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99-イチゴ、時々


『ぐるるるぅぅぐるっぐぎゅぐるるぅるぅ』



 わかってるって。


 お腹の訴えが過激になっていた。もうステータスは悲惨なことになっているだろう。


 体のだるさを感じつつ足早にカメチャブの店に急いだ。



 つ、着いた。近くて遠かった。お腹と背中がくっつく機能がなくて助かったな、全く。


 対物ライフルがないので軽やかに入店する。



「おばちゃん、大盛一つ」


「400YENだよ」



 空いているカウンター席に座りお茶と交換で400YENをポケットから払う。いい加減財布を何とかした方がいいかもしれない。ゲームでお金を入れる財布のことを考える日がくるとは…


 隣に座っている人にお腹の訴えを悟られないように頑張る。言うことをきかない子供にヤキモキする感じだろうか?独身だけど、リアルの方は。


 少しばかり熱いお茶をゴクゴク飲む。訴えが煩わしい者への熱湯攻めだ。少しはおさまるだろう。胸が熱いが、これくらいの犠牲は仕方がない。コラテラル何とかというヤツだ。


 おばちゃんが素早くカメチャブを持ってきてくれた。大盛だ。ようやくか。


 味噌の風味が鼻から不届き者にも届いたのか。また騒ごうとしている。


 いただきます。と熱湯に苦しむ不届き者に開始の合図を送った。


 そして、一心不乱に右手に掴んだ箸を動かす。


 味噌と出汁でグツグツに煮込まれた大量の肉や臓物、それにネギ、米を放り込む。熱い豆腐はちょっと残酷にも思えた。狂気の叫びが聞こえてきそうだ。


 そこにさらにお茶、熱湯だ。もう、ぐうの音も出ないことだろう。


 相手が何も言わなくても数回執拗に繰り返し、俺を苦しめていた者への罰を終える。


 あ、少し熱湯が残っていた。もう、温度が大分低い。


 最後に止めの水攻めを行う。安らかに眠れ。


 ふぅ。



「おばちゃん、ごちそうさまでした」



 戦いは終わった。ワンサイドゲームだったと思う。手も足も出なかったようだ。ざまぁ。


 ステータスが回復したのを感じる。さっきまでのだるさが嘘みたいだ。



 傭兵通りを露店を眺めながら武器屋を目指す。皆元気がいい。


 今日もハンバーガーの露店の周囲は食べ物の露店ばかりだ。毎日場所取りが大変だろうな。くれぐれも平和的にお願いしたい。


 さて、ハンバーガーはいらないのだが、別腹に入りそうな何かを探す。別腹にも何か食べさせてやらないと不公平だろう。



 よし、これなら大丈夫。だと思う。別腹も大歓迎で迎えてくれそうだ。



「たこ焼き、一つください。持ち帰りで」



 300YENを渡し、紙?葉っぱ?みたいなものに包まれたたこ焼きを受け取る。熱が手にジワジワきていた。


 露店冷やかしを中断して武器屋へ急ぐ。たこやきが右手と左手を行ったり来たりと忙しい。


 少しにぎやかな道路を横断し武器屋に到着。早くたこ焼きをどこかに置きたい。



「ちわー」


「いらっしゃいませ」


「おぅ、いらっしゃい」


「シグレさん。アオイちゃんは?」


「今日は俺一人だよ。ごめんね」


「いえいえ、そんなんじゃないです。ごゆっくり」



 お昼だというのに繁盛しているようだ。何がそんなに売れているのか疑問だ。


 弾込めスペース、いや喫茶スペースにたこ焼きを置く。なかなか熱かったが火傷はしてないようだ。



「トシコちゃん、冷たい飲み物って何かある?」


「そうですね。ラムネならありますよ」


「じゃ、それで。いくら?」


「100YENです」



 ポケットから100YENを出してカウンターに置く。ここでも、この値段なのか。利益ってあるのかな?ま、あるんだろうな。俺が心配してもしょうがない。



「シグレ。おまえ、武器屋に来て最初に注文するのがラムネとは… いい度胸だな。俺に喧嘩売ってるのか?」


「喧嘩を売るだなんて物騒な。順番が前後しただけです。ちゃんとマスターにも注文しますから安心してください」


「安心て何だよ。それに、トシコ、ちょっと来い」


「なぁに、お父さん」


(おまえ、そのラムネ、いくらで売ったんだ?)


(100YENだよ)


(120YENだろ?)


