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81-新戦力


「ひどいですね、マユミさんは。俺は被害者だというのに。無駄にポーションが減ったじゃないですか」



 あのボロボロの状態からポーションで復活するのが癖になりそうだった。治っていく感じが非常に気持ちいい。しかし、これは俺だけの秘密だ。


 貴重なポーションを俺に使うマユミさんを思い出す。少し不満そうな顔がまた… いかん、いかん。おかしなところにいってしまいそうだ。



「何?床ペロしたままの方がいいってこと?シグレは相変わらず変態ね」



 時間は9時。俺だけ少し短めの関節技のコースをいただき、今はみんなで朝食をいただいていた。


 今朝はメイさんが増えていて、さらに賑やかになっていた。リアルでは一人なのでこういうのはありがたい。ただ、それぞれが危険人物なのが玉に瑕だが。



「ナギ、床ペロって何?」


「さぁ、アナザー言葉でしょう。私は知りません」


「メイさん、床に倒れていることです。床ペロって。ただ、いい意味ではありません。どちらかと言えば屈辱的な感じです」


「ありがと、アオイちゃん。ナギ、アオイちゃんが教えてくれたよ」


「メイ、いちいち私に報告しなくていいです。早く食べてしまいなさい。あなた、今日も仕事でしょう?それに、もう遅刻なのでは?」


「担当者は被担当者との打ち合わせであれば、もう仕事なの。今も仕事中」


「メイ、ほどほどにしないといつかバチが当たりますよ」


「もう、バチは当たってるから大丈夫。せっかく見つけたシグレさんはナギに取られたし。まぁ、そんなの関係ないけど」



 マユミさんの冷たい視線がメイさんに突き刺さっているが、メイさんは全く気にしていないようだ。



「メイさんもシグレですか。シグレ、モテモテね。良かったわね、ハーレムを築けて」



 うわぁ、今度は俺に。これは何を言っても火に油を注ぐだけだろうな。



「メイさんは… お酒、そうお酒が入っているんです。もう、一晩経ってますけど抜けていないんでしょう」


「え?お酒なんて、もうすっかり」


「メイさん、お酒に呑まれてはいけませんよ」


「シグレさん、聞いてます?」


「そ、それで、マユミさん。今日の予定はどのように?」


(メイ、もう少し他の奥方に配慮なさい。シグレの妻は私だけじゃありませんよ)


(わかってる。こういうの初めてなんだから。慣れてないだけ)


