表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/105

72-師匠の弟子


 ハンドキャノンを確認。弾は… 入っている。そして、しゃがんで対物ライフルに弾を装填した。ハンドガンがないことを忘れておかしな行動をしないようにイメージをつくっておく。



「師匠、何してるんですか?」


「これに、弾を装填してすぐに撃てるようにイメージをね」


「アントにそんなの撃つ必要ないと思いますけど」



 どこかで聞いたセリフだ。



「師匠にはこれしかないの。師匠の生き様をとくとその目に焼き付けなさい」



 シモン君が物珍しそうに俺を見ている。



「師匠、それ1発いくらするんですか?」


「1000YENだよ」



 あ、少し引いてる。あ、可愛い顔に少しずつシワが。そ、そんな顔しなくても…



「師匠、金銭感覚がダメダメですね。これから僕と一緒に直していきましょう」




 シモン君が道路沿いを歩き出した。


 対物ライフルを担いでついていく。弾が高いのは俺のせいではない。しかし、アントは1000YEN使って倒しても問題ないのだ。ただ、遠距離から倒すと魔石の回収が困難かもしれない。そうなるとかなりのマイナスになる。すこし寒くなってきたな。



「シモン君はアントを倒すとき、それ使うんでしょ?」


「ええ、アントに走り寄って一刺しです。師匠のと違って撃っても55YENですから。師匠みたいにお金で戦いません」



 ぐっさりくるな、心に。師匠にはオブラートで包んで欲しいな。心臓が小さいから。



「俺だって好き好んでこれを使ってるわけでは… いや、好き好んで使ってるんだけど。今はハンドガンがなくてこれでしか仕事ができないの」


「大丈夫ですよ、師匠。アントは僕が倒しますから。師匠は楽にしていてください」



 師匠としてただ突っ立っているだけとは。楽はしたいがいつかツケが回ってきそうで怖い。



 交差点に着いた。



「じゃ、ここから南に行ってみようか。アント警戒が手薄になっているかもしれないからね」


「そうですね。南はモンスターが少ないので傭兵も少ないかもしれません」



 うん、うん。


 道路沿いを歩く。アントの群れの傷跡らしき瓦礫が続いていた。白い霧から瓦礫が延々と吐き出されてくるのを見ていると運営のガチさに抗議をしたくなる。もう少し緩いイベントをお願いしたい。



「ここら辺りもアントって出るよね?」


「出るんじゃないんですか?僕はこの辺りで遭遇したことはありませんけど」


「シモン君ってアナザーなのにアントと結構戦ってるんだね」


「そ、そんなに戦ってません。師匠やだなぁ。アントは今いろんなところで話を聞くので、それをそのまま言ってるだけですよ」



 そうなのか。それにしては落ち着いてるし。そんなものなのかな。



 15分くらい歩いただろうか。瓦礫の間から黒いものが見えた。長くて細いものもゆらゆらしている。これは、大きいぞ。



「シモン君、あれは?」


「師匠、アントみたいですね。ちょっと行ってきます」



 散歩に行くような気軽さでアントに向かっていくシモン君。躊躇のない行動ぶり。見習わなくては。どっちが師匠なのかわからなくなってきた。


 シモン君のあとを追いかける。


 シモン君は肩にかけているライフルを持ち直し静かに慎重に足を運んでいた。傍から見るとただ歩いて近づいているようにしか見えないが、きっと何か凄い歩法が行われているのだろう。ただ歩いているようにしか見えないが。


