとまた正面を向いた。

(真面目だよな、この人)

僕も同じくまた正面を向く。正面には見慣れてきた街並みと広がる夜空がある。


僕たちは兵士であり門番だ。不本意に召喚されたとはいえ、補償金だけでは生活できない。しかし、よそ者なため仕事は選べない。よって城の下っ端で働くしかないわけである。

「……」

「……」

僕らは色んな時間で色んなところの門番をしている。今日は街中にある門の夜番だ。

「……」

「……」

会話はない。最初は結構気まずかったが慣れた。

(これからどうなるんだろ)

ひたすら街並みを眺める。最初こそ外国ぽっい(西洋とか)街並みに感心していたがこれも慣れた。

(あと何時間だろ)

左腕につけた腕時計を見る。

「あと3時間…」

つい声に出てしまった。

(暇だ…)

補償金と共に渡された支給品でもあるこの時計。高級ではないらしいが分かれば何でもよい。

「……」

時計をガン見する。

「…大丈夫か」

またケイジュがこちらを向いて話しかけてきた。

「……」

「無理してるのか?」

「うん」

「そうか」

また沈黙が始まりそうになる。

「君、元の世界はどのくらい戦があったんだ」

……と思ったら会話はまだ続いていたようだ。

「国による。僕のところはなかった」

「そうか、羨ましい」

ケイジュが笑む。

「私の方ではどの国も内外どちらでも戦をしてた」

「……」

自分のいたところと状況が違いする。なんと返事をすればよいのだろう。

「だから召喚には感謝している面は多い」

「……」

やっと初対面から話し始める内容がこれとは。自分には荷が重い。

「…ケイジュさんって僕と歳同じだよね」

「そうだとも」

「その歳で前線にいたの?」

「そうだ、10歳くらいから戦闘に参加するのが基本だからな」

「……」

恐ろしい。

「君は何してた?」

「……学生」

「良い響きだな」

気まずい。

「私の方では学生はほんの一部の上級国民しかなれなかった」

「……」

「すまない、暗い話をしたな」

「あのさ」

「どうした?」

僕は息を飲む。ケイジュと組んで門番をしてから数週間経つが慣れはしても話しづらかった点がある。このままでは良くないだろう。だから聞きたかったことを今聞く。

「……イラつかないの?僕の存在」

やっと聞けた。

「どうしてだ?」

ケイジュがキョトンとしている。

「僕は……君が羨ましいって思う環境にいたのに、その環境を当たり前にして生きてた」

「君の世界の当たり前と私の世界の当たり前は違うのだから苛つきはしないよ」

「……それならもっとあるよ」

「もっと?」

「努力すれば好きなことができるのに僕は今まで惰性で生きてきた。両親も元気なのに僕は完全に感謝できそうにない」

「そうなのか……」

「それに僕は勉学をだるいと思ってたし、家に帰ったらダラダラしてた」

「ハルタ……」

「……これ聞いてもイラつかない?」

僕はケイジュをじっと見る。

「イラつかないよ」

ケイジュはまた笑む。

「なんで」

「君はずっと辛そうだ」

「……」

バレていたのか。ここに来てから気持ちは沈んでばかりだから顔に出ていても仕方ないか。

「戦とはだいぶ縁のない君がいきなり門番か。戦闘はないが酷だな」

ケイジュがため息をつく。

「……なんで僕と組んでくれたの。戦闘経験ないのは知ってたよね」

ふと思ったことを聞く。あの時は色々と絶望していてよく考えていなかった。

「同じ歳の友が欲しかった、それだけだ」

「……」

「すまない、友がいなかったわけではない。ただ私は戦闘参加が早くてな。同期は歳上なんだ」

「……そっか」

安心した。元々いないとか、もう既に……とかだったら物凄く気まずいしこっちまで苦しくなりそうだった。

(あ、でも。もう既に……の可能性はあるのか……)

考え込んでいると、

「友が欲しいからという理由は安直すぎたな」

と、ケイジュが少し口を開いて笑った。

「……いいよ、そのくらいの方が僕も緊張しないし」

「そうか、ありがとう」

二人で笑った。

「あれは…」

ケイジュが小さめの銃を腰から取り出して構える。

(?)

ドン。

「成功だ」

数メートル離れた先で魔物がボトッと落ちた。

「え、魔物??」

「そうだ。すまないな、仕留めるのが遅くなった」

「いや、大丈夫……倒せたし」

「そうか……話に夢中になるなんて初めてだ」

ケイジュがニヤッとする。

「……ここ魔術とかいうよく分からない力が基盤なんだから油断しちゃだめだよ」

「すまない、すまない」

「僕も気をつけるよ」

「それは助かる」

僕もニヤッとする。

「ならば、勤務後に私の行きつけの場所に行かないか。ここでは集中せねば」

「行ってみたいけど、僕お金ないよ」

「私が支払おう」

「それは申し訳ないよ」

「それなら問題ない。爆発等で散らばってた部品も私と一緒に召喚された。異世界の物というだけで高値で売り捌けたのさ」

そうだったのか。僕は雑草しか一緒に召喚されなかった。確かに異世界の物ということで通常より高値だが、バイキング2回分くらいの値段だった。ふわふわベットに使ってしまった。

