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あっちゃんの病室に着くと前に見た時と同じくあっちゃんはベッドで寝ていた。
「あっちゃんも痩せたね」
「そりゃそうでしょ、何ヶ月横になってると思うのよ」
ああ、まだあっちゃんは人間に見える。 どうでもいいのになんでだろう?
なんで私を助けたの? それでこの有様とかって笑えるんだけど。
そんなんだからもしかして私のことひょっとして好きだったとか脈あるのかな? なんて勘違いでもされたらどうするつもり?
でもそうなったらもう終わりよね、このまま目覚めない方がいいよあっちゃん。 なんだか羨ましい。
私もこんなことになるなら…… まさか戻るとは思わなかったから。 ううん、戻ってきたと言うよりは私にとっては異世界みたいなもんかもね、だってみんな醜く見えるし白黒の世界だもの。
「あっちゃん…… あっちゃんは本当に綺麗だね」
「は?」
私以外は普通の世界、いきなりそんなことを言った私に本庄さんは顔をしかめているみたい。
「少し髪が伸びたから癖っ毛が目立つよ、ストパーしばらくかけてないもんね」
「ちょっと、何言ってんの?」
「話し掛けろって言うから話し掛けてるの」
私がそう言うと本庄さんは少し気に食わなそうだけどその様子を腕を組んで黙って見ていた。
「ねえ覚えてる? あっちゃんとカフェに行った時。 マカロン美味しいって食べてたよね、それからしばらくあっちゃんったらマカロンにハマって。 今でも好きなのかな?」
こんなことを話してもやはりあっちゃんは目を覚さない。
「あっちゃんは私と居ても楽しくないって言ってたけど私は楽しかったんだ、高校生の時ずっと見守ってたあっちゃんが大人になってカッコ良くなっていろんな人達からモテて。 それでいて私と付き合ってくれたって思った時は有頂天だった」
「…… あんた、何言ってるの?」
「本庄さんは黙って!」
ツッコミたいのはわかってるけど水を刺されたみたいで私はちょっと大きい声を出してしまった。
だけどそれが効いたのか本庄さんは溜め息を吐いて黙った。
「私はみんなが気付く前からそれこそ本庄さんだって気付かないうちからずっとあっちゃんを見てた。 カッコ良くなんてならなくても良かったのに私が居るから」
でも人間一度味を占めたらなかなか戻れないよね、痛い目でも見ない限りは。
あっちゃんはここでもわざわざ筋トレしたり美容室行ったり…… なんで私に殺されたのかまったく学んでないと思った。
そりゃあ私もあっちゃんもお互いここに戻って来たんだってわからなかったから確信が持てないとこもあったけど。
「あっちゃんにとっては私なんてどうでもいいんだよね? 私が振り向いて欲しくてもそっぽ向いてろくに相手もしてもらえなくて話しててもあっちゃんはどこか違うとこ見てたようで私には冷たいなって何度も思ったよ」
同じ女に2回も殺されたようなもんだねあっちゃんは。
「でもどうして私なんかを助けたの、頭おかしくなった?」
「ちょっと!」
「あなたには関係ないッ!!」
「あるわ! あんたをここに連れて来たのは私!」
少し本庄さんと睨み合いが続いたが時間の無駄。 あっちゃんの手を握ってみた。
暖かい、こんなんでも生きてるんだね。
「あっちゃんは陰キャだったくせに女たらしで最低でクズで殺されて当たり前のような人だったけど…… 私はそれでも好きだったよ、あっちゃんのこと。 殺しちゃったけどね」
あっちゃんに笑ってみせたけど反応はない、やっぱりこんなもんだよね私、あっちゃんにとって。
「どこ行くのよ?」
「言いたいこと言ったから帰る」
病室のドアに手を掛けた時……
「あんた死ぬ気?」
本庄さんに図星をつかれたので振り向いてしまった。
「なんで? 死ぬわけないじゃん」
「なんか雰囲気がそう見えただけ。 それならいいけど新太に助けてもらったんなら新太のしたこと無駄にしないで」
「そう。 じゃあバイバイ」
私は病院を後にした。
何が無駄にしないでよ? 私は死にたいよ、こんな生き地獄みたいな世界なんてもう沢山。
あっちゃんのやったことは結局は地獄から抜け出そうとしたすんでのところで足首を掴んだようなみたいなもの。
ああ、それってあっちゃん流の仕返しかな、フフッ。
ここの病院の裏通りを少し行くと林があって死ぬにはちょうどいい場所がありそうと思ってた。
もうあっちゃんにも別れの挨拶もしたし思い残すことないんじゃないかな? あ、そこに行く前にロープ買わなきゃ。
ホームセンターに寄って首を吊るのにちょうど良さそうなロープを買う。
本当は一瞬で楽に死にたかったけど無理だよね、飛び降りも考えたけど近くに高い建物もないし何よりなかなか死ななかったらと思うと首吊りにした。
どっちも苦しいと思うけど。
今度はちゃんと死んで時間が戻ったりしなきゃいいな。 そう思って林の中に入って行った。