68-別れ2
「おい、シグレ。ここにないだけだ。都市にはあるかもしれん」
はっ!そうか、そうだ。ここにないだけだった。回っていた走馬灯が差してきた光明によって掻き消える。
「ですよね」
「シグレさんが帰ってきました」
「あなた、お帰りなさい。心配しました。やはり、私が」
次第に元気がなくなっていく、ナギさん。
「マスター、どこならありそうですか?俺は都市には詳しくないんで」
「そ、そうだな。癪だが、スズキやカワサキ、それとヨシダんところか」
お、三つも出てきた。希望はまだ残っているのかも。しかし…
「全くわかりません」
「シグレさん。スズキさんは武器屋で、カワサキさんは銃をカスタムしているところ。ヨシダさんは質屋です。わかりますか?」
「ありがとう、トシコちゃん。銃のカスタムをしている店なら場所はわかりますが、他は全然わかりません。場所を簡単でもいいので教えてください」
「おぅ、スズキは―」
「店主、大丈夫です。私が知っていますから」
「お、おぅ」
(ナギさん、用事があるのでは?ほら、薬屋さんのところとか)
(ヒロコさんですよ。別に時間を決めていませんので問題ありません)
(そうですか。助かります)
「それじゃ、マスター。俺、急ぎますから。これで」
「それでは失礼します」
「シグレさん。また来てくださいね」
「シグレ、あんまきばるなよ。ない可能性の方が高いからな」
「マスター、きっとあります。古いということはたくさんあるということですよ」
(この世界にはな。だが、ここには、もう)
対物ライフルを持って武器屋をあとにした。
何も収まっていない右のホルスターの違和感が大きくなっていくのを感じる。
「店主、今のがシグレ君。いやシグレという傭兵なのかな」
(ま、あれだけ話せば他の客にも知られるよな。しかし、この男、怪しいな。この時期にコートって)
「そうみたいだな。あんたは?」
「私のことはどうでもいい。それは、シグレ君が置いていったものかな。少し見せてくれないかな?」
「いや、これはもう俺のもんだが。あんた、怪しいな」
「本当に私のことはどうでもいいんだが。じゃ、これで、どうかな」
(名刺かぁ。また、大層なもんを。って、おい)
「麒麟の人間がどうして?」
(そんな恰好を)
「それで、見せてくれる気になったかい?もう、怪しくはないだろ」
(益々、怪しいんだよな)
「見せるも何も見えてるだろ。これで全部だ。あいつが愛用していた銃なんだが、仕事で壊れたようで俺が引き取ったんだ」
(ふーん、これがシグレ君の愛用していた銃かぁ。これなら、十分仕事をしてくれそうだ)
「店主、これを譲ってくれないかな」
「どうする気なんだ。もう俺のもんなんだが」
「うん?直してあげるとシグレ君が喜ぶと思ってね」
「この状態から直せるのか?って、あんたんとこなら直せるというかつくるのか…」
「どうかな?なんなら買い取るっていうのでも」
「いや、直すならあんたに譲るよ。あいつの探す銃がこの都市にあるかどうかわからんからな。あいつにはこれからも頑張ってもらわんとな」
「それは、どうも。この店、覚えておくよ」
すぐにでもM712を探しに行きたいのだが、銀行に寄ってからにしよう。手持ちが0YENというのはあまりに落ち着かない。
「あなた、どちらから行きますか?」
「えーと、銀行へ」
「え?」
「いや、手持ちのお金が0YENなので落ち着かなくて」
「それなら、これを」
なんの躊躇もなくお札が出てきた。ポンチョの中から。あのポンチョ、やっぱり怪しい。
「大丈夫です。口座にはありますから」
「私のお金はあなたのお金です。使ってください」
ますます、ナギさんがわからなくなってきた。こわっ。
しかも、こんなところを人、傭兵に見られたら俺の印象がどん底だ。
「本当に大丈夫です。それに、それは… そう、新しい銃の代金を支払うときにでも」
「それは当たり前です。それは、こちらに」
また、お札が出てきた。しかも、かなりの額だ。あの銃をどんだけ買うつもりなのか。
「こんな往来で、これ以上やめてください。銀行に行きます」
(私は何かおかしなことをしたのだろうか?私が私のもののためにお金を使うのは当たり前なのに)
銀行に寄って10000YENを引き出す。
「ナギさん、覗かないでください。ルール違反でしょ。これの操作中に他人が覗くなんて。他人に見せられるほどのお金は口座にもありませんから」
「大丈夫ですよ。私はもう他人ではありませんから。もし、他人があなたの操作中のところを覗いていたら目を潰しますので安心してください。それがアナザーなら少々力が入りすぎてしまうかもしれません」
いくつもの問題発言が行われていたが、今は急いでいるからスルーしておこう。
「最初はカスタムショップに行こうと思います。いいですか?」
「はい、あなたのお好きなように」
ここからだと、裏通りに入って少し歩けばカスタムショップだった。
