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世界よ、鬼がまかり通る!!!  作者: 西岡怜伽
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プロローグ+第一話:シンクロニシティ

あらすじ

「魔法」と呼ばれる「魔術」を再現した技術と不死身が成立した時代の不条理を一人の男がまかり通る!!!

世界観

かつて、宗教は否定された。そして人類は科学に基づいた資本主義、社会主義、進化主義というイデオロギーという教えを信じ始めていた。しかし、結果的に宗教もイデオロギーも信じることとなった。

家畜かペットにしなければ、他の動物は殺し、それどころか人類をホモサピエンスのみにしていった。人類は自由で平等で、しかし動物には権利がない。そんな人間至上主義的自由主義を捨てることとなった。


「魔術的効果原子」の発見、「魔法(魔術的現象再現法)」の確立。本来は特異遺伝子を受け継ぐ者たちが行う秘儀であるところの「魔法」・「魔術」。しかし実験と研究の過程で「魔法」を行うために必要なのが「魔術因子(魔術的現象再現因子)」だと発覚した。

「魔術」とは、古来より神々と悪魔などの超常的存在同士の戦争に巻き込まれた人々が超常的存在と戦うために与えられたものだった。しかし、神代から古代の移り変わりや超常的存在の隠居によって因子をもったまま衰退した。「魔術原子」を一般人類が認識し始めたことで今まで見えてこなかった超常現象が観測されるようになり、この観測現象の爆発的拡大によって「魔術因子」を比較的多く引き継ぐ遺伝子を持った人々が極秘技術であった「魔法」を扱うようになった。その急激な進化による人間社会の崩壊と、一部の動物や植物の神代復活によってあらゆるものの規格が崩れた――いや原点に回帰したのである。

しかし進化と言っても二通りに枝分かれた。「魔法」を行使するのに適している、直立二足歩行そして人間の持つ知性――無から想像し実現する力を持つようになっていくもの。体内に因子を持ちながら、体外にある空間上の因子を吸収し、その原子の特性に寄った進化を遂げた。身体の肥大化、硬殻化、等々取り上げればきりがない。しかし、空間上に存在する「魔術原子」は、少しずつではあるが増加するものの、放置すれば限度のある「魔術原子」が全勢力圏で枯渇するため、影響力強大な個体に関しては勢力問わず連合を組み、討伐することも度々ある。

三々五々となった勢力同士が新たな秩序や法の下にしのぎを削っていた、その勢力図は社会が崩壊したといっても基本的にはもとの勢力図と大差なかった。再び繰り返される愚かな戦争の幕開けとともに、一匹の神話時代の獣「神獣」の出現。その「神獣」によって人類時代の崩壊を招き、「神獣」討伐という大義のもと、停戦を余儀なくされた。

そんな混沌とした戦争時代を第一期とし、第一期戦争時代が終結した。





静謐な朝と夜の境。青々しく、そして気高い大樹。血管の如く大きく広がる枝々に生命の命脈を、幹に合わせた手のひらを通し、己の体の核で感じ取る。

 爽やかな風が吹いた。次第に彼を包み込む。空気は一気に暖かなものへ移り変わり、「世界」に朝を告げる。

 昨日、打ち明かされたまどろみの真実に、未だ動揺の揺籃である彼は、いったい何を思ったのだろうか。


プロローグ:時代の狼煙


新世界暦:92年 5月初旬 スノーグラスランド諸島南端。

 南端に存在していた前線基地は半壊し、海岸は(さじ)(えぐ)られたように地形を変化させている。基地の残骸には大勢の人間が横たわっている。皆等しく重傷で、中には死亡しているのが見て取れる。けれど救助に入れる人間はここにはいない。所々で火災が起き、近くの森林にまで広がっていた。そんな惨劇を隠すように深々(しんしん)と雪が降り積もる。

 一人の人間が、瓦礫に支えられるように座っている意識のない男を見つめる。

するとその男が立ち上がった。その動作に呼応(こおう)するかのように、横たわった一人の重傷の獣人が血液で染められた手をその男へ伸ばす。これが精一杯だった。出血量も著しくてもう意識を保つのもやっとだった。仲間も誰一人動くこともなく白く消えようとしている。

