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「マジ!? 皆モン本庄とデートしたん?」
「デートじゃねぇよ」
俺の中ではデートだけどな、ここでは否定しておこう。
「告白じゃなくてただ単に今までのお詫びでどっかに連れてくって言ったらさ」
「いやデートみたいなもんじゃん!」
「うそーん、皆モンついに難攻不落の本庄を落としかけてんの??」
「つーか声抑えろよ」
漫画喫茶の中で翼と萌が俺と本庄のことで食い付いていた。
「へーへー、いいよなぁ新太は。 俺と弁当も食わないで女に夢中になっちまって」
蚊帳の外状態になっている祐希は拗ねていた。
「あははッ、ユッキー拗ねちゃって可愛い」
「え!?」
萌がそう言うと途端に顔が赤くなる祐希…… チョロすぎだろお前。
「それにしたって本庄って美人だけどめっちゃ怖い顔してるよな、顔だけじゃなくて性格も怖そうだしお前よくあいつに告白し続けてるよなぁ、どういう神経してんの?」
「だよねぇ〜。 本庄って性格キツいの思いっきり顔に出てるもんね、そんなんだし周りも怖がっていまだに友達出来ないんだよ、態度も態度だし」
「あれじゃずっと孤立したままだよね、班決めとかでハブられてそう。 あ、男子がほっとかないかぁ」
祐希達が本庄について語るが高2になる頃にはもう立派なぼっちになってたよあいつ。
だが誰がどう思おうと俺は本庄と付き合ってみせる、一度死んだはずの俺がこんな時代に戻って来たのは俺の心残りみたいなのがここにあったからだ、本庄への失恋は俺にとってそれほど重かったのか?
というよりもし本庄と付き合えたら俺ってどうなるんだ? このまま俺はここから人生の再スタートってことでいいんだろうか?
それといまだに悔やまれることはせっかく戻って来たのにロト6や競馬、株とか儲かりそうなことをまったく活かせてないことだ。 だってこの頃そんなのに興味あったか?
もしこうなるって知ってたら絶対下調べしてて今頃億万長者だったはずなのに。 そうなれば俺の人生は更にバラ色になっていたはずだ。
「ああ、金持ちになりたい」
つい言葉に出てしまった。
「えー! そうなったら皆モンと結婚したげる!!」
「あ! 私も私もッ」
「お、俺がなったら?!」
「あ、うん。 そうだねぇ」
「…… 何がそうだね!?」
漫画喫茶を出て祐希とも翼達とも分かれて家に帰りいつもの日課の筋トレに精を出す。
「やったぜ、腹筋綺麗に6個割れた!」
鏡に向かってガッツポーズを取っていた、テンションが上がりそのまま夜のランニングに向かった。
いい! この時代はいいなぁ。 高校時代の無念も晴らせてオマケに女子からの人気も高いし男子の友達も出来てきた、ゴミカス辰也は日陰者になりつつあるし概ね順調だ。
勢いで少し遠くまで来たのでそろそろ家に戻ろうかとしていた時同じくランニングをしている人が向こうからやって来た。
「は?」
「あ…… え?!」
なんとそれは渚だった。
「何やってんのお前?」
「ええと…… ラ、ランニング」
「そりゃ見ればわかるけど」
「ほら! 私も皆本君を見習って体を鍛えてみようかなって」
「ふぅん、いつからやってたの?」
「1週間くらい前から」
「そっか頑張れよ、じゃな」
俺は帰ろうかと思ってその場から立ち去ろうとすると渚に服を掴まれて止められた。
「待って!」
「なんだよ?」
「私自己流だからよくわかんないから皆本君に教えてほしいなぁ…… なんて」
「んー、渚には勉強教えてもらったしなぁ」
そう言うと渚がパァッと微笑んだ。
「お、教えるよ! もっと教えるからッ!!」
「まったく」
それから渚と並んで渚のペースに合わせたからゆっくり走ることになった。
「お前さー、だからってなんで筋トレなの?」
「ええ? とりあえず皆本君と同じことをしてみたら何かあるのかなって」
「いやお前別に俺と同じことしなくても元は可愛いんだしさ」
「…… へッ?!」
渚はボッと耳まで赤くなった。
何気なく言ってしまった、こいつから惚れられても仕方ないんだけど。 まぁ都合のいいセフレくらいならいいけど…… いやいやそんなクズい思考回路じゃまた死ぬぞ俺。
「そ、そそそ、そうなの…… かな?」
顔をペタペタと手で触りながら渚はまだ真っ赤な顔を俺に悟られまいとしているようだったがもう遅い。
まぁいいか、こいつが可愛いのは事実なんだし俺以外に告白でもされりゃ男慣れしてないこいつはその勢いに負けてコロッと行くかもしれない。
「お前が努力するベクトルは外見にも向けた方がいいかもな」
「わ、私…… 自分のことそんな可愛いとか思ったことなくて。 それに翼さんとか本庄さんとかと比べると私って比べるのもおこがましいくらいで」
うーむ、女が言う可愛くないはそれなりに可愛い奴が言ってるとブスからしたら嫌味だよな。
それと俺のタイプとも違うもんなお前は。 俺は気が強そうでちょっと派手な女がタイプなんだ。 それを言うと翼が間違いなしなんだけど俺は付き合うなら本庄一択だ! 多分。
渚は少しおっとりしていて微塵も気の強さも感じないし。 こういうのが良いって言う奴も山ほど居るしそいつらにあたるんだな。
「渚ってさ、そうやって努力してるみたいだけど誰にそれを向けようと頑張ってんの?」
「いッ、言えないッ!!」
最早バレバレなんだが強めに渚は言った。
「ふーん、じゃあその人ってどんな人?」
「その…… 人は凄く頑張り屋さんで」
うんうん。
「かっこよくて何言われても動じなくて」
自分とわかってて褒められてるのを知らんふりしてるのはなんだか凄く気分がいい。
「凄くモテてるのに一途で……」
そんな渚に4股して俺は刺されて死んだんだと心の中で言ってあげた。
「だから私も皆本君みたいになりたい」
「モテたいの?」
「そ、そんなんじゃなくてッ、爪の垢を煎じて飲む的なアレだよ!」
「ああ、それなら今すぐにでもあげれるよ」
「えッ!?」
「冗談だって、俺にそんな趣味ないし。 渚、ちょっとこっち来い」
「??」
渚は少し戸惑い気味に俺に近付く、そんな渚の両頬に俺は手を触れた。
「ひゃッ」
別にそこまでじゃない渚に対して俺は言った。 あまり揶揄いすぎるのは良くないがサービスしてやろう。
「ほら、お前ってやっぱり可愛い」
最早隠そうとも渚の顔に触れながら言っているので渚はそのまま動かずに手の平から渚の顔の温度が異常に上がっていることがすぐにわかる。
これはまぁ俺のこと褒めてくれたお礼と俺は4股していたことにまだ懲りてないからなのかもしれない。
「み、皆本君」
渚が一歩俺に近付こうとしたので俺は渚の頬から手を離し「そろそろ帰る」と言ってその場を後にした。