「……よろしくお願いします」

「任せてくれ」

「ありがとう、ケイジュさん」

「いいさ。あと私のことはケイでいい」

「ありがとう、ケイ」

ケイがニコニコする。僕も笑む。

「……集中しないとだな」

ケイがまた正面を向く。

「だね」

僕も正面を向いた。見慣れてきた街並みが最初見た時みたいに、また綺麗に見えた。



「着いたぞ、ここは私の行きつけの店だ」

「居酒屋なの?」

「カフェだ」

夜中にカフェが空いてるとは。

「入るぞ」

「うん」

少し僕より高めでたくましい背に続く。

「いらっしゃい、おっケイか!夜番お疲れさん」

「ありがとうマスター」

店内はおしゃれだ。そして落ち着きもある。

(夜中まで空いてるお店に見えないな)

僕は店内を見渡す。他に誰もいないみたいだ。

「あぁ、すまない。紹介する。この方はこの店のマスターだ」

「やぁ、君がケイと門番担当を組んでいるハルタかな?」

「はい」

とりあえず返事をする。

「ハルタ、こっち来てくれ」

「分かった」

(真夜中なのに外で食べるんだ)

暗くて食べづらくないかなと、考えながら先に扉にいるケイのところに歩く。

「前を見てくれ」

ケイが木造の扉を開ける。

「……わあ」

一面の海にちょうど太陽が顔を出していた。

「日の出だ。ちょうど夜番後にこのテラスから見れる」

「…綺麗」

「だろう」

ケイが満足そうにする。


「うまい」

「だろう」

ほんのりとした明かりに照らされる海を見ながらパンケーを食べる。ケイはグラタンセットを食べている。

「もっと頼んでくれ」

「いいの?」

「もちろん」

「……プリンも食べたい」

「了解した。マスター、プリンとカレーを頼む」

ケイが大きめな声でカウンターに話す。

「分かったよ〜」

マスターも大きめな声で返事をする。

「呼び出しボタンとかタッチパネル欲しいね」

「懐かしいな」

「ケイの方にもあったんだね」

「あるとも、私の世界は科学が第一。社会の基盤も戦の道具も科学が使われている」

「機械だらけなの?」

「そうだ」

SF映画みたいな世界観なんだ、と僕は内心わくわくする。

「ハルタの方はどうだ」

「僕の方は色んな要素があったよ、魔術は無いけど」

「それは興味深いな」

「うん」

久しぶりにこうやって誰かと食事をする。あっちでも両親は忙しくてそんな時間はほとんどなかった。

「あのさ」

「なんだ」

「ケイって話し方がだいぶしっかりしてるよね」

「そうか?」

「もしかしてよくリーダーとかしてた?」

ケイが頷く。

「鋭いな」

「なんとなくだよ」

それに早めに戦闘に参加したと言ってたし。

「私は未熟なのに上の者が『戦闘センスが良いから』とな。判断が甘いと思わないか?」

不満そうなケイは珍しい。

「そうかな、門番で初めて魔物が来たのに1発で倒してたからリーダー向いてると思う」

「そうか?」

「だってあの魔物、結界抜け出せるくらいには強いんでしょ」

食べ終わった皿を取りやすいよに整えながら言う。

「……そうか。少しは自分を褒めてもいいのかもな」

ケイが横目で海を見る。

「うん。褒めなよもっと」

僕はそんなケイの横顔を見る。

「ハルタ、私と店を出さないか」

「店?」

「そうだ。資格を取得すれば門番以外の仕事ができるようになるんだろう?」

ケイがこちらを見る。

「資格……」

一応知ってはいた。ただ取るつもりはなかった。将来特にやりたいことがなく仕事に就くために生きていた僕にとって、決められた仕事があるのは楽だ。それに資格の勉強は苦手だ。受験に必須だと言われた検定も良くて三級しかとれていない。高校二年生の春休み間近で。

「僕は勉強苦手なんだ。それにそのお店だってちゃんとできるか分からない」

こういうのは早めに言っておいた方がよい。

「そうか。安心したまえ。私もだ」

「……え」

「私は感覚派でな。戦闘もあまり頭を使っていない。そしてたまにある空き時間で1人で勉強をしてみたがよく分からなかった」

「……」

機械だらけの世界観でそれは意外だ。

「だから一緒に勉強しないか」

ケイが手を差し出す。

「分かった。友達だし」

その手を握る。

「とも……」

「うん」

「ありがとう」

「うん」

握手なんて中学生の時の英語の面倒なペアワーク以来だ。

「持って来たよ〜」

少し空いている扉からひょこっとマスターが顔を出した。

「ありがとうマスター」

「はいよ〜」

目の前にプリンが置かれる。

(硬めプリンだ……)

ニコニコしてしまう。

「お、ハルタ。プリンがお気に召したようだね」

「は、はい」

「うちは硬めプリン過激派だからね。同士がいて嬉しいよ。また来てね〜」

マスターはニコッとして室内に戻って行った。

「……ケイはどっち派なの」

「私はどちらも好きだ。だからマスターには秘密にしてくれ。ここ通いたいんだ」

「分かった」

ケイは気まずそうにグラタンを頬張る。また珍しい様子に僕は笑む。


テラス席に座る背の高い細マッチョと元高校生はほんのりとした明かりの下で、のんびりと食事をした。

読んでいただきありがとうございます。

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