第二話:シンクロニシティ後編
予知夢から覚めたシュンシュウは死なないために行動を起こす。
1
正夢。夢で見た内容が現実でも起きること。シュンシュウにはよく起きることで体質と言ってもいい。新時代になりしばらくすると、旧時代には超能力と言われていた特異能力が遺伝による特異体質と分かったのである。俗に「魔術体質」など呼ばれていた。
シュンシュウは二度目の夢から目覚め、未だ寝ぼけた意識を起こすために身支度を済ませる。
(久しぶりに見たな正夢。しかし、二回連続ってあったけな・・・)
と後ろ頭を掻きながらキッチンへ向かう。するとシュンシュウの視界にデフォルメされたロボット模した姿のAI「ラミボ」が現れる。
「朝ごはんはどうなさりますか?」
「ラミボ」のおすすめする朝食メニューがリストアップされる。そのメニューは最高効率で栄養素が摂れるそして、絶品という完璧な朝食である。
「いや、いい。」
「今日もご自分で作られますか。レシピは参照されますか?」
「大丈夫。それよりなんか動画」
すると「ラミボ」は「かしこまりました」とその姿を消しその代わりに適切な大きさのホログラムモニターが出現し、今日目玉になるニュースが流れだす。
この第一勢力は科学技術に特化した勢力。料理や家事はすべてAIが行う。その仕事ぶりは熟練の家政婦であっても見劣りするほどの出来栄えであった。AIの姿も味付けもその人好みに設定することができる。よって本当の意味での最高の家政婦となった。
シュンシュウは第一勢力出身ではない。もうここに来て長くなるがどうしても完璧な仕事さばきに一種の気持ち悪さを覚えている。しかし、便利なのでどうしても利用してしまうが人間である。
キッチンにあるコンロに立って淡々と作業をしていると、呼んでもいないのに「ラミボ」が視界に出現した。
「シュンシュウ様は最近よく自炊なさりますが、何かご不満があるのでしょうか?あればなんなりとお申し付けください」
「ああ、気にするな。最近できた趣味ってやつだ」
「それは何よりでございます。ですがいつでもお頼りくださいませ」
すると、「ラミボ」は姿を消した。
『さて本日は、歴史的記念日となります。』
そんな女性ニュースキャスターの声にシュンシュウは意識を持っていかれた。
すると第一勢力の首長でありこの島の責任者である一人の人物が第七勢力領内のとある「聖地」に向かっている映像が流れる。かきまぜた卵をフライパンに流して火を通しながらも耳を傾けた。
ニュースの内容は要約するとこうだった。
「十三王」の一つである「風の王」の叙任式が行われるのでそこに我らが「光の王」参席するとのこと。これで現代の「十三王」は所在不明も含め十人目である。そして第七勢力以外で首長となるのは二人目でなったとのこと。その任ぜられた「風の王」となった男の演説を行っている映像が短いながらも流れ、行方不明になっている二人の「十三王」の安否はいかに!といった具合だった。
(十三王か・・・)
そんなことを思った。
(どうしたものか)
シュンシュウはできた朝食を口にほおばりながら考える。朝食とは言っても簡素なものである。作り置きのコンソメスープとスクランブルエッグ、ベーコン。やや野菜が足りない気もする。
(二人は完全に顔見知りで俺案件なのは間違いない。心当たりが有りまくってる)
シュンシュウの懸案事項は最初の手錠のことなどではなく、より現実のあるそして直近で起こりうる校門前でのゴタゴタである。
(もう一人は何となく見たことあるような、無いような。酒のせいかモヤモヤしてんな)
しかし、シュンシュウの記憶の中にはあんな個性的なお友達はいないというのが30分にわたる長考の結果だった。そんな結果が出るころには朝食を済ませ、皿洗いを「ラミボ」に任せて制服に着替えしっかりとした身なりに変わった。
(まず整理しよう)
そう思って、朝食を済ませた四人掛けのダイニングテーブルの椅子に腰かけた。
