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82-忘却の彼方


 マユミさんとアオイちゃんが二人で俺の前を歩いている。随分久しぶりに感じる。


 おにぎりの露店から傭兵通りを東に進んでいた。もうすぐ、ハンバーガーの露店だ。この二人の反応が楽しみだ。食にうるさい二人なら素通りはできまい。しかし、謎の違和感にとらわれる。


 時間は11時過ぎだ。客は多いかもしれない。



「センパイ、危険な香りがします」


「アオイちゃんも気づいたようね。これは、冒険の匂いね」



 た、たぶん、これだ。表現が少しばかり一般的でないだけだ。



「どうかしましたか?」



 アオイちゃんが少しこちらに顔を向け横目で俺を見る。既に疑われている。しかし、身に覚えがない。



「シグレさんは、知ってます、よ、ね?」



 俺に振らずに匂いの発生源にさっさと行って欲しい。



「言っていい?また、あとで楽しみが減ったとか言わない?」


「わかりました。シグレさんの好意だと受け取っておきます」


「アオイちゃん、そんなことはどうでもいいの。あの列がそうみたい。行くわよ」


「はい、センパイ」



 別に秘密とかにしていたわけではない。ちょっと、忘れてただけで。マユミさんとアオイちゃんで一緒に来るつもりもあったし。


 少し先を歩いている二人を追いかける。


 ハンバーガーの露店の周りは少し奇妙なことになっていた。なんというか、コバンザメ商法と言ったら悪く聞こえるかもしれないが、実際そんな感じに見えた。


 まず、ハンバーガーの露店があり、その周りにラムネや飲み物の露店が続く。食べ物以外の露店はない。麒麟コーラの露店が欲しい。


 それならフライドポテトやフライドフィッシュの露店が続くかと思ったが、そんなことはなくポップコーンやいももち等のサイドメニュー的露店が集まっていた。その中には、ちゃんと唐揚げの露店もある。


 ここら辺のサイドメニューには若干の違和感があったが、まだないのだろう。チキンナゲットとかは… でも、この違和感は新鮮でイイ!


 コバンザメを締めくくるように”サイドメニューはこちら”の立て看板がある。自分達でサイドメニューであることを認めているようだ。


 そこに、客はハンバーガーを片手に足りないものを周りの露店で補なっていた。いももちが気になってしょうがない。



「シグレ、予定をちょっと変更。まず、食べるわ」


「センパイ、大賛成。です」


「ハンバーガーは、とても美味しいです。二人ならダブルからでも良さそうですけど、おにぎりもあるのでほどほどに」


「シグレさん、わかってませんね」


「シグレ、ジャンクは別腹」


「あ、はい」



 甘い物以外に最近の娘さんはジャンクフードも別腹っと。いやでも、このサイドメニューの露店はただごとではないぞ。二人はどうするんだろう。



「まずは、ハンバーガーを買うようね。並ぶわよ」


「はい、はーい」


「俺の体には、ジャンク別腹機能がついていないようなので。遠慮を―」



 マユミさんとアオイちゃんに両腕を抑えられる。



「え?どうして」


「シグレも食べるの。女だけに食べさせるとか意味がわからないわ」


「シグレさん、わかってませんね」


「わ、わかりました。頑張って食べます」



 まずい、おにぎりが入らなくなる。ビールなら別腹機能はあるんだが…


 くっそ。仕方なく対物ライフルの置き場所を探す。露店の裏辺りなら大丈夫だろう。勝手に置いてハンバーガーの列に並ぶ。


 二人はさっさとダブルのハンバーガーを買って飲み物の露店へ移動している。強制的に食べさせるわりには奢りじゃないようだ。


 シングル、300YENのハンバーガーを買う。飲み物は… 選択権はないらしい。ラムネが手渡される。そして、アオイちゃんは出した手を引っ込めない。笑顔が続いていた。



「あ、お金ですね」



 お金は払わないといけないらしい。ポケットに手を突っ込んで100YENを取り出し渡す。



「毎度、ありがとうございます」



 お金を受け取ったアオイちゃんは、マユミさんが陣取ったテーブルに向かった。


 マユミさんが既にテーブルを確保しているとは、こういうことにも強いらしい。しかし、このテーブル、他のテーブルもそうだが道路にはみ出している。都市警察に怒られるんじゃ?


