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嫌な転生

魔王60

作者: 水無月 黒

一分間の物語です。

 突然だが、俺は異世界転生して魔王になった。

 え? 端折り過ぎて何だか分からない?

 実は俺もよく分かっていない。

 だが、詳しい説明はちょっと待って欲しい。

 今取り込み中なんだ。

 後一分で勇者がやって来る。


「魔王様、衣装です。急いで着替えてください!」


 配下の魔族が服を持って来た。

 おお、これが魔王の正装か。黒を基調に金糸銀糸をあしらっていて、そこはかとなく高級感が漂っている。

 これ、どうやって着るんだ?


 配下の魔族に手伝ってもらって、どうにか衣装を着ることができた。

 いや、こんな面倒な服、一人で着れねーよ。

 姿見で、自分の格好を確認してみる。

 馬子にも衣装?

 まずい、服に着られている感満載だ。


――残り45秒


「魔王様、メイクとヘアセットやりますので、こちらにお願いします。」


 え? 魔王ってメイクとかするの?

 言われるままに椅子に座ると、首から下に布が掛けられ、魔族の一人が手慣れた様子で俺の顔に何やら塗りたくったり、筆で描いたりして行く。

 同時に背後に魔族がもう一人立ち、何やら髪を整えていく。見えないから何やってんのか分からないけど。

 よく考えてみたら、メイクが終わった後に着替えた方が良かったんじゃないのか?

 こいつらも結構てんぱっているのかもしれない。


――残り30秒


 随分と厚化粧なメイクが終わると、ちょっぴり貫禄が増した……ような気がする。

 これで衣装に負けていない……といいなぁ。


「魔王様、原稿です!」


 今度は何やら紙束を渡された。

 読んでみると……フムフム、勇者に向けて喋る台詞か。

 だが――

「長い! こんなに憶えきれるか!」

 紙()だぜ。

 こら! そこで「魔王様なのにできないんですか?」みたいな顔をした奴!

 文句があるなら、今すぐ魔王を代わってやる! おい、目を逸らすんじゃない!

 はあ、仕方がない。

「カンペを用意しろ! 入口の上のキャットウォークなら勇者に気付かれないだろう。」

 魔族が二名ほどスケッチブックと原稿を持ってキャットウォークに登っていく。

 大急ぎでスケッチブックに台詞を書き写して行くが、間に合うか?

 まあ、いざとなったらゆっくり喋ればいいか。


――残り20秒


「魔王様、照明が一基故障しました!」


 うお! この土壇場に来てトラブルか!?


「今から直せるか? 難しそうなら他の照明でどうにかカバーしろ!」


 もう時間がない。ここまで来たらベストよりもベターだ。できる範囲でなんとか誤魔化せ!


――残り10秒


「魔王様、玉座に座ってください!」

「うむ、分かった。」


 ここまで来たらじたばたしても始まらない。

 俺は玉座にどっしりと座った。

 魔王たるもの、堂々と待ち構えていなければならない。

 深呼吸して息を整えておこう。

 スーハー、スーハー、スーハー。


――残り5秒


 作業をしていた魔族達が、不要な荷物を持って奥へと引っ込んで行く。

 謁見の間のセッティングは終了したようだ。

 皆、よく頑張った。お疲れ様~。


――残り4秒


 上の方で照明の調整をしていた魔族が動きを止め、OKサインを出した。

 使える照明の位置を少しずつずらして調整したらしい。

 間に合ってよかった。


――残り3秒


「あ~、あ~」

 小さな声で軽く発声練習をしておく。

 本番で声が裏返ったりしませんように。


――残り2秒


 足音が聞こえてきた。勇者はもう目の前だ。

 軽く周囲を見渡す。不備は……なさそうだな。


――残り1秒


 重々しい音を立てて扉が開く。

 スケッチブックが掲げられた。


『勇者入場』


 お前ら意外と余裕あるな。早口で喋ってもいいか?


――残り0秒


 開いた扉をくぐって、ついに勇者が入ってきた。

 俺はおもむろに口を開く。


「フハハハハハ! よく来たな、勇者よ!」


勇者と対峙する一分前の魔王に転生した話です。

勇者の来訪に合わせて余裕を持って魔王を復活させる予定が、勇者の到着が早まってギリギリになってしまい、大慌てで復活させた魔王の肉体に異世界からやって来た魂が入ってしまった、みたいな設定です。、

この後勇者との間で何が起こるのかは設定していません。ご想像にお任せします。


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