表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/64

63


「離してッ…… 離せッ!!」



人気がないところまで行くと渚は俺の手を振り払った。



「渚」

「今まで忘れてたくせに何急に思い出しましたみたいな顔になってるのよ! 私がどれだけあっちゃんに…… あっちゃんを!」

「わかってるよ」



渚に近付こうとすると渚はまだナイフを隠し持っていて俺に向けた。



「それがあるならなんでさっき刺さなかったんだ? まだ持ってるなんて思ってなかったから楽に刺せたのに」

「そ、それは……」




俺は極めて冷静を装って渚と話しているが頭の中は酷く混乱していた。



え? じゃあ元居た場所ってことはここには愛菜は居ないの?? せっかくあんなにお互い仲良くなったのに?



渚とだってそれなりにわかりあえたと思ったらまたこれ? 俺のしてきたことって一体何だったんだ?? いやそんなことより今の渚と2人きりになるより警察行けよ俺、何やってんだよ。



てかこれじゃあ何の意味もないじゃないか……



「渚、愛菜は?」



つい言ってしまった、ここでそんなこと言ったら渚を怒らせるだけなのにさっきまで俺は愛菜と居たから。



「は?? 愛菜? …… 愛菜ってもしかして本庄愛菜?」



やはり今渚と居るのに他の女の名を出したことで渚はまた怒りの表情に変わる。



「あっちゃんまだ本庄さんに未練あるんだ? 知らないんだ、本庄さんが死んだこと」



やっぱり。 もしかしてと思ったが愛菜は死んでる、ここの世界に愛菜は居ない。



「あはははッ、好きだったのにそんなことも知らなかったんだ? ざまぁみろ、罰が当たったんだよあっちゃんには」



そうだ、実際に罰を与えられている。 だけどこんなのありか? せっかくやり直せたと思っていたのにもう戻れないのか?? 



いや、もともとこっちが俺の居場所だ。 戻ってきたという方が正しい。



俺が愛菜の名を出したことで戸惑いからすっかりと俺への怒りを取り戻した渚はナイフを俺に構えた。



ぶっちゃけ相対してしまえばいくらナイフを持っているとはいえ渚をあしらうことなんて容易い、だけど愛菜が居ないという事実が俺を無気力にさせてしまった。



だったら取る行動はひとつ。



「いいよ、刺せよ」



俺は腕を広げて無防備だということを渚に示す。 渚は一瞬呆気に取られたような顔をするが……




「わかった」



両手にナイフを握り締め俺の腹の辺り目掛けて突っ込んできた。



もう死のう、今なら渚が自暴自棄になってた気持ちがよくわかる。 渚の気持ちを少しわかってた気がしたけど勘違いだった、俺と渚ではあの世界でも本当に気持ちというか何かがズレていたんだ。



渚はあっちの世界で俺を振り切ったと思っていたけど多分それは俺に都合のいい解釈であって本人からしてみればそうでなかったのかもしれない。



ああ、また一瞬でいろいろ思考してるや俺。



死ぬんだなと感じているが一向に痛みが襲ってこないのでやるなら早くやってくれと思考を止め我に帰ると渚は寸前のところでナイフを刺さずにいた。



「渚?」

「…… なんで? なんで急に潔くなってんのよ! もっと苦しめ、もっと悔しがれ!! じゃないと私、私は……」

「ごめんな渚」



俺は俯く渚の肩に手を置いてもう片方の手で渚の顔を上げた。



涙で崩れた化粧でボロボロだけど童顔なせいかよっぽど若く見える。



「こんなに好かれてたのに俺って最低だったな」

「ほんとだよ、本当に本当にあっちゃんは最低ッ!! 過去形にしないでよ今も最低ッ!」

「ああ、そうだな」



ナイフを俺の腹に突き付けたまま固まっている渚を抱きしめた。



「だッ!!」

「ダメじゃないさ」



そのまま自分で決着を付けてやろうと強く渚を抱き締めたが渚は俺に刺さる前にナイフを落とした。



「な、なんなの? なんのつもりなのあっちゃん??」

「ああ、お前に殺されるならいいかなって思っちゃったんだ。 俺そう思えるくらいにお前のこと好きみたいだ、今気付いた」



愛菜は居ない、だけどあっちの世界で変われた渚も見た。 渚は俺のタイプじゃないとかそういうのはもう関係なくなっていた。



ごめん愛菜、愛菜と一緒に居れると思ってた。 俺が居てくれれば大丈夫だと思ってくれた愛菜…… 裏切ってしまった。



けどもう戻れないなら、愛菜が居ないなら、渚をこうさせてしまった俺は責任がある。 渚だけじゃないかもしれない、こんな風に自分の都合で捨ててしまった今までの人にも。



「渚、俺は本庄愛菜のことが好きだ。 今でもな、だからそれ以上にお前を好きだなんて言わない」

「は?」

「愛菜への気持ちを隠してお前を好きなんて言ってもどっちに対しての裏切りに思えて」

「ふざけないでよこの浮気男!! 最低!」



脇腹に渚の拳が飛んできた。



「ごめん、こんな奴なんだ俺は。 でも前は言えなかったけど今は言える、お前のことが好きだ渚」

「信用出来るわけないじゃん」



力なくそう言った渚だが俺の服の端をギュッと握ってしばらく俺にくっついていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