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俺が回復してから渚と話そうと思った、けど前とは打って変わって渚は俺に関わろうとしなかった。
あんなことがあったからとかそういうのではなくて俺を避けているみたいだ、前なら面倒な奴が来なくなったと喜んでいたが……
「新太どうしたの?」
「ああ、渚と話をしないとなって」
「凪野さんと? どうして??」
「いやまぁ…… 渚と話しないと解決しないかなと思ってさ」
「ふぅん、なら呼んでこようか?」
「いや、いい」
話をしないとなと言ったのにいいという俺に愛菜は怪訝な顔をした。
「まぁあんたの目を覚まさせたのが私でもなく凪野さんだったんなら何かお礼くらいは言った方がいいかもね、てか凪野さんが原因なんだったら謝罪が先だと思うけど」
愛菜は拗ねたようにそっぽを向いて言った。
「愛菜がいつも俺のとこに来てくれたのわかってるよ」
「ふん、どうだか」
そうして俺は鈍った身体を直すためにも筋トレを再開して夜は走る、渚と会うことはなくなったけどそのうちあいつも来るんじゃないかとわざわざ普段は通らないが渚が通りそうな道を走っていた。
そんなある日とうとう渚と遭遇する。
「へ?」
お前いつも俺のこと待ち伏せしてたくせに今更驚くなよ。
「よッ」
「…… 久しぶりだねあっちゃん」
「いや学校で会ってるだろ」
「そういうことじゃなくてこんな風にして会うの」
「ああ、確かにな。 前はお前が待ち伏せしてたもんな」
「してないしッ!」
だからそれバレバレなんだって。
「まぁいいや、ちょっとあっちの河原まで一緒に走らないか?」
「うん」
俺と渚は一緒に走って河原まで行って俺がそこで腰を下ろすと渚も隣に座った。
「あっちゃんまだそんなの続けてるんだ? 轢かれたら鍛えた身体も意味ないのに」
「そういうお前こそ」
そう言うと少し渚は黙った。
「あのさ、お前世の中どう見えてる?」
「え?」
俺は知っている、車に轢かれて意識がない間ずっと渚が見ているものを何故か俺も見えていてその世界は色がなくて皆醜く見えていた。
もし渚がそんな風に世の中見えていたら精神的におかしくなるのも仕方がない。
まぁ前もおかしかったがそれは俺が原因もしているところがあるけど。
「世の中白黒に見えてないか? そんでもって皆の顔も醜く歪んでて」
「わかるのあっちゃん?! もしかしてあっちゃんも??」
「いいや、俺は至って普通に見えてると思うんだけど意識ない時ずっとお前の目を通して世の中見えてたから、なんでかわかんないけど。 もし俺の夢とかじゃなきゃ渚にはそんな風に見えてるのかなって」
渚は俺がそう言った途端俺の腕を掴みこちらを見て涙がポロポロと落ちた。
「あ、あっちゃん…… 私にはあっちゃんだけが人間に見えて。 あっちゃんしか私はッ、私は…… ふぐッ」
言葉がつっかえながら渚は俺に泣きながら話した、どうやら俺が見たのは本当に渚に見えていたものらしい。
だから渚が自殺しようとしていることもわかった。
俺しか人間に見えない…… だけどそんな渚を俺は救ってやることも出来ない、だって俺が好きなのは愛菜だから。
俺の中でいつの間にか渚は厄介で面倒で怖い奴から悩みを抱える女の子…… とは純粋には思えないけどまぁこいつもこいつで大変なんだってことはわかった。
つーかこの流れだと渚を選ぶみたいな感じなんだけど愛菜なんだよなぁ、渚もそんなことくらいわかってそうなもんだけどハッキリ言わないとな。
「渚」
「……」
渚が俺の腕に埋めてた顔をむくっと上げた。
「俺さ、愛菜が好きなんだ。 だから渚がいくら俺を好きって言ってくれても俺は愛菜が好きだ」
刺さないよな!? いくらなんでもこの雰囲気で。
「…… うん、わかったよ」
「え?」
「あ…… れ?」
渚がそれを肯定したのがビックリだったし渚自身が驚いていた、そして渚が顔を覆った。
「だ、大丈夫か?」
「あっちゃん……」
「??」
「見える、見えるよ。 なんでか知らないけどちゃんと見える!」
「見えるって……」
「ちゃんと色が付いてる、白黒じゃない! あ、そうだ!! 一緒に走ろう」
渚がいきなり俺の腕を掴んで立たせると走り出した。
走っている間渚は出来るだけ人気の多いところを走った、周りを見渡し人が居ればよーく見ていてなんだかそれが恥ずかしい。
「お、おい、あんまジロジロ見るなって」
「だってちゃんと見えるんだもん! 嬉しい」
そりゃあ嬉しいだろうけどな、ここに来てから何年かずっとあんな風に見えてたのなら。
いつぞや口論になったコンビニに着きベンチに座って休んだ。
「えへへッ」
「良かったな渚」
「うん! でもなぁー、あっちゃんより良さそうな人居なかったよ」
は? おい。
「そんな顔しないでよ、冗談だよ冗談! ってそこまで冗談じゃないけど。 でも私少し前向きになれた」
今まで俺に対してどこか影のある笑顔を見せていた渚だったけど今笑っている渚は心から笑っているような笑顔だった。