7-情報収集
射撃訓練場から出ると階段とは反対方向に預り所のプレートが見えた。持ち物を預かってくれるのだろうか?覚えておこう。
傭兵事務所を出た。辺りはだいぶ暗い。街灯の明かりを見ると少し安心する。
傭兵事務所脇の細い道を進んでみる。この道は傭兵通りと平行に続いているようだ。知らない土地のこういう道を歩くのは楽しい。
傭兵通りの裏になるのか、人通りは少ない。怪しい店や飲食店が並んでいる。雰囲気は最高だ。
ある店には小さな何に使うかわからい部品が所狭しと並んでいたり、またある店には小さなナイフから大きな刀まで刃物ばかり扱っていたりと様々な店が並んでいた。
そんな中に興味を惹かれる店があった。見たことがありそうでない変わった銃が置いてある店だ。
壁に掛けられている銃をちらりと見る。ボルトアクションのハンドガンだった。
そう、あれは、ハンドメイドのハンドガン。ライフルの木製部分を取り払いバレルを限界まで短くした上でピストルグリップを取り付けたオブなんちゃらピストル。オブレ、オブ、まぁ、そんな名前だ。
デキの素晴らしさに目を疑うばかりだ。この店は銃のカスタム専門なのだろうか?
ただ、デキが良くてもあの銃は凄く使いにくいだろう。興味はあるけど。
裏通りの散策を続ける。この辺りの店って雰囲気はいいのだがゲームでここまで必要なのかと勘ぐってしまう。こんなの用意してたら開発者がいくらいても足りなさそうだ。
店と店の間の細い路地を覗いてみる。ただの路地かと思ったが奥には、さらに怪しい店が続いていた。ここに入り込むと出てこられない、そんな気にさせるところだった。
とりあえず、今日はここに入るのはやめておこう。開発の心配をするのもバカバカしい。
寂しい街灯だよりに奥へと進むと建物に囲まれた小さな公園に辿り着いた。
小さな噴水、水飲み場、いくつかのベンチ。それらを囲むように木々が並んでいる。妖精が住んでいてもおかしくない、そんな雰囲気を醸し出していた。
噴水の中央には水瓶を肩にのせた女性の石像があり、傾いた水瓶から水が流れている。美人さんだ。大丈夫、服は着ている。
水飲み場で水を飲む。美味しい。ただの水だけど癒された。
ベンチに座り空を見上げる。暗い上に霧で何も見えない。視界の端にこの公園に一つだけある街灯の暖かい光が差しているだけだった。
「この世界では星なんて見ることはないんだろうな。楽しやがって…」
開発に悪態をついてもツッコミは返ってこない。
情報端末を取り出して時間を確認する。18時くらいだった。時間の他に気になることを目にする。
「ここは電波悪いな… って、電波状況も気にしないといけないのか」
2本しかない電波アイコンをしばらく見つめていた。
じゃあ、99%の数値と電池アイコン、これは充電状況なのだろう。ここまで再現しなくても。電池が切れたらログアウトは強制終了しろってことか。
強制終了は何だか嫌だ。強制終了にいい思い出なんて一つもない。
そろそろログアウトするか。夜に行動できる程のお金もいい案もないし。
白い世界から解放される。VRギアを外した。
グッと背伸びをする。
晩飯用のカップラーメンとおにぎりを食べ風呂に入った。
風呂上がりのビールを楽しみつつ掲示板を眺める。
検証スレではいろいろなことが検証されていた。ご苦労なことだ。俺が知らなかったことはリアル時間とゲーム時間の進み方の違い、ログインログアウト時の無防備な時間の二つだ。
ゲーム内で3時間過ごすとリアルでは1時間経過するようだ。時間計算をしやすくなった。ゲーム内の夜をリアルでやり過ごすのに大いに役立つ。
そして、問題はログインログアウト時の無防備な時間の方だ。これはプレイヤー二人が時間を決めてログインログアウトを繰り返したらしい。
それでわかったことは―
・ログイン時、ゲーム内にまず体が現れて30秒後にプレイヤーの意識が宿り操作できるようになる。
・ログアウト時、プレイヤーは即座にログアウトするが体は30秒間その場に残りその後消える。
―が判明した内容だ。無防備な状態は攻撃を受けると死亡する可能性があるかもしれないとのこと。
ますますログアウトする場所が重要になってきた。いままでは何も考えてなかった。顔に落書きされても気づけないだろう。
既に何かされているかもしれない。”肉”とか書かれると非常に恥ずかしい。
末恐ろしいことを考えながら空になったビールの缶を見つめる。
もう一缶飲みたい気持ちを抑え総合スレを眺める。
とりとめのない雑談が続いている。”黒電話がある”とか”底玉式ラムネ瓶を初めて見た”とか……
面白かったのは”クシマからアサヒに冒険したら面白いんじゃね?”っという書き込みだった。
おまえがやれと総ツッコミをくらっていた。
実現したら是非ともレポートをお願いしたい。
掲示板はこんなものか、公式ホームページは… 変化なし。やる気はあるのだろうか?
そろそろ眠くなってきた、いい時間だし寝るか。
ハンドガンのフルオートの使いどころを考えながら。