はい、カスタムショップに到着。ここは来るたびに人が増えているように感じた。銃は仕事道具だから使いやすくするのはもちろんのことだが、やっぱりオンリーワンにしたいというのもあるのだろう。俺の場合、装飾とかそういうのに興味はない。
まず、対物ライフルを何とかしたい。狭い店内、客も多いところへ持ち込むのは迷惑だろうし動きづらいことが容易に想像できた。
「ナギさん、対物ライフルを少し預かっていてもらえませんか?店の人に目的の銃があるかどうか聞いて来ますので」
「はい、承知しました。この銃に近づく者を始末すればいいんですね」
飛躍したなぁ。そのうち湖を縦断したりして。
「いえ、そういう血生臭いのは結構です。普通に持っていてくれるだけで」
そう言って店内に突入する。いろんな銃のいろんなカスタムパーツが並んでいた。
思わず自分の使っている銃のカスタムパーツを探してしまう。危険だ。無駄にパーツを買って銃をゴテゴテしろという電波が出ている気がする。
おっと、いけない。こんなことはしていられなかった。早く用を済ませてナギさんのところに戻らないと無駄に犠牲者が出そうだ。
人と電波を避け何とかカウンターに辿り着く。
「すみません。少しいいですか?」
「はい、なんでしょう」
「M712は置いてますか?」
「M712のカスタムパーツですか?それなら少しですが、あちらに」
「いえ、そうではなくて銃本体です」
「M712のカスタムですか?」
「いえ、M712自体です」
「え?」
「え?っていうか、ほら。あの壁の銃のようにM712をカスタムしたもの、もしくはカスタムする前のM712を売ってもらえないかと思って」
「あぁ、そういうことですか?理解しました。少々お待ちください」
「はい」
おぉ、これはいきなり見つかったか?しかし、ここのはカスタムされているから普通より高いだろうなぁ。あまりに高かったら俺もお金を出そう。
「お待たせしました。現在M712をカスタムしたものが一つありました。これになります」
うげー、吐きそう。どうして、こんな銃が生まれてしまったのか?せっかくのM712が。
「これ、装飾が凄いというか凄すぎませんか?これで戦闘するんですか?」
「いえ、これは飾る用というかディスプレイ用ですね。儀礼用として使うこともあるかもしれませんが、これで戦闘する人はいないと思います」
くっそ。ものはあったが、これは論外だな。まだだ、まだ何か。
「それなら、C96をM712っぽくしたのとかありませんか?」
「え?」
「え?C96を弾倉交換式にしたりとか」
「M712でいいのでは」
「M712でいいですね。で、ないんですか?」
「ありませんよ」
「ありがとうございました」
うーん、ないなぁ。ディスプレイ用とか。今、そんな時期じゃないじゃん。
狭い店内を歩きナギさんのところへ戻る。
「あなた、ありましたか?」
「いえ、あるにはあったのですがありませんでした。次を探します」
「そう、ですか?次はどちらにしますか?」
「とりあえず、一旦チームハウスに戻ります。毎回ナギさんに対物ライフルを持ってもらうわけにもいきませんから」
「いえ、私のことならお構いなく」
俺が構うんだよなぁ。ナギさんみたいな女性に対物ライフルを持たせて店の前で待たせるとか容疑が増えるだけじゃん。
「じゃ、戻りますね」
「あなた、私の言うことを聞いていますか?鼓膜診てもらいませんか?」
「大丈夫ですから、早く」
すぐそこのチームハウスに戻り部屋に対物ライフルを置いてきた。
「それでは、ナギさん」
「はい」
「ここからだと、武器屋と質屋はどちらが近いですか?」
「そうですね。どちらもそこまで変わりませんが強いていうなら武器屋です」
「それでは、武器屋への案内をお願いします」
「はい、承知しました」
お、少しナギさんの機嫌が良くなったのか?声が優しくなった。
「ちなみに、遠いんですか?バイク、ありますけど」
(バイクでは、すぐに着いてしまう)
「いえ、徒歩でも問題ないと思います」
「そうですか。それなら歩きで行きましょう」
時間を確認する。12時03分。もう、お昼だった。
「もうお昼ですから、道すがらいいお店でもあったらそこで食べましょうか?」
「任せてください。そういうことならいいお店があります」
まずい。ナギさんが選ぶとひどいことになるかもしれない。
「あのう、高いお店は結構ですから。安いお店をお願いします」
「わかっています。フフフ」
こわっ。その笑い方、悪いことを考えているんじゃ…
ナギさんが歩き出すのを待つか。
「それでは、移動します。まずはこの道を真っ直ぐお願いします」
「え?」
「先に耳鼻科、もしくはヒロコさんのところへ行った方が良さそうですね。さっきから私の言うことがきちんと伝わっていない気がします」
「伝わっています。真っ直ぐってナギさんが先導してくれるのでは」
「誰も先導するとは言っていませんが」
(なぜ、そんな一人で歩くようなマネをしないといけないのか?)