「遅いじゃねえか、「赤鬼」さんよ」

するとその獣人は意識を失って安心したように眠った。

男は周りを見渡す。己以外の味方はすべて倒れてしまった。理解はしていたのだ、これが人類史最高権威と言われる最強の人間に挑むということだと。

するとその様子を見ていた男が口を開いた。

「何故、不死身を受け入れない。「適化」でなくとも不死身は存在する。不死身を手にした時、君は永遠の輝きを手にすることができる」

「不死身・・・いい考え方とは思うぜ。だけどな、俺はその生き方はできない。永遠の輝きよりも、瞬間、瞬間を生きる、その方が美しいと思う」

「たとえ、寸前が死という闇でも?」

「人生は夜空。輝きだけでは、人生は美しくはならない」

「いいかい、シュンシュウ。君はまだ若い。大切なものを失うことは苦しい。それは君にもわかるだろう?今、彼女をこちらに返せば、君の愛おしい人、友人、仲間は君のもとへ帰ってくる。君がしていることは彼女らを死という闇に突き放すことと一緒なんだ」

「アレクシスは死が悪いことだと感じるか?」

「当たり前だ!人々の幸せは大切な人とずっといることだからだ」

「そうか」とつぶやいて、瓦礫に横たわっていた仲間が持っていた一振りの刀、これを左手に持って構えた。

「俺は死者の呼吸を繋ぐ!俺の未来にお前と言う壁は邪魔だ!」

「ならばどうする!」

「光の王よ、鬼がまかり通る!!!」

シュンシュウは半歩踏み出した。


第一話:シンクロニシティ


人類は進化した。第二期戦争時代によって確立した驚天動地の二大偉業。人類進化の根幹となったものそれは、不老不死である。不老不死と言ってもただしくは、寿命に達するまで、肉体的外傷、病気等々によって死亡しない肉体を手にするというものである。人類の規格の変わった我らを自らで「新人類」と呼称し始めていた。

 もう一つの偉業とは、第二期戦争時代中期に創られた「魔術」「科学」「魔法」によって精錬製造された、太平洋のど真ん中に7つに区分された島々。これは学術・交流・学園を目的としてつくられ、その7つの諸島を第二期戦争時代後に再造し、「魔術」「魔法」に関する研究兼戦争を行う場所を整えた。

そこは、神仏妖魔、宗派・主義を問わず様々な「新人類」や「神獣」「魔獣」などが暮らす神聖で荘厳な土地が完成された。

 新しい人類というだけはあって、所謂(いわゆる)エルフ・オーガ・ケンタウロス、獣人とされる人々など隠れてしまった様々な存在もここに含まれている。

 七つに分割された領土をそのまま世界勢力図と連動させ、この諸島での領土戦の結果が大陸の領土や決め事にそのまま影響する代理領土としている。次の日には自分の家の勢力が変わっているなんてこともあり、退去を求められるが、勢力間の転籍は厳しい制約もなく転籍可能なので、あっさりと所属する勢力が変わることも多々ある。

 戦争によって領土が穢されることも、死者も出ずに神仏妖魔、他の生物公認の最も苦情もなくそして生命倫理の是非について問われる決め方となった。

そんな新時代に生きる人々にとってこの代理戦争は、旧時代におけるオリンピックという感覚である。

 現在、第四期戦争時代の開戦から一年が経過した春爛漫(はるらんまん)一日(いちじつ)である。

まあ要約すると、神仏妖魔が手を組んで「不死身」と「戦場」を用意して、様々な揉め事や決め事を「魔術」と「魔術」を再現した「魔法」を用いた、クリーンな戦争で決めるそんな時代だ。



 「うっ」と声を漏らしつつも意識が徐々に覚醒し始め、後頭部に痛みを感じる。当然ここに連れてこられたのだろうか、こうなった原因がわからない。

ここは室内である。半月型の円卓がありその中心にただ一人の少女が、肘を机に置き、両手を組み、こちら見ているようだった。音を聞く限りでは視界に見えている人数よりも複数人居る感じだった。

「んんん!結論から言おう。」

意識が完全に覚醒した。どうやら自分は直立しているようだった。先ほどから聞こえる複数ある声の主達が真っ暗な部屋の中で自分の周りを囲むようにして立っていたが、その暗さ故に顔まではわからなかった。

 周りを見渡していると、その少女に注視していないことに腹を立てたのだろうか、少女の両脇にそびえたった二人の男が指を鳴らす。自分から見て左側の筋骨隆々とした金色の髪色をした白肌の大男と、右側には寸分たがわぬ黒髪をした大男達が手を鳴らしてこちらに威圧感のある視線を向けてくる。バキバキとなり続けるその音に驚きつつもゆっくりと振り返ると、自分の両手首にかかった手錠に備わった鎖がジャラと音を立てる。

机の中心に鎮座した少女の周りと自分の周りにだけ、天上にあるライトがこちらを照らしている。

(・・・って鎖?)

