ドーンのバーンでウー
辺りに何にもない国道沿いを大型トラックが勢いよく横を通りすぎていく。
リュックを背負いヒッチハイクをしてここまで来た青年はその風圧に驚きながら立ち止まりスマホで電話をかけていた。
「また話し中かあ、困ったな結構山んなかだし。この先たしか」
電話を切り検索すると、2キロ先に土産物店を見つけた。
「2キロかぁ、あきらめてタクシー…いやいやそれはもったいない、やっぱそこで聞くしかないか。」
と言い歩き出した。
その頃、民宿山の里では知り合いに電話をかけまくる女将がいた。
「ほんとに来るとは思えんけど、心配じゃけん見掛けたら言うてな」
と言い電話を切った女将は慌てて調理場に行き、おにぎりを作りはじめた。
「だから何でおにぎりなんだよ」
「おにぎり要るって言うたやろ」
「いやだから、要るけど」
「つべこべ言わんの」
なんだか落ち着きのない女将にあれは
「てかさあ慶一のこと気になるんだよね、だから電話かけまくったんだよね」
と言うとドキッとした女将が
「あれは仕方なくに決まっとる。ほなってまだ雪残っとるし、もしどっかで行き倒れとったらええ迷惑じゃけん電話しただけじゃ」
と言い取り繕う女将にニヤリと笑いながら
「そんなこと言うんだぁ、さっきまであんなに心配してたのに」
とあれが言うと女将は
「あれは突然のことで慌ててしもうただけじゃ、黙っとり」
と言いながらせっせとおにぎりを作っている女将。
あれはため息をつきながら
「ふーん、孫のためにせっせとおにぎりを握ってるくせに…本物に頑固だよね」
と突っ込んだ。女将はムッとして
「ほなけんアンタのためって言うとるやろ、黙っとり。そうや撮影を頑張ってもらう2人にもあげようか」
と言う女将を見ながら、あれがニヤリと笑い
「慶一がお腹すかせてるかもって心配で作ったおにぎりのお裾分けをもらえるなんて、有りがたいなぁ」
と嫌みを言うあれを女将はキッとにらみ
「ほなけん、ちがう言うとるやろ!」
と怒鳴り
「田舎は嫌じゃ死んだ父さんの跡や継がんって勝手に出て行ったのに、子供が出来たけん金がいる会社始めるけん金がいるて、金のことばっかり言うて来たアイツの息子なんやで、そんな孫なんて知らんわ」
「ほうほう」
「ほんまやけんな」
と言いぬか床から美味しそうな漬け物を出し始めた。
「それ一番美味しいやつ」
物欲しそうにあれが言うと
「これはあげません」
と女将にピシャリと言われムッとしたあれが
「でもさぁそれとこれとは別だろ大切な孫の慶一をほっといて良いのかなぁ」
と意地悪くいうと
「ええんじゃ!ほっとけばええ」
と言い漬け物を切り始めた。1切れがほしくてウロウロするあれは
「えー息子の会社が成功して、雑誌に載ってるの見て喜んでたの知ってるのに」
と頬杖をつき、かわいい顔をして女将を見るあれに
「おようそしてもあげん、それにあれはなぁお客さんがおいてった雑誌にのっとっただけじゃ。どうせ家出したってのも嘘じゃ後になって金かせとか言う気なんじゃわ」
と言う女将に
「後で後悔してもしらないよ」
とあれが言った。女将はそんなあれに
「するわけない」
と言いながら漬け物を一切れ口にいれた。
「あー食べたかったのに」
とあれが辛そうに言うと電話が鳴り出した。女将は慌てて
「ハイハイ今出ますよ」
と言い電話に出た。
「はい山の里です。え?お前は慶一か?慶一なんか?お前いまどこにおるん慶一、慶一」
突然、電話が切れた。あまりのことに呆然とする女将にあれが
「何?どうしたのさ」
と聞くと女将は目を白黒させながら
「なんや分からん突然電話が切れた」
「ほうほう」
しばらくして、また電話が鳴り出した。
女将が息を整え電話に出た。
「はい山の里です。はい慶一は孫ですけど…え?警察?警察がなんのようですか?何!孫が慶一が事故を起こしたって‼そんで相手が足を挟まれとって切らないかんかもしれんて!」
突然のことにボールやらをカランカランと落としながら倒れ込む女将にあれが駆け寄り
「ちょっと大丈夫?」
と声をかけていると
「今のなんの音?」
小腹がすいて食堂にやって来ていた瞳と奈々子が音に驚いてやって来た。
そして奈々子が
「女将さん今の音なんですか?」
と声をかけ見ると倒れ込んでいる女将がいた。瞳は慌てて駆け寄り
「えっ?どうしたんですか大丈夫ですか」
と支えた。電話はつながったままらしく
「もしもし」
と受話器から声がする。あれは瞳に受話器を渡した。
「え?私」
と驚いていると
「いいから早く出て」
と言うので瞳は仕方なく電話に出た。
そんな瞳のかわりに奈々子が女将を支えた。
「あの~いま取り込んでましてまた後で電話してあっかけなおす?はいわかりました」
と答えると電話は切れた。瞳は受話器を戻しながら。
「また電話してくるって切れたんですけど、いったいどうしたんですか?」
と女将に聞くと
「慶一がドーンのバーンのウーの」
と支離滅裂なことを話している。
そこに旅館組合の組合長と孫の健太がやって来た。
「竹さんおるか?今日の取材じゃけど明後日に変更してもらえんか」
と声がした、女将はハッと我に返り
「組合長やいかな」
そこで我に返るんかい!
