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「行ってきます」
「行ってらっしゃい愛菜」
「気を付けてな」
お母さんとお父さんに見送られ学校へ向かう。 新太と仲良くなってから…… ううん、新太が私と仲良くしてくれてから私の家庭環境と学校での生活は極めて順調だ。
私は物心ついた時から出来が良かった、良かったからそれで周りに一目置かれた立場になった。 私の親もそうだった、愛菜は優秀だから愛菜は美人だから愛菜はなんでも出来ちゃうからと。
それが私には重荷だった。 常に1番は大した苦労もせずになれる、けど歳を重ねていくうちに周りが下に見えて傲慢な私は彼ら彼女らと自分を差別していた。
そうしていたら私は孤立していた。 けれど周りが私について来れない、だって私は秀才だから。 周りが友達同士でバカをやっているのも見下していた、私に告白してくる私に釣り合わない男も。
年を重ねるごとにそれが疎ましくなっていた、でもそれは逆に私にはあまり経験したことがないゆえの憧れ…… というものとはちょっと違うけどどこかで私もと、思っていたのは違いない。
だけどそうなりたい自分と今の私が葛藤して私は常にイライラしていた、家族仲だって私のそんな気持ちがどこかで表れていたせいか会話もあまりなかった。
そんな時あのバカが突然私に告白してきた。 高校デビューだかなんだか知らないけど見た目は割と良いけど所詮それがなんだっていうの? そんなのいくらでも居るし大体顔だけなんて私と釣り合わない、そう思って即断った。
次の日も告白してきた、言い方がまだ足りなかったのか昨日よりもキツめに断った、でも次の日もまた次の日もあのバカは告白してくる。
私のひとりの時間はそのバカ…… 新太によって奪われた。
一体どれだけ告白して来るの? 私は憂鬱だ、でもある日お詫びと言ってどこかに遊びに行こうと言われた、なんでこんな奴と私が? と思ったけど私が新太を好きになるわけないしそれをわからせるチャンスかもと思って私は了承する。
遊んでみた感想は自分の中でも意外でまぁ悪くなかったんだと思う、だって私はまた新太と話していたから。
自分でもあんたなんかに付き合ってられないとわからせてやると思って行ったのに。
それから告白とは違って新太と話す時間が増えた、まぁ下らない大したことないことばっかりで私は相変わらず新太を罵倒していただけだけど。
そして球技大会の日、新太が私に何故か勝負を挑んできた。 あんたリレーの選手だったっけ? と思ったけどどうせ私が勝つしと走った。
ほら、やっぱり私の方が速い。 でも私は全力疾走していた、なかなか速いじゃない。 けどそれじゃあ私は追い越せないでしょ? と思っていたのだけど。
いつまでこいつペース落ちないのよ? と段々私は焦っていた。 初めにトップスピードで走ってあまり引き離せなかったのが響いてきて私はペースが落ちていった、それでもって気付いていたら負けていた。
悔しかった、こんなちんけなリレーなのに凄く悔しかった。 いつもならこんなことでワーワーはしゃいでる連中ってバカみたいだと思っていたけどいつもより更にムカついた。
私を励ます連中にも自分が負けたと言われているようでムカついた。
あまりにムカついたので私は家に帰って来た時玄関のドアを乱暴に閉めたからお母さんがビックリしてたっけ。
その晩眠る前に新太の顔が浮かんだ、あんなのに私が負けた。 下だと思っていたあいつに。
その次の日新太がまた私のところへ来た、バカにしに来たかと思えばまた勝負を挑んできた。 どんな勝負かと思えば私が楽しいと思ったら私の負けとかいう凄く曖昧な勝負。
そんなの万が一楽しくても楽しくないって言えば済む話、私の勝ち決定ね。 今度はあんたが悔しがる番よと思って私は了承する。
けれど新太との勝負で私は新太に自分の本音を語っていた、どうしてこんな奴にどうしてこの私が?
少しして気付いた、この人になら私を見せれる、この人になら話してもいいんだと。
私は幾度ともなく新太に接しられているうちに新太という人間を周囲の人間とは違うと認識させられちゃったんだ……
私は新太と仲良くなってみたい、新太と友達になりたい、今思えば私のどうしようもない自尊心は新太によって取り払われてそう思うようになっていた。
それ以降私は新太とは友達になった。
◇◇◇
新太が体調を崩して2日休んで新太が学校へ来た。
ようやく元気になったんだと思って私は席に着いた新太に珍しく駆け寄った、唯一の新太が休んでて私的に寂しかったんだと思う。
「具合良くなったの?」
話し掛けると私を見た新太の顔が引き攣っていた、まるでこの世のものではない何かか人殺しでも見たような目で。
「新太?」
「悪い愛菜、ちょっと俺トイレに行ってくるわ」
「そう……」
私がそんな新太を見送ると凪野さんが新太に「おはよう」と話し掛けていて新太は私の時とは打って変わり「おはよう」と優しく返事した。




