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「一応訊くけど皆本って脚速いの?」

「少しは自信あるかな、けど即興だし皆と息合うかはわかんないが」

「だ、だったら私皆本君にバトン渡す」



渚がそう提案した。



「え? まぁいいけどお前らってやっぱ仲良いの??」

「あ、そ、そういうわけじゃなくて」

「ちょっと待てよ、皆本と仲良いのはアタシ、ア・タ・シだ!!」



リレーメンバーとの会話に西条が割り込んできた。 



「ちょッ!! 何すんだよ皆本! もががッ」



余計なことを言いそうなので西条の顔を口を手で塞ぎ俺はリレーの話を進めた。



「じゃあ頼んだぞ皆本」

「任せてくれ、やれるだけやってみる」

「すまない、もしお前がずっこけたとしても誰もお前を責めないから。 3組には中澤とアンカーに本庄がいる、あの2人は相当速い」



そうだ、中澤も出るってさっきあいつ本人から聞いたな。



たかだか一高校の球技大会のくだらないリレー、何をそんなに一生懸命になるんだかと当時も今もバカにしてることは変わりはないけど当事者になってしかもそれなりに走れるってなるとちょっとは責任感が出てくる。



前の俺なら出られもしないし万が一出てもどうせ俺なんて周りも自分自身も期待してないみたいに思ってただろうけど自分を卑屈に思わない今は違っていた。



何より本庄と勝負できる、あいつより速いかわからないが俺は絶対あいつに勝って本庄の悔しがる顔を見てみたかった。



そしてリレーが開始される。



俺の学年3組が開始の合図共に走り出す。 ここで思わぬ事態が起きた、俺のクラスでもなく本庄のクラスでもない、1組のクラスが初っ端から1番速くグングンと他2組と差を開いていく。



もしや一番速い奴を最初の方にして差を開く作戦か? 



バトンが渡される頃には圧倒的な差がついていたが俺と本庄のクラスもジワジワと一組を追い詰める。



クラスの連中が声援を送る中ついに渚の出番もやってきた、1組とはもうほぼ目の鼻の先までに迫っていた。



「渚、失敗しても俺が挽回するから気楽に行け。 俺との練習風景のことだけ考えてれば多分大丈夫だから」

「う、うん。 皆本君のことだけ考えてる」



いや…… そういうことでもないけどとは思ったがそれで今は渚の気持ちが落ち着くならいいか。



そして渚に変わる頃には1組は既にバトンを渡された中澤に抜かれて一歩遅れて渚がバトンを受け取った。



「ナギーッ! がんばー!」

「いけいけーッ!」



渚はかなり良い具合にスタートダッシュをした、少し先を走っていた中澤に徐々に迫る。 中澤もギリギリに迫られていることを感じたのか一瞬後ろを振り返った。



「ナギ速ッ!」

「練習の時より圧倒的に速いぞあいつ」



俺が直前で話し掛けたことが上手い具合に作用したのか2人はほぼ並ぶ。 最早2組と3組の勝負になっていた。



「なんで皆本君が参加してるんだか」

「ああ、サクッとお前に勝つ」

「は? あんたが私に勝てるわけ?」

「鼻っ柱へし折られるのが怖いか?」



そう言うと本庄は明らかにイラついた顔を見せた。



「何燃えてんの? バカじゃない」

「口だけ野郎ってだけじゃないとこ見せてやるよ」

「皆本君ッ!!」

「本庄!」



2人はほぼ同時に俺と本庄にバトンを渡した、始めは本庄がリードした。



速ッ! マジで速いなこいつ。 俺は全力疾走で走るが少しの差が全然縮まらない。 



…… いやいやこれ勝てんのか俺!? 



周りの歓声も聴こえなくなるくらい俺は飛ばすが追いつかない。



ヤバい、これじゃあ俺マジで口だけ野郎と思われる。 めっちゃカッコ悪いぞ俺!!



一周した頃にはもっと差が開く。 



チラリと視界に入った渚の心配そうな顔が見えた。 



なんだ俺、余裕なさそうに見えて渚の顔なんて見るくらいの余裕あんのか? 渚にも走る前にデカいこと言ったくせにあいつにも口だけ野郎か俺?



筋トレ頑張ってたんだろ俺、毎日ジョギングもしてた、体力は結構ついた方だ。 二週目も絶対走れる!!



心の中で「うおおおーッ!!」と叫んでる自分が居た。 女にモテててこのまま面白おかしく高校生活送れば後は別にどうでもいいやと思っていた俺がこんなリレー如きに燃えていた。



一周目を半分近く過ぎた頃前の本庄との差が縮まってきた。 



俺が速くなったか? いや違う、本庄のペースが僅かに落ちてるんだ。 あいつ1組の奴らと同じで初っ端から全力疾走して俺を圧倒的に離す作戦だったんだな。 



ゴール目前、俺は本庄に並んだ。 並んだ時本庄は何を思ったか知らんが俺はもう本庄の表情を確認する余裕はない。



「うおおおおッ! すげえ皆本!!」

「皆モンすげーーッ!!」



気付けば俺はゴールしていた。 俺のクラスの奴らが俺を囲んで触られたり頭をゴシゴシとされる。



そして少し俺の後ろ、手を膝について顔を伏せ肩で息をしている本庄の姿が見えた。



マジか、超ギリギリだったような気がするけど本庄に勝ったのか。



俺はわちゃわちゃにされながらも本庄を見ていると顔を伏せたまま本庄は自分のクラスの方に戻っていった。



本庄のクラスの連中も頑張った本庄にいつもならお高く止まりやがってと本庄を避ける奴も多いながら励ましているように見える。



「皆本君凄い、凄いよ!」

「皆モン超カッコ良かったよ!」

「てめぇら気安く皆本に触んじゃねぇよ!」

「ピンキー別クラスなのになんでこっちに居るん?」



こうして球技大会は終わった。



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