シュンシュウが起きた頃とは違い、太陽の光が燦燦と輝きだして静寂な朝の静けさと涼しさは賑やかで暖かなものになった。登校時刻が迫ってきたのである。
(今日顔見知りの二人は確実に校門を正門で通ることを知っている。店主にはイツキが来るようなこと言ったような気もする。あのボンボンは・・・部下を使って調べでもしたんだろう。)
何か手をうつならそろそろ家を出なければ、イツキとの待ち合わせに間に合わない時刻になりつつあった。すでにことを済ませたら、もしかしたら間に合わないかもしれないという不安がシュンシュウの頭の中で泡のように浮かび上がり、新たな気づきの波紋で消えてしまった。
(もしかしたら・・・)
2
シュンシュウは正門についた。夢の時とは違い大勢の人々が行きかう時間。決して自動連射式重機関銃が働くこともない。
「思ったより早いじゃないか。「赤鬼」の傾奇者。」
「相変わらず偉そうな面してんな、ボンボンのお坊ちゃん」
一触即発な二人の有名人。そして、そんな二人がお互いに敵意むき出しにして対面している。そんな雰囲気を察した群衆は、ある者は避難。ある者は野次馬、決闘の場をつくるように先導する者、そしてそれを触れ回るものまで出始めた。
「昔から煙と馬鹿は高いところが好きって言って、そんなことはねぇと思っていたがどうやら本当らしいな」
この正門を通り抜けるに十数段の階段を上る必要がある。シュンシュウは階段の下。ボンボンのお坊ちゃんと呼ばれている男がこの門の中とで対面している。
「おいおい、若き精鋭たるカシマ・シュンシュウ君。今日持っている得物はその脇差だけか?」
「だったらどうした?敵を目の前にしてのんきに心配か?」
すると、ボンボンのお坊ちゃんと呼ばれる男は階段を一段ずつ降り始めた。
「敵だなんて、そんな言い方はないじゃないか。同じ第一勢力の同志、だろう?だから心配しているのさ。いつも振り回していた身に余る大太刀を廃棄した業者の皆さんをね」
「こいつはどうも。残念ながら若き精鋭はたかがお前程度に得意の得物は使わないんですよ」
ボンボンのお坊ちゃんと呼ばれる男はシュンシュウの目の前に立った。
「フ、フハハハハハ」と両者は笑い出した。
「言うじゃないか問題児!」
「ととっとこいよ!落第野郎!」
すると待ちかねた野次馬が湧いた。その野次馬は正門前を決闘の場を除く埋め尽くすほど大きくなっていた。
「劣等血族め!言わせておけば、この「赤鬼」風情がぁぁぁ!!」
と叫んでシュンシュウに向けて手をかざして詠唱をし、手のひらから火炎の「魔法」が直線に放射される。しかし、シュンシュウは躱さずただ直立している。シュンシュウの眼前に迫りくる時、目の前に人影が出現した。その男は光学式迷彩を解除して迫りくる炎を、突風を起こす「魔法」で打ち消したのである。
野次馬の声がどよめいた。突然、二人との間に人が出現したのである。しかもその男がこの辺りでは見知らぬ男だったこともありより衝撃を与えた。ただ、シュンシュウだけはそうではなかった。
「大丈夫ですかカシマ様!」
「ってお前は誰じゃい!」
シュンシュウはその男のケツを蹴っ飛ばした。
その後、第二戦闘科の警備隊にこの場を収められた。彼らが来ると野次馬は一目散に逃げて行った。処罰を恐れたのである。警備隊がボンボンのお坊ちゃんと呼ばれる男を逮捕している間、見知らぬ三人目男と話をした。簡潔に言うと彼はシュンシュウの仲間だった。彼曰く、シュンシュウの警護が任務だと言っていた。どうやら、夢のときにイツキを見ていた時は脱水症状だったらしく、朦朧とした視界の中で攻撃されたことだけがわかり、結果ああなってしまったようだった。そう、話している途中で彼が倒れたのである。シュンシュウは終始、彼についての記憶が朧気であった。ここで新事実、彼は光学式迷彩だけではなく変身の「魔法」を使っていた。そして彼は彼でなく彼女で、所謂エルフと呼ばれる者だった。
「相当疲れたんだな。「魔法」も解けちまっている」
シュンシュウは医療ロボットが担架で運んでいるのを警備隊の男と見ていた。
