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79-逆襲


「あ、そうだ。装備を外す前にメイさん、これを」



 リュックサックから今日の依頼関連の書類が入った封筒を取り出しメイさんに渡す。



「これは、今日の依頼の書類ですか。どうして、今これを。私にはこんなことより重要な話が―」


「傭兵事務所に行ったら受付のお姉さんが、メイさんに直接渡してくれと言って受理してくれなかったもので」


「まぁ、そうでしょうね。担当は私ですから」


「傭兵カードも渡しておきましょうか?なんなら、傭兵事務所に手続きをしに戻ってもらっても構わないんですが。受付のお姉さんがメイさんはずっと席を外しているとも言ってましたよ」


「あなた、このメイは朝からずっとここにいますね。外見は男受けがいいのですが中は…」


「ナギ、私の評価を下げようとしても無駄よ。もう、担当にもなったし、ここにも自由に来れるわ」



 また、飛躍したなぁ。ここにも自由に来るって。ここを乙女ネットワークの溜まり場にでもする気なのか。



「それで、メイさん。仕事はいいんですか?」


「大丈夫です、シグレさん。今もシグレさんの身辺調査という担当としての仕事をしていますから」


「じゃ、その書類は明日ですか?」


「傭兵カードを貸してください。ちゃんと処理をして明日の朝には手続きを済ませておきます」



 メイさんに傭兵カードを渡す。メイさんはそれを受け取ると封筒に入れてしまった。



「あと、メイさんは麒麟重工と悪い企みをしているようですね。指名依頼でもないもを俺に優先するみたいな」


「シグレさん、人聞きが悪いですよ。担当として、その人に合った依頼を前もって選別しているんです。たまたま、それが麒麟重工のシグレさん向きの依頼ってだけで」


「メイ、物は言いようですね。シグレは私に任せて、あなたは別の男を探したらどうです?傭兵事務所にいたらアナザーの男を選り取り見取りでしょうに」


「ナギ、さっきから言ってるでしょ?シグレを見つけたのは私が先なの」


「結婚したのは私が先ですけど」


「キーーーーー!私は認めません。シグレさんも、なぜナギの婚姻届にサインなんかしたんですか?そんな簡単に現地妻をつくっていいんですか?」


「いや、何でもチケットのおかげで体が勝手に」


「だったら、私にもそのチケットをください」


「ダメです。あのチケットは危険なので、もう発行しないと誓いました」


「キーーーーー!この都市には適齢期の男性が非常に少ないんです。理由は想像つくでしょうけど。そこにアナザーの男性が降ってきて乙女ネットワークは凄いことになっているんです。私にもようやく春が来るはずだったのに。ナギのお、か、げ、で」


「ナギさん。この人、お酒入っていたりしますか?」


「隠し持っていたようで、少し入ってしまったのかもしれません。だとしたら、私の不手際です。申し訳ありません」


「ナギ、何を謝っているの?シグレさん、この都市では現在重婚が認められています。理由は想像つくでしょうけど。私を現地妻2号にどうでしょう?さぁ」



 今日のメイさんは勢いが凄い。グイグイ来ている。何かつらいことでもあったのだろうか?