「え、面倒じゃありませんか?」
「全く面倒ではありません。さぁ、私の指示通りに歩いてください。殺しますよ」
「は、はい」
ナギさんの指示で歩き続けること15分ちょっと、ある店の前に来た。
「あなた、お昼はここにします。どうぞ、入ってください」
「はい」
ラーメン屋だった。店の名前は”麺一番”。ナギさんにしては俺にも素晴らしいチョイスだった。
あ。アースで初めてのラーメンでは?なぜ、俺はラーメン屋を探さなかったのか?あれ?自分の今までの行動に疑問を覚える。
店に入り、奥のテーブル席に座った。メニューをテーブルに広げる。食べたいものはすぐに決まった。
「あなた、決まりましたか?私は決まりました」
「決まっています。すみません、注文をお願いします」
店員さんがやってきた。テーブルにお冷を置いている。メニューは片付けてっと。
「味噌ラーメンをお願いします」
「私も同じものを」
「味噌ラーメン二つですね。少々お待ちください」
お冷を飲む。いつもの水と味が違う。やはり、水は公園の水だな。
「ナギさんは味噌好きなんですか?」
「好きです。あなたも味噌が?」
「ラーメンといったら味噌でしょう」
(やはり、私の半身のようだ。味噌には逆らえないところも… しかし、ヒロコさんは醤油なのだ。いずれ戦う時が来るかもしれない)
たわいもないことを話しながらラーメンができるのを待った。
「お待たせしました。1000YENになります」
「それじゃ、俺が」
「あなた!ここは私が払います」
(殺しますよ)
「お願いします」
来ました。来ました。二つのラーメンがテーブルに置かれた。なぜか、ナギさんが奢らせてくれない。もう、ナギさんの口の動きだけで例の言葉が聞こえてくる。こわっ。
切り替え、切り替えっと。
目の前のラーメンを見る。海苔、コーン、メンマ、味玉、鳴門巻き、チャーシューが1枚。標準装備だった。
まず、散蓮華、レンゲでスープを一口飲む。ここまできて外れのわけがなかった。
「美味い」
「本当に美味しいです」
スープがレンゲですくえなくなるまで味わった。ナギさんも同じようだ。少しナギさんを見直す。
「「ごちそうさまでした」」
あれで500YENなのか。世紀末だな。
「あなたが味噌ラーメンの味を理解できるなんて、大変嬉しく思います。流石半身」
「うん?」
「それでは、武器屋に向かいます」
「あ、はい」
ナギさんと味噌ラーメンの話をしながら合間に出る指示に従った。
ナギさんの指示に従って歩くのだが、目的地に最短で進んでいるようには思えない。この都市は、こんなに道が複雑なんだろうか?
さらに20分くらい歩いただろうか。やっと、目的の店に到着する。これならバイクの方が良かったと思うのだがナギさんは上機嫌だった。
ま、食後の運動にはちょうど良かったのかもしれない。
それでは、気合を入れて店内に入る。豪勢な看板には鈴木銃砲店と書かれていた。