その男は「う~ん」とうなっているシュンシュウの左肩をつかむ。
「どうした、カシマ。まだ思い出せんのか?」
「そうなんだよな・・・」
「ま、今回のことはこっちでうまくやっとく。相手が相手だしな。にしても、トラブルメーカーは健在だな」
「人気者はつらいぜ。やってみるかキンヤ?」
「遠慮しとくぜ、トラブルは二つもいらないさ。俺の器量じゃ一日一つあれば十分さ」
「二つ?」
「ほぉら。懐かしい顔のお出ましだぜ」
とシュンシュウの頬を両手掴み、大通りの方に向かせる。少なりつつも未だ人通りの多い大通りの真ん中が、何かを避けるようにだんだんと開けてくる。
(・・・あれはなんだ?よく見えない)
「じゃ、俺は後始末あるから行くぜ。シュンシュウ、イツキによろしく~」
警備隊はパワースーツ型の「魔力変換機」を起動させて上空で編隊を組んで飛んで行った。
(ああ!すっかりイツキのこと忘れてた・・・)
すると怒りで満ちたイツキがシュンシュウの眼前まで疾走してくる。文字通り、ほんの一瞬でそこまで来たのである。
「シュンシュウゥゥ!!!」
シュンシュウは「ちょっと、待って!」と両手をあげて抵抗の意志がないことを示す。
しかし、イツキはシュンシュウの背後にまわり、シュンシュウに膝カックンをかまして重心が崩れたところを足払いで地面に這いつくばらして、シュンシュウの頭部に向けて右足を振りかぶる。
(し、姉妹そろって怒ると手がつk———)
痛々しい鈍い音が悲しく大通り、正門前で鳴る。イツキ、登校初日のことである。
(軍靴の鋲が頭蓋骨に響くぜ・・・)
3
それからイツキの転入や入居手続き等々を行った。と言っても第一学園所属の証であり、階級を示す徽章をもらうだけで本部での作業は終わる。第一勢力は情報統制がしっかりしており身分を証明する徽章さえあれば、転籍から入籍まですべていつでもお手元の端末から行うことができる。しかし、イツキはあまり機械と仲良くできない。
イツキが徽章を貰って、様々な説明を聞きつつ専用のオペレーターAIと二人三脚でなんとか設定を終えた本部からの帰りである。
「引っ越し手伝ってよ、シュンシュウ」
「なんだ、テレポートじゃないのか。めんどk——」
と言い切る前にイツキの身に刺さる視線に気づき言葉を咳払いで濁す。
「だったらキンヤも巻き込んでやろう」
「え?キンヤもいるの?」
「ああさっきな。イツキに激しい愛をぶつけられる直前までいたぞ」
「何?もう一発いっとく?」
「うれしい提案だけど、遠慮するよ。とそろそろ見えてきな」
イツキが暮らすのは、シュンシュウが暮らすところよりもより下層にあるアパートサイズのマンションの1LDKの部屋だ。
中に入ってみると、事前にホログラムを設定していたのだろうか彼女の実家の和室を思わせるような部屋の内装だった。そんな畳の香りを感じさせる部屋にそぐわない段ボールの山と和式の家具。
「多すぎないか荷物?」
「いやー、あの家を出てからお世話になった先の人たちが、あれもこれも持ってけって」
「なら、仕方ないな」
「まあ、これでも半分だけど」
「シュンシュウは「十三王」って会ったことある?」
彼女が持ってきた家具は引っ越し業者が適当に配置していたおかげで、荷解きは重労働ではなくなった。はずが、配置にこだわるイツキの感性に合わなかったらしく、気の済むまで動かした後、段ボールを開封し始めた頃にイツキが話を持ち掛けた。
「なんだよ急に、まぁあるよ」
「神仏妖魔さえ従える人類の王ってどんな感じなの?」
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「いいから。ニュースでたまたま見た的なやつだから」
「なんだそれ。対して他の人間と変わんないと思うけどな」
「そういえば、どうやって選んでるんだろう?」
「それは第七勢力の持つ権能で選んでるんだろう。今日の「風の王」みたいに一部例外はあるけど」