 そのテーブルに向かいハンバーガーとラムネを置いて、対物ライフルを取りに行こうとすると待ったがかかる。



「どこ行くの?サイドメニュー買ってくるから、ここにいて」


「あ、はい」



 うーん、こっちも対物ライフルが心配なんだけどなぁ。マユミさんとアオイちゃんが揃ってサイドメニューを選びに行った。


 机に並んだハンバーガーとラムネを眺める。



「いやぁ、シグレ。いいところで会ったね。ちょうどそこでこんなものを拾ってね。私は使わないから君にあげるよ。でも、タダというわけには、いかないねぇ。あぁ、重いなぁ。でも、シグレ、君ならわかってると思うからトリプルとか、ご馳走してくれるんだろうなぁ。やさしいなぁ。よ、ろ、し、く」



 俺の対物ライフルが俺に手渡される。俺のものが俺に移っただけなのに俺の懐が軽くなってしまうようだ。アナザーの識者が吐血するような現象が、ここに。解せん。


 おもむろに対物ライフルを足元に置く。



「これ、俺のでは?」


「名前なんて、どこにもないし。そもそも、地面に落ちてたし。早く、トリプル。飲み物とサイドメニューを選びたいんだから」



 やはり、自分の持ち物に名前は基本なのか。そんなの書かないしPTRDという名前が… あ、でもこれは固有名じゃないなぁ。うーん、名前ねぇ。プトゥルディとか、どうだろう。なかなか、イイ、かもしれない。


 切り替え、切り替え。


 笑顔の圧をかけてくるヒロコさんをテーブルに残して、仕方なくハンバーガーの列にまた並ぶ。




 ようやくトリプルのハンバーガーを買ってテーブルに戻るとマユミさんとアオイちゃんが戻ってきていた。



「はい、ヒロコさん。トリプルです」


「ありがと。それじゃ、サイドメニューに行ってくるよ」



 トリプルのハンバーガーをヒロコさんに渡すとすぐにヒロコさんは立ち上がりサイドメニューを買いに行った。


 マユミさんとアオイちゃんの冷ややかな視線が飛んでくるかと思ったが、そんなことはなかった。二人はメインが何かわからなくなるくらいのサイドメニューを買ってきていた。


 至福の表情で行儀良くヒロコさんの帰りを待っているマユミさんとアオイちゃん。平和だ。


 そして、ヒロコさんが戻ってきた。ヒロコさんもメインはトリプルのハンバーガーなのにサイドメニューがおかしなことに。ハンバーガーの露店より周りが儲かっている気さえしてきた。