とアレと瞳と奈々子は心のなかで突っ込みを入れていた。
ヨロヨロしながら玄関へ向かう女将を奈々子と瞳は慌てて支えて歩き出した。
2人に支えられやって来た女将を見て組合長は驚いて
「竹さん、何じゃどしたんじゃ」
と言った。そこに飛び出してきたあれがしきりに組合長の肩をたたき
「実は、さっき電話があって孫の慶一が事故して大変なことになりそうなんだよって、あーこの人見えないし聞こえなかったんだわ」
と落ち込んでいると健太と目が合った。驚いた健太は慌てて
「じいちゃん、じいちゃん、そこになんかおる…なんか言いよる」
と言ったが見えない組合長は
「健太ちょっと取り込んどるけん待っとけ、竹さんはよ座り」
と健太を押し退け女将をソファーに座らせた。少しムッとした健太は
「ほんまやのに」
とすねていた。そこに昨日から止まっている小日向さん夫婦が帰ってきた。小日向の旦那さんはのんきに
「只今、無事に帰ってきました❗️」
と言うと小日向の妻が
「あなた、それどころじゃないみたいよ」
と言った。あれはため息をつきながら
「この二人も見えないしなぁ」
と言い辺りを見回し瞳と目が合った。慌てて目をそらす瞳にアレはニヤリとして近寄り
「ねえ、あんた見えるよね」
と言った。瞳はひきつりながら一点を見据えている。あれは舌打ちをして
「無視はないよねぇ見えてたよね」
と顔を除きこんだ。瞳は虚ろな目をしながら
「絶対に見えてないから」
と言ったがあれはニヤリと笑って
「見えてるし聞こえてるしかわりにみんなに言ってよ」
と言うとものすごく困った顔をした瞳が
「なっなんで私」
と言った。あれは
「いいから女将さんの孫が事故を起こして相手が大怪我してるって言って」
と瞳に言った。瞳はビックリして
「えっそうなの?」
と大きな声を出した。そんな瞳に驚いた奈々子が
「ちょっと瞳どうしたのよ?」
と言うのであれは慌てて
「ほら今だよ早く」
と促した。瞳は覚悟を決めて
「わかったわよ!あの、女将さんの孫が事故を起こして、相手が大怪我してるらしいって電話があったそうです。」
と言うやいなやみんなが
「えー」
と言った。ふと奈々子は首をかしげながら
「さっきは支離滅裂過ぎて聞き取れなかったし、そんなこと言ってなかったようだけどなんで知ってるの」
と突っ込まれて瞳は慌てて
「えっやだなぁ女将さんがさっきちゃんと言ってたじゃない」
とごまかすと奈々子は
「そうだったかしら?おかしいなぁ」
とまだ不思議そうにするので瞳は奈々子の両腕をもって目を見て
「奈々子、私を信じて」
と言うと奈々子は頷いた。話を聞いていた組合長が
「それって竹さんの息子の源一くん所の慶一君か?」
と聞くと、女将が慶一と言う言葉に反応して
「慶一~慶一~」
とウロウロしだした。組合長は慌てて
「こりゃいかん仲居のあやめさんはどしたんな?おらんのか」
と聞くと女将が
「叔母さんの具合が悪うてしばらくおらんのじゃ」
と辛そうに言った。組合長は
「そりゃ困ったのう、とりあえず部屋で休んだ方がええな」
と言い連れていこうとしたとき小日向の夫が
「おれ手伝います」
と言うと小日向の妻も
「私も」
と言い女将を支えて歩き出した。組合長は瞳と奈々を見て
「悪いけど電話が掛かってくるかもしれんけん居ってもらってええかぇ」
と言った。瞳は頷き
「はい分かりました」
と言った。組合長は健太を見て
「健太この人らとちょっとおってくれな、ほなな」
と言い去っていった。
ポツンと残された瞳と奈々子と健太とあれ。瞳と健太は目配せをしてあれに近寄り腕をガシッとつかんだ。
驚いたあれは
「あれこれって捕まった?」
と言った。そんな瞳と健太を奈々子は不思議そうに見ながらソファーに腰掛け
「てかさあ、何時かかってくるのか分かんないんでしょ」
という奈々子に瞳が
「そりゃあ、そうだけど」
と言うと
「だよねーてかさぁ私眠くなったから電話があったら起こしてね」
と言いソファーに寝転び眠り出した。
3人は声をあわせて
「お前が最強だよ」
と奈々子に突っ込みをいれた。