「そうじゃなくて、その第七勢力の人たちは一体どうやって、つまり何を判断材料にしているのかなーって」
「・・・さあな」
シュンシュウとイツキが段ボールを半分ほど片したところでインターフォンが鳴った。
「どうだ、終わったか~?」
「キンヤ、見計らったな?」
「どうだかな。イツキちゃん、おひさ。美人になったね」
「なんだか男前になったかな?今日はありがと。どうぞあがって、こんなところですが」
キンヤは懐かしそうに玄関で靴脱ぎながら「テレポートにしなかったの?」と同じようなことを聞いた。
「この間までお世話になったところがこの部屋よりも大きくてね」
「そうだったか。転送する部屋と部屋の家具の配置と広さをそろえないといけないからな~」
「へ~」
「カシマはどうだったけ?」
「俺はめんどくさいから行った先で買ってたと思う」
イツキが二回、パンパンと手を叩く「二人ともおしゃべりは作業しながら」とキンヤに軍手を渡す。
「イツキがそれを言う?」
「カシマも人のこと言えないんじゃないかな」
三人が笑った。なんだか懐かしい雰囲気が三人の中の高揚感をより高めた。
あらかた荷物が片付いた頃には、ベランダから見える水平線を大きな火の玉がメラメラと燃やしていた。三人並んでその光景を飲み物片手に眺めていた。
「よかったのか?これ」
「そうだぜ、イツキにそんな懐の温かさがあんのかよ」
「いいの、いいの。お礼っていうのと、この転送される自動販売機っていうのも見てみたかったし」
「まあ、わからなくもない。カシマは一時ハマって転送口に張り付くように見てたもんな」
「初見は誰だってそうなるだろ?だって瞬間移動だぜ?これが見られるのは今のところこの第一勢力圏内だけだしな」
「でも高いけどね。正直、同じ値段で三本は買えるんじゃない?」
「違いないね。カシマはもっとお金へのルーズさを何とかしないと」
「いいんだよ、その分俺は稼ぐ男だから」
「またなんか言ってる。明日は休みだしどっか行きたいね」
「そうだな、俺も警備隊が久しぶりに休みだし三人で遊ぶか!」
「俺は普通に仕事あるけど、遊ぶぜ!」
「今日もあったんじゃないのか?」
「今日はちゃんと休みを取ったさ」
「さすがシュンシュウさん、やることが違うぜ。色々と案内してほしいな~」
「だったらよ、商業区がいいんじゃないか?パーっとやろうぜ」
「よっし、決まり~」
「カシマ、大目玉くらっても知らないぞ?」
夕暮れ迫るベランダに照らされる三人の笑顔は、おそらくシュンシュウにとっても、キンヤにとっても、イツキにとってもおそらくこの一年で最も安心する情景だったように感じた。
「こんな日もずいぶんと懐かしい」
キンヤが水平線を真っすぐ見つめ、過去に思いを馳せる。キンヤにとって、いやこの三人にとってこの一年は生涯忘れられない出来事の連続だった。
「・・・カルスタフの惨劇」
イツキがつぶやいた。その名はとある事件を指す。第三期戦争終戦後、つまりは間戦期に宣戦布告もなく、そして制定された戦場でもなく第三勢力本土に強襲をしかけ、実質的に第三勢力を第一勢力に支配された。
「一番つらかったのはイツキちゃんじゃないか?亡命なんて今の時代ありえないことだしな」
曇天のような彼女の暗い面持ちに光が差した。
「最初は逃げるので精いっぱいだったけど、亡命先の人たちと仲良くなってねー。正直楽しい思い出ばっかり」
シュンシュウとキンヤの目線が交わった。どうやら二人が思っていたほど悲惨な目にあっていないことは友人である二人にはよくわかった。
「二人は「適化」ってしたの?」
イツキは恐る恐る聞いた。
「いや、「不死身」ってのに不信感や不安感があってね、まだしてないけど。視線は痛いよ」
「適化」とは第一勢力が作り出した「不死身」の形の一つ。しかし第三勢力という勢力は不思議な点が多く、「十三王」がいるとか、いないとか。「不死身」という技術がありながら、多くの人々は「不死身」を受け入れないという特徴がある。この第一勢力、第一学園では差別ではないが、衛生観念のような苦手意識が存在する。
