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84-新しい形


 さぁ、今日も元気良く行ってみよう。


 白い世界に包まれ、そして白が晴れていくと…



「どして?」



 ナギさんが、またしてもこんなところで寝ている。枕だけで寝ている。


 メイさんが、その横に転がっている。毛布はあるが枕はない。


 この二人は前科がある。やりそうだ。というかやっている。俺がいないんだから自分の部屋の布団で寝ればいいのに。


 そして、ここから新入りさんだ。ミステリーでもある。


 まず、マユミさん。こっちも枕だけだが、抱き枕にしているようだ。


 その抱き枕を取り合うようにアオイちゃんが隣に…


 この二人は何してるの?ミイラ取りがミイラにでもなったというのか。


 これは、犠牲なくここにログインできた、このアースを褒めるべきか。少しでも足を動かすとセンシティブな事態に。


 まずい、早くこの事態を収拾しないと俺が抱き枕として取り込まれる可能性もある。既にナギさんの床を這う無意識の手が。



「みなさん、朝ですよ。それに、俺の部屋ですよ。あなた達、おかしいですよ」


「うぅ、おはよう。シグレ」「ん、おはようございます。シグレさん」


「おはようございます。なぜ、ここで寝てるんですか?」


「シグレさん。トイレ、行ってきます。さようなら」


「マユミさん?」


「いや、ナギさんがおもむろに枕を持ってここに入ったから。こっちで寝るとどんな感じなのかも知りたかったし」


「で、どうだったんですか?」


「よく眠れたわ。美味しいお酒のおかげというのもあると思うけど」


「それは、良かったですね。時間的にもお得です」


「そうなる、のよね。私もトイレに行ってくるわ」



 起きているのか見た目で判断できないナギさんが上半身だけ起こして、こちらを見ていた。寝間着の乱れ方が非常に危険だ。



「あなた、おはようございます。それとも、すぐに寝ますか?」


「寝ません。メイさんを連れて朝食の準備をお願いします。メイさん、仕事あるんでしょ?起きてください。間に合うかどうか知りませんけど」


「おはようございます。シグレさん、二度寝しません?」


「あなた、朝の抱擁は?」


「それ、私も、まだ」


「しません。早く行ってください」


「ケチッ」



 メイさんが心外な言葉を残しナギさんに引っ張られ部屋を出て行った。


 やっと、俺の部屋が俺の部屋らしくなった。この狭い部屋に四人で寝ないで欲しい。対物ライフルやリュックサックが不当な扱いを受けていた。


 そのまま装備を確認する。今日はちゃんと真面目に都市防衛がしたい。というかする。絶対する。


 ハンドガン、OK。ハンドキャノン、OK。対物ライフル、OK。


 弁当箱と水筒は台所で、後は… 問題ないな。


 ポーションの入ったスキットルもちゃんとある。中身も、大丈夫。ポーションは貴重なのに無駄に消費していたりする。ポーションも最優先で見つけたい。


 ハンドガン、新しい俺の銃をホルスターから出して眺める。



「イイ」



 こうして見ると、少し短くなった20連マガジンやスッキリしたリアサイト周りが以前より男前?女前?にしていた。


 自然と頬ずりしてしまう。銃が男だと気持ち悪いので女ということにしよう。ひんやりしていて気持ちいい。


 そのまま、部屋の入口に目をやるとナギさんが閉じているのか開いているのか判断のつかない目でこちらをジッと見ている。のだろう。無言なのが少し怖い。



「あなた、私には朝の抱擁がなくて、その銃にはあるんですね。私はあなたの剣だというのに。やはり、銃なんですね」



 喋ったぁぁ。しかも、心にぐっさりだぁ。もう、タイミングを計っているとしか思えない。



「こ、これは銃のちょ、調子を見ていたんです。仕事道具ですから」


「私は銃に詳しくないのでよくは知りませんが。それで、調子がわかるんですね。随分と私の知識とかけ離れているようですが」


「これは我流です。そんなことはいいので用事は何ですか?」


「そうですか。少し気になりますが、まぁ、いいでしょう。それで、あなた。朝食は何にしますか?」



 朝食の選択ができるらしい。ラッキーじゃん。それなら…



「目玉焼きとベーコンかソーセージとかあれば」


「ベーコンエッグですね。承知しました」



 ベーコンエッグは通じるっと。さっさとハンドガンをホルスターにしまう。次はメイさんが突入してきそうだ。そんな予感がした。


 扉に近づき、そぉっと開けてみる。扉の外には案の定メイさんがスタンバっていた。



「何してるんですか?仕事の支度は」


「う、打ち合わせです。シグレさんと朝からみっちり打ち合わせをしようかと。仕事熱心ですので」



 メイさんのダメダメっぷりが朝からひどい。



「それじゃ、打ち合わせ頑張ってください。俺は居間に行きますから」


「シグレさんの意地悪」



 意地悪なんか、して、いなーーーい。


 メイさんを振り切り居間に行き、台所に近いところにあるダイニングテーブルにつく。


 いつの間にか増えていた家具だった。食事をするならソファーセットの低いテーブルよりこっちの方が楽だ。宴会のとき、ここは料理控えというかいろんなものが雑多に置かれる場になっていたが。