「あなた、装備を外してきてください。メイはほっといて食事にしましょう」


「ナギィィ!!」



 また、波が高くなってきたようなので自分の部屋に退散する。電気、電気っと。


 メイさんが残念なお姉さんになっていた。都市に男が少ないと言っているから、そういうことなのだろう。


 どこぞの掲示板ではメイさんの評判はいいので、俺なんかの現地妻2号なんて言ってないでいい男を見つけて欲しい。


 それまでは、ここに自由に出入りするくらいはいいだろう。マユミさんとアオイちゃんがどう思うか知らないけど。


 装備を外して床に置いていく。右のホルスターに銃が入っているという安心感。そして、全部外したところで床にそのまま座った。


 目の前のリュックサックから新型弾を、ホルスターからは新しい銃を取り出し手元に持ってくる。


 銃からマガジンを外し弾を込める。



「いい」



 あ、クリップがない。この銃のこの弾用のクリップも欲しかった。今度アマノさんにつくったか聞いてみよう。


 新型弾を黙々と込める。新しい弾なので新鮮な苦行だった。


 20発の新型弾を込めた以前より短いマガジンを新しい銃に挿す。右手首を回す。銃が鈍く光を反射する。



「いい」



 ハーネスから空のマガジンを持ってきて、また弾を黙々と込める。


 これで、リザードマンが何とかなれば… 対物ライフルでは突発的な対応に困るときがあるから、やっぱりハンドガンは必要だ。


 一つ目が終わり、二つ目のマガジンに弾を込める。


 あ、これ、シルバー弾はどうなるんだろう?まさか、この弾がシルバー弾を兼ねているとかそんなことは、ないよな。ホント、どうしよう。


 でも、まぁ、いいか。今考えても答えは出ない。


 銃を握り人差し指でマガジンリリースボタンを押し、すぐさま弾を込め終わったばかりのマガジンに交換する。



「いい」



 素晴らしい。最近の漠然としたよくわからない不安みたいなものが解消されていく感じがした。思わず頬ずりをする。ひんやりしていて気持ちいい。



「あなた、食事の用意が―」



 だから、ノック。銃に頬ずりしているところに扉が突然開いてナギさんと目が、顔が合う。



「いや、これは、ひんやりして気持ちがいいとかではなくてですね。そ、そう。ナギさん、これが新しい銃です。なんとかなりました」


「あなた。あなたが、どんな性癖の持ち主でも構いませんよ。銃に頬ずりするくらいかわいいものです」


「私も気にしませんから。私だって抱き枕の大きな人形がありますし。シグレさんの銃だって同じなんでしょう」



 いや、ちょっと。タイミングが悪かっただけだから。



「ちょっとひんやりしてただけで。性癖とかそんなんじゃ」


「食事が温かいうちに、いただきましょう。あなた」


「シグレさん、当然ですけど私も料理しましたから」



 俺の話は聞いてくれていないようだ。諦めて居間に移動する。新しい銃にはしばらく床をひんやりさせる任務を与えた。畳だけど。





「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。それじゃ、俺、帰りますから。ナギさん、あとをよろしくお願いします。メイさんとか」


「はい、わかりました」


「メイさんは、ほどほどにごゆっくり」


「えええええ、もう帰るんですか?いいです。私はナギの部屋に泊まりますから」


「では」



 美味しい料理の余韻に浸る間もなく自分の部屋に戻りログアウトをする。





「トイレ、トイレ」



 VRギアを外して起き上がり、トイレに急行した。



「スッキリした。危ない、危ない」



 冷蔵庫からほうじ茶を取り出して飲む。ふぅ。一息つけたな。


 最近、ゲームの中で俺の周りが騒がしくなってきた。もう、落ち着けるところは、ここしかないのかもしれない。


 掲示板でも見てゆっくりしよう。検証スレが上がっていた。何か進展があったのかもしれない。


 どれどれ―



 どうやら、キタサトというアース人が【知力】が1ではないらしい。


 【知力】が1ではない人間の発見にスレのスピードが凄かった。良いところに出くわしたものだ。


 で、キタサト、キタサト。聞いたことのある名前なんだよなぁ。誰だっけ?


