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「こんにちは」
私はドアを開けてしまった迂闊さに後悔した。
「なんで閉めようとすんのよ!?」
「そっちこそなんでここに来るのよ!」
目の前に醜い顔の本庄さんが私とドアの開け閉めの応酬をする、うちの親がいない時に限って来るなんて。
「来ないでよッ!!」
「イヤよッ、あんた新太のとこに顔も出さないなんていい度胸してるじゃない」
「顔なら合わせたもん」
うちの親も居てその時のお礼とお詫びの時だけだったけど。 会いたくない、会ってもどう接していいかわかんないもん。
それに本庄さんの醜悪さは一際際立つ、あちこちにウジが湧いてこれに嫌悪感を抱かない人は気が狂ってる。
私の世界はここに来た時からずっとそうだ。 ただあっちゃんだけが私の中では人間で、でもそのあっちゃんという人間に私は裏切られてて。
一体私はどうすればいいの?
「開けなさいったらッ!!」
「きゃッ」
いけない、入れてしまった……
「イヤだ、私に近付かないで!!」
「私だってあんたに近付きたくないわよ、けどね…… 新太が目覚める可能性のある人だったらどんな奴でも新太のとこに連れて行く!」
「だったら意味ないよ、私あっちゃんに会ったもん! けど目なんか覚めなかった」
「新太に話し掛けてないでしょ!」
「そんなの無駄だもんッ」
「何が無駄なんかわかるわけないッ! 新太をあんな目に遭わせた張本人のくせに責任くらい取りなさいって言ってんの!!」
本庄さんが私の胸ぐらを掴む。
ううッ、気持ちが悪い。
死ぬ前の私の知る限り1番の美人だったはずの本庄さんは1番醜い存在になっていた。
もし神様やそれに値する存在が居るならなんで私をこんな目に遭わせるのかと問いたい。
「いいからついてきて」
「やだ!」
「イヤなら無理矢理でも連れてく」
「ちょっと離してッ!!」
入院生活と不登校で体力と力が落ちてたのか本庄さんの力に引っ張られる。 入院する前なら本庄さん如きに力負けなんかしないと思ってたのに。
「わ、私パジャマッ、パジャマだから!」
「知ってるしそんなの! でも着替えさせたら逃げるかもしれないし」
「逃げない! わかったってばッ!! 行けばいいんでしょ行けば!」
「ならあんたの部屋で待たせてもらうわ」
最悪…… なんで本庄さんなんかと一緒にあっちゃんの病院に行かなきゃいけないんだか。
私なんか行ってもあっちゃんが目を覚ますわけないのに必死になって。 あっちゃんはもう一生植物人間でいいのよ、その方が気が楽だわ。
あっちゃんのせいで失敗したけど今度はちゃんと上手く死んでみせる。 こんな世界にもう居たくない。
「ちょっと痩せた?」
「食欲ないから。 本庄さんこそ痩せたね」
「誰のせいよ。 行くよさっさと」
はぁー、会いたくない。 会ってなんて言うかもわかんないし。
ありがとう? ごめんなさい? なんか嘘くさい、だってそんな風に思ってないから。 「なんで?」ただただそれだけだから。
あの時あっちゃんが私を助けるメリットって何? 私が居なくなればこの世界はあっちゃんにとって住みやすいのに。 罪悪感を感じてて私を助けたら気持ち的に楽になると思ったから?
はッ、だとしたら余計なお世話。
もうどうでもいいんだ何もかも。 ぶっちゃけあっちゃんを憎み続けるのも疲れるしモノトーンであっちゃん以外みんなが醜悪なこの世界に居るのも疲れたし。
それに大体わかってることだし今のまま歳を取って私が死んだ時までなんの変わりもない下らない時間を過ごすなんてウンザリ、死んだ歳に戻ったって私にはなんの希望もない人生だしその先も同じ。
なんであっちゃんなんか好きになったんだろう? こうなったキッカケはいろいろあったんだろうけどなんか急に冷めたよ、あっちゃんは私にとって特別だったからこの世界でもあっちゃんだけは人間だった、でも今は違う。
死のう、今日あっちゃんに会ったらひっそりと誰にもわかられないように。
あっちゃんが止めようとして結果的に助かったのか知らないけどあっちゃんがそこまでして私を助けようとしたことを全部無駄にしてやるんだ。
あっちゃんを殺してもここに来てからもあっちゃんを見ると許せなかった、だけどどうしようもない私はまだあっちゃんのことが特別だったみたいでやり直そうともしたけど全部裏目、取りつく島もなかった。
あっちゃんは私と違う世界を見ている、ちゃんとした世界だ。
私の気持ちなんて結局わからないしこっちが歩み寄ろうとしても今までのことで拒絶してしまうだろう。
目覚めても目が覚めなくてもせいぜい本庄さんと仲良くしてね、私はあっちゃんの幸せなんて祈らないから。