「シュンシュウは?」
「してねえな。俺の生き方に反するからパスした。まあいい考え方として捉えている、ていう感じだな」
「なんかカシマ賢そうなこと言ってる」
「まあこういう話ぐらい真面目になるさ」
「空気、重くなっちゃったね」
「明日はあの頃のように気兼ねなく遊ぶか」
「そうだな。それはそうと飯でも食いに行くか」
「賛成―!」
翌日、娯楽施設の集中した商業区で楽しい一日を共に過ごした三人だった。
4
イツキがこの第一学園に来て一か月が過ぎた。最初は通行人に神がいたり悪魔がいたり、先生や教官が神獣や妖怪だったり人間だったりと毎度毎度驚いていたが、今ではもう異常が日常といった具合だ。
朝礼を告げる鐘が鳴る。生徒は割り振られた自分の教室の席に着座する。そんな中とある教室に、慌ただしい足音が近づいてきてその教室のドアを滑り込むように一人の女生徒が入室する。
「危なかったー」
「おはようイツキさん。ギリギリセーフだったね」
「おはようルチア。ちょっと戸惑っちゃった」
「仕方ないよ、教室わかりにくいもんね」
イツキは「ふー」と息を整えながら、美しい黒髪を澄んだ青色の毛先まで軽くなでる。
ルチアという女性は艶めかしい。というのがイツキの印象だった。
(相変わらず、露出が少なすぎる)
スカートは長く、袖は決して折らない。露出は最低限にとどめる。そして長めの前髪で心奪われる宝石のような瞳をぼやかす。他人にやさしく、気配り上手、そして三つ編みの相まって昔でいう学級長という風体から委員長と呼ばれているが、実際に彼女は委員長ではない。どうやら彼女は所謂サキュバスだと風の噂で聞いてその装い(よそおい)に納得がいった。
ドコーンとこの校舎の近くで爆発音のような轟音が聞こえる。この教室の責任者がそろそろ到着するという合図だ。
「座りましょうか、みなさん。イツキさんも」
「りょーかい委員長さん」
「だから私じゃないですよ」
すると教室のドアが自動で開く。昔でいう大学の講義室を模して造られたこの第72期普通科教室。そこに真っ裸のシュンシュウを引きずった美しい艶のある黒髪の人間女性が入室する。
「委員長、号令」
「今日、委員長は来ておられません」
「来てるじゃないか、ルチア・ガエターナ・フランシア」
「ですから私じゃないです。」
「まともに責務を全うしないやつを委員長とは呼ばん」
「ええ、そもそも委員長ではなく、科長が正しいかと」
すると床で横わたっていたシュンシュウが目を覚まし、立ち上がる。
「起きたか、問題児」
シュンシュウは「ハァー」とあくびをして軽く体を動かす、裸で。
「カシマ・シュンシュウお前は、厄介者の巣窟と呼ばれるこのクラスでも特に目立って厄介だ」
シュンシュウは周りを見渡して、どうやらここが見慣れた教室だと気づいた様子だった。
「見ろ、このクラスの面々をお前の裸を見ても何の反応も見せていない。年頃の女がだぞ?」
「なんだ、人が気持ちよく寝てるところ連行してきて言うことかよ。クリスティーナ教官殿」
「私を名前で呼ぶな、あと外で寝る事をお前の中で常識にするな」
「なんだよ、婚活うまくいかないからって、イライラしてんのか」
クラスの面々は思った。これはカシマ・シュンシュウが教官の斥力の「魔術」を込めた拳をもろに受けて、教室がまた青空教室となると。
「歯ぁ食いしばれぇ!!!」
刻印式の「魔術」が発動したクリスティーナの左拳がシュンシュウの体で衝撃波を放った。しかし、シュンシュウは吹っ飛ばされるとどころか右拳を合わせてその「魔術」を相殺させたのだ。
「どうだ、お得意「魔術」が封じられた気持ちは!やられるだけのシュンシュウ様じゃないぜ!」
「貴様何を仕込んだ!!」
とシュンシュウとクリスティーナが拳で殴りあっているところで、クラスの面々も確かにどうなっていると気になり始めていた。
「ルチアさんどういうことこれ?」
「いや私もよくわからない。「魔術」なら私よりもイツキさんの方がわかるんじゃない?」
