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アウター×テラリオン

神学者になったとある異世界転移者の手記

作者: 清水薬子

 先日、同僚が不慮の事故で亡くなり、そのことで思うことがあったので、こうして筆を執っている。

 最近はなにかと物騒なので、いつ私が死んでもいいように引き継ぎ資料の一つとして手記を残しておく。忘備録も兼ねているため、文章がぐちゃぐちゃなのは許してほしい。


 目下、私の研究対象である『創世録』について判明したことを概要を掻い摘んで記述する。

 創世神話とは、読んで字の如くこの世界が誰がどうやって生み出したのか記した伝承を時の権力者が編纂したものである。


 これによると、『創造主は水と土を捏ねて世界を作った』という。始めは海と空と大地があるだけだったが、そこに草が生えたのを見て“喜び”をあらわにした。(創世録p1)

 創造主は自らの肉を割いて天使を生み出し、己によく似た形とさせた。天使は創造主に仕え、彼の者を喜ばせようと様々な『生き物』を毟った羽根や髪から作り出した。


 【この創世録において注目するべきなのは、創造主が水と土を捏ねたという事実と、感情を有していた部分である。

 天使を生み出す際にわざわざ肉を割いている点も忘れてはならない。

 これはあくまで私の推論だが、創造主と語られる存在は世界を作ったのではなくて何かを模倣して土と水を捏ねたのではなかろうか。きっと神ではなく、極めて社会性を有するナニカであったと確信している】[この段落には二重線が引かれている]


 この創世録について研究することの意義について述べる前に、まず私のことについて語る必要があることを今思い出した。

 私の名前は[血の滲みが酷く判別が不可能]

 グレニア独立国────この日記を書いている日から逆算して三年六ヶ月前に行われた勇者召喚に巻き込まれた一人である。

 元の世界に帰るための手段を探すため、安定した生活を手に入れるために神学校の入学試験を受けたら合格したので、今こうして創世録の研究をしている。

 よって、私が創世録に向ける視線は他の学者たちが向ける信仰心による探究とかなり毛色が異なる。


 話を『創世録について研究する意義』に戻そう。

 単刀直入に言うならば、世界について深く知ることにある。

 世界の成り立ち、境界、上位存在について知識がなければ、勇者召喚の対となる帰還の術式を研究することもままならないのだ。


 さて、三年近く研究を進めてきたおかげで『創世録』について知ったことがある。

 それはグレニア独立国、聖セドラニリ帝国、レドル王国、さらにはパドル諸島連合国に至るまで文言が一致することだ。

 言語理解というスキルがあるにしても、種族戦争による国交断絶が長らくあった世界にしてはかなり不自然である。

 しかしながら、世界の成り立ち以降の種族が生まれるに至った経緯は共通せず、必ず他種族を貶める文言が記載されている。ただし、帝国の創世録は除く。

 これは時の権力者が政治的・外交的理由から神官らに圧力をかけて表現の自由を侵害したことによって生まれたことは明らかであり、当時の司祭らが残した手記が現存していることからも疑いようのない事実である。

 これらの食い違いを研究していく中で、私は創世録に隠されていた真実を突き止めた。次のページでそれについて触れる。





 ヤルダバオートとい[四ページほど破られている]





 勇者召喚の術式[複雑な魔法陣の写しが描かれている]

 帰還の術式(星霜の月第一夢の日)[複雑な魔法陣の写しが描かれている]


 大魔術師の意見を仰いで、帰還の術式についてアドバイスを貰った。メモを頼りに分析を重ね、どうにか形になった。

 魔王討伐に出発するまであと三ヶ月、どうにかして彼らを日本に帰さないと。



[十ページほど破られている]



 勇者たちの帰還に成功し、さらには勇者召喚の術式である原本の改竄に成功した。

 ただ一つ、誤算があるとすれば。

 創世録の真実に辿り着いたことで、私の魂は変質してしまったらしい。

 私の分の帰還の術式は不発に終わり、何度試しても成功する兆しすら見えない。


 さらに不幸は続いている。

 勇者の失踪に王家がたいそう腹を立てているらしい。

 まだ私が関わっていると判明したわけではないようだが、近辺を騎士団の面々が嗅ぎ回っているのを見かけた。

 念の為、帰還の術式と勇者召喚にまつわる資料は焼却しておいた。


 ここらで潮時なのかもしれない。


 ニーチェの言葉を思い出[泥の汚損が激しく、判読が困難]


 国境を越えてから一ヶ月。

 魔王がいると噂されていた帝国領を移動しているが、グレニア独立国で聞いたような魔物の姿はない。

 魔王にも出会ったが、噂で聞くよりも気性は穏やかで争いを好まない性格をしていた。


 どうやらグレニア独立国は、人間という種族の地位向上のために勇者召喚を利用するつもりだったらしい。信仰の拠り所にしていた時から不穏なものを感じていたが、他の国に来たことで確信に変わった。

 他種族を滅ぼせば問題が解決すると思っている限り、勇者召喚に頼り続けていたかもしれない。そう思うとゾッとした。


 偽りの神 六大神 神は実在した?[殴り書き]


 神を僭称する存在と出会った。

 六大神の主神を務める【叡智神】と名乗るハイエルフの女性だ。

 創世録では神という言葉は用いられていない。よって、神を名乗ったところですぐさま創造主への不敬あるいは不信心とはならない。

 そうは理解していても、日本で培った固定観念が私を複雑な気持ちにさせた。


 それはひとまず置いておいて、彼女との対談は非常に有意義なものであった。残念ながら齢五千歳を越えるハイエルフであっても創世録を目にした訳ではなかったようだが、『勇者伝説』の始まりについては現存する資料よりも詳細に記憶していた。

 勇者と魔王の対立は創世録まで遡ることが出来るというグレニア独立国の言い分が正しかったことを認めるのは癪であるが、おかげで勇者召喚が何故あのように利用されたのか知ることが出来た。


 創世録に残された二体の天使がその起源であり、白の天使が勇者を作り出し、以降に作り上げたものは『聖族』と区分されている。

 魔王を生み出したのが黒の天使であり、一般的な常識として生存以外の目的で他者を害する存在を『魔族』あるいは『魔物』と区別している。

 これらの天使が争い合った禍根は今もなお、連綿と続いている。


 復讐は悲しみを引き起こす。

 誰かがこの連鎖を断ち切らないと。

 だが、この人間という体では費やせる年月が限られている。



 私も神になれば、あるいは……?

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