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89-おかわり


「「「「「ごちそうさまでした」」」」」



 メチャクチャ美味いモンスターだった。味はタラバガニだ。とても美味しいタラバガニだ。ビールがないのが悔やまれた。流石のナギさんのバックパックにも、ビールは入っていなかった。



「バカうまかったぜ。酒が欲しいな」


「ホント、そうね。日本酒のツマミに最高かもしれないわね」


「センパイ、弁当箱に詰められるだけ詰めて帰りましょう。お土産です」


「確かに、そうね。持って帰らないといけないわね」


「これは、マテリアル産では出せない味でした。ヒロコさんが喜びます」


「アユミさんもですね。ナギさん」


「ええ」



 これは、ヤドカリ週間到来か?


 カナメさんもなぜか弁当箱を取り出してヤドカリの身をせっせと詰めだした。



「あいつらに土産の一つでもないと報われないからな。仇は討ったぜ。プロが」


「まだ、死んだと決まったわけじゃ…」


「いいんだ、いいんだ。見たわけじゃないが、この鋏にザックリやられたんだろう。目に浮かぶ。成仏しろよ」


(カナメさん、生きてますか?俺達は無事逃げ切れましたけど、そこで何してるんですか?)


(お、生きてたか。タイミングいいな、おい。幽霊じゃないんだろうな?だったら、おまえらも早く来い。今ならプロ一行からヤドカリ奢ってもらえるぞ)


(ちゃんと足はあります)


(ヤドカリって、あれ食べれるんですか?)


(すぐ、行きます)


(…)


「あなた、あれを」


「何ですか?ナギさん」



 弁当箱にヤドカリの身を手で詰めていると、さっきカナメさんが巨大ヤドカリに追いかけられてきた方から数人の傭兵が近づいてきていた。あ、走り出した。カナメさんの仲間かな?



「お、あれは俺の仲間だ。すまねえがあいつらにもヤドカリ食わしてやってくれねぇか?」


「いいわよ。ナギさん、大丈夫ですよね?」


「それは構いませんが、もう、ここからは身を取り出すのは無理です。広げてもらわないと」


「あ、そうですね。じゃ、もう1発撃ちましょう」


「お、そうしてくれると助かるぜ。俺だけ美味しい思いをすると士気に関わるからな」


「それじゃ、みんなヤドカリの鋏から離れてください。穴を開けますから」



 巨大ヤドカリの鋏から20メートルくらい離れたところに対物ライフルを置き、うつ伏せになって伏射の体勢をとる。弾は… 入っているっと。


 カナメさんの仲間が合流した。少し疲れているように見えるが怪我はしていないようだ。



「カナメさん、何が始まるんですか?」


「おまえら、そこは邪魔だから早くこっちに来い。プロに迷惑かけんな」


「了解。カナメさんのところに行くぞ」


「わかってます」「了解」「…」



 俺の後ろが騒がしくなってきた。別に距離さえとってもらえれば俺の後ろでなくてもいいんだが。何かやりにくい。



「シグレ、準備いいぜ。やってくれ」


「了解です。撃ちます、よ」



 巨大ヤドカリの鋏の肘?かどうかはわからないが、最初に開けた穴とは反対の方を狙ってトリガーを引いた。


 恒例の砂がマズルフラッシュによって舞い上げられる。



「「「「おおおおお」」」」「…」



 何が凄いのかわからないが歓声が上がっていた。



「プロがおる」


「これがプロか」


「プロの所業を見た」


「プロ、だろ?」


「…」


「プロじゃないです。さぁ、次はカナメさんの番ですよ。仲間の分の身を取れるよう頑張ってください。ちなみに、そのコンバットナイフ、俺のですから。忘れないでください」


「わかってるって。おまえら行くぞ。あれから身を取り出せ。調理は、あっちの可愛い連中がやってくれる。感謝しろよ」


「「「おおおっ」」」「…」



 腰のバッグから弾を取り出し対物ライフルに装填する。まだ、近くはないところに廃墟が突き刺さっていた。火があっても油断はしないでおこう。


 対物ライフルを担ぎ火の近くに戻る。カナメ隊の人達がヤドカリの身を弁当箱につめて運んでいた。どんだけ、食べるつもりなのか?


 それを嫌な顔をせずにマユミさん達が調理をしている。ま、できるのは焼きヤドカリとその味噌汁くらいなんですけどね。


 俺は対物ライフルを置いて横から火に流木の枝を入れつつ女性陣の手際を静観していた。火の番は大事。でも、調理の邪魔になって、ないよね?