「いやーわかるって言ってもあの斥力の「魔術」は専門外・・・」
すると教室の廊下側の壁が爆破によって人が通れるサイズの穴が開いた。
「呼ばれてないけど、ジャジャジャーン!」
と爆風の中から現れたのはシュンシュウと並ぶ変人コンビの片割れである。制服に白衣と常識的な装いに見えるが問題は頭部にある。決して見た目からは呼吸ができなさそうなポリエチレン製の真ん丸とした袋を被っており、その男の顔面にあたる袋の部分には的のような赤いマーク描かれている。
「あれやっぱりメイドインジャンカルロ?」
「その通りだ!イツキ君」
「あれは人の記憶を利用して一度受けたことある「魔法」「魔術」を解析し逆効果を発生させて、無効化するという「魔力変換機」を彼の右義手パーツに仕込んだのさ!」
「へーすごいじゃん!」
「これはクリスティーナ教官殿に一泡吹かせたいという個人的な願望によって作られています」
「さすが無駄な天才さんですね」
「ハ、ハ、ハ。言い得て妙」
「そういうことね、カシマ・シュンシュウ。だったら・・・」
するとクリスティーナは先ほどまでとは打って変わって、右腕に今までとは違う「魔術」を発動させている。
(これは流石にまずいか。・・・あえて受けてみせるこの右腕で!)
しかし、シュンシュウの予想とは裏腹にクリスティーナのアッパーがクリンヒット。シュンシュウの体は教室の天井を派手に壊して校舎から吹っ飛んで行った。
(な、なんじゃ、こりゃー!?)
シュンシュウは校舎が小さく感じるほど上空まで浮遊し、先ほどの教室があった校舎近くの木々がクッションとなって不時着した。
「これでよし。ハイ、お片付け~よろしく」
「ま、記憶にない「魔術」はどうにもならないね。いやぁ、発展のし甲斐があるなぁ」
クラスの面々は慣れた手つきで壁や天井、机等々を「魔法」「魔術」を使って掃除・整理させていく。
「シロサキ・イツキ!」
「は、はい」
「あの露出バカを連れ戻してこい」
「了解しました!」
教室を出ようとしたイツキをジャンカルロが「ちょっと待った」と呼び止めた。
「実はいいものがあるんだよイツキ君」
「え~。変なのじゃないよね?」
「今回は本当にすごいのを持ってきたよ!」
5
(あーいてぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)
シュンシュウはどこかよくわからない木々に囲まれながら枝々でできた擦り傷がヒリヒリと痛んでいた。
(もう、いっそのこと・・・寝るか)
するとだんだんと機械特有のエンジンのうなる音が聞こえて、シュンシュウの周りにある木々や草花がその機械から出力される風圧で大きく揺れる。
「シュンシュウー!生きてるー?」
「死んでるー」
「死んでたら「神殿」に行ってるんでしょ?」
「俺は「適化」してないから行かねぇよ」
するとイツキはシュンシュウに制服を渡して体の擦り傷を癒す「魔法」をかけた。
「イツキは「魔法」、上達したな」
「そうでしょ。意外に便利なのよね「魔術」とはいろいろ勝手が違うけど」
「そうだな。大抵のことは「魔法」でできるからな」
「シュンシュウも授業ちゃんと出ればいいのに」
「俺には俺のやり方があるんだよ」
「それはようござんした。それよりも話があるって教官が」
「珍しいな話なんて大体放置されるのに。よし、仕方ないから行くかー」
「シュンシュウ、ちょっと待ってて」
「なんだ?」と木々を抜けてみるとライダーモデルと呼ばれる簡単に言うと空飛ぶバイク型の「魔力変換機」。ジャンカルロお手製の電磁力と複数の「魔法」技術を駆使して造られたVer2.0である。
「すごいな、エルファードにも乗れるのか」
「すごいでしょ!ヘイヘイ―乗ってくかーい?」
「ぜひとも安全運転で頼む」
科長を除く第72期生普通科クラスの全員が教壇に立つクリスティーナに注視する
「今年この季節がやってきた!そう皆ご存じの「総火演」である!!!」