(シグレさん価格です)


「おい、俺は認めんぞ」


「どうぞ、シグレさん」


「ありがとう」



 よし、冷たい飲み物も確保したぞ。栓は空いているようだ。グラスもあるが使うことはないだろう。ラムネの瓶に失礼だからな。


 さっそくたこ焼きの包みを開ける。美味しそうな香りが俺の周りに広がっていった。



「シグレさん、たこ焼きですか?私も食べたいなぁ」


「いいよ。はい、どうぞ。あーん」



 串に刺したたこ焼きをトシコちゃんの口に運ぶ。



「熱いよ。気を付けて」


「はふ、はふ、おいひいれす。ありがろうごらいます」


「おいおいおい、シグレ、おまえ何してんだ。さっそく嫁さんに報告だな。こういうとき、アナザーは何て言うんだったか… お、そうだ。ざまぁ、だ。ざまぁ」


「え?何で結婚したこと知ってるんですか?ま、一方的な結婚ですけど」


「そりゃ、おまえの嫁さんが挨拶に来たからな。嫁さんはよくできてるな。それなのに、おまえときたら…」


「シグレさん、結婚したんですか?おめでとうございます。で、誰とですか?」


「ある女性が、そう言っているだけだよ。トシコちゃん」


「おまえ、確実に死んだな。あの嫁さんへの報告が楽しくなってきた。トシコ、これが嫁に苦労かけるタイプの男だ。近づくんじゃないぞ」


「だからお父さん、誰と結婚したんですか?シグレさんは」


「トシコも会ってる服屋の、おまえがお茶漬けを振る舞った」


「ああ、あの人ですか。納得しました。へぇ、そうなんだ。ミステリアスな人が好みなんだ。そっか」



 ものは言いようだな。それに、あの結婚に俺の意思は反映されていない。


 トシコちゃんが珍しく普段見せないような細い目を俺に向ける。俺は顔を背けながらたこ焼きを頬張った。



「あつぅ」



 急いでラムネを流し込む。ビー玉とにらめっこだ。



「で、おまえは武器屋に、たこ焼きを食べ、ラムネを飲み、嫁自慢に来たのか?」


「違います。たこ焼きを食べ、ラムネを飲み、アレの弾を買いに来たんです」



 いつもの、対物ライフルを置く場所を指差しながらアレの弾を注文する。



「6発、ください」


「今日は持ち歩いていないんだな」


「今日は傭兵、休みですから。補給を済ませたらブラブラする予定です」


「ほほう」



 マスターが口を斜めにしながら奥に入っていった。今日は休みだから。



「トシコちゃん、もう一つ食べる?」


「あ、はい。いただきます」


「はい、あーん」



 こうやって、たこ焼きを口に運んでいるとツバメが子供に食べ物を与えているところが目に浮かぶ。可愛いなぁ、ホント。


 そして、自分の口にもたこ焼きを運ぶ。ちょうど、いい感じの熱さになってきた。たこが本当に美味しい。これもマテリアル産なんだろうが、関係ないな。



「ほれ、持ってきたぞ。6000YENだ」


「口座払いでお願いします」


「おぅ」



 情報端末でお金を払い、たこ焼きを食べながらバッグに対物ライフルの弾を入れる。たこ焼きを落とさないように細心の注意を払った。


 対物ライフルの弾を詰め終わったバッグを腰に戻し最後のたこ焼きを食べる。



「もぐもぐ、ゴミ箱ってありますか?」


「あ、大丈夫です。そのままで」



 残りのラムネを飲み干し別腹に挨拶っと。ごちそうさまでした。


 時間はお昼なのだが、やっと朝ご飯が終わった満足度だ。次は、何を食べようかな?おにぎり以外の昼食に期待を高めていく。



「おぅ、シグレ。結局俺にたこ焼きはないんだな。おまえがどんな奴か十分にわかった。このことも嫁さんに報告するからな。おまえはせこいって付け加えて」



 どっちがせこいのか、さっぱりわからない。そんなことをナギさんに知られても、こっちは怖くも何ともない。


 逆にマスターがたこ焼きの刺さった苦無を喉に詰まらせるんじゃないだろうか?あまり、ナギさんの気に障るようなことはしない方がいいと思う。



「せこくはありません。マスターの分は、ちゃんとトシコちゃんにあげましたから」


「シグレさん、美味しかったです。ごちそうさまでした。お父さん、ちょっとせこいよ。なんなら、たこ焼き買ってこようか?」


「トシコの金で食っても意味ないだろ?結局、店の金だしな。まぁ、いい。シグレ、おまえ今日暇なんだろ?親父のところに顔出してくれ。親父の奴、ちょいちょい変なメールをよこしてきて煩わしいんだ」


