1話 この歳で。。
1話 この歳で。。
「くそ!またあかん、、、」
銀色の玉が慈悲もなく下に吸い込まれていく。
思わず台を叩きたくなる、、がやめる。
深いため息…
「まさかの残り1000円で確変が来たのに、まさかの単発…」
なけなしの1万円を握りしめ、朝からパチンコ屋に行く。
時間は、まだ9時40分。
1万円が40分でなくなった。
トボトボと店外に出る。
「はあ…明日は給料日だからなんとかなるが…」
と、寂しく1人ボロボロの財布を見る。
「1000円札1枚と、、、400円か、、」
ここで、パチンコ中毒者の考えが頭をよぎる。
「400円、、今日カップラーメンで乗り切れば、、400円でもいける、、残り1000円でラスト勝負いける!!」
このラスト1000円からの大どんでん返しで何度救われてきたか、、
いわゆるパチンコジャンキーのあるあるだ。
「だが、、今日は辞めよう、、なんか疲れた、、」
この判断が、後々大きな『大変革』に繋がる事にこの時は知らない。
2019年12月24日。そうクリスマスイブ。
だが、年明けの2020年にはそんなお祭り気分など吹っ飛ぶ、ある意味『地獄』の日々が迫っていた。
車に乗り、スーパーに到着する。
「世間はクリスマスか、、子供も多いな、、」
そう思いながら、駐車場の脇を見る。
「ん?宝くじ売り場か、、」
頭に浮かぶのは400円。
「まあ…買ってみるのもいいか、、」
と、車を降りる。
クリスマスなのに、妙に暖かい。
朝一番のスーパーだがさほど客はいなかった。
駐車場脇の宝くじ売り場に向かう。
『クリスマスの朝イチに、宝くじ売り場て、、何やってるんだか、、』
その惨めな想いの類いはもう慣れっこになっていた。
俺は慣れた手つきで鉛筆と申込み用紙を手にする。
『どうせ、2口しか買えないから、ここはロト6で億狙いや!』
と、心の中で意味のない気合いを入れた。
そんな気合いとは裏腹に、クイックピックの箇所に無造作に2つ印を付けておばちゃんに渡す。
番号6個選ぶのが面倒だった。
そして、その宝クジを買った事を忘れて2019年は終わる。
俺の名前は、高西 健。今年で50歳になる独身男だ。そう。この歳で独身。なぜならば、、
お金がないからだ。
貯金はゼロ。この歳で貯金ゼロ!もう人生としては終わっている。…
が、それは誰にも教えていない秘密の俺。
外ヅラは一流会社の敏腕営業マン。見た目もまあまあイケメンで、50歳には見えないぐらい若く、いわゆる『イケてるおじさん』だ。
当然得意先の女子にもモテる。
なぜ独身なのか?と噂になるほどだ。
35歳オーバーの独身女子からもデートに誘われる。
何しろ、一流会社なら収入もいいと思うのが相場だ。
しかし、俺はそんな誘いには行かない。
いや、行けないのだ。
なぜならば、、
お金がないからだ。
『パチンコ依存症』
誰にも言えない、俺の趣味。
趣味?
そんな訳ない。
もうジャンキーだ。
そんな事は分かっている。
が、分かっているだけで理解はしていない。
それが、パチンコ依存症だ。
もう、、辞めたい、、どうしたら辞めれるのか、、
毎日、毎日、その苦しみから逃れられず苦しんでいる。
2020年1月。
実家でのんびり里帰りをしていたが、実家に帰っても毎日パチンコホールに通っていた。
親にはほとんど会っていなかった。
では、なぜ実家に帰るのか?
正月料理が食べれるから?
ゆっくりできるから?
親の顔が見たいから?
いやいや、パチンコジャンキーをナメたらいけない。
答えは、
実家にあるパチンコホールに行きたいから。
たまにしか行けない、思い出の実家のパチンコホール。
長期休みになると、そこに行くのが楽しみで実家に帰っていた。
正月休み明け。
仕事が始まる。
が、さほど憂鬱ではない。
なぜならば俺は仕事ができる。できるから楽しいのだ。
仕事は苦ではなかった。
もう一つ理由がある。
財布の中身を忘れられるから、、。
つまり、負けた事を仕事に没頭して忘れられるからだった。
どうしようもないパチンコジャンキー。
しかし、今年の正月は大きく勝てた。
そう、20万程。
今年はついてるなと思った時に、ふと年末に買ったロトを思い出す。
『あー、そういえば2口買ったな、、』
6個の数字が当たれば億の当たりだ。
仕事のバスの帰り道。座席が空いてたのもあり周りは誰もいなかった。
おもむろに、携帯で宝クジの当選番号を見る。
そして、財布に入っていたクジを見る。
……??
ん??
!!?
ん!?
5つ、、
『5つ当たってやがる!!!』