35
「本〜庄ッ!」
放課後、これから用事があるから帰りますと伝えた後廊下を歩いてるといきなり後ろから組み付かれてビックリしたのでその相手をイラついて見た。
「し…… 平野さんと……」
「いきなり酷〜い! 萌だよぉ!」
尻軽と尻軽二号か。
「ん? 翼でいいよ、同じクラスなんだしさぁー、知らない仲じゃないっしょ? 私も愛菜たんって呼ぶから」
私の中では尻軽女なんだけど。 愛菜たんとかマジやめて。
「珍しいじゃん、愛菜たんが化粧してくるなんて。 超薄いけど」
「余計な詮索やめてくれない、それに私が何しようとどうだっていいでしょ」
「あ、そーだッ、愛菜たん出掛ける前にうちらがおめかししてあげよっか!」
「は? 余計なお世話…… ちょっと!」
尻軽コンビに両腕を掴まれて適当に空いていた教室に詰め込まれ席につかされる。
「萌〜、愛菜たんロックして」
「ラジャー」
椅子ごと後ろから腕を回り込まされる。
「なッ! 離しなさいよッ!!」
「今これ以上ないってくらいに締め付けてるからいくら愛菜たんでも外せないよぉー」
「え、えへへ、愛菜たんみたいな美少女の顔を好き勝手にいじくり回せる」
「ちょ、ちょっと……」
どう料理してやろうかと舌舐めずりをしてる尻軽を見てゾッとした。
◇◇◇
「あ、お待たーッ!」
「おお、遅いぞ平野…… って、え?!」
昇降口で待っていた新太達のうち私が目に入った中澤が私の顔をマジマジと見た。 そして釣られて新太達も私を見る
「何か文句でも?」
「い、いや、本庄いつも美人なんだけど今は特に美人だなって思って」
「でしょー? うちらが愛菜たんを更にいい感じにバージョンアップさせちゃいましたぁーッ!」
尻軽達みたいなギャルメイクにされなかったのはまだマシだけどこれじゃあ朝にガッツリ気合い入れてメイクしたのと似たようなもんじゃない。
はッ、でも無理矢理されたんなら私の意思ではないし。
「ホント何してくれてんのよ、凄く不快だったわ」
「もぉー愛菜たん、そんな可愛い顔で仏頂面しても可愛いだけだよんッ」
ム、ムカつく〜! その尻軽な尻を今すぐ蹴っ飛ばしてあげたいけど我慢我慢。 新太はと……
新太は私の顔を見てホケ〜ッとした顔をしていた。
それはどんな感情なの?! 良いの、悪いの? わからない、けど尻軽達にしてみれば私に合ったメイクをしたので私からしてもなかなか悪くないと思うんだけど。
「新太、ずっと見てるけど何か?」
「あ、ああ、すげぇ美人だなって思って」
新太は凪野さんが居るにも関わらず私を見てそう言った。
どうよ? ざまぁないわね凪野さん。 と凪野さんを見れば新太と同じような顔で私を見ているのがなんだかバカにしてるみたいで腹が立った。
「凄い綺麗だな本庄」
「あんたに褒められても全然嬉しくないわ、けどありがとう」
「あれー? いっつもツンツンしてる愛菜たんがスイスイには異様に優しい。 これは恋かな?」
「な、なんですって!?」
この尻軽ッ!! 余計なことを。 あ、ううん、今のはファインプレーなのかな? 新太はと。
あ、ちょっと気になってるみたいな顔してる。 これはもしかして嫉妬してる??
「ありゃ? 掴み掛かられると思ったのに」
「ふん、あんた達と一緒にしないで、私がそんな野蛮に見える?」
「よく言えるなそんなこと」
コソッと桐山が私に耳打ちする。
「うるさい、余計なこと言わないでよ?」
「わかってるって。 ちゃんとお前をフォローするからさ、友達として」
「すげぇな桐山、いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
新太の友達の大体一緒に居る…… ああ、友達Aってことでいいや。 この人新太と凪野さんとの関係詳しいかしら?
「まぁ本庄と友達になるにはメンタルがかなり強くないとな。 なあ皆本?」
「そうだな、でも愛菜は根は良いやつだから」
…… なんか嬉しい、最近の新太に大分私の心は掻き乱されてるけど新太にそう言われるとやっぱり嬉しい。
「ねえー、どこ行くー?」
「結構大勢だし家飲みしよっか!」
尻軽コンビが初っ端からとんでもないこと言い出した。
「マジかよ? 俺てっきりカラオケとかに行くと思ってたんだけど」
「あー、じゃあそれ採用」
「なんだよ適当だな、まぁそんなとこだと思ってたけどよ。 いいか渚?」
「うん」
そのやり取りを見て尻軽コンビは「ラブラブだねぇー!」とつっこんでるがちょっと前までそこは私の位置だったのにと心の中で地団駄踏んだ。
そうだ、何もイラついてるだけじゃダメだ。 こんな時だからこそ新太に積極的に接しなきゃ、わざわざ化粧までしたんだし。
「新太行きましょ」
凪野さんに割り込み弾き出すと私は新太の袖を摘んだ。
な、なんて恥ずかしいの人前で私がこんなことをするの。 でも新太が喜ぶなら仕方ない。
「あ、ああッ」
「声が上擦ってるよ新太、緊張してんの?」
「愛菜が綺麗だからな」
うわわッ、な、なんて? 綺麗だって!
新太の言うことに私は心の中で足をバンバンと弾ませて柄にもなく喜びまくっていた。