「それは、そちらの家庭の問題でしょう?客の俺がいったところで…」


「おまえ、今何処に住んでるんだ?」



 すぐ、そういうこと言う。大人、ずるい。



「わかりました。顔を出せばいいんですね?」


「おぅ。トシコ、今のようなときに即答できる男を見つけろよ。こいつみたいな男はダメだぞ。シグレみたいな男は…」



 どうこたえてもダメだったくせに。ま、心配しなくてもトシコちゃんは大丈夫でしょうよ。お母さんに似てよくできた娘さんみたいだし。



「じゃ、ダメなシグレさんと一緒に私もおじいちゃんのところにいってくるね。シグレさん、案内は任せてください」


「いや、おまえは仕事があるだろ?」


「そのおじいちゃんのメールって孫の私を呼んでるんじゃないの?ちょっと、そのメール見せて」


「そ、そんなことはないぞ。シグレでも、問題ないはずだ。話し相手が欲しいだけだろうからな」


「だから、見せてって」


「あ、いや、まぁ、そ、そうだな。シグレはここからの道がわからないかもしれないからな。トシコに特別に案内させてやろう。特別だからな。シグレ、手、出すなよ」


「お父さん、見せてくれないの?」



 トシコちゃんがマスターにずんずん近づいていく。


 親子の仲が良いことを確認できていることは良いことなのだが、少し営業を妨害してしまったかもしれない。さっさとおじいさんのところへ行こう。



「ほら、お客さんが待ってるだろ。シグレ、ほら、さっさと行け」


「トシコちゃん、行こっか」


「はい、わかりました。ホント、お父さんは素直じゃないんだから」



 マスターが聞こえない振りをして接客を始めていた。



「マスターは自分が呼ばれてないことに僻んでるんだよ。大人の僻みはこじらせると大変だから、そっとしとこう」


「はい」


「トシコ、はい、じゃねぇ。シグレ、早く行かないと出禁にするぞ」


「シグレさん、大丈夫ですよ。そのときは私が出張販売しますから。住んでるところも知ってますし」



 マスターが本格的にこじらせる前に店を出た。ひよこエプロンの可愛い女の子が増えていた。爆弾じゃない女の子だ。デヘヘヘヘヘ。いやぁ、天気いいなぁ。



「それじゃ、シグレさん。行きましょうか」


「よろしくね」


「こちらこそ、よろしくです」



 近道なのだろうか?トシコちゃんは傭兵通りの方の大きい道を行くでもなく、以前マスターが車でつれていってくれた道とも違う裏道のようなところを歩き出した。なかなか細く寂しい道だ。狼が出てきたらどうするんだろう?危ないなぁ。



「おじいさんの家に行くときは、いつもこの道?」


「ええ、だいたい。歩くときは、この道ですね」


「いや、狼が出てきたら逃げ場ないよね?もっと人通りが多い道の方が…」


「え?狼なんて都市の中には出ませんよ。出るなんて話も聞いたことないです」



 そうか、ここはアースだった。アース人の狼はいないのか。しかーし。



「いやいや、油断は禁物だよ。アナザーが増えた今、別の狼が徘徊しているかも?」


「えええ。アナザーって狼に変身できるんですか?初めて聞きましたけど。ということは、シグレさんも?」



 そういうストレートな質問をしちゃあいけないなぁ、トシコちゃん。狼に変身してしまう条件を満たしちゃうからね。



「俺は大丈夫だよ。狼になったりすると自称妻さんが本当に俺を殺しちゃうから。まだ、死にたくないし。しかし、アナザーの男には気を付けてね」


「はい、わかりました。シグレさんは大丈夫な狼っと。シグレさんがいないときは作戦を考えます」



 うん?俺は狼じゃないんだけど。


 あっ。



「そういえば、サトミちゃんには最近会った?鈴木銃砲店の」


「え?シグレさん、どうしてサトミを知ってるんですか?」


「普通に店に行ったからだよ。マスターに教えてもらったとき、トシコちゃんもいたよね?」


「ふーん、一度行っただけで店の子の名前覚えたんですか?記憶力いいですね」


「普通だよ。応対してくれた人の名前、覚えるでしょ?」


「そういうことにしておきます―」



 おかしい。普通に事実を言っているだけなのに。



「サトミは私より先に家の手伝いをしてて、私も最近家の手伝いを始めたから、なかなか会えてなくて。でも、メールはそこそこしてるんですよ。サトミはどうしちゃったのかな?」


「トシコちゃんが元気にしてるか、聞いてたからメールだけだと寂しかったとかじゃないかな?」


「ふーん。それで、サトミはシグレさんには、どう見えましたか?」



 それは、どういう意味なのかな?


 トシコちゃんが、またまた目を細くして俺の方を窺っていた。



「どうって。少し天然っぽくてフワフワした感じの可愛い女の子だったよ。この都市には可愛い女の子が多いね」


「ふーん。ま、いいでしょう」



 なんなのかな?どうしたのかな?


 そのあとも歩きながらトシコちゃんと雑談をして情報収集に努めた。


 若い娘の話は早口で、たいたい理解できていないのだが一つ気になる言葉が耳に残った。イチゴだ。


 トシコちゃんのおばあちゃん、おばさまだな。そのおばさまが家庭菜園でつくっているイチゴがとても美味しいらしい。


 マテリアル産ではない果物、いや野菜?まぁ、どちらでもいいのだが、それがこんなところに。よしよし、いいぞ。


 そして、トシコちゃんが言うには自分が行けばおばあちゃんが、ほぼ必ずイチゴを食べさせてくれるらしい。時期さえ合えば。



「シグレさん。おばあちゃんのイチゴ、美味しいですよ。良かったですね」



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