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「私はね、美人で勉強も出来ておまけにスポーツも出来る」
いきなり自画自賛。 けど本庄ならそう言っても納得出来るようなオーラがある。
「あんたがあんまりしつこいから教えてあげる、私がどれだけ歪んでるかって」
「いいぜ、話してみろよ」
「けど私はそんなんだから周りを見下して自分と釣り合う人間なんていないってものさしで人を見てた、今までずっと。 だから友達が居ない、仮に私と友達になろうとして来た人も私が見定して友達になる前に居なくなる」
たまに居るよなぁそんな奴。 なんでも出来て容姿端麗で完璧だと思えるようなの、けれどそういうのって大抵どこかに重大な欠落というか腹に一物抱えてたりするんだよな。
「でも仕方ない、私に合う人間なんてそうそう居ないから。 だからって諦めて妥協して誰かとつるむなんてのも私はしたくない」
なんか面倒くさい生き方してるな本庄って、そりゃ友達も出来ないわ。
「そっか、裏を返せば本庄は自分に厳しいタイプなんだな」
「わかった風に言わないで、別にあんたに共感なんて求めてないんだから」
高校生とかクソガキ特有の共感求める会話怠いから全然構わんよ。
「私は自己顕示欲の塊みたいな人間でそんな人がまともに人付き合いとか出来ると思う? あんたもさっさと私のことは諦めてそこら辺に転がってる付き合いやすそうな人と付き合えばいいよ、簡単でしょ?」
「なるほど。 そうか、なるほど」
「わかったでしょ? だから私を楽しませるなんて土台無理な話なのよ、茶番は辞めてさっさと帰りましょ」
「まったくな…… まったくくだらんッ!!」
「なッ!?」
俺がそう言うと驚いた顔をされる、諦め悪いよな俺も。
「くだらんったらくだらん、お前みたいなケツの青いガキがあーだこーだ言ったって俺は俺の意志で動いてるんだ、お前にどう言われたって俺はお前を諦めるわけない。 大体ここでお前が帰るってことはリタイア、つまり俺の勝ちってことになるわけだ」
「はあ?! あんたの傷が少ないうちに切り上げてあげようかと思ったのに何が勝ちよ!」
「なんだ、俺のことを思ってのことか。 案外優しいとこあるんだなお前って」
俺の言い草に人前だってのにお構いなしに本庄は俺を罵る。
「ほんっとにマジでありえないわあんたって! 根暗の女たらし!! 説教ジジイ!!」
「残念でした〜、今は根暗じゃありませーん。 それに同い年でーす」
最早小学生の悪口になっていた。
「ハアハアッ……」
大体言い切ったのか本庄は少し息切れしている。
「もうやだこいつ。 こんな勝負受けるんじゃなかった」
「今頃後悔しても遅いって」
「…… はぁ〜〜ッ」
大きく溜め息を吐いて俺に向き直った本庄はどこか表情が柔らかくなっていた、何かの憑き物が落ちたように。
「スッキリしたか?」
「え? あ、うん。 なんか全部言ったら凄く……」
「だろ? お前っていろいろ溜め込んでそうだったから怒らせてみたくなったんだ」
「…… 私あんたの前ではいつも怒ってたような気がするけど」
「でも本音で話したのは今日が初めてだろ?」
「ッ!! こ、こんな奴に本音…… 私って今日おかしい。 死ぬのかな?」
「んなわけないだろ、水族館行こうと思ってたんだ。 行くぞ」
コクンと頷いて水族館までの道中お互い喋らなかった。
水族館で魚を見て「これ全部飼ってたら食うもんに困らなそうだなぁ」と俺が呟くと「水族館来て言うこと?」とクスリと本庄は笑った。
「うわッ……」
「ふッ、あはは、ざまぁみろだわ」
イルカとアシカのショーで前の方に居た俺と本庄は水飛沫を浴びてしまう、しかも俺だけ。 本庄はサッと避けて濡れてない、けどそんな俺を見て本庄は笑っていた。
「水族館のレストランにしては中々美味しいわね」
「さっきまで泳いでたかもしれない魚だったりしてな」
「そんなわけないでしょ、どんな気持ちで食べてんのよそれ?」
食べ終わって水族館を出るともう夕方になっていた。
ここらで今日は終わりだな。 そう思って駅まで歩いている道中……
「楽しかった」
「え?」
「今日は楽しかった、あんたの勝ちよ皆本君」
本庄から出たその一言。
長かった、こんなに落とすのに長く掛かった女は居ない。 ついに本庄籠絡か!?
「だからってあんたと付き合うとか私考えてないから!」
「ありゃりゃ」
まだみたいだった。
「人に本音言うってかなりスッキリするんだね、知らなかった」
「だろ? だからこれからはお前ももっと」
「ううん、それでも私はやっぱり歪んでるみたい。 このままなんだと思う、自分のこと以外決めつけて見下して他人を拒んで。 別に変わろうとも思ってない」
本庄が俺を指差した。
「少なくとも今は…… あんた以外とは」
「…… え?」
なんて? と耳をかざすと持っていたバッグが顔スレスレに飛んできた。
「聴こえてたくせにもう一回言わそうとするなッ!!」
「はははッ、嬉しいよ本庄」
「付き合うとかじゃないんだから! 勘違いしないでよね!!」
なんかツンデレがよく言うようなセリフ。 けれどそこは本庄だ、本当にそんな気はないんだろうが俺にはそこら辺気を許すってことは一歩進んだ、今まで告白し続けてきたのは無駄じゃなかった。




