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「いてッ」
「ボーッとしてんのが悪いのよ」
「はあ!? てめぇなんだよその雰囲気は!」
「別に友達なんだから普通でしょ」
「薄ら笑いして皆本に近付くんじゃねぇ! 気味が悪ぃなぁ」
たまにしか顔を出さない文芸部に行っていたら愛菜が来た。
「でも噂に聞く本庄ちゃんって思ったより取っ付きやすいかも」
「はい?」
文芸部の先輩がそう言うと愛菜は怪訝な顔をする。
「酷いこと言って一刀両断してそうなイメージだったんだけど」
「そうですか……」
「あはは、先輩騙されんじゃねぇぞ、こいつアタシにはいつも酷いこと言ってるし」
「しつこいあんたが悪いんでしょ、あーウザいししつこい」
「てめぇッ……」
「あ、ほらほら〜、2人が仲良いのはわかったからさ」
「「仲良くないッ!!」」
愛菜と西条めっちゃ仲良く見えてしまった。 なんとかとなんとかは紙一重っていうけどそうなのか?
「つーか何しに来たんだよ? てめぇはバスケ部だろ!」
「別に、たまにはいいかなと思っただけだし」
「狙ってんだろ? お前皆本狙ってんだろ!?」
「はあ? だったら何か悪い?」
否定もせず半ば肯定っぽい愛菜の言葉に一同時間が一瞬止まったかのような錯覚に陥った。
「ええーッ、何々?! もしかして本庄ちゃんって皆本君のこと好きなの??」
「他人にそこまで教える気ないので」
「うわッ、冷たい!!」
先輩達が盛り上がっているところで視線を感じたのでその方向に顔を向けると渚は俺の方を見ていた。
俺と目が合うとちょっとだけニコッと笑って部室を出た。 俺は気になったのでその後を追う、部室を出る時に愛菜の目の端がこっちを見てたけど渚を追った。
廊下に出ると渚の姿はない、ほんの2、3秒目を離したのに忍者かよと思い階段の方を覗いて見るが居ないので廊下に目を戻すと廊下の反対から渚の姿が見えた。
あっちかよ。 つーかわざわざ出て来たってことはついて来いってことか?
俺が自分を見たのを確認した渚は俺に背を向けて歩き始めた。 渚は歩くペースが人より速いのであっという間に校舎と体育館の間まで来た。
渚は上靴のまま外の方に人気がない場所まで時折俺がちゃんとついて来ているのか見ながら歩く。
なんだか怪しい…… 何が来ても大丈夫なように身構えとくしかないな。
そして渚が立ち止まって辺りを確認した後俺の方を向いて口を開く。
「凄いな皆本君って」
「何がだよ?」
「あんなに皆本君のこと拒絶してた本庄さんも皆本君のこと好きになってきてる。 皆本君が頑張ってたのも私知ってるし…… でもね」
渚は言葉を止める。
「ここまで来てなんなんだよ、ハッキリ言ったらどうだ?」
「じゃあ言うけど私は皆本君が本庄さんとは付き合ってほしくない」
「やっと言ったなそれ。 そんな雰囲気ずっと出してたから言われなくても感じてたけどようやく自分から言ったな、でもそれで俺がそれに従うと思うか?」
渚は首を横に振る。
「お前が俺を好きだからって愛菜と俺は幸せになれないとかって相手を下げるどころか逆にお前の印象悪くなるぞ?」
「それだけじゃない、だってわかるんだもん私…… 言っても信じてもらえないだろうけど」
「何を?」
「こんな話誰にも言えないからこんなとこに連れて来たんだ、でもみなも…… ううん、あっちゃんになら話せる」
「あっちゃん…… ?」
いきなりなんだこいつ? あっちゃんって俺のことか? そう呼ばれてたのは俺が死ぬ前何人かに呼ばれていたけどなんでいきなりそんな馴れ馴れしく…… まさか、まさかな。
「あっちゃん。 私ね、今からもう少し先の未来から来たって言ったら信じる?」
「ッ!!? お、お前も?」
話の流れでまさかとは思ったがこいつも。 てことは思い当たるのは俺が死んでからこいつも死んだ後から??
俺が渚の言ったことに動揺していると渚は深く溜め息を吐いた。
「やっぱり…… おかしいと思ったんだ、この頃じゃありえないあっちゃんの変わり様に。 もしかしたら私がここに来ちゃったから何か変化でも起きたのか本当にあっちゃんの心変わりなのかもと思ったけどなぁんだ、私と一緒だっただけなんだね」
渚の口調は物凄く冷たくガッカリという口調になっていた。
「渚?」
不味い、いろいろ訊きたいことはあるにしてもこいつは俺を殺した時のことも覚えている、自覚なしなんかじゃなくてこいつは人殺しだ。
「あんなに…… あんな目に遭ってもまだ誰かと付き合おうとかそんな風に思えるんだね、あっちゃんって。 本当凄いなぁ」
そんなことを言う渚に俺が後退りすると……
「逃げちゃイヤ」
俺の行動を察知したのか渚は俺に迫って襟を掴んだ。




