62
「あ、未来人」
「やめろそれ」
「ふふッ、はいはい」
次の日愛菜と学校で会うとすっかり機嫌は元に戻っていた。
「ねえ、そういえばさ、あんたの話的に私ってあんたと付き合ったことある?」
「いいや、即フラれたわ」
「そうでしょうね、それから?」
「それから俺はお前に告ってない」
その当時は今と比べたら豆腐メンタルだったからたかだか告白が玉砕したくらいでトラウマになるくらい凹んでたわ。
「へえ、こんなにしつこい新太がすぐ諦めたんだ」
「まぁその頃は外見もヤバかったしいじめられてたしそんな勇気はなかったろうな」
「ふぅん…… それとさ、私って卒業した後ってどうしてたかわかる?」
げッ、そうきたか。 愛菜は25歳の時自殺したなんて本人には言えないし今の愛菜はその時の愛菜とは違うと思う、だからもしそのことを伝えたとしても……
「新太、言いにくい?」
「あ、いや。 その後どうしていたかってのはよくわかんないんだ」
「嘘つき」
「え?」
「死んでたんでしょ私」
え? なんでそれを?? まさか前に渚と話してた時のことを聞かれたんじゃ……
「あんたが凪野さんと話してるの聞いちゃったのよ」
やっぱり……
「いやでもそれは」
「うんわかってる、それはあんたの居たとこで起こったこと。 私ってメンタル弱いしそうなっても不思議じゃないかもって自分でもわかる。 でもそれはちょっと前の私だったらってこと」
愛菜クスッと笑ったと思ったら急に表情が険しくなる。
「ただあんたって女侍らせて遊んでたらしいわね?」
「待てって、愛菜風に言うならそれはちょっと前の俺だ。 今は違うよ」
「うん。 あんたが居てくれたら私は大丈夫」
そうだ、渚はよくわかんないが狂気じみた感がなくなったし愛菜とも順調、俺の人生は多分良い方向に向かってる。 そう思った時だった。
突然目の前が真っ暗になった、どこか知らない虚空を俺の身体は落ちてゆく。
そして声が聴こえた。
お前はまだ罰を受けてないと……
それは渚の声だった、渚の声なのだが渚の声を借りてと言った方が正しいのか声は渚なのに渚じゃない気がした。
俺が罰を受けてないだと? 一回殺されてまた死に掛けて渚とも愛菜とも良い方向に向かってると思ったのに。
『思い上がるな、これは渚の世界であってお前の世界ではない』
そうだった、俺は渚のついでで…… てことは今声が聴こえる奴が俺を一緒にここに連れて来た奴?
『そうだ、渚には罰を与えた。 そして苦しみここでもお前と結ばれない罰を受け入れさせた』
なんだこいつ?
渚を苦しめた張本人の俺が言うのもなんだけどこいつが言うことに腹が立った。
俺は渚に殺された、けど渚とだって向き合ったつもりだ。 あいつが苦しんでたことも今ならわかる、そんな渚を苦しめてこいつは神様気取りか? と。
『傲慢者め、なんと思おうがお前にも等しく罰を与える』
ま、待て! それと罰ってなんだ?! 渚は? 愛菜はどうなるんだ?
そう思った時俺はついさっきまで愛菜と一緒に居たはずなのだが街の中に居た。
「ねえ、新太君」
「え?」
隣には見知らぬ女性…… ではない、渚に刺される直前まで一緒に居た女だ。
じゃあここは? 俺が死ぬ前の世界、俺の元居た場所だ!! てことは……
俺は咄嗟に背後を振り返る、するとそこには道行く人に紛れて俺の方を見ている1人の女が居た。
あれは渚だ。
俺と目が合うと渚は刃物を握り締めこちらに走ってきた。
俺はこれを経験済みだ、2度も殺されてたまるかと思って渚の刃物を持っている腕を掴み上げた。
「きゃあああッ!! 何こいつ?!」
俺の隣に居た女が渚のやろうとしたことに気付いて悲鳴をあげる。
「あっちゃん……」
呟いた渚の顔は俺に対しての憎悪に満ち溢れる目を俺に向けていた。
「わりぃ、俺こいつにちょっと用事あるから」
「え? あ、新太君?!」
周りが騒つく中ここでは不味いので渚の持っていた刃物を取り上げて俺と付き合っていた女に刃物を預けて俺は渚を引っ張って人通りが少ないところまで連れて行った。