「センパイは、ワタシの銃のカスタムに付き合ってくれるそうです。銃のレールは、できてるはずですから。シグレさんは担当さんと忙しそうですけど、ね。ねっ」



 アオイちゃんが刺々しい。アオイちゃんも何とかしないと。もう俺の周りが違う意味で爆弾だらけに… どうして、こうなった。



「アオイちゃん、俺も付き合うから。ドットサイトの調整頑張って」


「センパイ、シグレさんも来るみたいです。良かったですね」


「そ、そう。シグレ、主役はアオイちゃんだから。浮かれないように」


「わかってます」


「メイさん、俺はアオイちゃんに付き合って、その後に傭兵事務所に寄りますから昨日の手続き、終わらせておいてくださいよ」


「はい、任せてください」


「あなた、私の予定は聞いてくれないのですか?」


「どうせ、秘密なんでしょう?秘密、頑張ってください」


「はい、秘密頑張ります」



 あ、それと気になっていたことがあったのでついでに聞いておこう。



「あのう、今朝のこれもですが食費はどうなっているんでしょうか?家賃、まだ払ってはいませんが、食費もマユミさんに?」


「シグレは心配しなくてもいいわ。家賃だけ私に払ってくれれば」


「あなた、食事等は私達がします。それに思うところがあるのであれば、私達にプレゼント、とか、あってもいいんですよ。指輪、とか」


「あ、私も。シグレさん、私も私も」



 メ、メイさんまで。どうやら藪をつついてしまったかもしれない。やはり、知識欲は危険だった。そのことをすっかり忘れてしまっていた。



「そ、それじゃ、俺は部屋で支度しますから。ごちそうさまでした」


「「「ごちそうさまでした」」」「シグレさん、私も」



 自分の部屋に戻ってきた。朝食のメニューが何だったのか思い出せない。お腹は膨れているが食べた気がしない食事だった。


 そして、俺の部屋だ。床には雑多に物が転がっている。さっきの関節技のコースのおかげでさらに散らかってしまった。


 しかし、目を少し上に向けると殺風景な光景だ。二つある窓の片方にはポーションの箱が二つあるだけでカーテンすらついていない。


 まぁ、寂れた商店街な上に霧で外から覗かれるということはないから安心なのだが。カーテンがないと落ち着かないのは確かだった。



「あ、日課がまだか…」



 リュックサックから弁当箱と水筒を取り出し台所に行く。


 台所ではマユミさんが一人で洗い物をしていた。何か少し寂しそうなマユミさんの背中に話しかけるのは悪い気がした。が、そっと忍び寄ると蹴りが飛んでくる。



「お疲れ様です。洗い物、手伝いましょうか?」


「どうしたの?シグレ。あ、日課ね。いいわ、そこに置いといて。お茶も入れておくわ」



 機嫌がいいのか悪いのかわからないが、ここはお言葉に甘えておこう。



「ありがとうございます。よろしくお願いします。では」


「シグレ」



 弁当箱と水筒を置いて部屋に戻ろうとすると呼び止められた。少し怖い。



「何ですか?」


「楽しい?」


「何がですか?」


「このゲームよ。楽しんでる?」


「ま、まぁ、一応。思うようにいかないですけど」


「そう。私はどうしたらいいと思う?」



 そんな難しい質問を…



「マユミさんの思うようにすればいいんじゃないですか?」


「それで誰かに嫌われても?」


「それじゃ、嫌われないようにすれば」


「無理ね、ありがと。今日はアオイちゃんに付き合ってくれて良かったわ。忙しそうだし」


「か、可愛いチームメイトですから。当たり前ですよ」


「チームメイト、ね」



 マユミさんが休めていた手を動かし始めた。俺もさっさと準備をしよう。


 再び部屋に戻ってきた。床に散らばった装備を一つ一つ身につけていく。


 最後に右のホルスターに新しい銃、ハンドガンを入れ対物ライフルを持てば準備完了だ。あ、弁当箱と水筒が、まだだな。


 忘れ物は… ないんだろう。それじゃ、今一度台所へ。


 台所にマユミさんの姿はなかった。シンクの隣に俺の弁当箱と水筒が置いてあったので対物ライフルを壁に立てかけてからリュックサックにしまう。


 そして、居間へ。って、すぐ隣だ。静けさだけが漂うソファーに対物ライフルを持ったまま座る。


 しみじみと対物ライフルを眺める。何か、対物ライフルといいハンドガンといいしばらく撃っていない気がする。スキルが成長しないし鈍りそうだ。


 俺は何のゲームをしているのだろうか?ときどきわからなくなる。爆弾管理が忙しい恋愛ゲームをしているわけでは、決してない。


 ゲームなのかさえ曖昧になることもなくはない。ナギさんやメイさんがNPCには全く思えない。もう、ここまで来ていたらしい。



「シグレ、お待たせ」


「シグレさん、行きますよ。ドットサイトがついたこの子の勇姿を見せてあげます」



 筆頭爆弾姉妹が来た。遅れて爆弾妻とその爆弾友達もだ。



「あなた、気を付けて」


「シグレさん、傭兵事務所で待ってますから。早く来てくださいね」



 時間はいつになるかわかりません。首を長くしてナギさんに退治されてください。



「それじゃ、行きますか」



 履物で賑やかになっていた玄関を出る。先に出て公園の噴水の石像に挨拶をしておこう。


 対物ライフルを担ぎ直し階段を降りる。今日も霧、だな。そういえば、まだ、雨にお目にかかっていないが、どうしたんだろう?降らないのかな。


 そもそも、天気ってどうなっているのだろうか。もう、霧だけだったりして。


 公園に入り噴水の石像に心の中で挨拶をする。噴水の石像は今日も変わらず水を注いでいた。



「シグレ、何してるの?置いていくわよ」


「今、行きます」



 薬屋は近所だと認めたくないが、銃のカスタムショップはご近所さんでいいだろう。距離的には薬屋より遠いが。


 そのカスタムショップ カワサキに到着。アオイちゃんがどことなくそわそわしているような。



「アオイちゃん?」


「シグレさん、いってきます。こ、この子のフレーム交換に」


「私も行くから、そんなに硬くならないで」


「は、はい。お姉ちゃん」



 二人が店に入っていった。俺は用もないのに対物ライフルを持って店内を窮屈にする必要もないだろう。迷惑なだけだ。マスターのところならやるが。