 第二次ヤドカリ食事会が始まった。なぜかカナメさんも混ざっている。と思ったらマユミさんとアオイちゃんまで。



「あなたは食べないんですか?」


「俺は、もういいです。美味しいものは美味しいうちにやめておきます。ナギさんこそ、どうぞ」


「いえ、私も大丈夫です」



 改めてナギさんの手際の良さというか準備の凄さに驚いた。キャンプ用の食器や箸まであり不便はなかった。



「それで、あいつはどうなったんだ?」


「どうなったって、真っ先に俺が囮をしますとか言って真っ先に鋏の餌食になったじゃないですか?見てなかったんですか?これ、めっちゃ美味い」


「あまりのアホさ加減に夢かと思ったが現実だったかぁ。味噌汁がうめぇ。あいつはあれがなければいい奴なんだがなぁ」


「あいつはあれだから面白いんですよ。出汁が違いますね」



 カナメ隊の人達が話に花を咲かせていた。マユミさんとアオイちゃんはそれを面白そうに聞いている。


 時間を確認した。げっ、20時前だ。もう、こんな時間。



「みなさん。もう20時です。帰らないと外は暗くなってますよ」


「お、そうか。もう、そんな時間か。おまえら、帰るぞ。準備しろ」



 カナメ隊の人達がお土産用のヤドカリの身を弁当箱に必死に詰め込んでいた。あの詰め方は、圧縮しているのかもしれない。


 マユミさんとナギさんは、ダンジョンの海水で食器を洗うという不思議行為をまたしても。あ、でも、普通か。


 アオイちゃんは大きな袋を大事そうに抱えていた。ナギさんに戦利品袋を借りたのだろう。どこかで見たことのある袋だった。


 コンバットナイフをリュックサックに入れ、あとは対物ライフルを担ぐだけで準備完了だが、まだやる事がある。キャンプは後片付けも重要だ。



「それじゃ、火を消しますよ」


「火なんて、つけたままでいいんじゃないか?」



 カナメさんに一斉に視線が集まる。冷たい視線だ。



「え?だって、ここダンジョンだぜ」



 冷たい視線はそのままだった。温度はさらに下がったかもしれない。カナメさんがそろそろ凍えるんじゃないか?



「わ、わかった。シグレ、火を消してくれ」


「それでは、改めて火を消します。消したら巨大ヤドカリが出るかもしれないので、なるべく急いで砂浜を離れてください」


「プロ。火、消したら、出るんですか?」


「おまえなぁ、さっき言ったろ?ヤドカリが火をつけた途端、海に逃げたって。だから、火をつけたままが…」



 冷たい視線が再びカナメさんを襲う。今度のは最初から温度が低い。



「わかったから。もう、それはいいって」


「で、ヤドカリが火に弱いって。言ってましたっけ?」


「言っただろ?なぁ」


「初耳ですね」


「俺も今聞きました」


「…」


「ま、まぁ、ヤドカリは火が苦手ってことだ。さぁ、シグレ消していいぞ」


「あ、はい」



 ま、消すといっても燃えている木を崩して海水をかけ、そこに海水に濡れた砂で蓋をするだけですけどね。ダンジョンだから、これで問題ないだろう。カナメさんの火を消さなくてもいいというのは、案外ありかもしれない。消す、けども。


 これで、消えたかな?海水を用意していた鍋のようなコッヘルをナギさんに返す。



「こんなもんですかね?」


「あなた、お疲れ様です」


「よし、帰るぞ。シグレ、俺達は少し先を行くからな。後ろ、よろしくな」



 カナメさんが、先に行ってくれるらしい。気を遣ってくれたのかもしれない。




「カナメさん、あのシグレってプロは晒しスレの有名人、アイドルハンターでは?」


「たぶん、な。服屋の店員を連れてたからな。それに残りも女ばかりだし。ただ、傭兵事務所のアイドルがいないのは気になるが」


「流石のプロってところか。うまくやりやがって。爆破したい」


「おいおい、物騒なことはよせよ。俺の命の恩人だぞ。それに悪い奴じゃなさそうだ」


「でも、あんな可愛い娘で既にハーレムなんて」


「でも、ほら、あの顔見てみろ。ありゃぁ、相当苦労してるぜ」


「…」


「そりゃぁ、これで苦労してなかったら刺し違えてやるところです」


「だから、物騒はよせって。掲示板にも調子にのって追加報告とかするなよ。知り合いになったんだからプロとは仲良くやっていこうぜ。いいことがあるかもしれん」


「ま、実際ご馳走にはありつけたし…」


「ノ」


「それにしても、あの巨大ヤドカリ、問題じゃないですか?都市にあれが向かったら―」


「大丈夫だろ。あの大きさだとここから出られんしな」


「あ、そっか」


「それより、あいつに食わしてやらんとな。これを」


「そうですね」


「ノノ」


「おまえ、いい加減に喋れよ」




 先行するカナメさん達は、非常に楽しそうだった。何を言っているのかは当然聞こえてこない。カナメさんはグループチャンネルに戻したようだ。そりゃ、そうだろうな。



「シグレ、私達も行くわよ」


「了解です」


「センパイ。あの鋏、どうなると思いますか?」


「さぁ、ダンジョンが掃除するんじゃない?明日になったら綺麗サッパリ消えてるわよ」


「異界とは、そういうものなのですか?」


「ナギさん、そういうものよ」



 カナメさん達に続き道になっていそうでなっていないところを歩き廃病院に到着。


 砂浜を振り返ってみる。あの鋏は、寂しく砂浜に転がっていた。それにしても、よく初見で倒せたと思う。次も同じように倒せるかは疑問だが、ヤドカリが食べたくなったらまた来よう。あっ、でも、毎回ドロップするのかな?