 アントに近づいたシモン君が小さく見える。というかスカウトアントが大きい。全長はシモン君の身長より長いだろう。


 そんなアントにシモン君は気軽にまるで知人に近づく感じで距離を詰め、そのまま知人にプレゼントを渡す感じでライフルのスパイク型銃剣を差し出す。


 抵抗もなくスーっとアントの体に銃剣は沈み、アントは暴れることもなくそのまま霧に帰っていった。


 シモン君はそのまま魔石を拾ってこちらに笑顔で戻ってくる。



「シモン君、お見事。熟練の技を見せてもらった感じだよ」


「そ、そうですか。普通ですよ。みんなしてます。ただ近づいて刺すだけですから。師匠は難しく考えすぎなんです。はい、魔石」


「あ、どうも。魔石、頑張って運ぶから」



 俺の今日の仕事は魔石運びだな。これも立派な仕事。うん、うん。


 再び道路沿いを歩く。瓦礫が少なくなってきた。ま、普通の建物もないんだが。



「シモン君、アントってマテリアルは落とさないの?」


「そうですね。僕が倒したときには見てませんね。そういえば不思議です」



 ダブルでウハウハということにはならないのか… ケチ。


 瓦礫がなくなり今度は畑が出てきた。荒れた畑だ。田圃?かもしれないがどうでもいい。その中を普通にアントが歩いていた。進路は南、のようだ。


 なんなんだ。この神出鬼没なアントは。こんなところにいたら都市が危ないだろ。



「師匠」


「わかってるよ」


「それじゃ、行ってきま―」


「ちょっと待って、シモン君。今度は俺がやってみるから、ライフル貸して」



 シモン君ばかりに頼ってはいられない。少しは慣れておかないと。可愛い弟子に少しは頑張っているところを見せておきたい。可愛い弟子に。



「貸すのはいいんですが、師匠大丈夫ですか?あまり、もたもたしていると襲われますよ」


「頑張ります。シモン君は代わりにこれを持ってて。重いから気を付けてね」



 俺の相棒をシモン君の相棒と交換した。



「重い。師匠、めちゃくちゃ重いです。いつもこんなの持ってたんですか?流石、師匠」


「え?さっきも持ったでしょ?」


「持ち上げてはいません。師匠が壁に立てかけてくれたので、そのままバレルを持っただけです」


「だったら、ここで待ってて。さっと近づいてこれを刺せばいいんだよね?気持ち悪くないんだよね?力、入れなくても刺さるんだよね?」


「危なっかしいので僕もついていきます。あれは、人形だと思ってさっと行って刺せば終わりです。見た目は多少気持ち悪いかもしれませんが、そのライフルの銃剣なら力を入れなくても刺さります」



 人形ね。人形ならもっとデフォルメされていると思うんだよな。まぁ、いい。さっと近づいて刺す。そのことだけを考えよう。


 アントがゆっくり進んでいるのを慎重に追いかける。こっちには向かないで、向かないで。


 お、アントが止まった。今がチャンス。のはずだ。



「師匠、今です」


「よし。シグレ、出る」



 とは言ったものの。小さい蟻ならまだしも、こんなに大きいと来るものがあるな。せめて、触覚は動かさないで欲しい。やっぱり対物ライフルで撃っちゃおうかなぁ。


 後ろを振り返るとシモン君が頑張って対物ライフルを運んでいた。



「師匠、これはアントを倒すまで返しませんよ。ほら、師匠が言ったんですから。早く」



 お、おぅ。頑張る。


 スカウトアントがだんだん近づいてきた。視界の大半が蟻だ。こんなのリアルじゃアリえない。



(うーん。1.2点?)



 うぉぉ。ついに手が届きそうなくらいに。昆虫ダイスキーにはたまらないかもしれないが… 早く刺して終わりにしたい。


 しかし、このアント何かおかしい。というか敵を警戒しないのだろうか?開発の良心?モンスターとして何かが欠けているような気がする。


 気持ち悪いものを見ながら考えることはやめよう。


 よし、距離はこれでいい。あとはこのライフルの銃剣を刺すだけだ。


 速くも遅くもないスピードでライフルを突き出す。


 アントに静かに沈んでいくライフルの銃剣。気持ち悪い感触がライフルを通して伝わってくるかと思い身構えるが… 何もなかった。


 ゼリーのようなものに針を刺している感じだろうか。あの黒くて硬そうなものは何だったのか。あまりに何も伝わってこないので銃剣が刺さっているところをガン見するが、アントは霧散を始めていた。



