表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/105

69-別れ3


 神田アームズとは全然違う雰囲気の店の扉を開けた。



「いらっしゃいませ」



 メイド服姿の女性に声をかけられる。



「あれ?」



 一旦、店の外に出てみる。看板を確認した。鈴木銃砲店、確かにここだ。


 もう一度店に入る。



「あなた、どうかしましたか?」


「ナギさん、ここって銃を売っているんですよね?」


「そうです。もしかして、私を疑っているのですか?」



 ナギさんの瞼がピクピクしている。まずーーーーーい。こんなことで開かないで。



「ち、違います。疑っているのは自分の目です。店の中にメイドさんがいて内装は高級なバーで後ろの棚にはお酒がズラリって。あ、銃ですね」


「銃ですよ、あなた」


「お客様、何か私に至らぬところがありましたでしょうか?」



 店内にいる人間の視線が集まってきた。そんなつもりじゃ。いきなり面倒な客と思われるとまずい。せめて、銃の確認だけでも。



「いえいえ、至らないのは俺ですから。気にしないでください」


「本当ですか?本当ですよね?」


「本当です」



 店内には執事のような服を着た人もいた。男の店員はああなのか。


 少し暗い店内を銃を探しながらカウンターに行く。


 カウンターには誰もいない。と思ったらさっきのメイド服の子がカウンターに入っていった。



「あのう、店主はいないんですか?」


「あのう、私じゃダメなんですか?」


「店員さんは銃、詳しいんですか?」


「あなた、失礼ですよ」


「あ、そんなつもりじゃ」



 いや、本当にそんなつもりじゃ。


 元気はありそうな店員さん。この格好から銃の知識が溢れ出てくることを想像できない。むしろ、近接戦闘種族なのではと勘ぐってしまう。まぁ、偏見なのだが。



「当然です。銃には自信があります。お客様は”お猿さんに木は登れるんですか?”と聞いているんですよ」


「そ、それは失礼しました。では、M712という銃を探しているのですが、ここにありますか?」


「M7、なんですって?」



 雲行きが怪しく… いやいや、よく聞こえなかっただけだろう。霧あるし。



「M、7、1、2、です」


「少々お待ちください」



 店員さんが並べられている銃を一つずつ確認し始めた。ハンドガンだけでいいんだけどなぁ。


 ここはマスターのところと違って剣や槍は置いていないようだ。カウンターも兼ねているショーケースにはワイングラスのようなものに銃弾が入っており、それが綺麗に並べられていた。


 この雰囲気は嫌いじゃないのだが、同時に一見さんお断りな雰囲気もつくり出しているような気がしないでもない。


 すると、店の奥から執事の長のような人が出てきた。眼鏡が良く似合っている背の高いジェントルマンだ。



「お客様でしたか。申し訳ございません」


「お、お父様。M712って銃あるんですか?見つからないんですけど」


「サトミさん、店では支配人と呼ぶよういつも言っているのでは」



 し、支配人って。支配人って。



「すみません、支配人。こちらのお客様がM712という銃を探していまして」


「あなた、こちらが店主です」


(ふ、服屋の、どうして。まさか、私のところで誰かが。まさか、私?)


「初めまして、M712があるんじゃないかと神田アームズのマスターに言われて」


「カンダが… ですか…」


(あいつ、面倒事を丸投げじゃないだろうな)


「それで、ありますか?」


「少々お待ちください。奥を見てきます。サトミさん、この方達にお茶を」


「はい、支配人」



 このやりとりの違和感が凄いな。どうして、こんな雰囲気にしようと思ったのか。不思議すぎる。でも、嫌いではない。


 居心地が悪いわけではないのだが、何だか落ち着かなかった。



「どうぞ」


「「ありがとうございます」」



 紅茶だった。紅茶はあまり飲まないのだが、今は落ち着かないので助かった。ナギさんも紅茶にはご満悦のようだ。目尻が下がっている気がする。



「あのう、トシコちゃんは元気でしたか?」


「あ、元気でしたよ。友達?」


「友達です。最近仕事が忙しくてなかなか会えないんです」


「トシコちゃんも仕事頑張ってましたよ」


「そっかぁ」


「サトミさん、お客様の前で何ですか?それは」


「し、支配人」


「まぁ、まぁ。それでありましたか?M712」


「すみません、お客様。ありませんでした。そして入荷の見込みもありません」


「そう、ですか」



 ないかぁ。探すとないな。まさか、マーフィーさんが…



「ですが、お客様。ハンドガンなら麒麟のハイパワーとかいかがでしょう?こちらなら―」


「ハイパワーもいいハンドガンだとは思うのですが、やっぱり」


「しかし、麒麟の膝元ですから融通もききますが」



 あ、ナギさんがイライラしてる。



「店主。強引に勧めるのはやめてもらえないでしょうか。シグレにはシグレの考えがあります」


(あ、忘れてた。つい、いつものセールストークが。このままでは不幸が)


「た、大変失礼いたしました。責任は私にだけあります。サトミや家族には」


「え、お、お父様。この方はそんなに…」


(だから、ナギさん。なぜ、恐れられているんですか?審問官とか恐ろしい仕事が本職じゃないでしょうね?)


