文筆カフェ
いらっしゃいませ、いらっしゃいませ!
おなかの空いている人はいませんか!
シャワーを浴びたい人はいませんか!
横になって眠る場所が欲しい方はいませんか!
お金がなくて、ただ干からびていくことしか選択できない人はいませんか!
お金のない人は、ぜひ当店へ!!
当店のご利用に、現金は必要ございません!
お金がなくても、ご飯が食べられます!
お金がなくてもシャワーを浴びることができます!
お金がなくても宿泊することができます!
当店のご利用には、物語の執筆が必須となります!
文字を書くことが苦にならない方に、大変ご好評をいただいております!
初めて文字を書いてみたという方にも、大変ご好評をいただいております!
長らく文字を書いてこなかった方にも、大変ご好評をいただいております!
物語を書いていただき、文字数に応じてご希望のサービスをご提供いたしております!
物語の質にはこだわりません!
物語と言い切ることができれば、どんな文字列でも拝受いたします!
いかがでしょうか、いかがでしょうか!
あ、いらっしゃいませ、お客様は二回目ですか、それでは担当のものを呼びますので、奥の席へどうぞ。
一名様ご案内お願いしまーす!
あ、いらっしゃ……、アナタ先週出禁になりましたよね。過度の他者批判はお断りしております、お帰りください!オーイ、お帰りのお見送り頼みまーす!
……はよ出ていかんかいこんのクソがぁっ!
あ、いらっしゃいませ、お客様は初めてでいらっしゃいますか、そうですか。
初見さんご来店でーす!
ではご案内いたしますね!こちらの初見ルームへどうぞ!
はい、どうも…この度はご来店いただきまして誠にありがとうございます!
ワタクシこの道うん百年のベテランスタッフでございます、どうぞよろしくお願いいたします。
お客様は初めてのご来店ですね、それではまず、当店のシステムにつきましてご説明させていただきます。
途中分からないことがございましたら、遠慮なくお知らせくださいね。
えー、おほん!
当店は、「文筆カフェ」でございます。
当店は、現金、カード、金券、その他を一切使用しないシステムになっております。
ええ、お金を一切使用しないカフェなんです。
当店では、お金の代わりに文字を収めて頂きます。
物語を書いていただき、文字数に応じてご希望のサービスをご提供いたしております。
例えば、コーヒーですと、一杯1000文字いただきます。
シャワー15分間のご使用ですと、2500文字いただきます。
オムライスは3000文字、フルーツパフェは5000文字いただきます。
六時間の仮眠は10000文字いただきます。
書籍化は2000000文字いただきます。
また、こちらに滞在する際には、席料といたしまして30分当たり300文字を頂戴しております。
最初の30分は、スタートダッシュタイムという事で文字を収めることなく入店できるのですが、30分経過後に、きっちり300文字、耳をそろえてお支払いしていただきます。
30分後に300文字が用意できない場合は、恐れ入りますがご退出していただくことになります。
なあに、ツイッターで二回つぶやくと思えば、案外すぐに300文字なんて用意できますから!!
きれいな物語、正しい物語である必要はございません。
物語の質にはこだわりません。
物語と銘打っておりますが、エッセイでも自伝でも評論でもポエムでも歌詞でも和歌でも構いません。
ハートが込められていましたら、どんな文字列でも拝受いたします。
日記形式でも、呟き形式でも、ですます調でも、である調でも、何でも構いません。
自分の興味のあることを延々書き続けても構いません。
恋焦がれる人について延々思いの丈を書き続けても構いません。
気に入らない誰かに対してのツッコミを延々書き続けても構いません。
ただし意味のない言葉や単語の羅列、強烈な批判はいけません!