「ほら、師匠。簡単だったでしょ?見た目とかに惑わされずに、ただ近づいて刺すだけなんです。あれはモンスターに見えているだけでモンスターじゃないんです」



 何に感動しているのかわからないが感動していた。そっか、あんな感じなのか。これなら、ナイフとかでもいけそうな気がしてきた。問題は見た目だけだったようだ。



「あ、ありがとう、シモン君。いやぁ、あんな感じだとは思っていなかったよ」


「それじゃ、師匠。これを返します。重すぎです。アント倒すより、これを持ち歩く方が遥かに大変です」



 シモン君との相棒交換が終わった。ずっしりとした相棒が戻ってきた。この重量感の良さが理解できないとは。シモン君はまだまだだな。しかし、俺も【筋力】の補正のおかげでそんなに重くは感じていない。ズルをしている気分だ。


 さて、魔石、魔石っと。あった。今日2個目の魔石を回収。


 それでは、移動しようかな。



「師匠。お腹が空きました。おにぎりください」



 時間を確認する。12時ちょい過ぎだな。お昼にするか。



「そうだね。じゃ、ここで食べよっか」



 リュックサックから弁当箱と水筒を取り出し、まず水を飲んだ。



「師匠、早く」



 師匠から食べ物を貰うというのになぜ急かすのか。なぜ俺は急かされているのか。



「師匠、遅い」



 あ、ふくれっ面が可愛い。デヘヘヘヘヘ。だから、男。


 弁当箱を開けてシモン君にいくらのおにぎりを渡す。



「はい、おにぎり。水は大丈夫?」


「ありがとうございます、師匠。じゃ、水も貰います」



 はい、はい。水筒のコッヘルを外し水をコッヘルに注ぐ。



「はい、お水」


「ありがとうございます。ゴホッゴホッ」


「ゆっくりね。何も逃げないよ」


「はい、師匠。いくらが美味しいです」



 そして、俺もいくらのおにぎりを食べる。


 美味しい。いくらもたくさん詰まっていた。いくら何でもこんなのアリなのだろうか?



(0.15点。シグレの周りにスカウトアントを大量に発生させちゃおうかな…)