 隣にメイさんが座る。まだ、テーブルには何もない。


 アオイちゃんが戻ってきた。何も言わずに右隣に座っている。テーブルは長い方に三人、短い方に一人が座れる椅子があった。



「シグレさん、今日はどうするんですか?」


「銃が新しくなったし都市の外に出て防衛かな?アントも倒さないと」


「そう、ですか。なら、廃病院に行きましょう。昨日情報を入手しました」


「またまた、御冗談を」



 昨日って、こっちで寝てたんじゃ?でも、リアルの時間だと寝る時間には早い。



「アオイちゃん、廃病院って防衛櫓01-0101近くのアレですか?」


「だと思います。行ったことがないので詳しくはわかりません。でも、話題にはその防衛櫓が出てきました。そして、中は、廃病院じゃないらしいです」



 マユミさんが戻ってきた。俺達三人を見て何か納得いかない風な表情を浮かべている。座るところを思案しているのか、なかなか座らない。



「アオイちゃん。廃病院は無理よ。知ってるでしょ?」


「センパイ、大丈夫です。中は廃病院じゃないらしいんです。ダンジョンにでも繋がったんじゃないですか」


「傭兵事務所でも少し話題になってました。ゴブリンの異界より、都市に近い異界じゃないかって」



 都市に近い異界ねぇ。



「実際、傭兵事務所というか防衛隊は異界をどう思っているんですか?排除したいんですか?それとも残しておきたいんですか?」


「それなんですが、シグレさん。私達には、そういう異界に対する方向性みたいなものは下りてきていません。上がどのように思っているのか、わからないんです」


「じゃ、もし異界の存在を消滅させてもお咎めはないんですね?」


「わかりません。ただ、判明している異界より、誰にも見つかっていない異界の方が問題視されていますね。異界発見報告は一応謝礼が出ます」



 そうか、そうか。見つかっていないダンジョンの方が確かに問題だな。知らないところで知らないモンスターを生んでいたら一大事だ。



「メイ、朝食を運ぶのを手伝いなさい。居候なんですよ、あなたは」


「そう言えば、普通にいるわね。メイさんって」


「ナギの親友ですから、ナギの手伝いをします。私がいると傭兵事務所の情報がすぐに入ってきて便利ですよ」



 それって仕事上の秘密なのでは?