お支いいただいた文字はスタッフが逐一チェックしておりますので、受け取り不可となる可能性が有ります。
ご注文いただいたサービス、お食事などは、文字チェック後にご提供致します。
では、つぎに文字数のカウント方法についてご説明させていただきますね。
基本、全角文字一文字をカウントさせていただきます。
数字、記号、符号などは、申し訳ないのですが文字数としてカウントいたしません。
いえね、以前まではすべてOKにしていたんですけれども…とあるお客様が、円周率の物語を書くふりをして、ずるいことを考えまして。
ええ、数字がなければ盛り上がらない物語も確かにございます、でも…問題が起きてしまった以上、対処せざるを得なくて。
どうぞご理解とご協力をお願いします。
あと、申し訳ないのですが、連続文字はカウント制限をさせて頂いております。
具体的には、同じ文字の羅列ですね。あああああとか、ぎぎぎぎぎとか、そういうものです。
こちらはフルカウントいたしかねます。
いえね、許可してしまうと、延々同じ文字ばかり打ち込む人が…たまに見えるんですよ。
モノの名詞として辞書に載っている場合は、カウントさせていただきますのでご安心くださいね。
例えば、「もももすももももものうちとはよく言ったもので」でしたら、22文字としてカウントいたします。
……いえいえ、書いてはいけないというわけではないんです。物語を盛り上げるうえで、どうしても排除することのできない、押し寄せるような文字の雪崩込みって必要な場合もあるとは思うんです。…ええ、どうしても場面描写に必要な場合がありますもんねえ。
ものすごく怖い時にその恐ろしさを誇張しなければならない場合とか、「ぎいやあああああああああああああああああアアアアアアアアアア!!!」って書きたくなりますもんねえ。
この場合は、申し訳ないんですけど、文字のかたまりで一文字換算させていただいてます。
「ぎいやあああああああああああああああああアアアアアアアアアア!!!」の場合ですと、5文字換算になりますね。
ええ、ご不満はごもっともなんですけれどね、たまにいるんですよ、文字数稼ぎに一生懸命になっちゃう人が。
「あ」と「ア」は別カウントするので…ご理解いただきたいです。
連続する文字列は基本、1文字換算になります。
また、単語の繰り返しも1文字換算になります。
例えば、「でも、でも、でも、でもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでも!!」ですと、2文字になります。
例えば、「お、おばけ、おば、おばおばおばおばおばけえええええええええええええええええええええ、おばけおばけ!!!」ですと、…7文字、かな?
あ、そうですよね、すぐに迷わず返答できない私をみたら不安ですよね、すみません。
私はご案内はさせていただいているんですけれども、システムにつきましては…パソコン任せにしている部分がありまして、少し心もとない部分がありまして。
ええ、ご安心ください、カウントはですね、文字入力ソフトの方で自動的にきっちりと表示されますので。
こちらのちほど詳しくご説明いたします、はい。
そうですね、では続いて、物語の執筆システムについてご説明しますね。
当店では、世間一般に多数ある文字入力ソフトや小説執筆ツールはご利用できません。
当店の用意した、専用のソフト…アプリを使って物語を書いていただくシステムになっております。
文筆カフェ専用入力システムは、宇宙一の性能を誇っておりますので、カウントミスはまず発生しません。
安心して執筆に打ち込んでいただけたらと思います。
先ほど少しお話しましたが、執筆上の注意事項がいくつかございます。
1、コピペ禁止
2、マルパク禁止
3、過度な批判禁止
4、迷惑行為禁止
こちらをお守りいただけない場合、即ご退場という事になる可能性がございます。
コピペ、マルパクリ、無断引用、全ての不正行為ができないよう監視されております!
インターネットに繋いで資料を検索することはできますが、右クリック及び同じ文字列を入力することはできないようになっております。
引用文献を使いたい場合は、所定の手順を踏んでいただけたら許可は出ます。
ただしその場合、文字数は一切カウントされません。
どこかで発表した物語をここに持ってくる場合は、事前申告とスタッフによるチェックが必要となります。
当店では、全ての文字はお客様ご自身の手で入力をしていただくシステムになっておりますので、データの読み込みはできません。
それでもよろしければ、ぜひお持ち下さい。
昔書いたノートを持ち込んで、一文字一文字、丁寧に打ち込んでいらっしゃる方もみえるんですよ!