「手錠はめられているじゃねぇか!」

(おいおい、酔った勢いで少しハードなお店に来ちまったか?さっきからバキバキ鳴らしているのは高額料金ぼったくるつもり満々で脅してきてるな)

「カシマ・シュンシュウ。あなたの判決だけれど最前線豪雪戦場矯正プログラム二年コースね」

「おい!待てコラァ!!」

最前線豪雪戦場矯正プログラムというのは殺人が成立しないこの戦場において、監禁に次ぐ非常につらい厳罰である。

「あら、不満なの?」

シュンシュウは少し苛立ちを覚えた。その要因である彼女の容姿、そしてその態度である。容姿であるところの銀髪を二つに結った所謂ツインテール。位置は高い。それとは引き換えに体格は幼女。この幼女が先ほどから何の説明もなしに、しかもその物言いが高圧的で、どこと無しに苛立ちがふつふつと湧いてくるのである。そうシュンシュウはMではないのである。

「何のプレイか知れねぇが、いいから放せよバカ!」

彼女もその物言いに腹を立てたのか、立ち上がると同時に机を両手で叩き、息を大きく吸い込む。

「———っ」

 目が覚めた。閉められたカーテン隙間から伸びた青白い光が、打ちっぱなしのコンクリートの壁で反射する。外からは鳥のさえずる元気な声が聞こえる。まだ肌寒い。早朝である。

「んー・・・いま、なんじ?」

『午前4時50分です。』

と音声認識AIナビゲーター「ラミボ」がそう答えた。ベッドに横たわったままうなだれつつ「まだ5時じゃねえか」と声を漏らしていると、寝返った勢いでベッドから落ちる。

「あいた」

そのまま床で二度寝した。

何やら外が騒がしい。人々の行きかう声が、様々な営みが発生させる生活音。

「・・・やべ!今何時だ!」

慌てて起き上がり、ふらふらとした足取りで玄関を飛び出した。玄関のオートロックがカチっと起動するのをしっかりと確認はしつつも慌てて閉じかけたエレベーターに乗り込んだ。

 第一勢力本拠地である第一学園の居住区。多くの人類がここに居を構えている。居住区は1から4階級に分かれており、この第一勢力における「規約」という法律に基づいた4つの階級制に合わせた住居を与えられる。この島に住む多くの者が第4階級「兵士」に該当するため第四級住居がほとんどだが、戦場の最重要拠点であるとともに最新鋭の技術が日進月歩であるために本国よりも豪奢な住居である。

 そんな若き精鋭がひしめく居住区第四級居住部の複合型マンジョンにシュンシュウの住居はある。エントランスはかなり広く、小体育館くらいはあるだろうか。そのエントランスの内装はホログラムで構成されており、そのホログラムは従来のホログラム技術とは大きく違い「魔法(魔術的事象再現法)」を取り込み、ホログラムでできた植物や小物、手にとまる小鳥まで触覚がある。そのホログラムを管理人の趣味に偏った内装を気分次第で切り替えている。

「久しぶr——」

春を意識した内装ホログラム。和装建築物や風景の中に桜が舞い散っている。ホログラムだけではなく、この島では桜が見ごろを迎え、西から吹く潮風に桜の花びらが乗って行きかう人々を彩っている。そんな美しい情景にまるで絵画(かいが)ように女性がたたずんでいた。

挿絵(By みてみん)