「メイさん、それって同僚や上にバレたら首なんじゃ?」


「そしたら、ここに永久就職するので問題ありません」



 問題しかなかった。メイさんは、まだお酒が残っているのだろう。アナザーと違って二日酔いとかもあるに違いない。気分良さそうだけど。


 ナギさんとメイさんが朝食を運んでいる。いい匂いがテーブルの上を舞い、つられたお腹が騒ぎ出していた。



「ナギさん、ありがとうございます。センパイ、こちらでは初めてのベーコンエッグです」


「私もよ。美味しそうね」



 確かに美味しそうだ。ま、ナギさんの美味しくない料理を食べた記憶はない。


 カリカリのベーコンと半熟の二つの目玉焼きが、こちらを見ている。そして、味噌汁だ。味噌汁がついている。


 朝食を運び終えたナギさんとメイさんがテーブルにつく。マユミさんが正面に、その隣にナギさんが座った。



「「「「「いただきます」」」」」



 微妙にズレたところで、いただこう。


 まずは、味噌汁だ。白い立方体が見え隠れしている。汁に箸をつけて豆腐を一つ食べてから汁の方を味わう。白味噌だ。さっぱりしていて主張しすぎないところが良い。


 次に醤油を探す。



「あなた、どうぞ」


「ありがとうございます」



 鋭い、ナギさん、鋭い。


 醤油をベーコンエッグ全体に薄くかけ、ベーコンを口に運ぶ。カリカリした歯ごたえを楽しみながら、ご飯を追加する。



「ナギさん、グッジョブです」


「できるわね」


「美味しいです」


「いつもの味ね」



 目玉焼きの周囲の白身を減らしつつ味噌汁を楽しむ。


 白身の鎧がなくなったところで、半熟のキミをご飯の上に誘拐して、ご飯と一緒に口に入れた。これだ。


 そして、味噌汁。さりげに置かれた浅漬けも忘れてはいない。





「「「「「ごちそうさまでした」」」」」



 お茶が美味い。



「あなた、今日の予定は決まりましたか?」


「ナギさん、廃病院の探索で決定です」


「アオイちゃん、モンスターがアンデッド、霊体系ならシルバー弾が必要だよ。用意してるの?」


「それがですね、シグレさん。病院内はともかく繋がっているところに出るモンスターは霊体じゃないらしいです」



 くっそ。こんなことなら俺もちゃんと掲示板を見ておけば良かった。病院と見ただけでスルーだからなぁ。



「アオイちゃん。それは、アナザー情報ですか?私も知りたいかなぁ」


「未確認情報なので、ワタシ達が今日確認します。シグレさん、心配ならシルバー弾を用意してください」



 今日のアオイちゃんは不思議と強気だった。しかし、俺の銃はシルバー弾が、ない。ハンドキャノンの方にはあるが数が用意できない。あれの弾は嵩張るのだ。それに別に買いたい弾もある。



「うーん、それが―」


「あなた、今日は私も行きますのでアンデッドは任せてください」


「じゃ、私も」


「メイ、あなたは仕事をしなさい」


「ケチッ」


「ナギさん、助かります」


「アオイちゃん、本当に廃病院に行くの?あまり気乗りしないんだけど」


(センパイ、ここでシグレさんとの距離を縮めるんです。ナギさんは予定外でしたが)


(え?縮めるも何も関節技をかけるときに縮まってるけど)


(あれは、肝心な心の距離が開いています。恐怖と痛みで)


(そんな風には… でも、幽霊とかダメなの知ってるでしょ?)


(大丈夫です。自然に抱き着ける現象TOP5に入っています。問題ないです)


(それは初めて知ったけど。そんな余裕ないと思うよ?)


(このままじゃ、ナギさんが正妻ですね)


(じゃ、私は愛人で。ゲ、ゲームだし)


(お姉ちゃん!)


(もう、自分が飛びつきたいだけとか言わないでよ)


「はい、決まり。それじゃ、みなさん支度を」



 アオイちゃんがマユミさんの隣で仕切っていた。今日のアオイちゃんはテンションが高い。


 マユミさんと同じで俺も霊体系が出そうな病院は遠慮したい。唐突に壁からこんにちはーは俺の小さい心臓がかわいそうだ。ゲームの体だけど。


 でも、新たなダンジョンになっているのなら確認もしたい。宝箱との遭遇率も高いだろう。


 ナギさんもいることだし何とかなるの、かな?



 弁当箱と水筒を持って自分の部屋に戻った。水筒にはちゃんと、お茶が入っている。よし。


 リュックサックに弁当箱と水筒を入れ背中に装着。対物ライフルを持てば準備完了だ。


 颯爽と居間に行くとメイさんが既にソファーに座っていた。



「メイさん、傭兵事務所に行かなくていいんですか?」


「みなさんと一緒で問題ないです。傭兵事務所を通りますよね?」


「たぶん」


「廃病院は情報が少ないので気を付けてください。危なくなったら、すぐ逃げてくださいね」


「わかってます。安全第一ですから」



 メイさんは、着替えて傭兵事務所の受付のお姉さんになっていた。ダメダメなメイさんがシャッキリして見える。



「ゾワッとしました。シグレさん、まさか…」


「受付のお姉さんの格好もいいなと思っただけです」


「それなら、ギリギリ許します」


「お待たせ」「「お待たせしました」」


(マユミさん、リアルの方の食事は?)


(大丈夫、さっき少し食べたから)


(アオイちゃんは?)


(それこそ、大丈夫よ。私よりしっかりしてるから)