流行り廃りは当店では一切関係ございませんので、昔の作品が残っていましたらぜひお持ち下さい!
文筆カフェ専用入力システムは、一般的な文書作成ソフトレベルの文字入力が可能でございます。
漢字入力支援システム、オノマトペ辞典、カッコいい熟語変換ボタン、誤字脱字チェックツールなど、より素晴らしい作品が執筆できる環境が整えられておりますので、ぜひご活用下さい!
では、文字入力画面についてご説明しますね。
……こちら、個室に用意してある説明ボードです。
見ながら説明しますね。
ご入室されますと、こちらの…執筆者番号カードが発行されます。
この番号カードはお客様個人のものになりますので、大切に保管してください。
物語の保存の際に必要となりますのでね。
ええ、入力していただいた文字、物語は、使いきれなかった分はためておくことができるんです。
毎日通って、百万文字貯まっている方もたくさんいらっしゃいますよ!
二百万文字貯まったら、その文字で書籍化するんだって張り切っていらして!
……みえますよ?書籍化された方。
あちらに書籍化コーナーがございますので、ご自由にお手に取っていただけます。
執念で打ち込んだ物語、なかなかの……、個性派揃いですよ。
……いえいえ、書籍化だけです。
本になって売れるかどうかは…わかりません。
申し訳ございません、大ヒット印税生活の保証はないんですよね。
ええ、とりあえず書籍化したい方向けですね。
…まあ、まあまあ、ここで書いていればね、腕もあがるし、食べるものにも寝る場所にも困りませんから。
先の事を考えるよりも、まずは書いてみましょうよ。
書き方を説明しますよ、これが……入力画面です。
キーボードを使って文字を入力していただきますと、自動的に文字数がカウントされていきます。
画面右上に表示されている数字、それがお客様が入力した文字数になります。
その下に一回り大きく、罫線で囲まれている数字…それがお支払いに使える文字数です。
その下には、使用した文字数の内訳、注文履歴などが表示されます。
先ほど説明しました席料は、自動的に引き落とされるようになっております。
引き落とし不可になりますと強制退店になりますので、ここの、「あと○◯分滞在可能です」の表示をチェックしながら執筆されるとよろしいかと思います。
いえねえ、夜通し文字を書くつもりで寝落ちした結果、真夜中に退出していただくことになった方、結構いらっしゃるんですよ。
この辺りは…物騒でしてね。
丑三つ時に退店なんかしたら、ペロッと食べられちゃうことがねえ…はは。
サービスや飲食メニューの注文は、全て先払いとなっておりますのでね。
まずは文字数をふんだんにご用意していただいてからご注文いただくのがよろしいかと存じます。
せっかくお食事が来たのに、退店とか…悲しいでしょう?
いかがですか?
一応これで私からの説明は終わりなんですけれど、なにか質問などございますか?
…はあ、資金源が気になるとおっしゃるのですか。
当店はお金を必要としないので、うまいこと回っていると言いますか。
物語を欲している神様がね、いらっしゃるんです。
物語を司っている神様がね、いらっしゃるんです。
ここに迷い込んだみなさんに、物語を提供して頂く代わりに、お望みのモノを提供させていただいているんです。
物語は、綴る人がいなければ枯渇してしまいますのでね!
持ちつ持たれつというわけですよ。
いかがです?
ここで物語を書いていきませんか?
はあ、説明が長いとおっしゃる……。
もっと簡潔にとおっしゃる……。
いえね、私のこの説明、一応一時間の席料と日替わりランチ、ドリンクバー分の文字数なんですよ。
これくらいの文字数かけないと、なんもできないよってね、お知らせの意味も込めましてね。
こんなに長い文章、書けないとおっしゃるんですか?