「シグレ」


「あ、はい、今行きます」



 馴染み感のある廃病院の横を通り草原を歩いた。ポツポツと建物が見える。どれも廃墟だ。朽ちているのに点灯している信号機や不気味に点滅を繰り返す街灯もあり、ここがダンジョンだと宣伝しているようで面白い。



 アオイちゃんが言っていた出口が近くにある建物まで辿り着いた。巨大ヤドカリが追ってくる様子はない。


 そして、出口と思われるところにカナメさん達が集まっていた。



「よぉ、シグレ」


「どうしたんですか?先に進まないんですか?」


「この先は病院だろ。そっちは女多いだろ。こいつらが、な」


「大丈夫よ。いろいろあって、その先の病院は慣れたから」


「ほら、だから、大丈夫だって言っただろ。すまねぇな、それじゃ俺ら、行くわ」


「でも、シグレさんは慣れてませんね。心の準備とか大丈夫ですか?心臓にきますよ」


「あなた、怖くなったら私に抱き着いてきていいんですよ」


「シグレ、私も一応抱き着いてきても大丈夫よ。ボディーブローなんてしないから」


「心配ありがとうございます。でも、大丈夫です。ゴーストスイーパーですよ」


「シグレさん、ワタシもいますぅ」



 男なのに怖いからって女性に抱き着けるわけ、ないじゃん。いや、待てよ。嬉しいときに抱き着いたこと、あったな。なら、OKなんじゃ。OK、だな。


 いやいや、やっぱりダメだ。前にはカナメさん達がいる。出禁になるスレが増えるだけでなく、こちらのアースにまで影響が出るかもしれない。


 よし、俺、怖くても耐えるんだぞ。ゴーストは対処できるからな。頑張れ、俺。と俺の小さい心臓。



「そんじゃ、シグレ。俺ら、行くからな」


「どうぞ」



 カナメ隊が次々と歪んだ空間に消えていく。マユミさんは水筒を出してお茶を飲んでいた。まだ、残っているのが不思議だった。俺のは、ヤドカリを食べたときに全部飲んでしまっていた。ちょっと、欲しい。



「何、シグレ、欲しいの?飲む?」


「だ、大丈夫です。早く、行きましょう」


「そう。この先、慣れてないと喉が渇くかもよ。飲みたくなったら言って」



 そう言うと、マユミさんは水筒をしまいAKのレールに取り付けられた小型ライトを点け歪んだ空間に入っていった。


 くっそ。なぜ、みんな俺を驚かそうとするのか。い、意地でも驚かないからな。



「うん?アオイちゃん」


「さぁ、シグレさんも行きますよ。入って入って」



 アオイちゃんが背中を押してきた。右肩のライトのスイッチがなかなか押せない。



「あなた、行きますよ」



 ナギさんは、俺の手を引っ張っている。



「そんなことしなくても、大丈夫です。一人で入れます」



 暗くて歪んでいるかどうかがわかりづらくなっている歪んだ空間を背中を押された上に手まで引っ張られて通るはめに。正直、どっちが男かわからない。


 歪んだ空間に対物ライフルが引っかからないように下ろして持った。これならぶつからずに通れるだろう。


 そして、歪んだ空間を通った先では… カナメ隊五人とマユミさんまでもがライトを顔の下から上に向けて照らすように持って待っていた。マユミさんはなかなか頑張っているのがわかる。頑張るところはそこじゃないと思うが。


 真っ暗な中に七つ?の顔が浮かんでいた。思わずナギさんに抱き着く。ブホホホホホ。


 お子様のようなことをしている六人は無視して、有名な絵画に描かれている人のような白いものを注視した。



「ちょっと、私に―」


「カナメさん、プロが」


「プロ、それは調子にのりすぎじゃ」


「いいな、プロ」


「ちっ、アシストしたか。面白くねぇ」


「!!」


「あなた、います」


「わ、わかってます」


「シグレさん、あれは?」



 こっち側を向いている人間とあっち側を向いている人間で反応が大きく別れていた。こっち側を向いている人間は自分達の近くに何がいるのか当然気づいていない。



「みなさん、そのまま動かないでください」


「え?シグレ、どうしたの?」


「そのまま」



 幸せな六人に混ざって動かない僅かに発光している白いもの。それに狙いをゆっくりとつけて、そのままトリガーを引いた。


 【心眼】先生は連休中のようだった。



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