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君は何を求めてに生きるⅣ

「あの日、僕は街から追放された。当然だ。僕は街どころかせっかく助かった人類をこの手で滅ぼしてしまうところだった」

「確か、千馬さんたちの目的は、旧世界の復活」

「そう。寝て起きたら今まで暮らしていた世界はもうどこにも存在しないと、胡散臭い自称神に言われただけで納得できない。そんなわからず屋たちが俺たち地上の人間だ」

 10年という時間は記憶を曖昧にするには十分すぎる長い時間だが、事件の爪痕を消し去るには足りない。当時幼かったアイにとって、もはや夢の中であったような感覚すらある。何もできず、ただ見ていることしかできなかったアイにはあの戦いがどんなものだったのか詳細はまったくわからない。

 一つ覚えていることは、最後になると思わなかった母とのほんの少しの会話だけ。

 そして、その仇とも言える存在が目の前にいる男。

「誰のせいでお母さんは・・」

「そう。僕のせいで、団長は死んだ」

 怒りに震えるアイを遮り、淡々と話す千馬。吐き出しそうになる感情をお茶で無理やり流し込む。

 現状では千馬に戦いを挑んだところで何もなし得ることはできない。なにより、千馬の言った目的がアイにとって聞き流すことのできない内容だった。

「あの人は死ぬべきじゃなかった。たとえ、彼女以外すべての人類が灰燼と化したとしても、彼女だけは守らなきゃいけなかったんだ」

「・・身勝手さは今もかわらないんですね」

 立場すら忘れ怒りが漏れ出している。しかし、それを気に止めることもなく千馬は言葉を続ける。

「君は、ベレスの力の根源が何にあるのか、知ってるかい?」

邪悪の調理(マッド・クック)で散った魔力が因子でしょ」

 兵団におけるファーストからエンドまでの階級はその因子の内包量によって発現する能力と容姿の変化によって判断される。個人差が大きいものの、セカンド以降は一目でわかってしまうほど、通常の人とは逸した姿をしている。

「・・やっぱり隠してたか」

「なにが」

「そんなファンタジーみたいなかっこいいもんじゃないよ。たしかに、邪悪の調理以降発現するようになった力ではあるけれど、あの不遜な神たちが俺たちにわざわざ生き残る手段を与えるなんておかしいだろう?」

 考えたこともなかったことだが、確かに旧世界を滅ぼし人間の世を終わらせた神たちが巨大化した動物たちに対抗する手段を多くの人間に与えた意味はわからない。邪悪な調理依然は前団長であるカナエのみが創成の能力を保持していた。

「まあ、もしかしたら兵司くんしか知らないのかもしれないけれど、アイくんには教えておこう。ベレスの力は、絶望を具現化した生きる屍人の力だ」


「誰が名前をつけたのか知らないけど、悪魔の力であることは間違いない」

「絶望・・」

「その髪の色。君はすでにエンドまで進行してしまっているね。つまりはそういうことだろう」

 信じるしかなかった。エンドに落ちたタイミングと、一瞬掴みかけた希望による浄化は明らかにアイの心情とリンクしていたようにおもう。

 森に入る前は鮮やかで光沢のあった髪もいつの間にか影との境すらわからない漆黒に染まっている。

「僕と一緒にいこう。僕なら、君に今、生きる理由を与えられる」

 再びアイの前に差し出される手。

 生きる意味を問われた瞬間、なにがあるかと考える前に無が頭の中を支配していた。代用品にしかなれない自分。諏訪カナエの娘であることを悔いているわけではないが、おそらく母以外のだれもアイを個として認識している人はいない。

 もし、母が生き返るなら。

 到底信じるに値しないような夢物語だが、役目があるのならそれをこなす方がいくらか生産的だろうか。

 何も考えず差し出された手に、手を伸ばす。

 千馬の手とアイの手が重なる、その瞬間、茂みから飛び出した影がアイの手を千馬から奪い取った。

「やっと見つけた」

「川﨑?」

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