(私に聞かないでください。私はアナザーを殺しているだけです。アース人は突っかかって来る輩をちょっと懲らしめたくらいです。しかも、誰も私だと知りません)


(本当ですか?)


(殺しますよ)


「みなさん。大丈夫です。この人は何もしませんから、たぶん」


「あなた、たぶん、て何ですか」



 何か営業妨害っぽくなったので、さっさと次に行こう。



「何か迷惑をかけたみたいですみません。ないみたいですから失礼したいと思います」


「は、はい、またお越しください」



 鈴木銃砲店をあとにした。最後は完全に悪者だった。ナギさんが。



(た、助かった。機嫌を損ねると神隠しに会うという噂は間違っていないのかもしれない。シグレという男のおかげで何とかなった。しかし、神隠しをつれている時点でこの男もおかしい。カンダの奴、覚えてろよ)


「支配人。さっきもM712を探している人が来ましたが」


「トシミチさん。そうでしたか。M712に何かあるのでしょうか?」


「でも、今日だけなんですよ」


「たまたま、でしょう。それよりカンダに報復しないといけません」




 店の立派な扉の横でナギさんをチラリと見る。



「あなた、何ですか?私は何もしていません」



 してると思うんだよなぁ。自分の意志なのか仕事なのかはわからないが。



「わかっていますよ」


「いいえ、その目は、あなたは私を疑っています。仕方がありません。あなたに疑われ続けるくらいなら決闘して身の潔白を証明してみせます」



 また、また、ご冗談を。



「決闘って俺とですか?俺が死ぬだけでしょ?身の潔白をどうやって証明するんですか?」


「私がきちんとあなたを殺せるというところを知ってもらえれば、それでいいんです」



 全く意味がわからない。証明したい相手を殺して何を証明するのか?復活できるけども。



「それは、決闘しなくてもわかっています。ナギさんは俺なんか余裕で殺せます」


「いいえ、あなたはわかっていません」


「どうしたらわかってくれるんですか?決闘以外で」



 あ、考えてる。ナギさんが真面目に考えてる。



「そう、ですね。でしたら次の質屋まで私と手を繋いでください」



 えええええ。なんでそうなるの。



「どうして、手なんか」


「やはり、決闘ですか」


「わかりました。繋ぎます。手を繋がせてください」



 ここが傭兵通りの近くでなくて良かった。もし傭兵通りでアナザーに見られたりしたら、晒しスレだけでは済まない事態に発展したかもしれない。


 俺の死亡する可能性がモンスターではなく人間の方が圧倒的に。このゲームはバトルロイヤルとかではなかったはずだ。



「少しはわかってくれたようで嬉しいです。さぁ、行きましょう」


(あの店主がおかしなことをしたせいで私の殺意が機嫌を悪くしたようだ。あまり、シグレにおかしなことをしないで欲しい。結局シグレ成分を強制的に補充することになってしまった。しかし、これはこれで。癒される)



 そして、ナギさんが俺の手を取って歩き出した。今度はグイグイ手を引っ張りながら前を歩いていく。ホント、ナギさんの考えていることはわからない。



 さて、残すは質屋のみになった。質屋になかったら、考えたくはないがなかったら… 脚が重くなってきた。ナギさんの手を引っ張る力を強く感じる。


 他のハンドガンかぁ。M712はフルオートこそ出番はなかったが装弾数も多いしグリップも握りやすい良い銃だったんだよなぁ。


 このまま見つからないとハイパワーになるんだが、気が進まないな。



「あなた、着きましたよ」


「え?あ、はい。もう着きましたか」



 吉田質店。今度は建物が古い。というか歴史がある感じだ。江戸時代からありますと言われれば信じてしまいそうな佇まいだった。


 引き戸を開けて中へ。って、手が。



「ナギさん」


「何ですか。あなた」


「手」


「手?」


「もう着きましたから解放してください」


「そんなことですか。気にしなくてもいいです。私も気にしませんから」


「でも、ナギさんが言ったんですよ。質屋までと」


「あなた、記憶力はいいみたいですね。残念です」



 ナギさんが繋いでいない方の手で、繋いでいる手の指を1本ずつ剥がしていた。自分の指なのに何かのアピールなのだろうか?


