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「私リレーに立候補したいです!」
あまり目立たない渚の立候補にロングホームルーム中のクラスのざわめきが違うざわめきに変わる。
本当に立候補する気なんだな渚。
「えー、リレーやるのナギが?? そんなキャラだっけ?」
「それよりあいつって脚速かったっけ?」
などなど声が聴こえるがリレー練習であいつの脚の速さが発揮出来ればみんな納得だろう、問題は発揮されるのかだけど。
「よーし、じゃあ凪野もリレー選手ということで今日の放課後から練習に参加してもらうけどいいか?」
「は、はい」
あんな様子で大丈夫かよ? というより俺はそこまであいつに肩入れする必要ないよな大事なのは本庄だ。
「またか……」
その日の放課後ガランとした本庄のクラスを見てみると教室に本庄がジャージ姿で居て俺を見るなり嫌そうに呟いた。
「なんでジャージ着てんの?」
「リレーの候補になったからよ」
な、なんと!?
「本庄って速いの?」
「なんであんたにそんなこと教えなきゃいけないわけ?」
「まぁでもその時点でそれなりに脚が速いってことだわな」
あ、そういえば昔も出てたような…… 俺としたことがなんたる迂闊なッ!!
俺が言うことは無視して本庄は教室を出て行こうとしたので俺は本庄の隣を歩いた。
「あんたって本当にいじめられてたの? 態度デカ過ぎない?」
「俺からしてみれば遠い遠い過去のことだしそれはそれとして受け止めてるから今があるんだけど?」
「意味わかんないし。 それよりなんで一緒に歩いてんのよ?」
「ついでだから本庄の練習風景でも見ようかと思ってさ。 今からだろ?」
「あんたってマジでイラつくわね」
そうして校庭に出るともうリレーの練習が始まっていて俺のクラスもやっていた。
「あんたは特に何にも出ないんでしょ?」
「そうだけど」
「私って口だけの奴大っ嫌いなの、あんたって頭もそれほど良くなさそうだし運動だって私より出来なそう、そんな奴に言い寄られても私は何も響かない」
「つまり自分より劣ってる奴には興味ないと?」
「そうね、じゃあさよなら」
「そっか、そっかそっか!」
俺が笑顔を見せたので本庄は怪訝な顔をする。
「何? 諦めた?」
「いやー、お前の好みやっと聞けたなと思ってさ。 ああ、そういうことか」
「はあ?」
本庄が明らかに苛立つ顔を見せる。
こいつは俺を振り払おうと言っているだけだがこれはこれでチャンスだ、リレーで俺がこいつに勝つシチュエーションに持って行けば本庄は動揺する。
なんとなく言ってみただけだろうが俺に言うことを覆されたってことだから。 あの様子からしたら本庄もそれなりに自信はあるみたいだからな。
「いいぞ、俺のクラスはお前のクラスよりダントツで速い」
「自分で走らないくせにバカじゃない」
そう言って本庄は自分のクラスの方へ行った。
よし、じゃあ俺も参加するか。 問題は本庄が俺より速いかどうかだけど練習見ればわかるだろ。
「おーい」
「なんだよ皆本?」
「あ、皆本君」
練習していたクラスの連中に俺も参加したいと申し出てみたが……
「ええッ!? 無理?」
「だってもう登録済ませちゃったし」
「そんなのササッと変更できないの? たかだか学校のリレーなんだし」
「そりゃまぁそうだけど。 先生に訊いてみないと」
ということで職員室に行き確認を取ってみる。
「いやぁ〜、もうちょっと早く言ってくれれば。 けどもう空きは完全に埋まってるし名簿も作ってしまったし」
「そこをなんとかどうにか!」
「あ!」
「なんとかなりそうです!?」
「審査員のサポートならあるぞ」
「………」
結局参加出来ず。
あーあ、せっかくいい手だと思ったんだけどなぁ。 しかも職員室に行ってて本庄の練習も見れなかったし。
あ、渚のも見たった方が…… どうでもいいか、そう思い帰い靴を取ろうとしたらガン!! とデカい音がして肩が跳ね上がる。
その音が鳴った方を見ると西条だった。
「何見てんだよてめぇ」
「見るも何もそんなデカい音立てるもんだからてっきり構って欲しいのかと」
「んなわけあるかッ!!」
出た、思春期特有の情緒不安定爆発。
「で? そのイライラの原因は??」
「ああッ!? アタシがイライラしてるように見えんのか!!」
というかイライラしてるよねそれ? 本庄もいつもイライラしてるから見慣れてるが。
「先生にその派手な髪なんとかしろとか注意されたか?」
「ああん!?」
あ、図星か。 まぁそりゃあ注意されるよなぁその色じゃ。
「ところでさ、お前」
「へッ?! あ、ちょッ」
俺も先ほどのことがあり若干イラついていたので西条を揶揄うことにした。
西条と身体がくっつくくらい近くに寄り頬をクイッと摘み上げた。 いきなりのことで西条は困惑しながら固まっている。
「お前さ、結構化粧上手だな」
「な、何をッ」
「それに目も大きいし鼻筋も通ってて素がいいのもわかる」
「あ、いや、なんな…… ひッ」
俺が顔を近付けると西条は顔を背けて目を閉じた。
やべぇ、やっぱチョロいわこいつ。
西条はそのまま固まっていたが何もないので目を開けた。
「キスとかすると思ったか?」
「なッ…… て、てめぇアタシをおちょくりやがったな!!」
股間に蹴りが飛んで来そうだったので俺はサッと西条から離れた。
「ははッ、いや、化粧も上手いし綺麗だなって思ったのは事実だよ」
「は?!」
「それに見た目に反して中身はピュアなんだな」
「…… うああああッ!! てめぇ! てめぇッ!!!」
西条が半泣きになりながら靴を俺に放り投げた、俺がその靴を拾うとハッとした顔になる。
「返せッ!!」
チョロいからこいつ揶揄うの楽しくなってきた。