 懸念事項も問題なし。全員が揃ったので出発だ。まず、最初に俺がチームハウスを出る。公園で噴水の石像を確認した。和やかな表情で安心する。



「シグレ、行くわよ」



 1列目がマユミさんとアオイちゃん。


 2列目がナギさんとメイさん。


 そして、3列目が俺。予想通りというかこれしかない。前を歩くナギさんの荷物が目立つ。以前と同じでなかなかの重装備に見えた。


 裏通りを抜けて傭兵通りへ、まず傭兵事務所に向かう。


 傭兵事務所の近くのいつもの露店でおにぎりを買う。なぜか、メイさんもおにぎりを買っていた。唐揚げが好きらしい。唐揚げ派が増えそうで嬉しい。



「それでは、私はここで。みなさん、お気を付けて」


「メイさんは、仕事頑張ってください」


「ありがとうございます。では」



 メイさんが機嫌良く傭兵事務所に入っていった。



「マユミさん、武器屋に寄ってもいいですか?」


「ワタシも寄りたいです」


「わかったわ。武器屋に行きましょう。ナギさんも大丈夫ですか?」


「ええ、問題ありません」



 久しぶりな感じがする武器屋に入る。対物ライフルは、いつもの場所だ。



「いらっしゃいませ」


「いらっしゃい。おっ、やっと来たか。遅かったじゃねぇか」



 店内が賑わっていた。弾込めスペースでお茶をしている傭兵もいる。なんだこれ。理想に近づいている。あとはもう少しこの弾込めスペースが広くなれば…



「マスター繁盛してますね。武器が売れているのかは疑わしいですが」


「フフフッ、これからはこれだからな。おまえも、これが目当てなんだろ?まだ、テスト段階だが一応確保してある」



 マスターが勝手に話を進めていた。これと言いながら、これがどこにも見当たらない。まぁ、あれなんだろうけど。



「ハンドキャノンの照明弾をください。壁とかにくっついてくれると助かります」


「なんだって?」


「ハンドキャノンの照明弾をください。壁とかに―」


「それは、わかった。これは、いらないのか?」



 マスターがオープサイトのドットサイトをカウンターの下から出して見せてくれた。



「もう、できたんですね」


「これは本製品じゃない試作品だ。麒麟がいろいろ頑張ったらしいが完全に真似るのは難しかったようだ。特に光源がどうとか言っていたな。それで現状のできる限りがそれらしい。で、それが使い物になるかを客に使ってもらって意見を集めているところだ。使えるようだったら、そこそこの数を量産だな」



 マユミさんに試作ドットサイトを渡す。



「ちょっと待って、試してみるわ」



 マユミさんは試作ドットサイトを受け取ると、今つけているものを外し素早く交換した。手慣れたものだ。ま、両方とも付け外しが簡単にできるようつくられているから当然か。


 そして、これまた素早くいろんな角度に銃を向けて、それを覗いていた。



「うーん、ドットが安定しないわね。でも、値段によっては使えると思うわ」


「だろ?だいたい、俺もそんな風に感じた。だから、手頃な値段になる方向性はどうかと提案したところだ。量産型はこれより劣るかもしれないが売れるとは思う。なにしろ代わりがないからな」



 マユミさんが自分のドットサイトを元に戻して試作ドットサイトを俺に返してくれた。それを、そのままマスターに返す。



「これは、お返しします。俺は使いませんから」


「そ、そうか。まぁ、気が変わったら言ってくれ。それで、照明弾だな。くっつくヤツか。あるぞ、何発欲しいんだ」


「1発、いくらですか?」


「うーんとあれは… 300YENだな」


「じゃ、20ほど」


「おっ。冒険か?また、何か出たらよろしくな。今、持ってきてやる」



 以前のダンジョンが暗くてやりにくかったので今度は照明弾だ。しかし、毎回撃つわけにもいかないので使い所が難しい。この弾は嵩張って数をたくさん用意できないからな。



「よし、吸着照明弾20発、6000YENだ」


「口座払いで」


「おぅ」



 情報端末でお金を払い照明弾を持って弾込めスペースへ。アオイちゃんとトシコちゃんが話に花を咲かせている真っ最中だった。


 その隣でハンドキャノンの弾を榴弾から照明弾に変更。ハーネスのポケットに入っていたものと合わせて榴弾5発と照明弾15発をリュックサックに入れて残りの照明弾4発をハーネスのポケットに入れる。



「アオイちゃん、俺の用事は終わったけど、そっちは?」


「あ、はい、じゃ、弾を買ってきます」



 アオイちゃんがトシコちゃんと一緒にマスターのところへ。


 気配が全くしないナギさんがスーっと横に現れる。幽霊みたいなことするのはやめて欲しい。心臓が悲鳴をあげそうだ。



「あなた、照明弾ですか?私も買っていくつか持っておきましょうか?」


「いえ、毎回撃たないと思うし、そもそも必要かどうかもわかりません。今回は俺だけで」


「わかりました」



 隣でアオイちゃんが今度はマユミさんと弾を込めている。アオイちゃんはシルバー弾を買ったのかもしれない。



「シグレさん、お待たせしました。さぁ、行きましょう」


「了解。マスター、また来ます」


「おぅ」


「トシコちゃん、またね」


「アオイちゃん、みなさん、お気を付けて」



 対物ライフルを持って武器屋を出た。奥の手のハンドキャノンは今回は照明係だ。窮地はハンドガンだけで乗り切るしかない。


 ハンドガンの入っているホルスターに手をかけ未知の実力に期待を込めた。



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