表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/105

9-初戦闘


 傭兵事務所の傍で地図を確認する。


 目的地は都市の西側なのでここから都市の西出口へ向かうことにする。西出口には防衛櫓があるみたいだ。


 ゲーム的なマップ機能などはないため地形は自分で覚えるしかない。覚えたら【知力】とか上がって欲しい。


 傭兵事務所からは道路反対側の基地を南に迂回しそのまま道路を西に真っ直ぐ進めば西出口に辿り着けそうだ。


 情報端末の地図を確認しながら道路沿いを歩く。傭兵通りを少し離れると電波アイコンのアンテナがすぐ0本になった。意外と都市内で通信できる場所は少ないようだ。




 30分くらい歩くと電波が回復する。そこには防衛櫓があった。番号は09-0001だ。ここから先が都市の外ということなのだろうか?


 地図だと西出口らしいのだがゲートのようなものは見当たらない。


 防衛櫓はかなり厚いコンクリートで造られた四角柱で高さは4〜5メートルくらいはありそうだ。そこに、はみ出すように強化ガラスとコンクリートの屋根でできた物見台がのっかっている。ネズミ返しを兼ねつつ真下を攻撃できるようにしているのだろう。


 物見台からワイヤーが伸びているが何のためにあるのか思いつかない。あ、兵士の人と目が合った気がする。気にしない気にしない。


 たくさんのライトやサーチライトのようなものも設置されている。全てが点灯するとかなりの明るさになりそうだ。


 これには小さい柱が設置されているらしいので情報端末からセーブポイントに設定できるか試してみる。


 都市セーブポイントはダメだから優先セーブポイントに設定してみよう。



「ポチっとな」



 あ、できるし優先セーブポイントにこの場所が登録されたようだ。使うことはないだろうが。



 さて、防衛櫓は堪能したし依頼の方に戻ろう。地図を確認する。この大きい道路で途中まで行ってそこからは脇道にそれるようだ。とりあえずそこを目指そう。


 時間は11時前。気合を入れなおす。ここからはいつどこからモンスターが襲ってきてもおかしくない。


 静かな霧の中、都市の外に向けて一歩踏み出す。当然何も変わらないが俺の中の恐怖レベルは上昇した。これはゲーム、これはゲーム。


 周囲を慎重に見渡しながら道路沿いを進む。どうやら都市は壁やフェンスといったもので囲っているようではないみたいだ。


 都市の外はいきなり家やビルがなくなる、ということはないが一部壊れていたりほとんど原型を留めていなかったりする。それともここだけがこんな有様なのだろうか?


 この光景だと都市の外は迷子になるプレイヤーが続出する予感が、する。普通に遭難する危険性すらある。一応、情報端末には方位磁石の機能はあるのだが…



 5分くらい歩いただろうか交差点が見えてきた。道路が南北にも続いている。信号機は見つからない。初めからないのか壊れたのか周囲は当然のように荒れているので判断がつかない。それなのにこの大きい道路は荒れていないように見える。


 交差点を西へ進み、しばらく歩き続け寂しい霧の道にも慣れたころ標識に辿り着く。標識には矢印と08-0102が書かれておりバックには櫓の様な絵が描かれていた。


 道は間違っていないようだ。安心した。時間を確認する、11時30分。40分くらい歩いたのか。そこで重大なことに気づいた。



「やばっ。イヤホンつけるの忘れてた」



 思わず声が出た。周囲を見渡す。モンスターは… 現れない。急いでイヤホンのコードを情報端末にさしてイヤホンを右耳につける。このイヤホンはモノラルタイプで耳にかける補助具のようなものが付いていた。