 ナギさんの手から解放されたので引き戸を開けて店の中へ入る。


 そして、ここも、暗い。それにどれが商品、質草なのかわからなかった。


 さっさとカウンターに行き聞いてしまおう。



「ナギさんは、俺の後ろに隠れていてください」


「なぜ、私がそのようなことを」


「また、驚かせてしまうでしょ」


「私は何もしていません」


「わかっています。だったら、帰りも鈴木銃砲店まで手を繋ぐというのでどうでしょう?」


「わかりました。あなた、少しは交渉というものを理解したようですね」



 ナギさんの機嫌が取れたところで店の人を呼ぼう。誰もいないとか不用心すぎるだろ、ここ。


 呼び鈴のようなものもない、な。



「あのう、すみません」



 返事がない。霧のせいで声が奥まで届いているか心配だった。まぁ、届いていないんだろうなぁ。


 しょうがない。もう少し大きな声で―



「すみ、ま、せーん」


「聞こえてますよ。少しお待ちください」



 店の奥の方から横方向に体格のいいおじさんが出てきた。全てが面倒くさそうだ。



「はい、なんでしょう」


「あのハンドガンを探しています。質草にM712とかM714みたいな名前のハンドガンはありませんか?」


「また、ですか。で、その、M何とかはさっきので最後です。もう、ここにはありませんよ」



 マジか。さっきまであったのか。悔しい急いでいれば。



「ど、どんな人が買ったんですか?」


「それを聞いてどうするんですか?お客の情報は教えられないのですが」



 思わず聞いてしまったが、ホントにそれを聞いてどうするんだろう。俺は…


 すると、何か後ろでドス黒いオーラのような何かを感じた。空気を重く感じてしまうとは。ふ、振り向けない。



(ふ、服屋が。なぜ、こんなところに。まずい、あれがバレたのかもしれない。しかし、そんなに悪いことなのか。神隠しがわざわざ来るほどのことなのか…)


「店主、シグレが聞いているのです。客の情報はそんなに大切ですか?」


(この男だ。神隠しはこの男がつれているようだ。この男さえ帰してしまえば。なんだバレてはいないではないか)


「え、えーと、先ほどM714を買ったのは、お、男でした。コートを着ていましてフードもしていました。顔はあまり見ていません。そ、それでも、会ったことがあればわかったかもしれませんが初めて見る男でした。質草を売るときは客の詮索とかは普段から、し、していませんので」



 流石のナギさんだった。店主には悪いことをしたかもしれない。今も汗を拭きながら、こちらの様子を窺っていた。


 もう少し早く来てさえいれば。しかし、こちらを先にしなかったのも俺の選択だ。今日は俺の運がなかったということだろう。それにしても、M714かぁ。レアなんだよなぁ。くぅぅぅ。


 切り替え、切り替え。



「ありがとうございます。それでは失礼します」


「店主、失礼します」


(よし、成功だ。さっきの男も得体の知れない男だったが。この男シグレもヤバイ。神隠しをつれているとは。知り合いにも教えておこう。犠牲者が出る前に。カンダは… まぁ、いいか。スズキ、には教えてやろう。カワサキは、知らん)



 店主はすぐに店の奥に入っていった。まだ客がいるというのに。ホントに不用心すぎだな。


 質屋を出た。


 まさかのM714があったとは。見てみたかったなぁ。



「あなた、結局見つかりませんでしたね。本当に申し訳ありません」


「いえいえ、気にしてませんから。代わりの銃を見つけます。じゃ、帰りましょうか」


「はい、それでは手をお借りして」


「え?結局ナギさん、隠れてなかったですよね」


「おかげであなたは情報を得ることができました。これは、その対価になります」


「ああ、そういうことになってるんだ」



 ナギさんの中では。どっちに転んでもいいことになっていたとは。


 そして、ナギさんは鈴木銃砲店に行くと思いきや直接チームハウスに向かっているようだ。さっきと道が違う。


 手をしっかりと掴まれた帰り道、傭兵の姿を見るたびに隠れる場所を探した。人の気も知らないでナギさんは上機嫌だった。


 傭兵とのニアミスを回避しながら、ようやくチームハウスに戻ってきた。16時前だ。



「それでは、私はこれで失礼します。銃を手に入れるまでご一緒するはずが申し訳ありません」


「いえいえ。こちらこそ、いろいろ付き合ってもらってありがとうございました」



 ナギさんは薬屋に行くのだろう。俺のせいでかなり遅くなってしまったようだ。


 とりあえず、自分の部屋に戻った。ハーネスとリュックサックからハンドガンのマガジンを取り出して部屋に置いた。もう、出番はないだろう。いや弾だけなら、まだ。


 スキルのこともあるから、次もハンドガンでないとまずいのだが。どうしようかな。


 ハイパワーが無難なんだろうなぁ。一応TT33というのもあるにはあるが。しかも、こっちなら弾は無駄にならない。


 でもなぁ… まぁ、いい。明日考えよう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