 これで、アオイちゃんがドットサイトデビューだな。調整はどこでするんだろう?ま、できるところは傭兵事務所の射撃訓練場くらいしか思いつかない。


 アオイちゃんはいいとしてマユミさんも調整するなら傭兵事務所では少し狭いだろう。


 浜辺の方がいいかもしれない。アント見回りもできるし。


 店の中を遠目に窺う。カスタムショップに活気があって大変よろしい。



「あれ?」



 あれあれあれ。ドットサイトらしきものを手に持っている人がいる。


 あれ?しかもオープンタイプだ。どうしたんだろう?気になる。ちょっと近づいて諜報活動でも―



「へへへへ。おまえもトシコちゃんクラブに入れば、この限定入荷情報を仕入れられたのにな。次の入荷は未定だって。ま、レポートがちょっと面倒だが」


「くっそ。そんなオマケがついてるなら入れば良かった。でも有料なんだよなぁ。そこが引っ掛かって」


「毎月2000YENなんて、くっそ安いじゃん。それでトシコちゃんの応援と限定商品の入荷情報が入るなんて。毎月2000YENでも安い。非公式だが」



 ダメ人間、アナザーが増えていた。しかも、本人の知らないところでお金までとって… トシコちゃんには迷惑かけるなよ。



「ただ、俺はクミコンの方があるからなぁ。そんなに無駄遣いは」


「アント探せよ、もっと。破格だぞ」


「わかってる。わかってるって」



 ク、クミコンって誰?全然知らない名前だった。


 よし、情報収集はこんなものでいいだろう。さりげなく店から出て情報をまとめる。


 どうやら、マスターのところにあのドットサイトがあるらしい。ひょっとしたら、麒麟と量産がどうこう言っていたのが目処が立ったのかもしれない。


 マスターだけウハウハじゃないか。許せん。俺もウハウハしたい。一枚噛んどけば良かった。逃した魚が、でけぇ。


 今からでも間に合わないかなぁ。



「シグレ、お待たせ。何かあった?」


「シグレさん、見てください。この子の姿を」



 アオイちゃんが笑顔でドットサイトをつけたMP40を見せてくれた。



「いやぁ、凛々しくなったね。おめでとう」


「ありがとうございます。あとは調整、調整をしないと」


「マユミさん、あれ見てください。あれ」



 さっきの客のドットサイトに視線を送る。マユミさんがその視線を追う。



「あぁ、あれね。店員さんもレールカスタムが増えてたから不思議がっていたけど。あれが原因ね。もしかして、マスター?」


「たぶん、そうだと思います。早く冷やかしてあげたいですね」



 アオイちゃんは自分のドットサイトと比べていた。



「シグレさん、これと随分形が違いますけど、あれもドットサイトなんですか?」


「そうだね。アオイちゃんのがチューブタイプで、あれはオープンタイプってヤツだよ。ちょっと形が俺の知っているのと違うけど。間違いないと思う」


「いろんなのがあるんですね」


「と言っても、チューブかオープンくらいだけどね。それで、マユミさん。これから、どうするんですか?」


「そうね。私もアオイちゃんも残すは調整なんだけど。傭兵事務所の訓練場だと距離が少し足りないかな。シグレ、良いところ。ある?」


「俺も浜辺くらいしか思いつきませんね」



 マユミさんは少しだけ考える素振りを見せたが、それも本当に少しだけだった。



「それじゃ、おにぎりを買って浜辺に行きましょうか」


「大賛成です。じゃ、早く行きましょ。早く」



 アオイちゃんが張り切っている。とうとうカスタムの沼に落ちたのかもしれない。健全な女子がまた一人銃の虜に… デヘヘヘヘヘ。


 裏通りをその辺りの路地から抜けて傭兵通りへ。そして、おにぎりの露店を探す。


 おにぎりの露店は、だいたい傭兵事務所に近いところにあるはずだから、もうすぐ―



「センパイ、ワタシが先に買います」



 アオイちゃんが先陣を切っていた。なぜ、そんなに大仰なのか。普通でいいのに。



「シグレ、わかってるわね」



 何もわからない。自分の好きな、食べたいおにぎりを買うだけなのに。なぜ、普通にできないのか?この娘達は。


 アオイちゃんが、おにぎりを買い終わってこっちに来た。



「センパイ、どうぞ。今日は負けませんから」


「望むところよ」


「えーと、普通におにぎり買って食べるでいいのでは」


「シグレ!」「シグレさん!」



 二人の眼力が凄い。おにぎりだよ。おにぎり。食べたら美味しいおにぎり。


 この流れで俺は何を買えばいいのか?唐揚げのおにぎりが食べたいのに。



 おにぎりを買いに行ったマユミさんも戻ってきた。得意気な表情が納得いかない。



「シグレ、私の戦力の補充が終わったわ。あとは、シグレだけよ。十分な戦力を用意するように」



 えええええ。戦力って。


 対物ライフルを地面に置くとマユミさんが背中を押してきた。おにぎりの露店に押し込まれる。



「いらっしゃい。今日も賑やかだね」


「あの二人がおにぎりにうるさくて。俺は普通にここのおにぎりを食べたいだけなんですよ」


「今日は面白いのがあるよ。これなんて、どうだい」


「こ、これは」


「そして、こんなのや、こんなのも」


「え、これは、邪道なのでは」


「美味しければいいのよ」



 確かに美味しければいいのだろう。しかし、これは、大丈夫だろうか?マユミさんとアオイちゃん的に。



「これ、あの二人は何て言いましたか?」


「見せてないね。とっておきだからね。これで、驚かしてやりな」



 とっておきを見せてもらえるのは、ありがたいのだが…



「何、悩んでるの。はい、これ三つ持っておいき。300YENだよ」



 驚きながら300YENを渡す。そして、リュックサックから弁当箱を取り出し格納した。



「そんじゃ、また来なよ」


「はい、また来ます」



 露店のおばちゃんに背中を押されて二人の元へ戻ってきた。



「それじゃ、戦力も整ったことだし浜辺に行くわよ。今日も楽しくなりそうね」


「今日は美味しくなりそうです。ね。シグレさん」



 ただ、浜辺に行って二人のドットサイトの調整を見守っておにぎりを食べる。


 それだけなのに、足が重かった。担いだ対物ライフルも少し重く感じる。



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