 テーブルを眺めると俺のところの寂しさが一目瞭然だった。



「「「「いただきます」」」」



 俺はサイドメニューなしでシングルのハンバーガーとラムネをいただく。目の前のおかしな人達を見ないようにした。見るだけでお腹が膨れてしまいそうだ。


 ピクルスに物足りなさを感じつつも美味しいハンバーガーだった。サイドメニューにピクルスの盛り合わせが欲しかったな。ラムネもハンバーガーに良く合っていた。


 食べ終わったのでみんなの方を見てみる。



「え?もう、食べたの?一人は問題ないとして、みんな女の子の皮を被った狼じゃないよね?」


「シグレ、表現がデリカシーに欠けてるわよ。こんなの普通よ」


「そうです、シグレさん。食べることに女も男も狼も蛇もありません」


「君は、その量でちゃんと動けるのかい?そんなに銃が大きいのに」


「大丈夫です。みなさんこそ、今頃体のラインがかわ―」



 痛!テーブルの下だ。事件はテーブルの下で。


 少しテーブルの下を覗いてみると、左隣のマユミさんと右隣のヒロコさんが俺の足を踏んでいた。アオイちゃんは残念、届いてません。しかし、痛い。



「シグレ、続きは?さぁ、言ってみなさい」


「君、言いかけたなら最後まで言っていいんだよ。ただ、そこから立ち上がることが難しくなるかもね」


「体のラインが、かわ、可愛くなっていると思います。それは、とても、とても」



 痛みが引いていく。許されたのかもしれない。



「シグレさん、上手になりましたね」



 この配置で迂闊に口が滑ると危ない。俺の口はいい加減学習して欲しい。一言多いことを。



「そう言えば、マユミ。お酒呑めるって言ってたよね?」


「ええ、呑めます。しかも、別腹に」



 マユミさんの腹が何個あるのか知りたい。


 ヒロコさんがマユミさんに手招きをして身を乗り出す。



「そこの旦那と一緒に手に入れた酒があるんだよ。アサヒワシってお酒だけど、呑むかい?」



 合わせて身を乗り出していたマユミさんがアサヒワシの名前を聞いた途端、目が輝き出した。台所にいたときとは別人のような顔をしている。



「まさか、ここでその名前を聞けるとは思いませんでした。も、もちろん呑みます。呑ませてください」


「マユミは、いける口だと思ったよ。じゃ、今夜行くから」


「わかりました。ありがとうございます。お酒に合う料理を用意しておきます」



 その喋り方ができるなら俺にもそうして欲しいんだけど。俺の方が年上だよ?



「シグレ、アオイちゃん、今夜の予定に重要なのが入ったわ。さっさと調整を済ませるわよ」


「センパイ、ワタシもそのアサヒなんとか。飲んでみたいです」


「それは、ヒロコさんにお願いして」


「もちろん、アオイちゃんも問題ないよ。そこの旦那は、お酒は好きじゃなさそうだけど」


「俺はビールでいいです。ビール、美味しいです。アサヒの地ビールとかないんですか?」


「あるけど、君には教えない」



 おいおいおい、聞き捨てならないことが、さらっと出てきたぞ。



「どして?」


「君を動かすための材料としてとっておくよ」



 えええええ。そんなことで。でも、それなら。



「それなら、今教えてくれれば、次のヒロコさんの要求を呑むということで」


「そんなことしていいのかな?何でもチケットみたいに聞こえるけど」



 そうでした。止めてくれてありがとうございます。



「今のは、なかったことにしましょう。ヒロコさん、ありがとうございます」


「ナギの面倒を見てくれてるからね。今回は許してあげるけど次はないから」


「は、はい」



 とりあえず、全員食事は終わったようだ。



「では」


「「「「ごちそうさまでした」」」」



 テーブルのゴミを片付けて対物ライフルを担ぐ。



「それでは、ヒロコさん。後ほど、よろしくお願いします」


「任せときな。今日も美味しいお酒が呑めそうだ」



 ヒロコさんが薬屋の方に戻っていく。薬屋?


 あれ、浜辺は南なのに、なぜ東に進んで露店で食事をしているんだろう?



