26
「あ、これ……」
着替えが済んだ後、渚が部屋の床に片付けるのを忘れて置きっぱにしてた小中のアルバムを発見した。
「なんだよお前も見たいのか?」
「本庄さんもこれ見たんだ?」
「まぁな」
俺の顔を伺いながら渚はアルバムを開いた。
「誰かかっこいい奴でもいたか?」
「うん……」
「誰?」
渚は写真に写るブスな俺を指差した。
こいつはつくづく勘に触る奴だな、それはまったく逆効果。 俺に好かれたくてわざわざ不細工な時の俺をかっこいいというムカつく謙虚さ。
「ほーん、そんなのがお前にとっちゃかっこいいのか。 じゃあ彼氏作るのも簡単そうだな」
「ち、違うよッ! 私は一目惚れとかじゃないししたこともないからわからないけどここに写ってるのも皆本君でしょ。 皆本君は確かに凄くかっこよくなったんだと思うけど私は仮に今皆本君がこの頃の皆本君に戻ったとしてもかっこいいと思う」
気付いてないのか? 俺のことを好きと言ってるのと似たようなこと言ってるぞお前。
「だってそれは目標のためなら頑張れる人だし今はあの本庄さんとも仲良くなってるし。 でも例えそうじゃなかったとしてもどんな皆本君でも皆本君には変わりないから」
どんな俺でも俺は俺…… まさか愛菜が言ってることが被ってたせいか渚に少し腹が立っていた気分もどこかへ行ってしまった。
「へぇ、お前って俺のこと好きなんだな」
「へッ!? ち、違くてこれはその皆本君は凄いなって思っただけの」
アタフタしているけどもうバレバレだかんなお前。 けど俺が好きなのは愛菜なんだ、もう何股もする気はないし俺はお前を選ばない。
「だけど……」
「ん?」
「本庄さんじゃなきゃダメなのかな? 私は……」
「お前どんだけ愛菜のこと嫌ってんだよ?」
「き、嫌ってるんじゃいよッ、だだなんていうか」
「お前が嫌だからって俺が愛菜を諦めるわけないだろ? それに愛菜とはいい感じなんだ」
起き上がろうとしたら途中で身体が傾きベッドから落ちそうになる。
「ダメだよ無理しちゃ! 熱あるのかな?」
渚が俺の上半身を抱いて「ちょっとごめん」と言って俺のおでこに手を当てた。
「熱は…… ないのに」
渚の奴、天然でやってんならまだしももしわざとならなかなかのテクニシャンだぜ、なんせ胸がむぎゅっと顔に思い切り当たってんだからな。
というより俺の体調大丈夫なんだろうか? 明日には治ってんのかな? まさかフラバ如きでこうなるなんて。
「渚、いつまで胸押し当ててんの?」
「え? うわあッ!!」
「いでッ!」
この野郎、結局頭をゴンしちまったじゃねぇか。 もともとはお前がフラバさせるようなことしやがったせいなんだぞ。
結局その日はろくに動かないでグッタリとしていた。
「喉乾いたな…… そういえば渚から貰った水がベッドの下にあったよな」
だがない。 もしや渚め、間接キス狙いで持って帰りやがったな。 というかそれ狙いで俺に飲ませたろあいつ。
次の日はなんとか学校へは行けるがまだ体調は戻らなかった。
なんでだ? 今日も絶不調、あれがそんなに俺にとってトラウマ級の出来事だったってことか? それとも一度死んだからか?
正直学校に着いた頃にはかなり疲れていて席に着くなり机に突っ伏した。
「どうしたんだ新太? めっちゃ顔色悪いじゃん」
「祐希そんなに俺の顔色悪いか?」
「見てわかるほどだぞ、具合悪いのか?」
「ああ、昨日の夕方からなんかそんな感じ…」
そうして窓の方を向いてグッタリとしていると肩にポンと手を置かれた。
「新太」
冷たく透き通るような声でもうわかった、愛菜だ。 愛菜の方を向くと愛菜は俺の顔をジッと見た。
「顔色悪いわね」
「さっきも言われた」
「なのに学校来たの?」
「まぁ……」
愛菜は溜め息を吐いて俺の手を掴んだ。
「え、何?」
「保健室行くわよ、決まってるじゃない」
「来たばっかなんだけど」
「いいから」
廊下に出るとその後を渚まで追ってきた。
「皆本君、まだ具合悪いの?」
「まだ?」
愛菜は渚に怪訝な顔をして言った。
「昨日の帰りから皆本君具合悪いの」
「そうだったの、そういえばあんた達2人仲良かったもんね」
「そ、そうだね」
保健室に着くと誰もいない。
「とりあえず横になってなさいよ、風邪でも引いた?」
「そうかも」
「バカね、そんな状態で学校来るなんて」
「愛菜に会いたかったからかな」
「はいはい。 ええと凪野さん、後は私が先生来るまでここに居るから」
「え? いや、その……」
頼むぞ渚、俺の気持ちを考えるのならここでお前は引いて俺と愛菜を2人きりにさせる選択を選ぶはず! 空気読めよ?
「わ、私もここに居る」
……… 空気読めって。
「渚、愛菜が居てくれるみたいだからいいよ」
「だって…… だって昨日から皆本君辛そうにしてたのに」
「…… そう、だったら私はここに居る必要もないわね。 新太をよろしく凪野さん」
な、なんだって!?
戻ろうとした愛菜の手を俺は掴んだ。
「何?」
「お前も居てくれ」
「でも凪野さんひとり居れば」
「俺はお前に居て欲しい」
そう言うと愛菜はチラッと渚の方を見た。
「わかった、新太がそう言うなら」
渚はそんな俺達の様子をオロオロと見ていたが意を決したように愛菜の隣に来た。
「皆本君ごめん」
「何が?」
とぼけて見せたけど俺の心の中は渚へのいちゃもんで埋め尽くされていた。