「あぁ、久しぶりだな。こっちはすっかり桜満開だ」

しかし、彼女表情はこの美しき春にそぐわない、まるで黒く俊敏なカサカサなやつをみているようだった。

「どうしたんだよイツキ?」

「ねえ」とシュンシュウの言葉の尾をきるように強く声を発した。

「どうした?」

「・・・?」

しばらくの沈黙が流れた。実に3.25秒。謎の緊張感と気まずさがシュンシュウの時を遅らせたのである。

「なんで服着てないの?」

「ホギャッ!」

そのエントランス入り口付近に新調された制服を着た少女と、イチゴ柄のトランクスをはいた変態がいた。

「・・・って俺じゃねぇか!」

「ホント、何してるの?」

「いや多分、アルコールが抜けてねえのかな。さっきも変な夢見てたし」

「久しぶりに会った知り合いがこんな、酒飲みの変態になってて、悪い意味で見直したよ」

(顔は笑ってるけど目が笑ってねぇ)

「すぐ、服着てくる」

「ううん、いいよ。遅れちゃうし、行こうよ」

そう言ってイツキは振り返って歩きだした。毛先にターコイズブルーの入った美しい黒髪の頭上から、薄紅の花弁が1枚・2枚と落ちていった。

(パンイチで歩けってことですか・・・)



それからイツキに置いて行かれないように、先ほど乗り降りたエレベーターの扉が閉じようとするのを阻止して乗り込んだ。暗唱キーとして右手の中指をホログラムモニターにあて開錠。靴も脱がずに部屋の床に散らばった制服を拾い集めて着替えた。その間、AIナビゲーター「ラミボ」はその独特な機械音声で驚いた声を上げていた。

 てっきりイツキは先に行ったものだとシュンシュウは考えていた。しかしイツキは先ほどのエントランスに備え付けられている来客用のソファに前かがみの状態で座っていた。

「シュンシュウ、早かったね」

「朝のいい運動さ」

「そんな余計な運動は夜だけで十分じゃない?」

「何―、相手してくれるの?」

「それセクハラ、キモっ」

「ずいぶんと手厳しいな」

「シュンシュウさん。じ・か・ん、大丈夫?」

「じゃあ行こうか」

そんなジョークもそこそこに桜舞い散る通学路へ歩き出した。

 「見晴らしいいじゃん」

「駅の方が見晴らし良かったんじゃないか?」

「駅は人が多くてよく見えなかったの」

「ここもなかなかな人口密度だけどな」

「まーね」

この島の地形は平地の南方に小高い山。遥か上空から見れば前方後円墳である。小高い山の頂点は駅となっている。山の上部三分の一を「体育館」という名のコロシアムや様々な模擬戦場などもある総合演習場に再造されている。その駅は「商業区」と「体育館」をつなぐモノレールで、島の景色を感じることができる観光スポットとしてゆっくりと走ることでも有名である。駅からの大通りから始まる左周りの螺旋の坂。残り三分の二に一軒家・ビルディング・高級宿泊施設を、平地の中心にある島を象徴としこの島の天守閣である「神殿」を望む山の斜面にある「居住区」。「神殿」を中心に東西南北「研究区」・「鍛錬区」・「学区」・「作戦司令部」で構成される「本部」。「本部」は他の区画とはとは違い第一勢力下の第四階級以上でないと入れない仕様になっている。

「なんでホテルや旅館があったの?閉まってたけど」

「あの「体育館」では色々と島外向けの催し(もよおし)ものがあるだろ?」

「うん!私も子供の頃はよく見てたよ「総火演」。まあ直接来たことはないけど、でも「商業区」にもホテルがあるんじゃない?」

「それは一般向けさ、要人や丁重にもてなさないといけない方々も多くいるだろ」

「なるほど、それは丁重にしないとねぇ」

「にしても、この制服?軍服?ちょっとスカートが短すぎない」

裾の合わせ方とダブルボタンが特徴的なセーラーブレザーを軍服風にアレンジされたベース色白色で、襟や袖などの装飾色を朱色で統一したデザイン。第72期生の制服である。しかし、イツキの正確ゆえに、独特なデザインの羽織を羽織って、なおかつその裾でスカートを抑えるように結んでいる。

「ま、うら若い少女にはお似合いってことじゃないか」

「年頃の淑女としてはこの膝上のスカートはいかがなもので」

「あーイツキはミニスカ嫌いだったけか」

「というよりは恥ずかしいね」

「制服のデザインなんか毎年追加されて大変なもんで、適当にすれば周囲からとやかく言われ、時間かければ上からどやされる」

「シュンシュウそれ昨日、飲みの席で聞いた?」

「ん?・・・あっ臭うか?」

「酒くせぇってなってる。でも制服のデザインが豊富でおしゃれだなって。しかも正確な期が記された徽章(きしょう)をしてれば何期の制服でも着ていいんでしょ。ふとっぱらだねー」