 待て待て待て、ヒロコさんやナギさんが口にしてたぞ。だんだん、鮮明になってきた。


 うーん。【知力】が1ではなさそうでヒロコさんやナギさん関係の人は… うん?ひょっとして…


 地図さん、イケメン地図か。【知力】がマイナスな気がして、なかなか繋がらなかった。ま、でも… はい、解散。知ってた。今頃かよ。


 検証スレを早々に退散する。


 もう、【知力】なんていいじゃん。魔法が唱えられるようなるまで無理だって。


 魔法?うん?最近、呪文のようなものを口にしたようなしてないような。アダムスがどうとか…


 まさか!急いで情報端末を取り出してって違う。こっちじゃなかった。


 うわぁ、気になる。よし、まず、落ち着こう。こんなときは、ほうじ茶だ。


 一口飲む。俺は麦茶よりほうじ茶だな。いや、それはどうでもよくて。


 ダメだ。もう掲示板どころではない。ログインして確かめよう。


 ベッドに寝転がりVRギアを装着して、ゲームを起動。


 白い世界が消えて何もない。暗っ。電気が消えていた。ナギさんが消してくれたのかもしれない。


 床のものを踏まないようすり足でスイッチを探す。


 よし、あった。ポチッとな。電気はこれでよしっと。


 情報端末をポケットから取り出してステータスを表示する。



 能力:筋力51 体力13 耐久34 敏捷11 器用12 知力1 精神7

 スキル:拳銃3 対物小銃2 思念操作1 気配察知2 操縦1 心眼1 急所攻撃1 小銃1



 【知力】は、1。変化なしっと。呪文だと思ったがダメだったか。



(世界言語の発音はしてないからね。それに、この銃の世界言語が発動しても呪文を唱えたことにはならないから。残念)



 切り替え、切り替え。


 久しぶりのステータスだ。他に変化は… って、【小銃1】が増えてる。


 小銃なんて使ったっけ?小銃ってことはライフルだよな。ライフル、ライフル。


 あ、シモン君の銃を借りたことがあったな。でも、撃ってはいなくて槍みたく銃剣で刺しただけだったような。


 それでもライフルを使ったことになるのか。この理屈でいくと、剣に銃がついていて、その銃を撃った場合上がるスキルは剣になる。


 ふーん。まぁ、いいんじゃない?榴弾撃って【拳銃】のスキル上げてるしな。


 情報端末をポケットにしまい床をひんやりさせている銃を握る。


 改めてバランスが変わってしまった銃を見る。



「いい」



 頬ずりしたい。まずい、対物ライフルの冷たい視線を感じる。不公平はいけません。対物ライフルを引き寄せて一緒に頬ずりを…



「あなた、銃を愛でるのもいいですが私は愛でてくれないのでしょうか?」



 だから、ノックをしてください。お願いします。



「えーと、ナギさん。ノックは?」


「あなたと私には必要のない行為ですね」


「ナギばかり、そんな歯が浮きそうなことを言って。私も言いたいのに」



 あ、メイさんも出てきた。



「ナギさん、何か用ですか?」


「用がないと来てはいけないのですか?」



 もう、どうしろと。抱えていた銃達を床に戻す。



「それでは、コーヒーでもお願いできますか?」


「はい、わかりました。メイ、行きますよ」


「え?コーヒーならナギ一人で十分でしょ?」


「ええ。でも、抜け駆けはさせませんから」


「チッ」


「はい、二人共さっさと行って」


「あなた、銃を愛でるのはほどほどにしてくださいね」



 そう言ってナギさんはメイさんを引っ張っていなくなった。


 これも全部銃がトランスフォームしないからいけないのだ。人の形をしていれば問題は… あるか。コーヒー、飲もうっと。



 居間でソファーに座ってコーヒーを待つ。メイさんはさっきから寝間着姿だった。ナギさんもだが。お泊りを満喫しているのかもしれない。職場を早々に抜け出して親友の部屋に泊まり込むとか、あのいつものお姉さんはどこにいってしまったのか。



「寒っ。シグレさん、まさか」


「メ、メイさんはお風呂に入ったんですか?」


「ええ、入りましたよ。ここのお風呂は意外と広くていい湯をいただきました」


「そうでしたか。なら、俺も入ってこようかな」


「シグレさん、お風呂に入るんですか?沸かしてきましょうか?」


「いえいえ、そのくらい自分でできますから。コーヒー飲んだら考えます」



 メイさんが何かを狙う鋭い目になったような気がした。あの獲物を狙うような鋭い目の理由が全く思いつかない。



「あなた、それにメイも。コーヒーが入りました。どうぞ」


「ありがとうございます。いただきます」



 コーヒーに砂糖をスプーン1杯ほど入れて少しかきまぜ、ゆっくりと口に運ぶ。いい香りが漂ってきた。



「ありがと、ナギ。そう言えば、シグレさんがお風呂に入りたいみたいよ」


「そうですか。あなた、では、私も一緒に―」


『ブーーーーーーーーー』



 思わずコーヒーを吹き出してしまう。もったいない。美味しかったのに。


 もう一度だ。


 砂糖をスプーン1杯ほど入れて少しかきまぜ、ほどよく甘くなったコーヒーをゆっくりと口に運ぶ。甘い香りが漂ってきた。



「また、ナギだけ。そんな。シグレさん、私も入っていいですよね?」


『ブーーーーーーーーー』


「なんですか二人共。コーヒーがもったいないでしょ?」


「もったいなくしてるのは、シグレさんですけど」


「あなた、少し行儀が悪いですよ。人前で吹き出すのは」



 くっそ。この二人、俺で遊んでいやがる。しかし、だ。これで、じゃ、一緒に入りましょうか?