 そして、これも100YEN。というかおばちゃんのおにぎりは全部100YENだった。どこかでバランスを取っているのだろう。ありがたいことだ。



「師匠。一つってことはないですよね?」



 また、そんな顔で。男だろ、誰からそんな表情を教わっているんだよ。


 弁当箱から唐揚げのおにぎりを取り出しシモン君にあげた。



「はい、どうぞ」


「流石、師匠」


「でも、それで終わりだよ。よく味わって食べて」


「はい、師匠」



 元気が良くて大変よろしい。


 俺も唐揚げのおにぎりを食べる。相変わらず冷えた唐揚げが最高だった。



「「ごちそうさまでした」」


「師匠、これ」



 シモン君からコッヘルを返してもらい弁当箱と水筒をリュックサックへしまう。



「師匠。最近、傭兵事務所の女の人とよく二人で話をしているらしいですね」



 うわっ。シモン君の耳にも入るくらい広まっているのか。まぁ、あれならそうなるか。いつものお姉さんももう少し考えて欲しい。



「アサヒナさんのこと?よくってほどじゃないよ」


「それで、そのアサヒナさんはどんな人なんですか?」


「どんなって言われても。美人でスタイルも良く俺のことを親身に考えてくれてるいい受付さんだと思うけど」


「けどぉ」


「怖いよね」


「やっぱり」


「やっぱり?」


「いえいえ、こちらの話です。師匠の周りには恐ろしい女の人が多いですね」



 ホント、それ。



「どうして、俺の周りがあんなことになったのか。不思議でしょうがないよ」


「師匠って扱いやすいんじゃないんですか?美人とか可愛い子のいうことホイホイときいてあげてるんでしょ?それじゃ、ダメですよ」



 ホイホイなんてきいてないし。あの人達は美人や可愛い子ってだけだし。



「それじゃ、師匠。アント退治再開しましょう」


「よ、よし、午後も頑張ろうか」



 対物ライフルを担ぎシモン君とさらに南を目指した。


 今まで歩いていた道が海辺の道と合流してなくなる。潮の香りがしてきた。



「ここから、この道を東に進んで都市の南から傭兵事務所に帰るから。それでいいかな?」


「大丈夫です。問題ありません。師匠」



 東に伸びる道の道沿いをアントを探しながら歩く。海そのものは見えない。潮の香りだけが海の近くにいることを教えてくれた。



 時間は14時。射撃実験場としている浜辺近くまで来た。ここに来るまでに俺とシモン君で1匹ずつアントを退治している。ここら辺りでアントと遭遇したくはなかったのだが


 アントとの戦闘自体は少しずつだが慣れてきた。シモン君のおかげだ。あれは風船だとか、あれは泥人形だとかいろんな表現で俺が気にしていることを和らげようとしてくれていた。



「少し休憩しよう」


「はい、師匠」



 リュックサックから水筒を取り出し水を飲む。シモン君も自分の水筒で何かを飲んでいるようだ。


 浜辺を歩いている傭兵らしき人が見えた。魔石狩りでもしているのだろうか?


 スカウトアントはどこから来ているのか?そんなことが浮かんでは消えていく。


 対物ライフルから弾を抜いて腰のバッグにしまう。もう今日は撃つことなんてないだろう。



「シモン君、帰ろっか」


「はい、師匠」



 よく知る道を北に向けて歩き出す。以前と違って随分対物ライフルを軽く感じるようになったものだ。


 シモン君が他のグループでのことを話してくれている。大きいお兄さん達がとても親切にしてくれるそうだ。わかる気がする。


 それに、俺のところでないとまともに戦わせてもらえないらしい。”食べ物はタダで済むので助かってます”だって。わかる気がする。


 傭兵事務所に着いた。今日は普通に男と歩いていたのだ何も問題はないはずだ。イヤホンを外しながら傭兵通りを露店の前を歩いてきたことを思い起こす。



「魔石を換金してくるけどシモン君はどうする?」


「ここで待ってます。それ、置いて行ってもいいですよ。見てますから」


「じゃ、そうするよ。よろしくね」



 傭兵事務所に入り買取窓口へ向かう。いつものお姉さんはいないようだ。


 アントの魔石がトモミさんから貰った分も合わせて五つ。換金してちょうど10万YENになった。6万YENを口座に振り込んでもらい、残りは現金にしてもらった。


 傭兵事務所を出てシモン君の元へ。



「はい、シモン君。今日の分」


「ありがとうございます、師匠」



 シモン君に4万YENを渡す。すぐにポケットに入れていた。



「ちゃんと数えてね。それじゃ、シモン君。今日はありがとね。じゃ、また」


「はい、師匠。それでは、また」



 対物ライフルを担いで傭兵事務所から離れた。アントで非常に楽にお金が稼げてしまった。スキルが全く上がらない。ま、しょうがない。スキルより都市防衛の方が重要だ。



「優しいお姉さんでしょ。何てことを言うの?待ちなさい」



 どこからか聞いたことのある声がする。内容はわからないが近づかない方がいいだろう。さっさとチームハウスに戻ろう。



 チームハウスの鍵のかかっていない扉を開け玄関に入る。靴というか履物の数が多かった。嵐の到来は近い。避難が必要だろう。


 廊下を居間にいる人達に気づかれないように歩く。こういうときは霧がありがたい。今日は少し早いが部屋に戻ってログアウトしよう。そうしよう。嵐が刻一刻と近づいている。肌がピリピリする。


 自分の部屋の前まで気づかれずに来れた。ドアノブに手をかける。よしっ。あとは…



「あなた、部屋に装備を置いたらこちらへ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