「それはお姉さま方のエゴってなもんで・・・」

「どういうこと?」

シュンシュウは周りに上級生がいないだろうかと目を子にして見渡す。

「・・・「神殿」さ。見た目は変えられてもその・・」

「「神殿」?」

「おいイツキ、軍規約が書かれてるなんか教科書くらい文章(データ)量のあるのが来ただろ」

イツキが左手首にあるミサンガの中に埋め込まれた個人用端末に手をかざし「サーチ、削除記録」と言うと、イツキの目の前にホログラムモニターが出現する。ぎこちない手でスクロールし、件のメールを探していた。シュンシュウは思わず笑ってしまっていた。

「何よシュンシュウ。私が携帯端末を使ってないのがそんなにおかしい?」

「ああ、今時(いまどき)に機械音痴だったお前がなあ」

「もーうるさい」と言いつつもスクロールする手が止まった。

「あー広告か何かと間違えて消したわ」

「簡単に、懐かしい言い方をするなら「祭壇」かな」

「なるほど。・・・あー年齢はねー」

「そーいうことサ。あんまり表立って言うと目、付けられるぞぉ」

少し、空気が重くなった。過去への追想が二人の沈黙を作った。

「カルスタフの惨劇から一年。この一年はお互い大変だったな」

「シュンシュウはでしょ。私は亡命までが大変だったけど、そこからそれなりに楽しくやってたよ」

「・・・ならよかったよ」

 すると、島中に響く大きなアラームが響き渡る。先ほどまで歩いてきた街並みにある建物という建物に、その建物を守るような強固なシェルターで武装していき、その建物の上にサイレンが赤々と光る。

「シュンシュウ!」

「イツキ、今何時だ?」

「えっと・・・遅刻ギリギリ?」

すると車両用道路の両端である側溝から轟々しい自動連射式重機関銃の砲台が見えてくる。

「シュンシュウ!」

「イツキ、語彙力!」

「何が始まるの?歓迎の祝砲にしては量と連射性が高いと思うけど」

「死にたくなければ走れイツキ!」

するとシュンシュウは全力で走り出し「殺されるぞぉ~!」と叫びながら校門まで走り抜けていった。

「し、死ぬってどういうこと!?」



「死と再生の神」の加護による魔術技術、人類史上最大の魔法。

人の体や記憶、魔力的痕跡を「神殿」と呼ばれる場所にその記録を保存し、死亡した際にデータを元に再生する。———「新約 第一勢力の中 著者:田中の味噌」

「ぎゃああああああああああ」

気が付くとイツキがシュンシュウの隣まで走ってきていた。

「いや、イツキはっや!」

「な、何あれ!普通に撃ってきてるんですけど!!」

「あれは罰則だ」

「ば、罰則ぅ~!?」

「チコクはアカンで、ということ」

「おい。シュンシュウのせいじゃん」

「あ、ここで死んだらペナルティあるよぉ~」

するとこの校門前の大通りの半分まで砲台が発砲し始める。すると刃渡り50cmもある鎌が腕の殺人マシーンがシュンシュウ達よりも後方の人々の(はらわた)を引きずり出していく。

「う、後ろでた、たくさんの悲鳴が!」

「イツキ、今は振り返るな!明日は我が身だ」

悲鳴の数も減り、イツキが振り返るとそこには、一撃で絶命された女性から蛍のような光が湧き出てその光は「神殿」へと向って行く。その後、殺人マシーンが残った肉の塊を回収し、この校門前の大通りを元の血潮のない道へと清掃していく。

狂気のこの弾丸レース終盤に転機を迎える。

「ちょっと待ったァァァ!」

とゴールたる校門前、シュンシュウとイツキの前に三人の男たちが立ちふさがる。

「空気を読めよォ!」

「シュンシュウ、知り合い?」

三人の男がブランデンブルク門を思わせる淀みのない白銀の大門の前に横並びで立っている。左から、しなびたおじさん。この学園に所属している男子生徒。そして光学式迷彩を「魔法」によって簡易可能にした特殊なスーツの身を包んだ青年であった。シュンシュウにはこの男に見覚えはなかった。

