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渚をビンタした次の日は休日だった、渚も流石に怒ってるだろうと思っていた矢先……
「あっちゃん! すんなりデートのお誘いOKしてくれるなんて嬉しいッ!」
何も感じていないのかそれか渚の内では腑が煮えくり返ってるのか…… さっぱりこいつの思考回路がわからん。
俺がそんな渚の誘いを了承したのはこいつの怒りの矛先が愛菜に向かうのを阻止するため、今はこんなにケロってと…… してるのかすらよくわからないが。
「なんか渚じゃないみたいだな」
「お洒落してみたの! だってせっかくのデートだしさ」
今日の渚は髪を内巻きゆるふわ、化粧も程よくオーバーサイズのロンT、ミニスカートでいつもより可愛さを強調したような出立ち。
「どうかな? この時代のトレンドじゃないと思うけど」
「まぁそんなの気にしないし悪くない…… てかいきなりデートとかって」
「そのお誘いを受けてくれるあっちゃんもなんなの〜?」
なんか普通に機嫌が良い、ビンタされたの覚えてんのかこいつ? だが油断したらダメだ、背中に気を付けないと。
「あっちゃんビクビクしないでよ、今日はデートなんだし」
「また刺されたら堪らないからな」
「そんなことしないよぉ」
女の言うことは信用できない、特にこいつのはな。
「デートって言っても俺何も考えてないんだけど」
「ならさ、映画観に行こう」
「映画?」
それって俺達にとって1番必要ない選択じゃないか? この時代の映画なんて死ぬ前なら旧作もいいとこだぞ。
というか娯楽関係全般だけどな、隣に居るのがそんなこと知らない奴ならいいけど。
「映画とかって観る価値ないとか思ってるでしょ?」
「まぁな」
「けど2人で観たら面白いよ」
それはお前の一方的な考えだろと思ったけど別に渚と行きたいとこなんてないし考えるのも面倒なので映画館に行った。
だが普通に観たことある映画…… 映画館では観なかったから雰囲気だけは違うけど。
「面白かったね」
「普通にテレビで何度も放送してるし面白かったか?」
「映画館で観るからいいのに。 それとお腹空いたよね? ここのデパートの中のどこかで食べよっか」
渚リードでそのまま進み、お昼を食べ終えて次は何しようとなった。
「皆本じゃん!」
後ろから知ってる奴の声が……
「超奇遇じゃん、こんなとこで何してんだ〜?」
「ちょっとピンキー待ってよ。 あ、皆モンやっほー!」
「バッタリだねぇ」
西条、翼、萌と遭遇してしまった。 デートを邪魔され渚は不機嫌になるかと思えば変わらずニコニコとしている。
だがこいつは表情と思ってることがまったく違うから心中ではこの3人にナイフを突き立てているかもしれない。
「何だ? もしかして渚も偶然皆本に出会ったみたいな感じか〜?」
「うん、そんな感じ」
「そっかそっか! ならアタシ達と一緒に遊ぼうぜ」
「というより今日はハブられてないんだなお前」
「ハブられるとか言うなッ!」
「そうなんよ皆モン、ピンキーこの前の飲み会のことまだ根に持っててさ〜、態度がガサツなのにどんだけ女々し」
「黙れ翼!」
「じゃあそうしよっか皆本君?」
急にいつもの控えめ渚になるなよまったく。 それよりこいつらが居てもいいのか? 断ろうと思えば何かしら簡単に断れそうなんだが。
「いいのか渚?」
コソッと渚に訊くと笑顔でコクンと頷いた。
「翼ちゃんと萌ちゃんはこの中で1番わかっててあっちゃんのことも好きだけどあっちゃんの本庄さんへの気持ちがちゃんとわかってるからそれ以上踏み込んでこないし良い子、つかさちゃんだけは拗らせてて可哀想だけど基本的には良い子だから」
「ふぅん」
西条より1番拗らせてるのはお前だと言いたいが。
「私もただ…… ただあっちゃんのことが好きなだけだったんだけ、なのになぁ」
「ん?」
そう言った渚の顔は今にも消え入りそうな微笑をしていた。
「あ! それより今日のナギめちゃ可愛くない!?」
「私も思った、皆モンのコーディネートかな? 地味なナギがこんなに垢抜けるなんてねぇ!」
「うん、皆本君って流石だね」
「アタシらからすりゃ地味だけどなぁ」
「負け惜しみ〜、ピンキー悔しいんだね」
その後は翼達も交えて遊んだ帰りに……
「あっちゃん、今日は遊んでくれてありがとね」
「お、おお……」
めちゃくちゃ普通で逆にビックリした。