……書いてみてもいないのに?
……おなか、すいてるんですよね?
……書いたら、何か食べられるんですよ?
……おなかがすきすぎて、何も考えられないのですか。
そうですね、じゃあ、おなかがふくれて創作意欲がわきましたら、またぜひお越しください…。
いえいえ、お気をつけてお帰りくださいませ!
……無事抜け出せると良いですね。
いらっしゃいませ、いらっしゃいませ~!
いらっしゃいませ、いらっしゃいませ!
おなかの空いている人はいませんか!
シャワーを浴びたい人はいませんか!
横になって眠る場所が欲しい方はいませんか!
お金がなくて、ただ干からびていくことしか選択できない人はいませんか!
お金のない人は、ぜひ当店へ!!
当店のご利用に、現金は必要ございません!
当店のご利用には、物語の執筆が必須となります!
おや、アナタは……以前強制退店になった方ですね。
本日は、2000文字は書くと意気込んで来たんですか、楽しみです!
では、こちらのお席にどうぞ!
……お客様、その物語は、受け取り不可みたいですね。
この物語、以前に誰かが入力したものですので、はじかれちゃうんですね。
……はあ、一度読んだことのある話を、自分流にアレンジしたとおっしゃるのですか。
ですます口調をやめただけでは、ちょっと。
主人公の名前を和名に変えただけでは、ちょっと。
誰もが知っている物語を書くだけでは、ちょっと。
オマージュなら大丈夫なんですけどね、ただのパクりはダメなんですよ。
システムがパクりと判断しているので、無理ですね。
……システムがクソだとおっしゃるのですか。
……責任者を出せとおっしゃるのですか。
わかりました、それではこちらの奥のお部屋へ、どうぞ?
血気盛んなのはよろしいことですが、儀礼を欠くのはどうかと思います。
……お客様は、神様なんかじゃないんですから、ねえ?
物語の神様を怒らせてしまうとですね、大変なことになっちゃうんですよ。
クッソつまんねえ駄作のモブ中のモブになっちゃったり。
あほみたいに不幸盛り込んだえぐり系小説の主人公に抜擢されたり。
人気ラノベの嫌われ者になって二次創作であんなことやこんなことされまくりになっちゃったり。
怒らせない方がいいんですよ、わりとマジで。
人間だったら死んで終われるけど、物語だと風化して読まれなくなるまで消える事ができないですからね。
物語を読む誰かがいる間は、ずっと存在し続ける事になりますからね。
あ、無事に物語の世界に転生させられていったみたいですね。良かったです。
あ、いらっしゃいませ、お客様は……いつも御贔屓にしていただいております!
お席にご案内いたしますね!
先週の物語、めちゃめちゃ良かったです!
…ええ、数字が多くてどうなることかと思いましたが、無事着地できましたもんねぇ、さすがです!
…本日は貯文字目的ですか、なるほど!
ええ、まだ4000文字ありますから、ごゆっくりご入力下さい!
いらっしゃいませ、いらっしゃいませ!
物語を書いて、欲しいモノを手に入れたい方はいらっしゃいませんか!
どなた様もお気軽にご利用ください!
あ、いらっしゃいませ!
お客様は、ご常連の方ですね!
只今お席にご案内……え?
私の話を書いてみたいとおっしゃるのですか!
ええ、大歓迎いたします!
ちょっとイケメンに書いていただけたら…ポテトフライを差し入れさせていただきます!
ええ?!当店のシステムを広く世の中に知らしめていただけるのですか!
ありがたいお話です!ドリンクバーもサービスいたしますね!
なにやら嬉しい展開がありました!
私、俄然ヤル気が湧いて参りましたよ!
これはいっそう頑張らねばなりません!!
いらっしゃいませ~!
いらっしゃいませ~!