「ツケを払えよ!」

髭ずらのひなびた中年男性が片足を踏み出しシュンシュウを指さす。

「この間のカリを変えさせてもらう!」

その学生の徽章は第三階級「武官」階級のものであった。見るからに高貴な雰囲気を纏わせているがそんな雰囲気を台無しにするほどシュンシュウに対する敵意があるようにイツキは感じた。

「あれって、ロンズデール家の人だよね。何、したの?」

「最初からあんな感じだった思うけど・・・・。まあ、強いて言うなら屋敷をぶっ壊して暴れたことくらいかな」

「なるほどね。相変わらずのトラブルメーカーっぷりね」

「いつまでも少年心は忘れないのさ。それよりも・・・」

もう一人の男は明らかにイツキに注視していた。悪く言えば視姦と捉えることもできるほど下卑た目線を向けながら、目はうつろ。顔は紅潮し、息も乱れている。そんな男の光学式迷彩のバッテリーメーターが赤く点滅している。バッテリーという概念は今や薄れつつもある。「魔法」による大幅な技術発展によってバッテリー容量が旧時代とは比較にならないほど大容量となっている。

「あれも・・・お友達?」

「俺にあんな愉快なお友達がいるとでも?イツキをあんなに熱い目線で見ているから新たなペットかと」

「あんなイカれたやつに調教する趣味はないよ」

するとスーツ男が動き出す。ダイビング用のレギュレーターに似たものを口に桑ながら「ヒィヒィ」とこっちに何かを訴えかけているようだった。

「じゃこの二人は用があるようなので・・・」

と歩き出したシュンシュウの肩を「おい」とイツキが止める。

「こんな不思議人類どうせいと?」

「いやぁ~。美しい人道支援だ」

すると店員と思しき中年がシュンシュウ腕掴んだ。

「いいから早く来い」

「だってさぁ。人気者つらいなぁ」

「逃げる気?」

その間もそのスーツ男は「ヒィヒィ」といきを荒げる。この男には外すという概念がないようだ。だんだんと「ヒィヒィ」の頻度と必死さが増していく。

すると大きなアラームが鳴り響く。これは止まっていた自動連射式重機関銃のペイント弾が実弾に変わり発砲し始めるというものだった。

「待って、シュンシュウ。これはまさか・・・」

「ああ」

「遅刻だね」と先ほどの三人の一人の学生が校門の中から不気味な笑みを浮かべて門を閉じようとしている。

「はめたなこのボンボン!」

「ざまぁないね、カシマ・シュンシュウ」

すると近くにあった砲台がヒナめがけて発砲し始めた。

「うわぁ!?」と声を漏らしつつも水の薄い膜を出現させる「魔法」で防いだ。

しかし、そんな反応をできると思っていなかったスーツ男は、イツキを庇おうと結果的にイツキに覆いかぶさってしまった。

「イヤァァァ」とイツキが叫んだ瞬間、イツキの瞳が文字通り変わった。イツキの体に触れていたスーツ男が氷漬けになり周囲には凍てつくような冷気が流れ始めた。非戦闘員である中年の店員は凍傷がひどくなってもうこれ以上はもたないだろう。そしてイツキの左手が上がると周囲にある発砲寸前の自動連射式重機関銃は氷に包まれ、温度差で砲身が氷中でヒビが入り使え物にならないようにする。

「相も変わらず重度のシスコンだな」

シュンシュウはイツキの瞳の奥の人物に話しかけた。

するとシュンシュウの体が足元から氷付いていく。顔まで来た頃、外の彼女が「ごめん、知らない人かと間違えた」という声が聞こえてシュンシュウは絶命を悟る。



「———っ」

 目が覚めた。閉められたカーテン隙間から伸びた青白い光が、打ちっぱなしのコンクリートの壁で反射する。外からは鳥のさえずる元気な声が聞こえる。まだ肌寒い。早朝である。

「んー・・・いま、なんじ?」

『午前4時50分です。』

と音声認識AIナビゲーター「ラミボ」がそう答えた。ベッドに横たわったままうなだれつつ「まだ5時じゃねえか」と声を漏らしていると、寝返った勢いでベッドから落ちる。

「あいた」と言いつつも既視感を覚えた。

(また夢落ちかよ・・・。)


※ループものではありません。


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