 などと言うと本当に来そうだから問題だった。


 一人は一応妻ということになっているから問題ないかもしれないが、もう一人はその妻の友達?親友だった。普通なら誰かが血だらけで床に転がりそうな案件だ。



「もう二人はお風呂に入ったんでしょ?俺は一人で入りますから大丈夫です」


「あなた、それは妻として看過できません。夫の背中を流すという重大任務がありますので」


「その妻の親友として看過できませんね。親友が夫の背中を流すという重大任務に参加したい」



 これはダメだな。埒が明かない。おかしな重大任務が発生していた。それに、メイさんがさっきよりかなり壊れている。



「じゃ、もういいです。帰ってから風呂に入ります」



 ナギさんの瞼が少し動いたような気がする。



「わかりました。お風呂は沸かしますから一人で入ってください」


「ナギ!」



 メイさんが突然情報端末を取り出して弄りだした。乙女ネットワーク発動か。



(どういうこと?ここで逃す気?)


(メイ、私と何年の付き合いですか?逃がすわけないでしょう)


(なら)


(下手に強気に出て帰られては意味がありません)


(この状況を避ける男がいるとは思わなくて。つい、頭に血が)


(メイは外見に似合わず熱くなりすぎです。少しは冷静に)


(これは家系だから、しょうがないの。ナギも知ってるでしょ)


(そうでしたね。ま、それはいいでしょう。シグレを風呂に入れてしまえば逃げ場はありません)


(天才!!)



「ナギ、じゃあ、私がお風呂沸かしてくるから」


「え?俺がやりますって」


「あなたは、お風呂が沸くまでゆっくりしていてください。お疲れでしょう」



 謎のやりとりから一変して、お風呂に一人で入れるようになった。


 ナギさんは何も変わらないが、メイさんの挙動が少し怪しい。


 嫌な予感がする。しかし、これは本当に嫌な予感なのか?嬉しい予感とは違うのか?


 本人達が入りたいって言っているんだから俺に罪はないよな。


 でも、だ。ここにマユミさんがひょっこり顔を出したらどうなる?


 不純異性交遊だとか言って、あのフルコースの刑になるのではないのか?もう、手足が思うように動かない操り人形のようになるのはごめんだ。


 マユミさんのひょっこりで以前は助けられたが、今回はどう転ぶか想像ができない。



「シグレさん、お風呂沸きましたよ。どうぞ」



 メイさんが越後屋のように見えてきた。



「やっぱり、帰ろ―」


「あなた、水を無駄にすると神様に怒られますよ」



 ナギさんの悪代官が一番たちが悪い。悪事を成してしまいそうだった。



「わ、わかりました」



 脱衣室に入り鍵をかける。くっそ。本当は一緒に入りたいのに、なぜ俺はこんなことを。このゲーム、嬉しい。いや、おかしい。


 服を脱いで浴室に入り、ここにも鍵をかけた。本心とは真逆の行為に手が震えて抵抗している。


 これは、絶対に何かの罠だ。本能のままに二人の女性と風呂になど入ってはいけないのだ。入りたい、が。


 体を流し湯船に入る。そして肩までつかる。


 おお、気持ちいいぞ。極楽だ。この感覚を味わえるなんて。風呂上がりのビールが美味しくなりそうだ。



「風呂上がりにビールが飲みたいな」


「あなた、ちゃんと用意しています」



 一つ目の鍵は既に突破されていた。



「なっ」



 二人の女性のシルエットを映した曇りガラスのような扉が抵抗にもならない鍵で抵抗するのみだった。



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