とりあえず唐揚げを・・Ⅰ
創造神アカネ。
世界の再構築を行い、滅びるはずだった人間10000人をこの地に迎えた神。10年前に起きた邪悪な調理以来、人の前に現れることはなく、忌むべき悪魔の力を撒き散らした張本人。
「今からする話は、川﨑には言ってはダメ。主人との約束だから。私が主人に嫌われたら困る」
アカネは神になる前は平凡な1人の女の子だった。しかし、あるとき不幸にも事故に巻き込まれ彼女は弟を庇って死んでしまった。そこで彼女の人生は終わるはずだった。けれど、彼女はアカネとして転生し、滅びるはずだった世界の神になることで二度目の生を手に入れた。
「アカネは転生した時、本来あったはずの感情を全て失った。それが神になる条件だったらしいけど、アカネはある一つの記憶だけは保持することを許された。それは、彼女が命懸けで守った弟の記憶」
「それが、川﨑ってこと?」
「そう。ようは、ブラコンを拗らせた、もはや周年とも呼べる感情がアカネを神たらしめる原動力と言っても過言ではないわ」
「でも、そんな創造神の姿なんてどこにも」
「神がそう簡単に人間の前に現れるわけにはいかないわ。その代わり、アカネは私にあるものを託した。あなた、川﨑の心臓の鼓動を聞いておかしいと思わなかった?」
「・・たしかに、異常に速かったけど」
アイの脳内にある記憶が浮上する。カエデが現れた時、アイを湖に落とした直後、川崎の胸に穴をあけ、わざわざ治すという意味のわからない行動をとった。今考えてみると、カエデが敵対したのはあの一度だけで、今に至るまでむしろ蒼を庇うような行動をとっていた。
「私は、川﨑の体の中にアカネの心臓の一部を埋め込んだ。条件はあるけれど、今の川崎はアカネの能力の一部を使用することができる」
「神如きその力・・正直、能力を使った正面からの戦いでは君を倒せる気がしない」
「諦めてくれて助かるよ。痩せ我慢なんでな」
「本当に腹がたつよ。能力の全貌すら明らかにしていないくせにその強さ。そして、何より腹がたつのは、それだけの力の代償になる絶望を味わっておきながら、しょうもないことのために命を浪費していることだ」
話し合いに応じると言った千馬だったが、瞬きする隙さえ伺うように攻撃を挟んでくる。頬を打つ千馬の蹴りはハンマーで殴られたような凄まじい衝撃を生んでいる。それでも、今の蒼の体は子供に叩かれた程度の痛みしか感知していない。
「しょうもなくない。うちの人気商品だ。これができれば、またたくさんの人がうちの店に食べにきてくれるだろう」
「ふざけるな」
「ふざけているように見えるか?」
会話している間に繰り出された千馬の足刀。速度で圧倒すれば削り倒せると予想していた千馬の考えは甘かった。蒼は千馬の足首をがっちりと捕らえ、ようやく千馬もおとなしくなる。
「お前たちの戦いに口を挟めるほど、俺は詳しくない。でもな、命を粗末にするやつだけは、絶対に許さない」
一発だけ。蒼は暴力を好まない。殴る方も殴られる方もいい気はしないし、殴った拳の痛みはなによりも不快だ。それでも、バカの暴走を止めるのに必要なら、俺はそれを迷わない。
足を取られガラ空きになった脇腹に、蒼の拳がゆっくりとめり込んでいく。手に伝わってくる感覚は目に映っているよりも鮮明で、鮮烈な痛みを伝えてくる。
数メートル吹き飛ばされた千馬は大木に叩きつけられ、とてつもない衝撃に脳にまで震え、そのまま肩から崩れ落ちた。
「俺の前で命を投げ出すなんてふざけたこと言ってみろ。悪魔だろうが神だろうが、俺が行儀ってものを教えてやる」