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イヤだ、盗られたくないッ! 新太はようやく出来た私の友達なんだ。 恋人とかそういうのとかじゃなくてせっかく普通に話せるようになった唯一の新太を凪野さんに盗られたくない。
イヤな夢を見た、凪野さんと付き合って私をまったく相手にしなくなった新太。 一度友達を知ってしまったらそれ以前の孤独になんて耐えられなかった。
そうよ、こんなになるくらいだったら新太を取り返してやればいいんだ。 新太は私に惚れてたんだから!
…… そう思うと新太が私に冷めてしまったんじゃないかと少し変な気分になるけどアレよね、きっと新太は凪野さんに何か弱みとか握られてたりして? じゃないとそんなでもなかった凪野さんと急にあんなに仲良くなる?
思い当たるのは新太が体調崩してから。 まさか凪野さんが原因だったり? でも気になるのは私に時より向ける少し引いた目。
どっちかと言えば最初はあんたに引いてたんだからね!! それを何? 友達になっておいて急に避けたように接するなんて。 ああもう!
そして次の日……
私は昇降口で新太が来るのを待っていた。
来た、というか私が誰かを待つなんてちょっと前まではありえなかったわね。 他に来る連中も何してるんだろう? って不思議そうな目で見てたし。
「新太」
「愛菜?! なんでこんなとこに??」
「あんたを待ってたのよ」
新太は私を見て次に周りをキョロキョロと見た。
何それ? 凪野さんでも探してるつもり??
「ちょっと来なさいよ」
「お、おい、まだ靴履いてない」
構わず新太のネクタイを掴んで廊下の陰に連れて行った。
「また壁ドンかよ」
「何それ?」
「そのうちわかるよ」
「どうでもいいわ、それよりなんであんた私を避けてんの? 人に告っておいてそれから友達になったのにどういうわけ? 私をバカにしてんの?」
ああ、今までの鬱憤のせいで喧嘩腰になっちゃう、抑えなきゃ。
「そんなわけないだろ、お前のこと好きだし」
「ッ?!」
な、なんなのこいつ…… ? でもそう言われて前は鬱陶しいだけだったのにちょっと嬉しくなってるのは何故?? って今はそれより……
「誤魔化さないで、あんた私の前ではそう言ってるけど凪野さんの前でも同じこと言える?」
「あ…… いや、うん…… まぁ」
「あ…… いや、うん…… まぁ」!? 歯切れ悪いどころじゃないわよ! それを聞かされてこっちがはいそうですかなんて問屋が卸さないわ。
「それって言えないって捉えていいのよね?」
私がネクタイを絞り上げて更に迫ると私の両肩を新太が掴んだ。
「俺は今でもお前のことが好きだしまったく気持ちも変わってない」
「言ってることとやってること違うんだけど?」
やっぱり新太はおかしい。 私は私は……
「悔しい……」
「愛菜?」
「私はいつだって新太に正直でいた、今もそう。 なのに新太は私に嘘付いてる」
「違う、だって…… あッ!」
新太が何かに気付いたのでその視線の先を私も変えると……
「どうしたの皆本君、本庄さん?」
キョトンとした顔の凪野さんが私達を見てた。
ちょうどいいわ、凪野さんにもいろいろ訊きたいことがあったし。
「凪野さん」
「あ、はい!」
「話があったのよ、ちょっと顔貸してくれないかしら?」
「え、ええッ!?」
「ちょ、ちょっと待った! 渚、なんか用事か?」
「ううん、ただちょっと職員室に行くんだけど」
「そっか、ならちょうど良かった、俺もこれから行こうとしてて」
「はあ!? んなわけないでしょ!」
新太を追い掛けようとした時誰かに肩を掴まれた。
「触んないでッ!」
その腕を弾いて邪魔する奴の顔を見ると桐山だった。
「あんた…… どこまで私の邪魔をする気なの?」
「いや、そうじゃなくて俺もサラッと今の話聞いちゃって」
「何盗み聞きしてんのよ、マジであんたキモいわ」
「ごめん、お詫びにアドバイスというか第三者からの意見を聞きたくないか?」
「はあ?」
こいつの意見なんて役に立つの?
「ほ、ほら、皆本は男だし本庄は女だ、男の考えは同じ男の方がよくわかる」
まぁ理屈はそうだけど……
「で? 話を盗み聞いて何がわかるわけ?」
「そうだなぁ……」
何やら考え込んでるような顔をしてるけど全然アテにならなそう。
「あれだけ本庄に入れ込んでた皆本が凪野にああまで固執する、それは……」
「それは?」
「……」
あ、ダメだこれ。
「やっぱあんたじゃ意味ないわ」
「ま、待てって! それはだなぁ、凪野に何か弱みでも握られてるんじゃないかと」
!!? 私と同じ推理? このバカが??
「…… いいわ、もっとよく聞かせなよ」
「あ、ああ!」
苦し紛れに言ったみたいに見えるけど聞くだけ聞いてあげようかしら。