「あのう、マユミさん。なぜ、俺達は東に進んでいるんでしょう。浜辺は南だから、おにぎりの露店を左に進むのが正解なんじゃ?」


「あれ、そうなの?私は道に詳しくないから」



 いやいやいや、傭兵通りは流石に覚えてるでしょ。とはいえ、俺も今まで気づかなかったわけで。



「それは、ですね。ハンバーガーの露店の情報を掲示板で知ったからです。シグレさんは教えてくれませんでしたから」



 いやいやいや、教えるタイミングがなかったでしょ?いや、あったけど。忘れてた。



「シグレ、反省して。じゃ、行くわよ」



 軽っ。


 ここは黙って反省したことにして反省しよう。本当にちょっと忘れてただけだ。


 アオイちゃんが横目でこちらをチラッと見てすぐにマユミさんの元へ。


 これは、アオイちゃんのポイントを稼がないといけない流れのようだ。


 マユミさんの重要情報も結局教えてもらっていない気がする。忘れているだけだろう。俺も忘れてたし。人間誰しも忘れることはあるんだ。そうだ、そうだ。



「シグレさん、置いて行きますよ。それとも―」


「行きます。大丈夫、ちゃんと行きます」



 傭兵事務所まで進みそこから南へ。歩いて30分弱で浜辺に到着。傭兵事務所の前では、なぜか恨めしい声を聞いたような気がしないでもない。気のせいだろう。お化けが出るには、まだ早い。


 バイク?そんなものを持っていたかもしれない。いろんなものが忘却の彼方へ旅立っていた。


 道中、アオイちゃんの質問にマユミさんと一緒にちゃんと答えた。ポイントをそこそこ稼いだと思う。



「さて、ドットサイトの調整を始めるわよ。危ないので一人ずつね。まずは、アオイちゃんから」


「はい、センパイ」


「必ず、的の近くに人がいないことを確認して撃つように。シグレでも当たると痛いと思うわ」


「メチャクチャ、痛いと思います」


「はい、センパイ」


「何か質問は?」


「センパイ、ワタシは何をしたらいいのでしょうか?何もわかりません」


「最終的な目標は、その赤い点に狙いたいものを合わせて銃を撃ったときに弾がそこにちゃんと飛ぶように調整するの。このこことこれでね」


「はい、センパイ」


「それと、合わせるときの的の距離も大事だから」


「アオイちゃん、難しく考えなくても大丈夫だよ。アオイちゃんの場合、距離は近めだから。狙ったところにだいたい当たるならそれでいいかと、俺は思います。スキルの補正もあるだろうし」


「そうね。まずは1発撃ってみて」


「じゃ、俺が的を用意してきます」


「センパイ、シグレさん。ワタシ、頑張ります」




 お、終わった。アオイちゃんは意外と早く終わった。賢いと飲み込みも早い。が、問題はマユミさんだった。


 アイアンサイトで不満が溜まっていたのかドットサイトの調整が難航した。


 スキル補正があるというのに長距離狙撃でもするくらいのこだわりようだった。



「センパイ、シグレさん。ありがとうございました。とても当てやすくなりました」


「私もスッキリしたわ。アイアンサイトの謎の違和感が気になっていたのよ」


「そうですか。お疲れ様でした」



 アオイちゃんがしきりにドットサイトを覗いている。よしよし、それでいい。銃はいいぞ。リアルでも時間の問題だろう。



「それじゃ、帰るわよ。食材の買い出しをしなきゃ」



 うん?アオイちゃんが何かを見て固まっている。アオイちゃんが見ている方向に視線をやるとスカウトアントが平然と歩いていた。砂浜を堂々とだ。



「どうしたの?アオイちゃん」


「たぶん、あれですね」



 マユミさんが振り返った。と同時にライフルを構え1発撃つ。



「当たりね。じゃ、帰るわよ」



 マユミさんは満足な表情を浮かべて歩き出す。そして、アントの魔石を拾い固まっていたアオイちゃんに投げた。


 アオイちゃんが、なぜかそれを避けるので俺が慌ててキャッチする。



「アオイちゃん?」


「い、いえ、つい。体が」


「じゃ、俺が持っておこうか?」


「もう、大丈夫です」



 そう言ってアオイちゃんは、俺からスカウトアントの魔石を奪ってマユミさんを追いかけていった。


 対物ライフルを担ぎ直し、アオイちゃんの後ろを歩く。


 アントの本隊はいつ行動を起こすのだろうか?早く終わって欲しい。


 うん?何かを忘れているような…



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