 防衛隊の通信を無視してしまわなかったが心配になったが反省を今するべきではない。さっさと脇道を進むことにした。


 道を進むほど周囲が寂しくなっていく、いつの間にか周りは畑だけになっていた。この荒れようだと放置されて随分経っているように見える。


 さらに進むと畑の傍に民家があった。近づいて中を覗いてみるとこちらもかなり荒れていた。


 今は防衛櫓に辿り着くことが目的なので気にはなるがスルーする。




 15分くらい歩いただろうか、やっと防衛櫓08-0102に辿り着いた。


 リュックサックから水筒を取り出し乾いた喉を潤す。


 無事辿り着けたことを喜んでいると男の声が聞こえてきた。



「こちらは、アサヒ都市防衛隊第6部隊所属のヒザキです。聞こえていますか?そちらの用件を聞かせてください」



 慌ててマイクのスイッチを入れる。



「聞こえています。こちらはアサヒ都市傭兵のシグレです。防衛依頼でこちらに来ました」


「防衛依頼の方ですか。この辺りにモンスターはあまり現れませんが気をつけて防衛にあたってください」


「はい、気を付けます」



 マイクのスイッチを切る。緊張した。忘れないうちに番号がきちんと入った防衛櫓の写真を撮る。



「よしっ、きちんと撮れた」



 時間を確認、12時10分。今日は2時間くらいやってみよう。見通しが良い南の方へ進む。


 防衛櫓が見えなくなるくらいまで歩く。荒れた畑の中だ。作物は最初から植えられていないのか枯れ果てたのか見当たらない。これならモンスターを見逃しはしないだろう。


 さらに南に進むと雑木林が見えたのでそこを目指す。歩きにくい地面を進み畑が終わると雑木林と畑の間に畦道があった。


 雑木林に注意を払いつつ畦道の地面に目印を靴で残す。



「ここを基点として周囲のモンスターを探すか…」



 目印を基点にして畦道を往復する。モンスターに発見される恐怖を先に発見してやるという意志でねじ伏せる。


 しばらく歩いていると前方の雑木林からゴブリンが出てきた。あの緑色の小人はファンタジーでお約束のゴブリンに間違いないだろう。


 雑木林に身を隠せそうな木があったのでそちらにすばやく移動する。


 ゴブリンはキョロキョロしている。防衛櫓を探しているのか?それともそういう年ごろなのか?


 しばらく様子を窺う。5分くらい経ってもゴブリンは相変わらずキョロキョロしているだけで動こうとしない。何をしているのだろうか気になる。


 ここでゴブリン1匹との戦闘を決意する。


 ハンドガンで狙うには遠すぎるので雑木林の木を辿り息を殺してゴブリンに近づく。どうやったら気配を消せるのかはリアルでも知らないので気配を消したつもりで頑張る。


 だるまさんがころんだをしつつ距離を詰めるも手ごろな木がなくなった。


 ゴブリンが畑に向けて歩き始めた。


 彼我の距離はだいたい15メートル。ダッシュして距離を詰める。


 距離10メートル。射撃訓練場の的の位置くらい、これなら… すばやくハンドガンを両手で構えて頭を狙う。


 とりあえず2発撃つ。1発は外れ、もう1発はゴブリンの耳をかすめた。銃を撃ったというのに銃声が全然響かない。


 ゴブリンが振り向いて騒ぎ始める、と同時に息を整えさらに頭を狙い2発撃つ。


 今度は1発が額に1発が喉元に命中。ゴブリンは倒れてそのまま動かなくなった。



「やっ…」



 非常にまずいことを口走りそうになったのを堪える。


 周囲に注意を払いつつゴブリンに近づくと姿は消えかけており小さく綺麗な石が一つ地面に落ちた。これが魔石だろう。以前見せてもらったものに雰囲気は似ていたがサイズはこちらの方が小さい。


 魔石を拾いズボンのポケットにしまう。


 それにしても、他のゲームでは味わえない緊張感だった。これゲームだよね?


 そんなおかしな疑問を胸にこの場を離れる。




 畦道の目印まで戻ってきた。水を一口飲み深呼吸をする。


 ゴブリンにハンドガンを撃ったときのことを思い出す。弾が当たったときの感触というか重量感というか、遠距離武器だったからこんなものだが近接武器だと斬った感触が凄そうだ。もう想像するのはやめよう…


 ハンドガンのマガジンを交換し時間を確認する。13時03分。あと1時間くらいは頑張ろう。


 畦道の往復を再開する。


 注意深くモンスターを探すも見つからない。索敵系のスキルが切実に欲しい。存在するのだろうか?


 このリアルさで昆虫系の大きいモンスターが出たら一目散に逃げる自信がある。特にアイツだ。言葉にしないし、口にも出さない。現実となって欲しくないからだ。



 そんなことを考えつつ歩き続け今日何度も戻ってきた目印の地点に着いた。時間は14時22分、今日はこのくらいでいいだろう。


 畑に入り防衛櫓のある北を目指す。モンスターに出会うこともなく防衛櫓に帰ってくる。


 防衛櫓も平和だった。依頼終了報告用の写真を撮り防衛櫓をあとにした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