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鶏の鳴くまでにⅠ

「カエデ?」

 突然、視界が暗転し、俺は冷たい石畳の床にバランスを崩しコケた。

「あぁ、疲れた。やっぱり弱ってるな」

 いつのまにかそこは茜屋の玄関前。街の中心部には、数秒前までいたはずの兵団本部からはうっすらと灯りが漏れている。

 どうやら、カエデが瞬間移動の能力で拘束されていた俺を助け出してくれたらしい。

「ありがとう」

「話に聞いていたよりバカで本当に困る」

「でも、どこから侵入できたんだ?あの3人が見張ってるなかでよくバレなかったな」

「お察しのとおり、私の力は瞬間移動。今の出力だと、一回じゃ数メートルが限界だけど、多少負荷はかかるけど連続させればあいつらの射程外からでも人1人拐かすくらい簡単」

「さすが。どうしてそこまでして俺を助けるのか、教えてくれると嬉しいんだけど」

「そんなどうでもいいこと話してると、あの副団長に追いつかれる。さっさと準備して」

 俺の疑問は煙に巻き、カエデは器用にも拾ってきた荷物を差し出した。革製のカバーに収められた包丁と調理中に必須となるサラシ。もう一つ、包丁の収められたカバーと同じく革製のケース。

 アイに作ってもらうと約束した調理用の包丁セットを納めるはずだったケース。子供のようにはしゃいで待ちきれなかった俺を見かねて、これもアイが調達してくれたものだ。

「ちょっと待っててくれ。一つ忘れ物をした」


 茜屋を出た俺とカエデは、彼女の能力であっという間に外壁までたどりついた。

「下には兵団がいるはず。外壁の上に登る」

「了解」

 重力すら無視した移動で兵たちに見つかることなく外壁の上に着地する。瞬間移動に慣れてきたとはいえ、眼下は落下地点すら見えない闇が広がっている。空中に浮いたこの都市は細い橋が大地と繋がっているだけで大地とは隔絶した場所となっている。

「こんな要塞みたいな街をどうやって攻略するつもりなんだ」

「さあ。でも勝算があるからでしょ」

 攻めてくるからには、相手もこの地形を理解しているはず。戦力に関してはまったく情報がないが、天空側はまだ戦力を明らかに温存している。俺が何も知らないだけかもしれないが、攻城戦を仕掛けるにはあまりに無謀に見える。

「なるほどね。なんとなく敵が考えていることはわかったかも」

「なんだそれは」

「上」

 カエデの指差す先に目をやる。しかし、そこはなにもなく、カエデの真っ直ぐに伸びた指を食い入るようにみる。

「どこ見てんの。上だって言ってるでしょ」

「上って・・」

 何度見てもそこには、日が落ちて真っ暗になった空があるだけ。強いていうならば、低い雲が蠢いているくらいだが。

「あれが、カラス」

「カラス!?あれ全部か」

 よく見てみると、月の灯りで羽ばたいている鳥の形にも見える。しかし、それを一匹のカラスだと捉えると、ただの雲海だと思っていた景色が徐々に恐怖を覚える。

「あんな数のカラスいたらカラス避けなんて1ミリも役に立たないだろうな」

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